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検索対象: ふたりの約束
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1. ふたりの約束

頃からの付き合いらしい。私もとても信頼している人だ。おりさん、ここは私がいるからいいわよ。久しぶりなん でしょ ? お話してきたら ? 「いや、事故の話を聞いて見舞いに行きたかったけど、 意識が戻っていないと聞いてさ、押しかけるのも気が引直子さんの優しい言葉に甘えることにした。ロビー横の けちゃって。でも、みんなで話してやつばり行かなくち休憩所へ移動する。 やってなってー 「さおりちゃん、光也は全く戻る気配はないの ? 「いえ、そんなに気を使わないでください。光也さんも コーヒーを持ってきてくれた隆二さん。心配そうな顔を 皆さんが来てくれて嬉しいはずですよ」 しばらく世間話をしていると洗濯が終わった直子さんしている。 「そうですね、全く でも、この状況にも慣れて が戻ってきた。隆二さんたちを見ると嬉しそうな顔にな った。 きましたよ。意外と過ごしやすいし 「あら、隆二くんたちじゃない。来てくれたのね。ありできるだけ明るく振る舞ったつもり。少し強がってるな がとう。久しぶりだけど、元気してた ? とも思うけど、そうでもしないと崩れそうで怖くなる。 元気でしたよ。すぐに駆けつけたかったけど、 「そうか、早く戻るといいんだけどな。でも、無理だけ 気がひけちゃって はしちゃいけないよ。休むときはしつかり休まないとね 「いいのよ、気にしないで。来てくれてありがとう。さみんなの優しが私の身体中に染み渡る。涙が出そうにな 6

2. ふたりの約束

「今日はありがとな、隆二には言ったけど、さおりには まだだったね」 壁に背中をつけて横に並んだ。こうして話すのもいつぶす , りだろう。 悪戯つぼく舌を出すさおり。 「さおりこそ隆二とうまくいってるんだろ ? 」 「うん、就職おめでとう。頑張ってるのね。よかった、 本当に」 「うん、いろいろ気遣ってくれてる」 「ありがとう。大変だけどなんとかやってるよ。今の僕そうか、そうだろうな。 にはこれくらいがちょうどいいのかもね。長いフランク ふと前を見ると春花さんが立っている。 もあるし 「トイレに行ったっきり遅いから見に来ましたよ 気付かないうちにさおりと話し込んでいたようだ。 冗談つぼく笑い合う。 「すみません、すぐに戻ります [ 「そうだね、でもやるじゃない。あんなに綺麗な春花さ んを連れてくるなんてさ 「じゃーとさおりに手を振り再度レーンに戻る。 さおりのヒジテッが炸裂した。 「おちよくるなよ、春花さんは仕事上の付き合いだけ さおりが僕の言葉を遮る。 わかりました。そういうことにしておきま 8

3. ふたりの約束

やつばり姉ちゃんか。でも声が出せないんだ。 「光也 ! 聞こえてる ? わかる ? 光也ー 「わかるなら頷いて ! ゆっくりでいいから」 誰かが僕を呼んでいる。そんな大声で呼ばなくても聞こ えてるよ。 僕は寝ているようだ。ゆっくり周りを見ると看護師さん らしき人が慌てている。じゃあここは病院か。姉ちゃん 「先生、光也が ! 」 と目があう。コクっと頷いたがその動作にとてつもない 数人の人が慌ただしく集まってきているようだ。ゆっく り目を開けていくが、光がまぶしすぎて頭がチクチクす力を要した。 しばらくすると自分の状況がわかってきた。べッドで る。何人かが僕を覗き込んでいるようだ。誰かが僕の手 寝ていて見えるのは天井。喉がとても乾いている。 を握っている。でも、自分の手に力が人んないや。 「み、水を・ 「光也、聞こえる ? 」 うん、聞こえてる。聞こえるけど、声が出せない。声っ ようやく小さな声が出せた。乾ききったロの中に水分が てどうやって出すんだっけ。ぼんやりしていた人影が少流れ込む。こんなに水って美味しかったつけ ? しずつはっきりしてくる。あ、姉ちゃんか。姉ちゃんま 「光也、帰ってきたのね、やっと・ いつまで寝て で泣いているの ? なぜ ? ええと、あとは知らない人みたんのよ いだ。白衣を着ているのかな ? 姉ちゃんが泣きながらカ一杯手を握っている。 「姉ちゃん、痛いよ・ 「光也、私の目を見て ! わかる ? 直子よ」

