約束 - みる会図書館


検索対象: ふたりの約束
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1. ふたりの約束

あれからこの日までさおりのことは忘れたことはな い。今日は十二月二十三日。ふたりの約束が果たせなか った日であり、ふたりの約束の始まりの日でもある。あ の時渡せなかった指輪をジャケットにしまい込む。あれ から姉が保管していてくれた。てつきりなくしたのだと ばかり思っていた。「これ、大事なものなんでしょーと 手渡された。ケースはポロポロになってしまったけど、 中身はあの時のまま。 僕はあの場所へ向かう。 僕とさおりの「ふたりの約束ーを果たすために。 「うん、わかった。でも、どちらかが来なくても恨みつ こなしだよ さおりの悪戯つぼい笑顔だ 8

2. ふたりの約束

るし、私自身も一緒にいるととても心地よく感じている。 第二話不安と恐怖 優しいだけじゃなくて、考えていることを伝えてくれる なんとか待ち合わせ時間前に着けてホッとした。電車し、私の間違いも指摘してくれる。数日前に「大事な話 が少し遅れていたから間に合うかドキドキしていたけ がある」って言っていたけど、なんだろう。なんとなく ど。周りを見るとさすがに明日はクリスマスイヴ。人通はわかるけどやつばり直接聞かないとね。 りもいつもより多い気がする。駅前は色とりどりのネオ ンが輝いて、それを見ているだけで気分も上がってくる。 ふと時計を見る。待ち合わせ時間が過ぎている。「あ この時期はいくつになっても意味もなく期待感が高まれ ? どこかですれ違ったのかな ? でもそんなはずはな 6 ってくるよね。 」今まで時間 いよね。場所はここで間違いないし・ に遅れるときはお互いに連絡していたし、理由もなく遅 今夜は八神光也と会う約束をしている。あと五分くられることは一度もなかった。 いで約束の時司。 バッグからスマホを取り出して確認してみる。特にメ ドいつもの待合せ場所。今日は私が先に 着いたみたいね。光也からメッセージ来たし、もうすぐ ・。電話してみ ッセージも着信もない。おかしいな・ 会える。お互いに忙しい中で彼とはすごくうまくいって ても呼び出し音もないまま留守電に切り替わる。これま いると思う。私のことを大切にしてくれているのがわかでの暖かい気持ちが不安に打ち消されていく。見渡して

3. ふたりの約束

さおりから返事が来る。「私も向かってるよ。ちょうど いい時間に着けそう。今夜も寒いね、暖かくして来てね さおりからの文字を見るだけで心が熱くなってくる。 今夜の僕は恐らく人生の中で心拍数が最高値を示す に違いない。今日、この日のためにかなり時間を費やし早く会いたいな。自然と歩みも速くなってくる。町中が てきた。付き合い始めて四年を経過した彼女「杉田さおクリスマス一色に光り輝いている。行き交う人たちもい りにプロポーズするつもりだ。まだ約束の時間までし つもより輝きを増しているように思えてくる。 ばらくあるのに今からソワソワしている。 本当なら明日のクリスマスイヴにプロポーズできれ さおりとの関係が深まったのは知り合って一年経っ 4 ば一番良かったのかもしれないが、どうしても外せない たくらいだろうか。友人と中心になって企画している 出張が人ってしまった。もともと今夜は会う約束をして 「気の合う仲間と飲み明かす会ーにたまたま連れられて きていたのがさおりだった。初めは特別な感情もなかっ いたし、数日前に「大事な話があるんだ」と伝えている。 たか、いつもみんなとの集まりに来ていてくれたし、さ もちろん、プレゼントも準備、ジャケットには指輪も忍 び込ませている。 おり本人も楽しんでいたようだった。そのうち良く話す 「仕事も終わったし、今から待合せ場所に向かうね。時ようになって、二人で会う機会も増えていった。しばら 間通りに着けそうだよーとメッセージを送る。間もなく くするとお互いに異性として意識し始めた。ある時、思 第一話この日のために

