自分たち - みる会図書館


検索対象: だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-
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1. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

「妖精狩りが魔物を連れてくる可能性も考えてはいたけれど、せつかく連れて来たガーゴイル をエドになすりつけずに放置して、今度は人狼を連れてくるとは思わなかった。向こうは同じ タイミングで二階を歩き回るパーティがいると思わなかったんでしようね。おかげでケインた ⅲちがとばっちりを受けた」 ケインが腕組みしたままうなずく。その顔に特段不満の色はなかった。 「こう一言うとケインには悪いけれど、ガーゴイルに襲われたのがあんたたちだったのは不幸中 木の幸いだったわ。頑丈なあんただから、全部引き受けて無事だったわけだしね」 ま「たしかにガーゴイル四匹は俺一人じゃ止めきれねえ。半分は後ろへ行っちまうだろうな。 の エドワードの冷静な予測の意味を想像し、ジャスパーは身震いした。 村 ん 相手は四階の魔物だ。エドワードをすり抜けた二体を自分とエルムが一体ずつ食い止めたと よ じして、どれだけ持ちこたえられるだろうか。皮鎧を一撃で切り裂くような敵が自分たちを突破 だし、アトリやルピニアに襲い掛かっていたら 「でも、今度はそのケインさんを利用されちゃったね . エルムの指摘に、アルデイラは小さく息をついた。 「ええ、それは認めるわ。あたしも妖精狩りが幻身の術を使えるなんて予想できなかった。 「それは俺の落ち度だ . ケインが首を振る。

2. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

【一日目】 7 力と技 ジャスパーとエルムは木製の剣と杖を渡され、エドワードと模擬戦を行うことになった。 木剣を振って調子を確かめながら、ジャスパーは作戦を練った。 木剣は先ほど購入したショートソードとほぼ同じ長さで、重量ははるかに軽い。普通に振る 。しかし手首のスナップでも自在に操れる点を活か ったのでは自分の腕力の半分も活かせない せば、意表を突いた技でエドワードを驚かせることができるかもしれない エドワードは部屋の中を見回し、肩をすくめた。 「二系統の魔法を使う奴はあまり見かけねえ。お前さんもそういう家系なのか ? 」 「 : : : はい。そういうことになると思います」 エドワードは歯切れの悪い返答に訝しげな顔をしたが、詮索はしなかった。 「さて、ジャス公」 エドワードがにやりと笑い、ジャスパーを振り返った。 「お待ちかねの接近戦闘だ。。 とれだけ使えるか見せてみろ

3. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

【二日目】 149 重い衝撃が全身に伝わる。 手応えは十分だ。この大きさのモノなら突き飛ばせる。 そのはずだった。 それはぐらりと揺らいだが、その場を動くことなく押し返してきた。 受け止められたに ジャスパーは負けじと両足を踏ん張りながら、相手の感触を探った。 ごわごわした灰色の体毛。その下で分厚い筋肉が動く気配。 直感の告げるまま、ジャスパーは後ろへ転がった。 頭上を長い腕が横なぎに通り過ぎる。 獣めいた手だ。指の先端には鋭そうな爪。 ジャスパーは転がって距離をとり、立ち上がった。 敵を真正面に捉えた途端、ぞくりとする感覚が身体を貫く。 思わずうめきが漏れた。 敵の正体が分かる。身体に流れる血が敵の本質を告げている。 あれは獣だ。直立し、二足歩行する狼だ。ヒトの特徴を持った獣。自分たち獣人とは真逆の 存在。

4. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

方が安いかも」 ルピニアはじろりとエルムを睨んだ。 「どっちでもええけど、あんたには半分出してもらうで。いきなり壁登るわ、あんな高さから 被せるわ。おかげで鍋の底が抜けかけとるやんか」 「ボクだってルピニアちゃんが自分から攻撃するなんて思わなかったよ。びつくりして足が止 まっちゃった。それにあのフライバンはどこから出したの ? 」 「フライバンのことはええ。回り込め言うたんはあんたやろ。挟み撃ちのつもりゃなかったん か ? 」 「あれはボクがなんとかして注意を引くから、その隙にアトリちゃんを助けてって意味だった んだけど・ : ・ : 」 傍で聞いていたジャスパーとアトリは呆気にとられた。 朝「なんか全然かみ合ってないな。二人で打ち合わせしてあったのかと思ったのに」 目 「うまくいったのは偶然だったみたいですね : 日 いっしか一行の足は止まっていた。エドワードとケインが呆れ顔で後方をうかがっている。 「あんなサイン見たら誤解するに決まっとるやろ。だいたいなんで弓を持っとらんウチがアト リを助けられる思ったんや」 「足音がボクによく似てたし、戦闘の心得はあるのかもしれないって思ってたんだよ。でも腕 261

5. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

「見張りは扉の前で三時間ずつだ。最初は俺がやる。アトリとエルミイは最後だ。時間になっ たら起こしてやるから、ジャス公とルピニアも横になっておけ」 目「時間はどうやって測ればいし 「砂時計がある。一回落ちきれば三十分だ」 エドワードは自分の食器を片づけ、ランタンに火を点した。 「ジャス公、ルピニア。ランタンに火を移して焚き火を始末しとけ。この部屋は換気がよくね え。焚き火のままだと煙が溜まる。アトリとエルミイはさっさと毛布かぶって寝ろ。今はそれ 163 は真の暗闇で満たされていた。 扉は頑丈な金属製で、閉めてしまえば室内はほぼ密閉された空間だ。難点は扉に鍵がないこ とだったが、エドワードは壁に釘を打ちつけ、ロープを留めて即席のかんぬきとした。よほど のカで押し開けられない限りは安全と言えた。 部屋の中央付近で火を焚き、一行は簡素な食事を摂った。消耗しきったアトリと、意気消沈 したエルムはほとんど口を利かなかった。残る三人は時おり口を開いたが、息苦しい沈黙を吹 き払 - っことはできなかった。

6. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

「たった一日で上達している。なかなか面倒な少年だ , 「訓練場でずっとオレたちを見てたのはお前か」 ジャスパーは横目で仲間の様子をうかがった。 ルピニアは次の矢を番えている。アトリは火の玉を解き放っ瞬間を待っている。エルムは二 人の前で油断なく身構えている。矢も魔法も飛んでこないのは、接近戦を続けている自分に万 が一にも当てないためだ。 木 ジャスパ】は横へ跳んだ。 ま 距離さえ取れば魔法がくる。ひとたび狙いが定まれば、あの火の玉を避けることはできない 止 の 男は即座に詰め寄り、接近戦の距離を保った。 村 ん ジャスパーは男の意図を悟った。 よ じ敵は慎重だ。攻撃を空振りさせて自分を疲れさせ、動きが鈍ってから確実にとどめを刺すっ だもりだ。自分を無視して後衛へ突っ込まないのは、背後から襲われたくないからに違いない。 それならー ジャスパーはすぐさま攻撃を再開した。 そう簡単に自分の息は上がらない。敵が戦法を変えないうちに攻め続け、一撃でも当てれば 距離を取るだけの隙が生まれる。反撃される前に当ててやる。 勢いを増した攻撃の意味に気づいたのか、男が舌打ちする。 210

7. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

「 : : : アトリもあんなことするんだな」 ジャスパーは開いたままの扉を眺めて唖然とした。 自分が何を伝えたかったのか未だにはっきりしない。そんな自分の言葉からアトリは何を受 け取ったのだろう ? 彼女が何か大切なものを見つけたのなら、自分も喜んで良いのだろうが 木「たぶん、 しいことしたんだよな」 ま放置されたグラスを片づけながら、ジャスパーは何度も首をひねっていた。 の 村 ん よ じ ん 306 7 もう一度 ほどよく焼けて汁がしたたる肉。豆と魚肉のスープ。新鮮なサラダと果物。果実のジュース やエール。 ひととおりの料理が揃ったテープルを、四人の冒険者たちが囲んでいた。 席の一つは空いたままだ。暮れの鐘が鳴ってからそれなりの時間が経っているが、席の主が

8. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

【二日目】 185 「オレにはできた ? 何がだよ」 「アトリを笑わせることや。悔しいけどウチにはできんかった。おヒゲさんとか肉の切り分け とか、打算のかけらもないやろ」 ルピニアは再びアトリに目をやった。 疑いが消えたわけではないが、先ほどよりもはるかに冷静に彼女を見ることができる。いっ たいどれほど激しい感情をぶつけようとしていたのかと思うと、自分が怖くなるほどだ。 「いい奴だな、お前」 「なんや突然」 「に。そう思っただけだ」 ルピニアはまじまじとジャスパーを見た。彼は彼でほっとしたような顔をしている。 唐突に分かった。彼はアトリとエルムだけでなく、この自分のことまで案じてくれていたの 「 : : : ほんま、あんたのお人よしにはかなわん」 ーティの要になる。そんな気負いがばかばかしく思えてくる。 後衛は自分が支える。 ルピニアはゆっくりと立ち上がった。 ふわ、とあくびが漏れる。気づかないうちに眠気が忍び寄っていた。 「寝るのも仕事のうちだったな

9. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

ルピニアを起こし、五人は火を囲んで食事を摂った。昨夜と打って変わって和やかな雰囲気 だった。エルムはすっかり普段のエルミイだった。アトリは雑談に控えめながら笑顔を見せた。 しかし時折ルピニアが向けてくる視線の意味を、ジャスパーは理解していた。自分あるいは 彼女のどちらかがアトリに問いたださなくてはならないのだ。なぜ自分たちは場違いな魔物に 襲われなければならないのかと。 亭 壊したくない。せつかく打ち解けたのに。 ま その逡巡を共有する二人にとって、和やかな時間は安らぎでもあり、苦痛でもあった。 止 の食事の時間も永遠に続きはしない。深鍋が空になり、それぞれが食器を片づけ始めたところ んでジャスパーは重い口を開いた。 よ いし : なあ。アトリ ん 「はい ? 」 振り向いたアトリはかってなく穏やかな顔だった。 思い返せば戦闘時を除いて、自分からアトリに話しかけたことはほとんどなかった。こうし て彼女の名前を呼んだのは一昨日から数えて何度目だろう。もしかしたら片手で数えられる程 度ではないだろうか しかし死闘を共に乗り越えたことで、彼女に対して感じていた距離は確実に縮まっている。

10. だんじょん村の止まり木亭 -Start Line-

てくるでしよう。それにフェアリーが人里に現れたら噂が立って、簡単に追跡されてしまいま す。羽があるかぎりずっと追われ続ける。隠れることもできない。そう思ったわたしはーー」 アトリは深く息を吸った。 「わたしは、自分で羽をちぎりました。一生エルフになりすまして、妖精狩りから逃げ続ける つもりだったんです」 ルピニアは静かにうなずいた それが最善の選択だったのかどうかは分からない。他にも手段はあったかもしれない 自分に分かることは一つだけだ。 もしもアトリの決断を笑う者がいたならば、決して許さない 方 タ しんと静まり返った部屋の中で、アトリの澄んだ声が続く。 昼 「 : : : でも、本当は分かっていました。あの男はいっか必すわたしに追いつく。そうなったと 目き、わたしに戦う力がなかったら、あの男は偶然通りかかっただけの誰かでさえ巻き添えにし にて殺すと。身体が弱く、羽も失くしたわたしが強くなるには魔術を学ぶしかありません。です から魔術師を探しました。もし、あの男に追いっかれて巻き添えになってしまっても、自分の 身を守ることができるくらいに強い魔術師を。そんなひとは英雄アルデイラしか思いっきませ んでした。わたしは噂を頼りにこの村にたどり着き、無理を言ってアルデイラさんに弟子入り 277