たとえば、仲のよかった家族が遺産相続のもめ事をきっかけに疎遠になってしまうこと はよくあります。宝くじの高額当選者がさまざまなトラブルに巻き込まれるのもよくある こと。降って湧いたような大金は、人生を狂わすことのほうが多いのではないでしようか。 大金持ちの人たちほどお金の怖さをよく知っています。『ロックフェラー回顧録』 ( 新潮社 ) の中で、ロックフェラー 3 世が祖父から言われた言葉が印象的です。 想 「億万長者になるのは簡単だが、それを維持するのは大変だ 幻 億万長者になるのが簡単だとはけっして思いませんが、それよりも、それを維持するこ とが難しいというのです。維持するためにはふたつのことを心掛けるようにと忠告します。淦 す ひとつはチャリティー。民衆に配ることが大切だというのです。もうひとつは、ボラン ティア活動を通して国家のために尽くすこと。ロックフェラーの場合はアラブ諸国や中国、 当時のソ連とのつき合いから、それぞれ独自のパイプを持っていました。こうした民間外ち 私 交を有事の国家間交渉の際に紹介するなどして、国家の役に立っていたのです。 章 お金は、ある段階以上にまで蓄積されると力に変わります。すると民衆からは妬まれ、 第 国家からは警戒されます。それで見事に足をすくわれたのが堀江貴文さんでしよう。お金
『ピースメイカーズー 1919 年 バリ講和会議の群像 ( 上・下 ) 』 マーガレット・マクミラン / 芙蓉書房出版 第一次世界大戦を終結させたパ リ講和会議の様子を、日記や手紙、 通信文から報告書や覚書という大 量の資料に依拠し叙述。各国の思 惑と条約形成過程がわかる 19 年パリ和 - の 『イスラム国ーテロリストが 国家をつくる時』 ロレッタ・ナポリオーニ / 文藝春秋 「イスラム国」について、歴史上は じめてテロリストが国家をつくる ことになると警鐘を鳴らす著者が、 その成り立ちゃ、これまでのテロ リズムとの違いについて指摘する イスラム国 テロリストが 国家をつくる時 - 0 しナ物は一 : を
しれません。しかしそのタイミングはかなりあとになるでしようし、その恩恵がおよぶ範 囲も限られたものです。 コンビニで昼食をすませる人とポルシェを買っていく人の二極に分化される背景には、 このような事情があるわけです。 大多数の日本人はさほど賃金が上がった実感もなく、物価上昇だけは感じているという 状況ではないでしようか。アベノミクスが続き、新自由主義的な経済が進めば進むほど、 この二極分化はより鮮明になっていくはずです。 格差縮小には戦争しかないワ 『幻世紀の資本』の著者であるトマ・ビケティ氏と対談した際、彼と私の立場の違いが明 らかになりました。 ピケティ氏は過去 200 年の資本主義国家のビッグデータ分析によって、資本主義国家 において格差は常に拡大するということを証明しています。資本主義が格差を拡大してき 57 第 2 章大格差時代を生き抜くお金の極意
世界中でさまざまな間題が起きています。これからは、嫌でもそういう間題と向き合わな ければならない状況になるでしよう。 現在、世界各国が自国の利益を最大化しようと必死です。海洋国家として覇権を広げよ うとしている中国も、南シナ海で周辺諸国との軋轢を生んでいます。 国連は一応存在していますが、ほぼ形骸化していると言っていいでしよう。現実の国際 バリゼーションの流れの中で、自国さえ何とかなれば、 社会を見ていると、グロー う国家エゴイズムが蔓延しているのです。そうした状況で、その場しのぎの政治しかでき ない国は真っ先に他国の食い物になるでしよう。 今の日本は、残念ながらそうした国になりつつあります。アベノミクスが何をしたかと いえば、結局はお札を大量に刷っただけ。円安になっても、すでに多くの大企業は生産拠 点を海外に移しています。円安メリットはほとんど関係ありません。 逆に多くの中小企業は原材料の高騰で苦しんでいます。仮に 1 ドル 125 円を突破する ような状況になったら、原油安も小麦や大豆など原材料の高騰で相殺されてしまいます。 消費税でダメージを受けた個人消費は、さらに圧迫されるでしよう。
これまでの日本は中負担・高福祉の国でした。それが可能だったのは、企業が社会保障 の役を担っていたからです。終身雇用や社宅、住居手当などの福利厚生によって、定年ま で社員の生活をかなりの部分で保障していました。 ですから、比較的低い税率でも国民生活が円滑に動いていたわけです。 ところが、企業にそのような余裕がなくなったバブル崩壊以降、同時に国家財政も逼迫 し増税を余儀なくされました。消費税率が川 % になることもこの流れでは必然です。少子 高齢化がますます進むので、税金はもっと高くなるはずです。 つまり、中負担・高福祉はもう続きません。これからは高負担・高福祉で行くのか、低 負担・低福祉に進むのかを選択する必要があります。私自身は、多少税金が高くなっても 高負担・高福祉国家の方向に進むべきだと思っています。そちらのほうが、米国型の社会 より日本人に合っていると考えるからです。 ところが、現実は高負担・低福祉という、最も救いのない方向に進みつつあるのが日本 の現状だと思われます。
インド人は国を基本的に信用していませんから、その国が発行する通貨も信用できないと い一つことなのでしょ一つ。 日本はどうかといえば、昔から高信用社会です。農村にしても町にしても隣近所のつき 合いがあり、お互いの信頼関係で社会が成り立っていた。 「村八分」という言葉もあるよ うに、コミュニティを脅かすような勝手な行動をとる者を排斥する村社会特有の窮屈な面 はありますが、その中にいれば安心して生活ができました。 意 一般的に、高信用社会では国家や社会制度に頼ろうとし、低信用社会では社会制度に頼の お れないので、自分たちの仲間を大事にしたり自分の資産に頼ろうとするわけです。 抜 生 を 代 高負担・低福祉社会という最悪の道 時 差 格 大 国家の仕組みや社会の成り立ちそのものが、そこで暮らす人たちのお金への意識、お金 章 との向き合い方に大きく影響します。私たち日本人のお金に対する意識が大きく変わりつ 第 つあるのは、まさに今大きな時代の変わり目に直面していることの表れです。
