その後の食事会も大盛り上がりだった。みんなとの時「あの、さおりさんって、八神さんとはどんな・ 間はいつもながら心から楽しめる。僕はとても幸せなん切り出す言葉を探した。 と感じさせてくれる。 「いや、昔からの友達ですよ。それが何か・ みんなと解散した後に春花さんを途中まで送って行 「そうなんですか。でも、八神さんがさおりさんを見る / 、ことにした ときすごく優しい目をしていました。それが気になっち やって 「今日はありがとうございました。参加してもらって 「いえ、私もこんなに楽しかったのは久しぶりだったの 「え ? そうかなあ。普通ですよ。どうしてですか ? で良かったです。こちらこそありがとうございました 「私、八神さんを見ているから。八神さん、いつも寂し 9 歩きながらしばらく世間話をしていた。そこで春花さんそうな目をしてることが多いから、 が立ち止まる。 ドキッとした。自分ではわからない 「あれ ? どうかしたんですか ? 「僕が寂しい目を ? してませんよ、そんな」 振り向いて春花さんを見る。 少し考え込んでいた春花さんが口を開く。 「あ、あの、一つ気になったことを聞いていいですか ? 「私、八神さんが、光也さんが好きです。初めて会った 「どうぞ、なんでしよう ? 時から。私・ 「ええ ? 春花さんが気になったことってなんだろう。
やつばり姉ちゃんか。でも声が出せないんだ。 「光也 ! 聞こえてる ? わかる ? 光也ー 「わかるなら頷いて ! ゆっくりでいいから」 誰かが僕を呼んでいる。そんな大声で呼ばなくても聞こ えてるよ。 僕は寝ているようだ。ゆっくり周りを見ると看護師さん らしき人が慌てている。じゃあここは病院か。姉ちゃん 「先生、光也が ! 」 と目があう。コクっと頷いたがその動作にとてつもない 数人の人が慌ただしく集まってきているようだ。ゆっく り目を開けていくが、光がまぶしすぎて頭がチクチクす力を要した。 しばらくすると自分の状況がわかってきた。べッドで る。何人かが僕を覗き込んでいるようだ。誰かが僕の手 寝ていて見えるのは天井。喉がとても乾いている。 を握っている。でも、自分の手に力が人んないや。 「み、水を・ 「光也、聞こえる ? 」 うん、聞こえてる。聞こえるけど、声が出せない。声っ ようやく小さな声が出せた。乾ききったロの中に水分が てどうやって出すんだっけ。ぼんやりしていた人影が少流れ込む。こんなに水って美味しかったつけ ? しずつはっきりしてくる。あ、姉ちゃんか。姉ちゃんま 「光也、帰ってきたのね、やっと・ いつまで寝て で泣いているの ? なぜ ? ええと、あとは知らない人みたんのよ いだ。白衣を着ているのかな ? 姉ちゃんが泣きながらカ一杯手を握っている。 「姉ちゃん、痛いよ・ 「光也、私の目を見て ! わかる ? 直子よ」
でください 「私も直子さんと会うのがこうなるとは思ってもみま 事故当日から緊張し続けている直子さんにも疲労の色せんでした。ほんと光也さんには謝ってもらわないとい が見える。という私も同じようなものだけど。 けませんね . 「ありがとう、さおりさん。そうね、今夜にでも少し帰二人でクスクス笑い合った。あの日以来笑ったことなど って体ませてもらうわね。家もあの時のままだし。さおなかった。 「光也、早く起きなさい。さおりさんをちゃんと紹介し りさんも無理しないでね。 続けて直子さんが話し続けた。 なさい。将来の妹になる人なんでしょ 「私と光也は十年前に両親を亡くしてから二人で暮ら直子さんの言葉を聞くとまた涙が流れる。光也、早く 2 目を覚まして。 してきたの。光也が中学生だったからいろいろ大変だっ たけど。それが近々紹介したい人がいるって聞いた時は 嬉しかったわ。さおりさんのことも少し聞いていたし。 でも、まさかこんな形で会うなんてね。目が覚めたら光 也を怒らないと」 やつばり光也は私との将来を考えてくれていた。とても
