姉ちゃん - みる会図書館


検索対象: ふたりの約束
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1. ふたりの約束

やつばり姉ちゃんか。でも声が出せないんだ。 「光也 ! 聞こえてる ? わかる ? 光也ー 「わかるなら頷いて ! ゆっくりでいいから」 誰かが僕を呼んでいる。そんな大声で呼ばなくても聞こ えてるよ。 僕は寝ているようだ。ゆっくり周りを見ると看護師さん らしき人が慌てている。じゃあここは病院か。姉ちゃん 「先生、光也が ! 」 と目があう。コクっと頷いたがその動作にとてつもない 数人の人が慌ただしく集まってきているようだ。ゆっく り目を開けていくが、光がまぶしすぎて頭がチクチクす力を要した。 しばらくすると自分の状況がわかってきた。べッドで る。何人かが僕を覗き込んでいるようだ。誰かが僕の手 寝ていて見えるのは天井。喉がとても乾いている。 を握っている。でも、自分の手に力が人んないや。 「み、水を・ 「光也、聞こえる ? 」 うん、聞こえてる。聞こえるけど、声が出せない。声っ ようやく小さな声が出せた。乾ききったロの中に水分が てどうやって出すんだっけ。ぼんやりしていた人影が少流れ込む。こんなに水って美味しかったつけ ? しずつはっきりしてくる。あ、姉ちゃんか。姉ちゃんま 「光也、帰ってきたのね、やっと・ いつまで寝て で泣いているの ? なぜ ? ええと、あとは知らない人みたんのよ いだ。白衣を着ているのかな ? 姉ちゃんが泣きながらカ一杯手を握っている。 「姉ちゃん、痛いよ・ 「光也、私の目を見て ! わかる ? 直子よ」

2. ふたりの約束

「さおりちゃん、光也のことも心配だけど、君のことも 第十話それぞれの道 心配なんだ。少しでもさおりちゃんが笑顔になれるのな 「隆二さん、この前は楽しかったです。ありがとうござらなんでもするつもりだよ [ いました。おかげで楽になれたように思います 隆二さんが気にかけてくれているのはとても嬉しい。だ 先日私を励ます会を開いてくれた隆二さんにお礼を兼けど・ ねてのランチ。事故からずっとふさぎこんでいた私を助「俺、さおりちゃんを大事にしたい。光也のこともある けてくれた けど、今のさおりちゃんにはもっと前を向いてほしいん 「いや、いいんだよ。見ていられないくらい落ち込んでだ。その中で俺のことを考えてくれたら・ いたさおりちゃんをほっとけないよ。気持ちはわかるし、 こんな状況では頭の整理もっかない 光也のことはショックだよ。だけど、いつまでもこうし 「直子さんにも言われました。『前を向いて』って。で ているわナこま、、 しーーし力ないしね。みんなもそう思ってるよ も、私、隆二さんのこと・ 昼間のビジネス街はスーツ姿の人が多い。喫茶店の外隆二さんと目を合わせることができない いいさおりちゃんへ 「うん、わかってる。少しずつで は真夏の日差しが眩しい。アスファルトからの照り返し もあり、気温はグングン上がっている。 の気持ちは決して冗談でも半端なものじゃないんだ」 4

3. ふたりの約束

少し恥ずかしくなる。 第十一話ふたりの別れ 「え ? 直子さんじゃないんですか ? 光也 ? 僕が目覚めて数日たった。姉から僕の状況を聞いてい 「うん、僕だよ。数日前に目が覚めたんだ」 る。なんとなくは覚えているんだけど闇も深いようだ。 さおりは言葉が出ないようだ。少しの間があり、 すぐ病院に行くね」 「光也、よかった。本当に・ 僕は一年半前にさおりと会うために待ち合わせしてい たが、その途中で自動車事故に遭ってしまったんだ。長「うん、待ってる。さおりに会いたい , 僕の胸は高鳴っている。 間意識が戻らないまま今に至る。まだ体は動かせない が、ゆっくり腕だけは動かすことができるようになった。 姉が解約せずにいてくれたスマホを握りしめ、看護師さ 病室へ来てくれたさおりは僕の記憶よりも少し大人 んに頼んで電話できるところまで移動した。アドレス帳つぼく感じる。 「光也、本当に起きたのね・ からさおりを呼び出し、発信ボタンをタップする。 したか・ さおりは背を向けて泣いているようだ。 「さおり、ごめん。姉ちゃんから今までのことを聞いた よ。長い間辛い思いをさせてしまってごめん 「もしもし ? ・ 電話の向こうから驚いたような声がする。無理もないか 「さおり ? あの、光也だけど・ もう、どれだけ心配 6 ワ 1

