は 1000 兆円を超えました。私たちの使っている円もけっして安泰ではないのです。円 はソ連のループルのような不換紙幣ではないので、いきなり紙切れになる心配はありませ んが、ハイバーインフレなど予期しない事態が起こるかもしれません。 多くの人はお金が紙切れになることなど想像できないでしよう。しかし、だからこそお 金が価値を失ったら社会はどうなるか ? お金のない世の中はどんな世界か ? シミュレ ーションすることに意味があります。 お金は「つなかり」で代替できる 成熟した消費社会でお金のない生活を実践した人もいます。アイルランド出身でイギリ ス在住のマーク・ポイル氏は、お金をまったく使わない生活を一年間続け、『ぼくはお金 を使わずに生きることにした』 ( 紀伊國屋書店 ) という本にその様子を記しました。自給自 足の生活をしながら、すべて人からのもらいもの、捨ててあるもので生活するのです。 歯磨き粉や石けんはイカの甲を干して乾燥させたものを使い、廃車のトレーラーに住ん 、ヤっ 17 0
たというわけです。お金と便利な生活の中で、私たちは本当の生きる実感や喜びから疎外 されているのかもしれません。 私たちがいきなりお金をまったく使わない生活をしようとすれば、大変な苦労を伴いま す。ただし、一週間などと期間を決めて極力お金を使わない生活を実践してみると、いろ いろなことに気がつくかもしれません。 昼食は弁当をつくって持っていき、お金を使わない。ただし、節約して我慢するのでは なく、できるだけ人から援助してもらったり、おごってもらったりして生活を充実させる のです。 それを通して自分のネットワークがどれだけ強いか、ある、ま、、ゞ しーしカカわかるでしょ一つ し、どれだけ無駄なことにお金をかけていたかもはっきりします。自己管理という点でも、 これまでわからなかったことがわかるようになるかもしれません。 また、交換手段としてお金を使わないことになれば、自分の持っているお金以外の価値 が見つかるかもしれません。ソビエト崩壊のときマールボロが通貨の代わりになったよう に、自分の持っているものと欲しいものが交換できるか試してみると面白いでしよう。 172
、パフォーマンスを決 他者の評価を集めることができるかどうかがその人の能力であり 定します。家にいながらにして全世界の人とつながることができる Z の発達が、評価 経済を生み出す原動力になっているのです。 ネット社会であろうとなかろうと、世の中にお金という存在がなくなったら、最後に勝 つのはコミュニケーション能力の高い人であり、多くの人に好かれ支持され、助けてもら える人であることは間違いありません。 お金が登場したことで、私たちの欲望は果てしなく広がるように翼を与えられました。 でもそれは、結局は幻想にすぎません。不安や不足、競争と戦いから外れたとき、意外な 喜びや満足が得られるようになります。 自給自足の金なし生活をしたマーク・ポイル氏が恋人にフラれても戻りたくないという ほど、その生活は魅力的なのかもしれません。お金の魔力がなくても、小さな満足、リア ルな生活の実感、生きる喜びがあるのです。 いきなり自給自足生活にも評価経済にも移行できません。 現代社会に生きる私たちは、 私もやはり便利なオンデマンドで > シネが見たいし、アマゾンで本も購人したい。高度消 181 第 5 章お金と人間の幸福な関係を考える
きるということです。歴史的に見ても、江戸時代に比べれば電気や水道のインフラが整い、 さまざまな家電や製品が社会に行き渡っている。生活のレベルも質も、暮らしやすさも比 べものにならないほどよくなったことは事実です。 そして例外があるとはいえ、ほとんどの人が何らかの職業に就いてお金を稼ぐことがで きます。職を選ばなければ、アルバイトでも何でも、相応に稼ぐ方法はあります。大多数 の人が一定以上の生活レベルを享受でき、なおかつある程度の選択の自由が保障されてい る社会というのは、資本主義をおいて他に見当たりません。 アベノミクスで物価がさらに上がればどうなるかわかりませんが、少なくともデフレの 間は物価が上がらず、給与が上がらなくても何とか生活できました。最近は高級車など一 部の高額商品の売れ行きが好調なようですが、同時に 100 円ショップで身の回りのほと いたくを望まなければ、それほど不自由を感 んどのものが手に人る時代でもあります。ぜ じずに生活することができます。 これはやはり資本主義が高度に発達してきたことの成果であり、恩恵です。その中で、 常に消費を増やそうとする商業主義にあおられたり乗せられたりすることなく、身の丈に 3 1 第 1 章私たちを衝き動かすお金という幻想
そこでは需要と供給の関係で価格が決まり、お金とものが広く流通するようになりました。 つまり、私たちが当たり前だと思っている市場経済だけが経済ではなく、他の形もあり 得ると認識することから私たちは始めなければなりません。 現代の市場経済、資本主義経済に生きているとなかなか見えてきませんが、利益を追い 求めず、競争もないという価値観があることを頭の片隅に置いておくのはとても重要です。 というのも、「高負担・低福祉」「二極化。というキーワードに沿って進んでいくこれか らの社会では、たくましく生きるヒントが市場経済的な価値観とは別のところにあるよう に思えるからです。 たとえば、都会を離れて田舎に居を移す人が増えています。一見不自由に見える田舎の 生活でも、米や野菜、魚など自分たちでとって余ったものを分け合う。すると都会で生活 するほどお金を稼がなくても十分豊かな生活ができる。そのことに気づいた人が増えてき ているのです。 都心で働くにしても、新しいマンションではなくたとえば郊外の築古物件を狙えば、今 は一軒家でも数百万円という格安物件が結構あります。そういう物件に家族と住み、都心
