春花 - みる会図書館


検索対象: ふたりの約束
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1. ふたりの約束

帰りに道中で僕から話しかけた。 たら、きっと深く春花さんを傷付けてしまうと思うんで 「春花さん、僕の話を聞いてください す . 「はい、ちゃんと聞きます。どんなことでも 春花さんはじっと僕の話を聞いている。涙をこらえてい 春花さんはしつかり答えてくれた。 るのか小刻みに震えている。 「僕は、今でもさおりが好きです。誰よりも好きですー 「光也さん、私・ 一瞬ビクッとなった春花さんだったが、すぐに言葉を発もう声を出すことができないようだ。 した。 「春花さん、これ以上春花さんとは同じ時間を過ごせな 「まい、 知っています。それは私と知り合う前からです いです。こんな気持ちじゃ・ 僕のせいで、こんな 3 よね。私が光也さんを好きになった時には光也さんの中ことに・ にさおりさんがいました。それでも私は光也さんが今も春花さんをアパートの前で降ろして一人あてもなく走 好きですー った。僕はどうしたいんだろう。自分で自分の気持ちが 「春花さん、その言葉とても嬉しいです。春花さんと一わからないほど麻痺している。気がつくと海が見えると 緒にいた時間はとても温かいものでした。春花さんのお ころまで来ていた。車を止めると、今まで抑えていたも かげで立ち直れたんです。でも、このまま春花さんとい のが一気に噴き出した。声を出して泣いたのは初めてだ った。

2. ふたりの約束

「光也さんの辛い気持ちを私も一緒に受け止めたいで す。少しずつでいいから私を見てくれますか ? この言葉に思わず涙が出てきた。全てを知った上で僕を 一通り終わったところで向き合って座った。そして緊想ってくれている人が目の前にいる。そっと春花さんを 張しながら話し始めた。 抱きしめた。 「春花さん、僕が事故に遭ったのは知っていますよね ? 「春花さんには感謝してるんです。過去のことばかり考 あの時僕はさおりと会う約束をしていて、その時にプロ えていた僕が、春花さんのおかげでやっと前を受けるよ うになったんです。僕も春花さんが好きですー ポーズをするつもりでした。結局会えずじまいでしたが。 その後僕はずっと目を覚まさずに一年以上時間が過ぎ気がつくと春花さんも涙を流している。お互いに見つめ てしまったんですー 合いゆっくり口づけをした。 僕が目覚めた時を思い出すと結構キッいな。 「なんだか恥ずかしいですね , 「そうだったんですか。詳しいことは聞いちゃいけない クスッと笑い合う。 と思っていたので知りませんでした。話してくれてありそして静かに部屋の明かりを消した。 がとうございます」 春花さんが僕の手を握ってきた。 「いえ、時間もなかったので簡単にできるものを選んじ ゃいました」 4 4

3. ふたりの約束

「わあ、是非聞きたいです その後もあちこち出かけた。自然と手をつなぎお互いを 感じていた。 「今日は楽しかったです。光也さんとずっと一緒だった からうれしかったです 別れ際に春花さんの言葉だ 「僕も楽しかったですよ、また行きましようね」 明日会社で春花さんに会うのが楽しみになってきた。 「はい、それじゃまた明日」 数日後の仕事終わりに春花さんと食事に行くことに した。実はサプライズを用意したんだ。びつくりするか 「春花さん、これ持ってきましたよ この前話していたアーティストの O だ。 「ありがとうございます。帰ったら早速聴きますね ジャケットと裏ジャケットを交互に見ている。 「それともう一つ渡したいものがあります と言って一枚の封筒を取り出し、その中から二枚のチケ 7 ットを取り出した。片方を春花さんに渡した。 「あ、これ、来月のライプじゃないですか ! チケット取 れたんですか ? 」 今しがた渡したアーティストが行うライプのチケット だ。かなり探し回ってようやく手に人れたものだ。 「春花さん、一緒に行きましよう、席もまあまあいいと ころだし 食事も進み、コーヒーが来た後、いよいよサプライズ