4. ふたりの約束

「私が作りたいんです。今日だけでも来ませんか ? 」 それじゃお邪魔します そうだな、これからする話はもっと静かなところですべ春花さんの表情が明るくなったようだ。一緒に近くのス ーで買い出しをして、春花さんのアパートへ向かっ きだろうな。春花さんもそれをわかっているようだ。 た。綺麗に片付いていて居心地がいい。僕の部屋とは大 「光也さん、ちゃんとご飯食べてますか ? 直美さんから 違いだな。 も作る時間が取れないって聞きましたよ」 「いやあ、姉ちゃんとは帰る時間も合わないし、コンビ 「すぐに作りますから座っていてください ニ弁当かスー ーの惣菜かってとこです」 手際よく作り始める春花さん。誰かにご飯を作ってもら 3 うっていうのも久しぶりだ。 そういえばもう長いことそんな暮らしをしてる。自炊も してないし。 「それはダメですよ。じゃあ今夜はうちで食べません久々の手料理は格別だった。僕の胃袋を満たしてくれた。 同時に心も満たされたようだ。 か ? 私作ります。光也さんがよければ 春花さんもアパートで一人暮らしをしているそうだ。確「ごちそうさまでした、美味しかったです かにゆっくり話ができそうだが。 食器を重ねながら片付けを手伝う。 「いいんですか ? なんか悪いな・ 「光也さん、場所変えませんか ? 周りが気になっちゃっ

5. ふたりの約束

隆二さんは私の話を黙って聞いている。 「やつばり私、今でも光也さんのことを忘れられていな いのかもしれません。隆二さんのことも大事に思ってい るんですけど、心の奥には光也さんがいるんです」 「いっかその一言葉が出てくるんじゃないかってずっと 思ってた。俺、どこかで覚悟していたよ。だけど、これ からもさおりとやっていきたい」 私を包んでくれるやさしをこれほど痛く感じたことは 「ごめんなさい、隆二さん。私・ これ以上何も言えなくなった。 「さおり・ 「ごめんなさい、こんな気持ちじゃ隆二さんとは・ : 」 家に着くとべッドに倒れこんだ。とめどなく涙が溢れ てきた。涙なんてもう枯れてしまったと思っていた。そ れでも一晩中流れ続けた。 新しい生活にも慣れてきた。仕事も流れに乗れるよう になったし、気分もリセットできたかな。ソフアに座り 込み、フウっとため息をついた。気がつくとスマホが光 6 っている。隆二からの着信だ。 「もしもし、どうした、こんな時間に。もう夜中だぜ ? 「光也、やつばりさおりちゃんはお前を求めてるんだ、 八神光也を」 「おいおい いきなり何を・ 「さっきさおりちゃんに言われたんだ。『こんな気持ち じや一緒にいられない』って

6. ふたりの約束

第八話止まらない時間 隆二さんから連絡が来た時にはびつくりした。 「さおりちゃん、次の土曜日の夜時間ある ? 久しぶりに 「今夜は本当にありがとうございます。私、しばらく皆 さんともなかなか会えなくて。この半年以上の間、自分みんなで集まろうかって話が出てて。よかったら来ない かい ? たまには気晴らしもしないと息が詰まっちゃう が何をするべきか、何ができるのかってずっと考えてい ました。まだ答えは見つかりませんが、以前に比べて少よ。気が乗らないなら遠慮なく言ってくれていいからー しは前向きになれたのかなと思います 「いえ、ぜひ行かせてください。私も皆さんに会いたい 隆二さんを中心に私を励ます会を開いてくれた。みんし」 なも久しぶりに揃うようで楽しそう。私も嬉しい。これこのことを直子さんに言ったら「うん、 まで沈みがちだった気分も楽になる。 たまにはそういうのがないとね。隆二くんたちもさおり 「うんうん、やつばりさおりちゃんは笑っている時が一 さんが来てくれるのなら嬉しいんじゃないかな」と背中 番いいよ ! 」 を押してくれた。 「ありがとうごさいます 深々と頭をさげる。本当なら横に光也があるはずなんだ 0 実際すごく楽しかった。同級生の友達ともいろんな話 ができて、歌も歌って。昔に戻ったみたいだった。一時 しいことだよ。 0 91