それから二ヶ月ほど人院していた。ひとまず基本的な 最終話ふたりの約束 生活を送る分には支障がないくらいに回復した。まだ血 夢を見ていた。はっきりとは覚えていないようだけど、理はできないし、しばらく通院しないといけないから不 私の手を握ってくれていた懐かしい温もり。光也の温も 自由な生活だ。事故前に話していた式は私の体の様子見 ずっと求めていた温もり。 ということで無期限の延期になってしまっている。 目をさますと身体中が痛みを感じている。横には隆二 退院して自宅に帰ってきた。久しぶりの我が家はホッ さんがいる。光也はいないのかな。 とする。「光也もこんな気分だったのかな ? ーこんなこ 「大丈夫か、さおり 人院中もそうだったけど、 4 とを考えてる私って・ 「身体中が痛いです。私どうしたの ? 」 退院してからも光也からの連絡はなかった。どうしたの かな。 声を出すのもかなりしんどい 「さおりが乗っていた電車が脱線したんだ。心配したよ 数日経って直子さんから電話が人った。 そうだったのか、全然覚えていない 「さおりさん退院おめでとう。いろいろ大変だったわね、 「もうしゃべるなよ、ゆっくり休むんだ」 大丈夫 ? 」 そうしよう、今は休みたい。ゆっくりと目を閉じる。 ああ、とても懐かしい声だな。
「光也さんの辛い気持ちを私も一緒に受け止めたいで す。少しずつでいいから私を見てくれますか ? この言葉に思わず涙が出てきた。全てを知った上で僕を 一通り終わったところで向き合って座った。そして緊想ってくれている人が目の前にいる。そっと春花さんを 張しながら話し始めた。 抱きしめた。 「春花さん、僕が事故に遭ったのは知っていますよね ? 「春花さんには感謝してるんです。過去のことばかり考 あの時僕はさおりと会う約束をしていて、その時にプロ えていた僕が、春花さんのおかげでやっと前を受けるよ うになったんです。僕も春花さんが好きですー ポーズをするつもりでした。結局会えずじまいでしたが。 その後僕はずっと目を覚まさずに一年以上時間が過ぎ気がつくと春花さんも涙を流している。お互いに見つめ てしまったんですー 合いゆっくり口づけをした。 僕が目覚めた時を思い出すと結構キッいな。 「なんだか恥ずかしいですね , 「そうだったんですか。詳しいことは聞いちゃいけない クスッと笑い合う。 と思っていたので知りませんでした。話してくれてありそして静かに部屋の明かりを消した。 がとうございます」 春花さんが僕の手を握ってきた。 「いえ、時間もなかったので簡単にできるものを選んじ ゃいました」 4 4
的なことだったとしても本当に不安が小さくなったの を感じた。結局解散したのは始発が出る頃だった。 「さおりちゃん、元気だしなよ。今まで辛かった分だ け」っと、 しいことがあると思うよ。それに 別れ際に隆二さんからの言葉。言いかけたのを飲み込ん だけど、なんだったんだろ。 「隆二さん、今日はありがとうございました。おかげで かなり心のつつかえが取れました。皆さんにもよろしく 伝えてください お互いに「じゃあねーと手を振り、それぞれホームの階 段を上っていく。 こんなに人の優しさがしみたことはない。その分一人 になった時に涙が出てくる。電車あのシートに座り目を 閉じる。やつばり時間は進んでいるんだな。頑張らなく ちゃと前向きな自分がいる。あの事故からにはなかった 情 が 91
僕のプロポーズを聞いたさおりのリアクションはど んなだろ ? 「はいーって言ってくれるだろうか。まさか 。さおりとの待合せ場所 の「ごめんなさいーかも・ までもう少し。いつもデートをするときに使っている場 所だ。数時間後の二人を想像すると顔が緩んでくる。周 りの人が見たら気持ち悪がられるんだろうな。ちょうど 横断歩道も信号が変わり、小走りの勢いのまま渡ろうと したその時、一台の自動車が速度を落とさず左折してき た。アスファルトとタイヤの乾いた摩擦音が近づいて きた。 い切って告白し、付き合いが始まった。さおりとはいい 関係を築いていると思う。二人とも仕事を持っているし、 「え ? 」 なかなか休みを合わせることもできなかったが、飾らな右手の方向からライトに照らされた僕は言葉を発する い素の自分で居られる。気持ちがとても穏やかになるん暇もなく強い衝撃を受けた。身体中に電気が走ったよう な感覚と痛み。すぐに目の前が暗くなってきた。薄くな りつつある意識の中でさおりに渡すはずの指輪が見え た。手を伸ばそうとするが力が人らない。 「さ、さおり・
