ここは新宿のもと青線の二丁目にある、ディス コ〔仮面の森〕だ。会員制度だが、仮面をかぶり 仮面の女 さえすれば、誰だって会員になれる。 この夜、伴が誘ったのだ。 マプスケ 「ーーあの女だ」 なかなかモノにならない美い女がいる。いつも と伴が怒鳴った。怒鳴らなければ聞こえない。 紅いマントで黒猫の仮面をかぶっているが、そい すさまじい音響だった。 つをモノにできるか、十万円賭けるぜ、という。 天井の低い地下の穴蔵式のディスコティックな おれの辞書には、モノにならない女なんていな のだ。音は戸外の十倍にも増幅されてガンガンひ と書いてある。 びいこ。叩きつけるようなロックの嵐は地球が破「十万、約東したぜ」 裂するかと思われた。バンドの狂声は、悪魘の おれは気楽な気持ちで新宿へ来た。 ほう・ころ・ こうしよう 咆哮であり、サジスチックな哄笑と苦悶の渦だっ その女は、しかし、見あたらなかった。天井で まわ はミラーボ 1 ルが狂ったように廻り、コ 1 ナーで おれの鼓膜は破れそうだった。大体、おれはこ間断なく首を振っている照明の点滅が眼を眩ませ る。 、ついうところは好きではない。 幸いなのは驚きの表情は誰にも見られなかっ た。おれの顔は半分、仮面に隠れている。 伴が何か言った。聞こえない。耳を噛むように ) 0 くら
目次 仮面の女 聖処女 影の女 黒い爪 青い炎