たからです。何人かのオリガルヒとのつき合いは今も続いています。 私が鈴木宗男事件に連座して逮捕された後、オリガルヒから「モスクワに移住して働く ならいつでもおいで」と、かなりの年俸を提示されたことがあります。また、イスラエル の友人から軍事産業で働かないかと誘われたこともあります。オリガルヒの提示ほど巨額 なものではありませんでしたが、それでも外交官時代の年収をはるかに超えていました。 私は両方の提案を即答で断りました。お金を追いかける仕事につくのが性に合わないと 考えたからです。 ソ連崩壊後、大学教授やシンクタンクの研究員など、旧体制の知的エリートに属してい た人々の生活も非常に困窮しました。しかし大多数のロシアの知的エリートは、ソ連時代 のような思想、言論への制約がなくなった状況で、アルバイトを一生懸命こなしつつも、 楽しそうに知的作業に従事していました。こうしたロシア人との交遊を通じて、私は「標 準的な努力をしていれば、名誉と尊厳を保って生活をしていける。それとともに、自己実 現も、友だちとの楽しい関係を維持することも可能だ」という結論に至りました。こうい うロシア人たちは、お金持ちではありませんでしたが、お金の生きた使い方が上手でした。
国民のお金に対する意識は、このように国家の体制、特に税金と社会保障のあり方に大 きく関係しています。 低信用社会ほどお金に価値を置く 低信用社会か高信用社会かというのもポイントです。たとえばロシアやインド、中国な どは社会が混乱していた時期もあり、国や政府をあてにせず、自分の身は自分で守るとい う意識が強い どう守るかは国、文化によって違いますが、ロシアや中国は人と人とのつながりにより ます。厳しい社会を生き抜くために、あの人たちは家族や一族のつながりを非常に重んじ るのです。一度身内だと認識したら、とことんお互い助け合う。中国では同じ苗字の一族 による連帯が強く、各所にある「周」や「張」などの苗字を冠した会館は、その苗字の人 が優先的に使えます。 しさというときのためにお金を貴金属や宝石などに換えておきます。 インドの場合は、、、
せん。資本主義の世の中でビジネスをする多くの人が、ちょっと足を踏み外したり、激し い競争の中に巻き込まれたりすると、すぐにでも起こり得ることです。ビジネスは命がけ だということが実感できるのが、この作品の優れたところです。 映画で修羅場を仮想体験できる す や 私は混乱期のソビエト連邦とロシアの端境期を知っています。そこでのビジネスは常に を マフィアと表裏一体で、それまで羽振りがよかったり、飛ぶ鳥を落とす勢いだった人物が 金 お ある日突然いなくなる。行方不明になったり殺されたりするのです。また、昨日まで一緒 にビジネスをしていた仲間が突然裏切って利権を横取りしたり、自分の過去の犯罪的行為 のロ封じをするために誰かを抹殺したりすることも日常茶飯事。私の周りでも、懇意にし ていたロシアのビジネス・エリートが 3 人ほど非業の死を遂げています。 結局のところ、「こいつがいなくなれば、自分に億単位のお金が人る」という状況にな 第 ると、人間は変わってしまうのです。嫌な話ですが、変わらない人間のほうが珍しいくら
人間関係はお金に換算できる ロシアの日本大使館に勤務していたころ、ロシア人 100 人以上に借金を頼まれ、お金 を貸しました。返してくれたのは 3 人だけでしたが、それで人間不信に陥ったかといえば そんなことはありません。最初から返ってくることなど期待していませんでした。 ソ連崩壊前後の社会が混乱した時期で、みんな食いつなぐことに必死です。彼らの月給 は日本円で 1000 円、 2000 円程度。その支払いすら滞り、月の生活費、家族を養う 金がありません。そんな額なら、あげてしまったほうが気が楽なのです。ただ、そうなる とその後はお互いっき合いづらくなってしまいます。 人間関係とお金は非常に密接に結びついています。特に成人して社会に出たら、お金の 絡まない関係などまずありません。「金の切れ目が縁の切れ目」という言葉がありますが、 大人の関係で少しもお金が絡まないことなど、まずないと言っていいでしよう。 たとえば友人と遊ぶにしても、家族とどこかに出かけるにしても、お茶を一緒に飲むだ 15 2