「まい、 「だけど、順調に回復してて安心したよ。一時はどうな ありがとうごさいます。まだしばらくは通院し ないといけませんけど、ひとまず大丈夫です。あの、光るかと思っていたから」 「ありがとう隆二さん」 也さんは・ なんだか隆二さんの言葉に心が痛みを感じているのか 気になっていたことを思い切って聞いてみた。 「ごめんなさいね、お見舞いにも来ていないでしょ ? 光もしれない。チクチクする。 帰りの車中でも心を重く感じる。 也、これまでの仕事を辞めて県外に就職して一人暮らし 「隆二さん、ごめんなさい。い ろいろ心配かけてしまっ してるのー 「そうなんですね、少し気になったものでー どことなく寂しさを覚えた。 「どうした ? ぼーっとしてるよ テープルの向かいで隆二さんが見てる。 「ううん、なんでもない。ごめんなさい」 慌てて食事を進める。 て。私・ 本当に申し訳ないと思う。 「いや、気にしないで。さおりのせいじゃなんだからー 「私、隆二さんに言わないといけないことがあります すでに私は涙を流している。 「私、目が覚めるまで光也さんのことを夢で見ていたよ うに思います。光也さんがそばにいてくれたような気が してました」
なんだか悪い予感しかしないが・ った、この荷物を持って待つのも憂鬱だわーと思ってい たとこだった。ナイスタイミング。車内は少し混んでい 「今、さおりが怪我をして治療を受けているんだ」 たけど先頭車両に空席を見つけた。やっと落ち着けるか電話の向こうで焦りまくっている隆二。 な。発車してしばらくするとウトウトしてきた。到着ま 「さおりが ? なんで ? 」 これ以上言葉が出てこない で時間かかるしと思い、目を閉じた。 「さおりが載っていた電車が踏み切りで事故を起こし て脱線したんだ。連絡が来て今病院に着いたところなん ふとスマホが光っている。見ると隆二からだ。なんだ だ」 なんだって ? まさかそんな。 ろ ? と思いながら電話に出る。 「もしも・ 「わかったすぐに行くから場所をメールしてくれ。着い 僕の声を遮って隆二が話し出した。なにやらすごく慌てたら連絡する」 ているけど。 隣にいた春花さんに事情を話して病院へ向かう。 「春花さん、一緒に来てくれますか ? 」 「光也、今どこにいる ? 今から言う病院へ来てくれない 「もちろんです、とにかく急ぎましよう」 「え ? 病院 ? なんかあった ? 春花さんの手を取り隆二からのメールを開く。 0
少し恥ずかしくなる。 第十一話ふたりの別れ 「え ? 直子さんじゃないんですか ? 光也 ? 僕が目覚めて数日たった。姉から僕の状況を聞いてい 「うん、僕だよ。数日前に目が覚めたんだ」 る。なんとなくは覚えているんだけど闇も深いようだ。 さおりは言葉が出ないようだ。少しの間があり、 すぐ病院に行くね」 「光也、よかった。本当に・ 僕は一年半前にさおりと会うために待ち合わせしてい たが、その途中で自動車事故に遭ってしまったんだ。長「うん、待ってる。さおりに会いたい , 僕の胸は高鳴っている。 間意識が戻らないまま今に至る。まだ体は動かせない が、ゆっくり腕だけは動かすことができるようになった。 姉が解約せずにいてくれたスマホを握りしめ、看護師さ 病室へ来てくれたさおりは僕の記憶よりも少し大人 んに頼んで電話できるところまで移動した。アドレス帳つぼく感じる。 「光也、本当に起きたのね・ からさおりを呼び出し、発信ボタンをタップする。 したか・ さおりは背を向けて泣いているようだ。 「さおり、ごめん。姉ちゃんから今までのことを聞いた よ。長い間辛い思いをさせてしまってごめん 「もしもし ? ・ 電話の向こうから驚いたような声がする。無理もないか 「さおり ? あの、光也だけど・ もう、どれだけ心配 6 ワ 1