4. ふたりの約束

「私、もう何が良くて、何が悪いのかわからないよ。た ドキっとした。僕が春花さんに言った言葉と同じだ。 「隆二・ だ、今は自分の気持ちに正直になりたい。私、光也が好 それ以上かける言葉が見つからない。 き。ずっと好きだったの 「光也、さおりちゃんを・ ・大切にな」 さおりを抱きしめた。キャシャな体つきは変わらない 電話が切れた。僕にどうしろって言うんだ。 「い、痛いよ、光也」 「あ、ごめん 次の日にさおりへ連絡を人れた。とにかく話をしない と。ちょうど通院の日だったらしいので近くで待ち合わしばらく沈黙があった。 せすることにした。 「僕もさおりが好きだよ。ずっと好きだったよ。でも、 7 決めていた場所へ現れたさおりはしばらく見ないう このままじや気持ちの整理がっかないよ。お互いにいろ いろあったから ちにだいぶ回復しているが表情は沈んでいる。 「そうだね 「さおり、何やってるんだ、隆二と別れて。それでいし のか ? 今からでも間に合う。隆二と・ 「少し時間を空けよう。その時に今の気持ちのままだっ 僕の言葉を遮ってさおりが話し出す。 たらまた会わないか ? あの時、僕たちの約束が果たせな かった同じ日の同じ時間にさ 僕たちの時間が止まってしまったあの時に戻りたい。

5. ふたりの約束

正直そう思う。とても素敵な女性になっている。なのに 続けて僕はロを開く。 「でも、戻ってこれたのはさおりのおかげなんだ。さお僕はこんな姿に・ りが僕を呼んでくれたから」 「まあね、光也が覚えている時よりも時間経っているし。 「おかえり、光也。私、なんだか夢見てるようで そういう光也もだいぶ痩せたよ べッドの横に座り込むさおり。力が抜けてしまったよう軽く二人で笑い合う。 「さおり、あのさ、勝手なこと言ってるかもしれないけ 「かなり寝たきりだったから、身体中の筋力が落ちちゃ ど、僕たちあの事故の時から始められないかな ? ってさ、これからリハビリで体力を戻すんだ。元に戻る止まってしまった二人の時間を進めたい。 のも時間かかるけど 細くなってしまった腕をさおりに見せる。 しばらく止まっていたさおりの涙が流れ出す。 「そうだね、これから大変だけど頑張ってね 「さおり、どうしたの ? 泣かないで」 なんとなく一 = ロ葉に力がなくなったように思う。 しばらく沈黙が二人を包んだ。 「さおりだいぶ変わったね、僕が覚えているのよりも髪「私、もう光也とは・ が伸びてるし、綺麗になった」 それ以上声を出すことができずにいるさおり。 「私、光也とはもうやり直せないの。もう・

6. ふたりの約束

「僕も予定がないからどこかに行きませんか ? 「それは私がそうしたかったからですよ 今までは仕事終わりに食事するくらいだったが、一晩一包み込んでくれた言葉に春花さんを抱きしめた。僕はこ れからこの人と歩いて行くんだな。 緒に過ごした後の誘いはかなり照れてしまう。 「あ、 しいですねえ。ちょうど見たい映画があったんで 後ほど再び合流し、一日中二人で過ごした。久しぶり すよ、一緒に行きましよう」 「僕もしばらく映画見てないのでいいですね。じゃあ一 に感じる温かい感情は気持ちよかった。映画を見た後は 旦家に戻って着替えてきます。昨日のままなので。駅でカフェで感想を語り合い、 O ショップではそれぞれ今 までハマった音楽について熱く言葉を交わした。 待ち合わせしましようか」 「あ、このアーティスト、今ずっと聴いています。切な 朝食の片付けを手伝いながら洗い物をしている春花さ んに見惚れてしまった。 すぎる歌詞が自分とがつつり合うんですよね 「春花さん・ 春花さんが一枚の 0 を手に取った。僕も聞いているア 「どうかしたんですか ? ーティストだ。以前にも話したことはあったけど、今回 タオルで手を拭きながら振り向く春花さんを見つめた。 は深い話になりそうだ。 「いろいろありがとうございます。僕のことを受け止め 「僕も聴いてますよ。も何枚か持っているので今度 てくれたし」 貸しますね。 6 4

7. ふたりの約束

だ。こうしているとつい先日のことを思い出す。 を作った直子さん。お互いに笑いあう。 私は一人っ子だったからこんなお姉さんがいたら家「ねえ、光也。この前クリスマスのイルミネーション見 の中が明るくて楽しいだろうなと思う。久しぶりに安ら に行ったよね。あの時も雪が降ってたよね。寒かったけ ど、すごく暖かく感じたよ。早く元気になってまた行こ ぎを感じている私。先の見えないこんな状況でも直子さ んがいてくれると安心する。 うよ。今度はもっと大きいのが見たいな」 とてつもない不安に押しつぶされそうになるけど、私 がここで躓いたら光也が目覚めた時に申し訳ないよね。 直子さんのおかげで元気が出てくる。 「さおりさん、光也のこともあるけど、自分をしつかり 持っていてね。無理をしないで。どんなに時間がかかっ てもきっと光也は戻ってくると思うから」 「はい、私もそう信じています。もうすぐ・ : きっと・ 窓の外を見ると雪がちらついている。道理で寒いはず 4