4. ふたりの約束

奥付 「ふたりの約束」 制作 : くわとろプロジェクト Facebook : https:〃www.facebook.com/quattroproject/ Twitter : http://twitter.com/quattro_project/ メールアドレス : quattroproject001@gmail.com イラスト・デザイン : さや 印刷 : ちょ古っ都製本工房 : www.chokotto.jp 発行月 : 2017.04 0 ・み◆ヾ ◆ 60

5. ふたりの約束

第一話「この日のために」・ 第二話「不安と恐怖」・ 第三話「私にできること」・ 第四話「私の居場所」・ 第五話「未来への希望」・ 第六話「強がり」・ 第七話「私の幸せってなに ? 」・ 第八話「止まらない時間」・ 第九話「白い世界」・ 第十話「それぞれの道」・ 第十一話「ふたりの別れ」・ 第十二話「お前達ならきっと」・ 第十三話「新たなる道へ」・ 第十四話「突然の告白」・ 第十五話「二つの恋」・ 第十六話「僕を想ってくれる人」・ 第十七話「同じ考え」・ 第十八話「慟哭」・ 最終話「ふたりの約束」・ 奥付・ ・六〇 五四四四四 四九五 〇六

6. ふたりの約束

「私、もう何が良くて、何が悪いのかわからないよ。た ドキっとした。僕が春花さんに言った言葉と同じだ。 「隆二・ だ、今は自分の気持ちに正直になりたい。私、光也が好 それ以上かける言葉が見つからない。 き。ずっと好きだったの 「光也、さおりちゃんを・ ・大切にな」 さおりを抱きしめた。キャシャな体つきは変わらない 電話が切れた。僕にどうしろって言うんだ。 「い、痛いよ、光也」 「あ、ごめん 次の日にさおりへ連絡を人れた。とにかく話をしない と。ちょうど通院の日だったらしいので近くで待ち合わしばらく沈黙があった。 せすることにした。 「僕もさおりが好きだよ。ずっと好きだったよ。でも、 7 決めていた場所へ現れたさおりはしばらく見ないう このままじや気持ちの整理がっかないよ。お互いにいろ いろあったから ちにだいぶ回復しているが表情は沈んでいる。 「そうだね 「さおり、何やってるんだ、隆二と別れて。それでいし のか ? 今からでも間に合う。隆二と・ 「少し時間を空けよう。その時に今の気持ちのままだっ 僕の言葉を遮ってさおりが話し出す。 たらまた会わないか ? あの時、僕たちの約束が果たせな かった同じ日の同じ時間にさ 僕たちの時間が止まってしまったあの時に戻りたい。

7. ふたりの約束

それから二ヶ月ほど人院していた。ひとまず基本的な 最終話ふたりの約束 生活を送る分には支障がないくらいに回復した。まだ血 夢を見ていた。はっきりとは覚えていないようだけど、理はできないし、しばらく通院しないといけないから不 私の手を握ってくれていた懐かしい温もり。光也の温も 自由な生活だ。事故前に話していた式は私の体の様子見 ずっと求めていた温もり。 ということで無期限の延期になってしまっている。 目をさますと身体中が痛みを感じている。横には隆二 退院して自宅に帰ってきた。久しぶりの我が家はホッ さんがいる。光也はいないのかな。 とする。「光也もこんな気分だったのかな ? ーこんなこ 「大丈夫か、さおり 人院中もそうだったけど、 4 とを考えてる私って・ 「身体中が痛いです。私どうしたの ? 」 退院してからも光也からの連絡はなかった。どうしたの かな。 声を出すのもかなりしんどい 「さおりが乗っていた電車が脱線したんだ。心配したよ 数日経って直子さんから電話が人った。 そうだったのか、全然覚えていない 「さおりさん退院おめでとう。いろいろ大変だったわね、 「もうしゃべるなよ、ゆっくり休むんだ」 大丈夫 ? 」 そうしよう、今は休みたい。ゆっくりと目を閉じる。 ああ、とても懐かしい声だな。