4. ふたりの約束

第十七話同じ考え てきましたよ。朝はいつも軽めなんです。。ハン とハムエッグだけとか トレイに乗せられたトーストは見た目も食欲をそそる カーテンの隙間からの光が眩し、 しいつもの感覚じゃな ようだ。一気に目が覚める。 こ いことがすぐにわかった。いつものべッドじゃない 「ありがとうございます。何から何まで トーストにかぶりつく。その様子を見て春花さんが笑っ 「おはようございます ている。今日は日曜日か。特に予定ないんだよね。 キッチンから顔を出したのは春花さんだった。あ、そう 「春花さん、今日は何か予定ありますか ? 」 か。昨日は春花さんのアパートに泊まったんだ。 春花さんが人れてくれたコーヒーをすすりながら話を 「おはようございます。すみません、泊まっちゃって」続ける。普通のコーヒーなんだろうがすごく美味しく感 「いえ、構いませんよ。私は嬉しいです。もう少し待っ じる。それだけ今、この瞬間が充実しているんだろうな。 ててください トーストができますから」 「いえ、今日は特にありませんよ。必要な買い物は先週 そういえばパンの焼ける香ばしい匂いがしてくる。朝起済ませましたから。どうかしたんですか ? 」 きると誰かが食事を作ってくれている。学生の頃が懐か両手でマグカップを持っ春花さんがとても可愛く見え る。 4

5. ふたりの約束

「いや、さおりとは・ 確かに以前付き合っていた 第十五話二つの恋 時期もありましたけど、今はもうなんともないですよ」 心なしかあせっているのかな、早口になっている 春花さんの言葉に僕の体は固まってしまった。 「それでも私は光也さんが好きです。この気持ちに嘘は 「は、春花さん ? ありません。私、光也さんと一緒にいたいです」 「光也さんを好きですって言ったんです。今日だって、 「春花さんはとても素敵な女性ですし、一緒に居れたら 光也さんからのお誘いじゃなかったら行ってませんよ , なんて言ったらいいのかわからない 良いなとは思っています。でも、今の僕には・ 「ずっと気になっていたんです。時々見せる悲しそうな素直にそう思う。春花さんはいつも周りに気配りできる 0 目が。私がカになって少しでも悲しみが消えるならそう し、自分のこともしつかり見ることができる女性だ。好 したいって考えるようになったんです 意を持っていないかと言われれば、それは違う。 「春花さん、僕は・ 「光也さんの心の整理を待ちます。それでも良いです カ ? ・ 目線を合わせることができなくなる。 「光也さんの悲しみが今日、少しわかったような気がし春花さんのまっすぐな気持ちを、まっすぐにに伝えてく ます。きっとさおりさんのことが・ れた。それに比べて僕は言葉を返せないでいる。

6. ふたりの約束

誰かに自分の気持ちを伝えること。それはとても大切な 第十六話僕を想ってくれる人 ことで、同時にとても難しいことだと思う。こんな気持 僕はずるい男だな。春花さんの気持ちに対してはっきちは久しくなかった。 りとした答えを出せずに数日経ってしまった。春花さん はそのことには触れずにいてくれた。僕を待っていてく 仕事も終わり、少し離れたカフェでホッと一息いれる。 明日は日曜日か・ 周りを見ると店内も外も大勢の れている。このままズルズルと待たせてしまうのも悪い と思う。春花さんに思い切ってこれまでのことを話さな人が行き来している。毎日慌ただしく過ごしている中で け・、れま ) す . よ、。、 心の引っかかりを取り除きたい。それ曜日もわからないことも多い気がする。今の自分に余裕 2 がないのかも。そんなことを考えながら待っていると、 で僕らの一つの答えを出そうと思う。 春花さんが到着した。 「すみません、忙しいところ呼び出しちゃって [ 「いえ、私もお話ししたかったからちょうど良かったん ですよー テープルの向かいに座る春花さんとしばらくたわいも ない話をしている。なかなか本題に人れない 「春花さん、仕事終わり時間ありますか ? 」 大丈夫ですよ。私が少し遅くなりそうですけど」 「じゃあ、終わったら先にカフェで待ってますね」 「はい、わかりました」

7. ふたりの約束

「はい、もちろん行きますよ。でも・ ちょっと困った顔をしている。どうしたのかな。 「春花さん、どうかしたんですか ? 」 不思議そうな顔で問いかけた僕に一つの封筒を手渡し た。中を見ると・ 「あ、チケット ! しかも同じライプのー 春花さんも探し回ってチケットをゲットしたらしい 「あらら、被っちゃいましたね。しかも春花さんのチケ ットが前の席で 「そう見たいですね。私も今夜渡そうと思ってたんです。 考えていたことは一緒だったんですね、おかしい 二人して大声で笑ってしまった。今僕は幸せな時間を過 ごしている。春花さんの存在が大きなものになっている のに気がついた。 8 4