て、囲歳年下の上司から「〇△さん、これ 2 部コピー取って」とか、「取引先に書類を 届けて。タクシー代がもったいないから地下鉄を使ってね」などと、アゴでこきっかわ れるような状態にだけは陥りたくない ◎いっかは結婚して家庭を持ちたいと考えているが、なかなかいい出会いがなく、また結 婚しても家を買って子供を育てる経済力が自分にあるのか不安だ 周りに相談できる上司や先輩がいないため、自分が考えていることを口にする機会がな いと悩んでいるビジネスパーソンはたくさんいます。 私は外交官という仕事でロシア ( ソ連時代を含む ) に駐在していたため、社会のトップか ら底辺までを知る機会に恵まれました。そのときにオリガルヒ ( 寡占資本家Ⅱ新興財閥 ) と 呼ばれる、超のつくお金持ちたちともっき合いました。エリツイン大統領の時代はオリガ ルヒが政治に強い影響を与えていたため、クレムリン ( ロシア大統領府 ) に深く食い込み、 北方領土交渉を日本に有利な方向に進めるには、彼らと仲良くしておくことが不可欠だっ まえがき
著者紹介 佐藤優くさとうまさる > 1960 年東京都生まれ。作家、元外務省主 任分析官。 85 年、同志社大学大学院神学 研究科修了。外務省に入省し、在ロシア 連邦日本国大使館に勤務。その後、本省 国際情報局分析第一課で、主任分析官と して対ロシア外交の最前線で活躍。 2002 年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起 訴され、 09 年 6 月有罪確定。「国家の罠」 ( 新潮社 ) で第 59 回毎日出版文化賞特別 賞受賞。「自壊する帝国」 ( 新潮社 ) で新 潮ドキュメント賞、大宅壮ーノンフィク ション賞受賞。『人に強くなる極意」 「「ズルさ」のすすめ」 ( 共に青春出版社 ) 、 著者佐藤 2015 年 10 月 15 日第 2 刷 2015 年 10 月 15 日第 1 刷 お金に強くなる生き方 かねつよ 『知の教室』 ( 文藝春秋 ) など著書多数。 優 青春新書 ール T を L Ⅱ G 、住 まさる 発行者小澤源太郎 責任編集プライム涌光 電話編集部 03 ( 3203 ) 2850 東京都新宿区 発行所若松町 12 番 1 号青春出版社 の 162 ー 0056 電話営業部 03 ( 3207 ) 1916 振替番号 00190 ー 7 ー 98602 製本・ナショナル製本 印刷・中央精版印刷 ISBN978 ー 4 ー 413 ー 04467 ー 7 OMasaru SatO 2015 printed in Japan 本書の内容の一部あるいは全部を無断で複写 ( ピー ) することは 禁じられています。 著作権法上認められている場合を除き、 万一、落丁、乱丁がありました節は、お取りかえします。
青春新書 金 1 9 2 0 2 9 5 0 0 8 4 08 な 旧 BN978-4-413-04467-7 C0295 \ 840E 定価・体体 840 円 ] 十税 ド生な告 青春出版社 きる方 佐藤優 9 7 8 4 4 1 5 0 4 4 6 7 7 青春新書インテリジェンス・好評既刊 ドイツ人はなぜ、 1 年に 150 日休んでも仕事が回るのか 熊谷徹 撤退戦の研究 半藤一利江坂彰 なぜ「あの場所」は犯罪を引き寄せるのか 小宮信夫 結局、世界は「石汕」で動いている 佐々木良昭 あと 20 年でなくなる 50 の仕事 水野操 ( さとうまさる ) 佐藤優 1960 年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。新年、同志社 大学大学院神学研究科修了。外務省に人省し、在ロシア連邦日本国大 使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として 対ロシア外交の最前線で活躍。 2 002 年、背任と偽計業務妨害容疑で 逮捕、起訴され、四年 6 月有罪確定。「国家の罠」 ( 新潮社 ) で第浦回 毎日出版文化賞特別賞受賞。