5 野わけ ありさわみちこ むらさきの 有沢迪子が紫野の自宅から新幹線の京都駅に着いたのは、午後七時十分であった。四月も亠 ばを過ぎ、日はずいぶん長くなったが、七時を過ぎるとさすがに暗く、駅前はすでにネオン′ 輝きはじめていた。 迪子は駅のホールをまっすぐ左へ抜け、乗降ロの手前で到着時刻表を見上げた。 特急下り「ひかり号」の到着は七時一一十三分で、それまではまだ十分の余裕があった。由 子は時間をたしかめると人口に近いガラスの壁に立ち、そこから暮れていく京都の街を見た。 しょ - っしゃ 瀟洒な新幹線の駅にくらべ、駅前の建物は貧弱で、駅のスマートさにまだ追いつけないと、 った感じで、店もネオンも表から見るとすいぶん見劣りする。だが迪子が見ているのは、そ らの建物ではなかった。視線はそちらを向いていたが、心はまるで別のところにあった。 あ くつきようぞう 十分後に二十メートル先の改札口から阿久津恭造が降りてくる。互いに顔を見合わせ、よ あ」と手をふり、近づいて話しかける。もし彼が空腹であれば食事をして、そのあとホテル ( やましな 行く。ホテルは南禅寺のあたりか、迪子が望めば山科の緑に囲まれた部屋になるかもしれなよ 帰京
帰京 たくらみ まんじ 長雨 タ映え 無一一一昆 残り火 秋冷え 目次 解説 郷原宏三 = 0 五 一一 0 七 1110 六