とを認識して細心の注意を払わなければなりません。 できるだけそのお金を減らさないように頑張って生活してみる。たとえば手取りの半分 で囲日間生活できるなら、月に何万円かの貯蓄が可能だということです。気をつけている つもりでも 2 日くらいで使い切ってしまうようなら、一度自分のお金の使い方を振り返る 必要があります。 私の財布とカードの使い方 よく、お金持ちになるには長財布を使うと いいと言われます。私自身はポケットに携帯 しやすいよう、あえてふたっ折りの財布を使っていますが、長財布ならお金をきれいに人 れておけます。 部屋や机の上が雑然としている人は仕事ができない場合が多いようです。頭の中が整理 されておらず、混沌としている人が多いからかもしれません。 財布も同じで、お札がクシャクシャになって人っていたり、カードがあふれるように人 1 3 8
私が 512 日間の拘置所生活を余儀なくされていたとき、最後まで支援してくれたのが 大学時代からの親友たち。その心強さは今でも忘れないし、それがあったからこそ今の自 分があるのです。 ただし、その友人関係でさえお金で大きく変わり得るという現実もあります。 たとえば、古くからの友だちグループの一人が事業で成功するなどして、突然大金持ち になったとします。周りの人は、これまでのようにその友人と気の置けない関係を続けら れるでしようか 多くの場合、お金持ちになると生活が変わります。それまで居酒屋でワイワイやってい たのが、ワンランク上の店で飲むようになる。お金によって趣味や嗜好が変わってくるし、 そうなればっき合う友だちも変わります。 逆もあり得ます。それまで仲のよかった仲間の一人がリストラにあい、収人がなくなっ てしまった。すると、それまでのように気軽に食事や遊びに誘えなくなります。無理な出 費を強いてしまうのではないか、その話題に触れてはいけないのではないかと、気を遣っ てしまうのです。そして、自然に連絡も滞りがちになっていく : 155 第 5 章お金と人間の幸福な関係を考える
しつかりやれば最低でも 2 万円くらいかかってしまうのです。 ただ、会社の加人している健康保険組合や自分の住んでいる自治体が人間ドックに助成 金を出していることも多いはずです。助成金の額は健康保険組合や自治体によって違いが あるので、一度確認してみてください。 とされる政治家や要人、会社の経営陣の多くは、それこそ毎年 2 回くらい、徹底 的に健康チェックをしています。会社で出世している人や役員以上になっている人を調べ ると、まず高確率で代の終わりくらいから、そういう独自の診断を受けています。 健康に投資すると、病気を防げるだけでなく、生活自体が規則正しく、節度のあるもの になります。毎晩決まったメンツで深酒をするようなこともなくなりますし、タバコなど 健康によくないものを自然に遠ざけるようになるでしよう。 そうやって自分を律し生活全体をマネジメントできる人だからこそ、出世するのだとも 言えそうです。健康が維持できていて体力もある。すると仕事にも好影響を与えるし、上 司からもしつかりした人間だと認識され、出世が近くなる。そんな正のスパイラルができ 上がっているのでしよう。 126
これまでの日本は中負担・高福祉の国でした。それが可能だったのは、企業が社会保障 の役を担っていたからです。終身雇用や社宅、住居手当などの福利厚生によって、定年ま で社員の生活をかなりの部分で保障していました。 ですから、比較的低い税率でも国民生活が円滑に動いていたわけです。 ところが、企業にそのような余裕がなくなったバブル崩壊以降、同時に国家財政も逼迫 し増税を余儀なくされました。消費税率が川 % になることもこの流れでは必然です。少子 高齢化がますます進むので、税金はもっと高くなるはずです。 つまり、中負担・高福祉はもう続きません。これからは高負担・高福祉で行くのか、低 負担・低福祉に進むのかを選択する必要があります。私自身は、多少税金が高くなっても 高負担・高福祉国家の方向に進むべきだと思っています。そちらのほうが、米国型の社会 より日本人に合っていると考えるからです。 ところが、現実は高負担・低福祉という、最も救いのない方向に進みつつあるのが日本 の現状だと思われます。
パネルで自家発電する。食料は近くのスペースに野菜を植えたり、地域 で電気はソーラー の人たちから分けてもらったりして調達するのです。 ゴミ捨て場に行けば、まだまだ使えるものがたくさん捨ててあります。それらを拾って きたり 、パソコンもフリーソフトなどを駆使すればそれほど困りません。残念ながら恋人 こりたくないと言っています。 にはフラれたようですが、本人はもう昔の生活ー戻 というのも、お金のない生活をして彼が最も大切だとわかったのが、人のつながりやネ ットワーク。いさというときに力を貸してくれたり、食料やものをくれたり、話を聞いて くれたりする人のつながりがあるからこそ、お金がなくても何とか生き延びることができ たというのです。 そうして人とのつながりの中で生きるほうが、生の喜び、生きる実感が強くなる。また 自給自足の中で自然と向き合って生きることも、大きな喜びと安らぎを感じることにつな がります。身の回りに便利なものがなければ、自分でいろいろ工夫して克服すればいい。 その充実感も大きいはずです。 いざ、お金や消費社会をなくしてみたら、そこに生きる喜びや実感が浮かび上がってき 、ー 50 00 = 00 係 0 、 0