8. ふたりの約束

「私が作りたいんです。今日だけでも来ませんか ? 」 それじゃお邪魔します そうだな、これからする話はもっと静かなところですべ春花さんの表情が明るくなったようだ。一緒に近くのス ーで買い出しをして、春花さんのアパートへ向かっ きだろうな。春花さんもそれをわかっているようだ。 た。綺麗に片付いていて居心地がいい。僕の部屋とは大 「光也さん、ちゃんとご飯食べてますか ? 直美さんから 違いだな。 も作る時間が取れないって聞きましたよ」 「いやあ、姉ちゃんとは帰る時間も合わないし、コンビ 「すぐに作りますから座っていてください ニ弁当かスー ーの惣菜かってとこです」 手際よく作り始める春花さん。誰かにご飯を作ってもら 3 うっていうのも久しぶりだ。 そういえばもう長いことそんな暮らしをしてる。自炊も してないし。 「それはダメですよ。じゃあ今夜はうちで食べません久々の手料理は格別だった。僕の胃袋を満たしてくれた。 同時に心も満たされたようだ。 か ? 私作ります。光也さんがよければ 春花さんもアパートで一人暮らしをしているそうだ。確「ごちそうさまでした、美味しかったです かにゆっくり話ができそうだが。 食器を重ねながら片付けを手伝う。 「いいんですか ? なんか悪いな・ 「光也さん、場所変えませんか ? 周りが気になっちゃっ

9. ふたりの約束

その後の食事会も大盛り上がりだった。みんなとの時「あの、さおりさんって、八神さんとはどんな・ 間はいつもながら心から楽しめる。僕はとても幸せなん切り出す言葉を探した。 と感じさせてくれる。 「いや、昔からの友達ですよ。それが何か・ みんなと解散した後に春花さんを途中まで送って行 「そうなんですか。でも、八神さんがさおりさんを見る / 、ことにした ときすごく優しい目をしていました。それが気になっち やって 「今日はありがとうございました。参加してもらって 「いえ、私もこんなに楽しかったのは久しぶりだったの 「え ? そうかなあ。普通ですよ。どうしてですか ? で良かったです。こちらこそありがとうございました 「私、八神さんを見ているから。八神さん、いつも寂し 9 歩きながらしばらく世間話をしていた。そこで春花さんそうな目をしてることが多いから、 が立ち止まる。 ドキッとした。自分ではわからない 「あれ ? どうかしたんですか ? 「僕が寂しい目を ? してませんよ、そんな」 振り向いて春花さんを見る。 少し考え込んでいた春花さんが口を開く。 「あ、あの、一つ気になったことを聞いていいですか ? 「私、八神さんが、光也さんが好きです。初めて会った 「どうぞ、なんでしよう ? 時から。私・ 「ええ ? 春花さんが気になったことってなんだろう。

10. ふたりの約束

から無理しないでくださいね。知り合いはいないわけで 「こんにちは、今日はお邪魔しますー すし 春花さんもみんなに自己紹介をする。軽くみんなを紹介 先日隆二から連絡があってみんなのスケジュールが合 してそれぞれペアに分かれる。隆二はもちろんさおりと わず、延び延びになっていた再就職祝いをしてくれるそだ。 うだ。しかしまた、えらい参加条件を突きつけられたも 「ボウリングなんて久しぶり。頑張りますよ、私」 んだ。時々隆二は強引なところがあるが、それでみんな春花さん、はしゃいでいるなと思った。僕の友達ともす がついていきやすいって感じるんだろうな。 んなり会話できているようだ。僕も最近までどこかモャ 大丈夫ですよ。そういうことなら私も八神さんモャしていたから、自分でも驚くくらいテンションが上 7 がっていた。 のお友達と一緒にお祝いしちゃいますー ピースサインを僕に見せる春花さんのノリは年下みた 「こちら、僕の先輩で、お世話になっている堀田春花さ んです」 全員が集まったところで紹介をする。 「ちょっとトイレに行ってきますね。ついでにジュース を買ってきます。春花さん何がいいですか ? 」 「ありがとうございます。じゃあコーラで「わかりま した」と合図を送った。トイレの人り口前で偶然さおり と出くわした : トキっとしたのが顔に出たかもしれない