7. ふたりの約束

第六話強がり たった一年しか経っていないことなのにもうずいぶん 時間が経ってしまったような錯覚を覚える。でも、今は 週末のたびに病院へ来るのもだいぶ慣れてきた。看護目覚めない光也をじっと見守っているだけ。体の傷はほ 師さんたちと会話する機会も増えた。いろんな話をする とんど治っているようだ。内出血のあとも少し残ってい るにナ % にけど ことができる人が増えてくるのは本当にありがたかっ た。少なくとも周りに人がいてくれるだけで余計な考え をすることもなくなってくる。心が折れそうになる時も ドアをノックする音が病室に響く。「どうぞ」と返事 支えてくれる。 をした。中に人ってきたのは光也の友達だった。「気の 5 季節はもうすぐ桜が咲こうかという頃。今まで冷たか合う仲間たちと飲み明かす会のメンバーで私ももちろ った風が時折気持ちよく感じる時も多くなってきた。少ん知っている人たちだ。ホッとした気持ちで涙が出そう になる。 しずつ新しい命がその生命力を精一杯表現してくる。私 が動物を好きなこともあり、近場に限らず遠方の動物園 「来てくれたんですか、皆さん。ありがとうございますー にたくさん出かけた。特にこれからは生まれた動物の赤手渡された花束を受け取る。 ちゃんを公開するところが増えてくるから楽しみだっ 「さおりちゃん、大丈夫 ? 少し痩せたよね ? た。その時を思い出すとなんだかとても懐かしく思う。光也の一番の親友と呼べる「戸口隆二 , さんだ。中学の

8. ふたりの約束

「光也も早く起きないとな。ずっとさおりちゃんがそば にいてくれてるのにいつまで寝てるのかってね。起きた らみんなでビンタ食らわして説教だな」 みんなとの話も盛り上がった。久しぶりに顔を見たか ら話題が尽きない。少し気が楽になったように感じる。 「ありがとう、本当にありがとう」ロビーで見送りを終 えて病室へ向かう。この先いったいどうなるんだろ。ど うしたらいいんだろ。様々な考えが頭をよぎった。 る

9. ふたりの約束

的なことだったとしても本当に不安が小さくなったの を感じた。結局解散したのは始発が出る頃だった。 「さおりちゃん、元気だしなよ。今まで辛かった分だ け」っと、 しいことがあると思うよ。それに 別れ際に隆二さんからの言葉。言いかけたのを飲み込ん だけど、なんだったんだろ。 「隆二さん、今日はありがとうございました。おかげで かなり心のつつかえが取れました。皆さんにもよろしく 伝えてください お互いに「じゃあねーと手を振り、それぞれホームの階 段を上っていく。 こんなに人の優しさがしみたことはない。その分一人 になった時に涙が出てくる。電車あのシートに座り目を 閉じる。やつばり時間は進んでいるんだな。頑張らなく ちゃと前向きな自分がいる。あの事故からにはなかった 情 が 91

10. ふたりの約束

「私、もう何が良くて、何が悪いのかわからないよ。た ドキっとした。僕が春花さんに言った言葉と同じだ。 「隆二・ だ、今は自分の気持ちに正直になりたい。私、光也が好 それ以上かける言葉が見つからない。 き。ずっと好きだったの 「光也、さおりちゃんを・ ・大切にな」 さおりを抱きしめた。キャシャな体つきは変わらない 電話が切れた。僕にどうしろって言うんだ。 「い、痛いよ、光也」 「あ、ごめん 次の日にさおりへ連絡を人れた。とにかく話をしない と。ちょうど通院の日だったらしいので近くで待ち合わしばらく沈黙があった。 せすることにした。 「僕もさおりが好きだよ。ずっと好きだったよ。でも、 7 決めていた場所へ現れたさおりはしばらく見ないう このままじや気持ちの整理がっかないよ。お互いにいろ いろあったから ちにだいぶ回復しているが表情は沈んでいる。 「そうだね 「さおり、何やってるんだ、隆二と別れて。それでいし のか ? 今からでも間に合う。隆二と・ 「少し時間を空けよう。その時に今の気持ちのままだっ 僕の言葉を遮ってさおりが話し出す。 たらまた会わないか ? あの時、僕たちの約束が果たせな かった同じ日の同じ時間にさ 僕たちの時間が止まってしまったあの時に戻りたい。