8. ふたりの約束

みんなへ頭を下げた。 「光也、ちょっと、 しいか ? 話があるんだけど」 しいよ、じゃあそこのカフェに 「まあ、こうやってまた集まることができたんだし、今 「どうした ? 改まって。 夜は楽しもー 人ろうか」 みんなからの言葉が嬉しい。油断すると涙が出そうだ。 と目に止まった店に人る。隆二がさおりも連れてきた。 一瞬どきっとしたが 見渡すと奥にさおりが座っている。「久しぶりーと小さ く手を上げて挨拶をする。さおりも軽く頷く。僕の退院 「ごめんな、光也。呼びとめちゃって。話というのが・ : 」 なんとなくわかってきた。そういうことなのかな。 祝いの言葉やみんなの近況報告もあり、楽しいひと時だ。 僕が知らない間に結婚したやつもいれば、独立を目指し 「実は俺、さおりちゃんと付き合っているんだ。もう一 1 て準備してるやっ、頭が薄なってきて、ネタにされてい 年半以上になる。そのことを話さなくちゃと思って」 るやつ。以前はこれが当たり前に感じていたけど、そうやつばりそうなんだな。正直ショックだった。 じゃなかったんだ。みんなと過ごせるのは奇跡に近いの 「そうだったのか、付き合っている人がいるって聞いた かもしれない。大袈裟ではなくて。 つきりだったから気にはなってたんだけど、隆二だった あっという間に楽しかった時間は過ぎていく。近々まのか」 た集まろうと約束して解散となった。隆二が家まで送っ 「光也さん、ごめんなさい」 てくれるようだ。 さおりが頭をさげる。

9. ふたりの約束

「これまで辛い思いをしてきたから、きっとこれからは 「さおり、綺麗になったな。昔はまだ幼さがあったよね。 素敵なことがたくさんあると信じてる。辛い思いをさせ それを言うと怒ってたな。いつの間にこんな綺麗に・ 僕が事故にあって、目が覚めなかった時はこうやってずてしまったのは僕なんだけどな」 「さおり、これまでありがとう。そして、ごめん っと待っててくれたんだよな。あの時は・・・本当にご さおりの手に力が人ったように感じた。夢の中で誰と手 めん。僕以上に辛かったよね をつないでいるの ? 涙が止まらない 「僕はずっとさおりが好きだったよ。今もこれからもず「さおり、そろそろ行くよ。これで本当にさよならだ」 っとさおりのことを好きなんだろうな、多分ね。でも、握っていた手を静かに元に戻した。そして病室を後にし 2 さおりを幸せにできるのは僕じゃない。僕のことは忘れた。隆二の前に立ち止まり て自分の幸せを考えて。さおりのことをちゃんと見てて 「隆二、さおりを頼むよ。きっと幸せにしてやってー くれる人がいるから。だから僕のことはもう忘れなきや 「光也・ ・わかった、約束するー いけないよ 春花さんが立ち上がって僕のそばに来た。 我慢していないと声を出して泣きそうだ。 「春花さん、帰りましよう。さおりも寝てるし、隆二が 付いていますから大丈夫です , 隆二に軽く手を上げ病院を出た。

10. ふたりの約束

「光也さんの辛い気持ちを私も一緒に受け止めたいで す。少しずつでいいから私を見てくれますか ? この言葉に思わず涙が出てきた。全てを知った上で僕を 一通り終わったところで向き合って座った。そして緊想ってくれている人が目の前にいる。そっと春花さんを 張しながら話し始めた。 抱きしめた。 「春花さん、僕が事故に遭ったのは知っていますよね ? 「春花さんには感謝してるんです。過去のことばかり考 あの時僕はさおりと会う約束をしていて、その時にプロ えていた僕が、春花さんのおかげでやっと前を受けるよ うになったんです。僕も春花さんが好きですー ポーズをするつもりでした。結局会えずじまいでしたが。 その後僕はずっと目を覚まさずに一年以上時間が過ぎ気がつくと春花さんも涙を流している。お互いに見つめ てしまったんですー 合いゆっくり口づけをした。 僕が目覚めた時を思い出すと結構キッいな。 「なんだか恥ずかしいですね , 「そうだったんですか。詳しいことは聞いちゃいけない クスッと笑い合う。 と思っていたので知りませんでした。話してくれてありそして静かに部屋の明かりを消した。 がとうございます」 春花さんが僕の手を握ってきた。 「いえ、時間もなかったので簡単にできるものを選んじ ゃいました」 4 4