8. ふたりの約束

私をだいじに考えてくれているのは嬉しい言葉なんだ けど、今の私には・ それから私は隆二さんとの距離を縮めていった。久し ぶりに心が体まる日常というものを感じている。引っ掛 「直子さん、私どうしたらいいんでしようか ? 隆二さんかりがないと一一一一口えばそれは嘘になるけど、私の心に開い から言われた一 = ロ葉が・ てしまった大きな穴を隆二さんの気持ちが埋めてくれ 昨日のことを直子さんに伝えた。薄々隆二さんの気持ちている。 には気付いていたらしいけど、直子さんから一言うことじ ゃないからと黙っていたとのことだった。 あ、電話が鳴ってる。着信を見るとドキッとした。光也 5 「隆二くんもさおりさんのことをとても心配してたか の番号だ。「あれ ? どうしたんだろ ? 直子さんかな」静 ら。あなたに対する気持ちは正直に話したと思うわ。光かに通話ボタンを押した。 也のことを考えると複雑だろうけど。私はあなたの気持「もしもし ? 」 ちもわかるけど、今のままじゃいけないって思うの。今 まで長い間苦しい思いをしてきたから少しずつでも隆 二くんに任せてもいいんじやかな。力を抜いてね」 直子さんの言葉に涙が止まらない。

9. ふたりの約束

いをしていてくれたのね。光也もズボラなところが 第五話未来への希望 あるかと思えば、すごく几帳面なところもあるから大変 時間はあっという間に過ぎていく。毎日を慌ただしく じゃない ? 昔からそうなんだけどね」 直子さんから聞く光也の話はとても面白い。知らなかっ 過ごしているとそう感じる。事故から一ヶ月経過した。 今もまだ光也の意識は戻らないままだ。限られた時間のた一面も聞けるし。 中で病院へ来ているが、一向に良い方向へ向かない状況「いえ、私こそ光也さんには大切にしてもらってます。 に実際参ってきているのかもしれない いつも私のことを考えてくれてるし、私自身も成長でき たと思います でも、光也のそばにいることができる。光也の温もり を感じることができる。同じ空間に私を存在させること これは本心だ。この四年で人を想うことの大切さを知っ ができる。今はそれだけが生きる希望と言っていい。 たし、何より自分が好きな人に好かれているというのが 心の支えだ。 直子さんともいろいろ話ができるようになってきた。 「そう言ってくれると私も安心だわ。私が結婚を失敗し 光也との出会い、それからの私たちのこと。あの日、大ちゃったから光也にはそうならないような恋愛をして 切な話をする約束をしていたこと。 欲しかったの」 「ありがとね、さおりさん。光也と本当にいいお付き合自分のロの前で両手の人差し指を交差させ「 x_ マーク

10. ふたりの約束

っているけど、時々呼んでいるんだ、光也、お前を。行 ってやってくれないか 僕の肩を隆二が軽く叩いた。さおりが僕を呼んでいるつ 病院に着いた僕と春花さんは隆二と合流した。先ほどて・ の慌てていた時よりも少し落ち着いたようだ。 「ごめん、光也。こんなことになって 隆二が僕に頭を下げてきた。 「いや、これは隆二のせいじゃない。頭を上げろよ。今 はとにかくさおりのことが一番だろ ? 」 隆二の案内で病室の前に来た。ゆっくりと隆二が口を開 「なんでさおりがこんなことに巻き込まれなきゃいけ ないんだ。これからあいつは・ 「わかった、少しでいい。時間をくれないか。春花さん はここにいて′、たさい 隆二と春花さんは声を出さずに頷いた なるべく音を出さにようにドアを開け病室へ人る。包 1 帯やら点滴やら痛々しくて見ていられない。さおりの顔 を見ると涙が溢れてくる。べッドの横に腰掛け、さおり の手を握った。懐かしいさおりの温もり。 「さっきやっと病室に人れたんだ。しばらくそばにいた 「さおり大丈夫か ? 寝てるから聞こえないか。あんまり よ。足と腕に骨折があって、胸や肩には強い打撲があるびつくりさせないでよ。心臓が止まるかと思った」 らしいんだ。命に別条はないってことなんだけど、通常軽くさおりの頭を撫でた。サラサラの髪に触れるのもい の生活に戻るには時間がかかるって。今は薬が効いて眠っぷりだろうか。