国家体制の違いで貯蓄率が変わる 少し前まで、日本人は貯蓄好きな国民とされてきました。ところが、今や貯蓄率で見る と日本は先進国の中で最低ランクです。 2013 年の OLQUQ ( 経済協力開発機構 ) による 調査では、消費大国と言われる米国の 2 ・ 4 % を大きく下回る 0 ・ 9 % になっています。 ちなみに 1970 年代は囲 % 台、 1980 年代は川 % 台でした。バブル崩壊後の経済の 低迷、非正規社員の拡大、少子高齢化などの影響が重なっているのでしようが、これほど 短期間にお金に対する向き合い方が変わった国というのも珍しいかもしれません。 お金に対する考え方や向き合い方というと、ラテン系の国は貯蓄率が低い、アングロサ クソンは投資好きなどと、国民性や民族性に左右されるものと考えられがちです。しかし、 その国がどういう体制なのか、どういう国家を目指しているかということの影響のほうが 大きいのです。なかでも一番影響を与えるのは社会保障と税金です。 米国などは政府を極力小さくして税金を少なくし、その分自由な経済活動をすることに
著者紹介 佐藤優くさとうまさる > 1960 年東京都生まれ。作家、元外務省主 任分析官。 85 年、同志社大学大学院神学 研究科修了。外務省に入省し、在ロシア 連邦日本国大使館に勤務。その後、本省 国際情報局分析第一課で、主任分析官と して対ロシア外交の最前線で活躍。 2002 年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起 訴され、 09 年 6 月有罪確定。「国家の罠」 ( 新潮社 ) で第 59 回毎日出版文化賞特別 賞受賞。「自壊する帝国」 ( 新潮社 ) で新 潮ドキュメント賞、大宅壮ーノンフィク ション賞受賞。『人に強くなる極意」 「「ズルさ」のすすめ」 ( 共に青春出版社 ) 、 著者佐藤 2015 年 10 月 15 日第 2 刷 2015 年 10 月 15 日第 1 刷 お金に強くなる生き方 かねつよ 『知の教室』 ( 文藝春秋 ) など著書多数。 優 青春新書 ール T を L Ⅱ G 、住 まさる 発行者小澤源太郎 責任編集プライム涌光 電話編集部 03 ( 3203 ) 2850 東京都新宿区 発行所若松町 12 番 1 号青春出版社 の 162 ー 0056 電話営業部 03 ( 3207 ) 1916 振替番号 00190 ー 7 ー 98602 製本・ナショナル製本 印刷・中央精版印刷 ISBN978 ー 4 ー 413 ー 04467 ー 7 OMasaru SatO 2015 printed in Japan 本書の内容の一部あるいは全部を無断で複写 ( ピー ) することは 禁じられています。 著作権法上認められている場合を除き、 万一、落丁、乱丁がありました節は、お取りかえします。
費社会の恩恵をありがたく利用しているわけです。 大切なのは、だからこそ「お金のない生活、社会はどうなるのか」と、あり得ない状況 を想像してみることです。日ごろ当たり前だと思っていることや、当然だと考えている前 提を疑ってみる。 同じように、この世に「国家がなくなったら」「会社というものがなくなったら」「家族 という単位がなくなったら」という問いを発してみると、これまでにない新しい考え方や 視座を発見する糸口になるはずです。 182
青春新書 金 1 9 2 0 2 9 5 0 0 8 4 08 な 旧 BN978-4-413-04467-7 C0295 \ 840E 定価・体体 840 円 ] 十税 ド生な告 青春出版社 きる方 佐藤優 9 7 8 4 4 1 5 0 4 4 6 7 7 青春新書インテリジェンス・好評既刊 ドイツ人はなぜ、 1 年に 150 日休んでも仕事が回るのか 熊谷徹 撤退戦の研究 半藤一利江坂彰 なぜ「あの場所」は犯罪を引き寄せるのか 小宮信夫 結局、世界は「石汕」で動いている 佐々木良昭 あと 20 年でなくなる 50 の仕事 水野操 ( さとうまさる ) 佐藤優 1960 年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。新年、同志社 大学大学院神学研究科修了。外務省に人省し、在ロシア連邦日本国大 使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として 対ロシア外交の最前線で活躍。 2 002 年、背任と偽計業務妨害容疑で 逮捕、起訴され、四年 6 月有罪確定。「国家の罠」 ( 新潮社 ) で第浦回 毎日出版文化賞特別賞受賞。「自壊する帝国」 ( 新潮社 ) で新潮ドキュメ ント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。「人に強くなる極意一「ズルさの すすめ」 ( 共に青眷出版社 ) 、「知の教室」 ( 文藝春秋 ) など著書多数。 汕断すると、私たちはいつの間にか資本主義の仕掛けに踊 らされ、何らかの依存症にさせられてしまう。お金を使 うということは、常にそうした危険をはらんでいるのです。 ー丨丨本文よりーーー Ma 、 aruSatO 佐藤優 ・青春新。 = = 「いま世の中で一番強い宗教は、 " 拝金教 " だ」 知の巨人が教える、お金に振り回されない技術 お金に強くなる生き方 カバー製版・印携 / 赤城印刷 ころ涌き立つ「知」のⅣ険 こ P ト 467 青春出版社