「自壊する帝国」 ( 新潮社 ) で新潮ドキュメ ント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。「人に強くなる極意一「ズルさの すすめ」 ( 共に青眷出版社 ) 、「知の教室」 ( 文藝春秋 ) など著書多数。 汕断すると、私たちはいつの間にか資本主義の仕掛けに踊 らされ、何らかの依存症にさせられてしまう。お金を使 うということは、常にそうした危険をはらんでいるのです。 ー丨丨本文よりーーー Ma 、 aruSatO 佐藤優 ・青春新。 = = 「いま世の中で一番強い宗教は、 " 拝金教 " だ」 知の巨人が教える、お金に振り回されない技術 お金に強くなる生き方 カバー製版・印携 / 赤城印刷 ころ涌き立つ「知」のⅣ険 こ P ト 467 青春出版社
器輸出三原則」では武器の輸出を禁止していましたが、条件つきで輸出ができるようにな ったのです。アベノミクスの第三の矢には、実は軍需産業の拡大が含まれています。 武器ビジネス、戦争による破壊、その結果として起こるインフラの再整備というのは、 経済で最もお金が動く出来事であり分野です。資本主義社会では、結局は倫理より儲ける ことが優先されます。 沖縄の反発を理解できない安倍政権 だからこそ、軍事産業がある程度飽和してくると、武器を使わせるために戦争を仕掛け るのだという陰謀説が流れます。これもあながちあり得ない話ではないのかもしれません。 米国やロシアが中東などの周辺国の組織に武器を輸出するのも、結果的に戦争をあおって いると言われても仕方がない側面があります。 とはいえ、陰謀説よりもっと現実的で懸念されるのが「空気」です。無意識のうちに、 戦争でも始まらないと景気がよくならないと考える人が増えると、その流れが自然とでき 61 第 2 章大格差時代を生き抜くお金の極意
いかもしれません。平和な日本にいるとビジネスが持っ非情な面は見えにくいですが、映 画など架空の世界を見ることでその本質に気づき、むしろバランスがとれるのです。 ビジネスというと一見まっとうな世界に聞こえますが、その裏には人間の欲望と野心、 竸争と潰し合いという修羅が広がっていることを忘れてはいけません。資本主義社会、ビ ジネス社会で事業を大きく成長させ金持ちになりたいなら、あえてその修羅場に挑むのも しいでしよう。ただし事 羽にリスクを認識し、覚悟をしておく必要があります。 しかし、すでに述べたように、一気に大金を稼ごうとするのではなく、あくまで自分一 人でできる範囲の、小遣い稼ぎ程度のスモールビジネスであれば、同じビジネスでも修羅 の世界に人らずにすみます。 私自身がもしビジネスをするなら、そんな小さな商売を選びます。 そう考えるのは、ロシアの不穏な政治環境で権力やマフィアの暗躍を見たこと、さらに 日本の政治の中枢で国家権力、政治権力の暗闘に巻き込まれたことで、修羅の世界の恐ろ しさを嫌というほど知っているからかもしれません。
、堀に絶交を言い渡されます。逆恨 板橋は小堀に 2 万円、 3 万円と借金をしたあげく、月 みした板橋はさらなる借金のために小堀のいない間に印鑑を盜み出し、なんと小堀名義で 借金をつくってしまうのです。 友人を売った形の板橋ですが、闇金業者の指示でさらに小堀を取り込み詐欺に引き込も うと画策、小堀を呼び出します。ところが現れた小堀は怒るどころか板橋の身の上を心配 する優しさを見せる。そんな小堀の姿に自らの行動を悔いた板橋は、相談を切り出さず、 自らロシア・マフィアの漁船に乗り込むことを決意します。 ハメを外したいというちょっとした心の隙 会社のストレスや不満から逃れたい、 そこからとんでもない借金を背負い、やがて自分の人生だけではなく、友人の家庭や人生 までも狂わせてしまうのです。 ストレスだらけの今のビジネス社会に生きる誰もが、少し足を踏み外したら堕ちてしま いそうな地獄が描かれています。誰もが板橋になる可能性もあれば、小堀になってしまう 可能性もあるのです。 最後に板橋が小堀に詐欺の話を持ちかけなかったことで見ているほうは救われますが、 119 第 4 章人生を台なしにしないお金の実学