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検索対象: ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号
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1. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

欲しいの。外の世界には彼らみたいな人達が沢山いる。でも、本当朝靄が晴れる頃、小道はアスファルトの道路にぶつかった。打ち は彼らのほうが間違っているの」 合わせ通り俺達は右へ歩いた。谷沿いの道を何度か折れつつ、基本 「・ : 僕にはよく分かりません」 的にはまっすぐ町を目指す。出来るだけ木陰に入るように歩きつつ、 「私ももう分からないわ。あなた達が外に出ることが良いことなの車の音がすると路肩の藪に身を隠した。 かどうか・ : 本当は私、あなた達にはずっとそばにいて欲し、。、 ししつ下り勾配がほぼ平坦になる頃、太陽は頭上から照りつけ、アスファ までも一緒に暮らして欲しい。でも、それは叶わない望み : ・」 ルトからは湯気が上がった。時々川へ降りて水を補給しながら俺達 「先生、聞いてください」 は進んだ。川べりの花、鳥の声、木々の間に見え隠れする小動物の影、 「どうしたの ? そんな目をして」 道路標識、遠くの人影、見るもの全てが俺達にとって未知の存在だっ 「教えて欲しいことがあるんです。僕のお母さんは誰ですか ? どこた。思わず見惚れそうになる俺をせかすのはオザキの役目だった。 に行ったのですか ? 」 町へ出てどうするのか、実を一一一口えば俺もオザキも確かな考えがあ 「もうすぐ雨が降るわ。今のうちに戻りなさい。大事な体なんだから」るわけではなかった。ただこのまま学校で卒ーを待つよりは良い。 先生の言葉を待っていたように、俺のトレードマークでもある天オザキはそう言った。俺はといえばただ海を見たい、それだけのた 気雨が空から落ちて来た。 めに彼の計画に乗った。 道すがらオザキは俺に語った。町には俺達と同じ境遇の奴が必 夏が秋に変わる頃、夜明け前に俺とオザキは学校を抜け出した。ずいる。学校を出た皆が奴らの思い通りになる訳じゃない。俺は 2 夏の間こっそり打ち合わせて準備を重ねてきた。柵の破れ目、警年前に卒■した先輩から町のことを聞いた。きっと先輩も今頃町で 備の緩い時間帯、発覚を遅らせる偽装、抜かりない計画を立てるの自由になっている。俺達も仲間に入れてもらえよ、 。道端の草を に一月もかかった。 咥えては吐き吐いては咥えしながらオザキは話し続けた。 最大の難関は地形を把握して覚えておくことだった。地図を書け俺はそんな事はどうでも良く、ただひたすら町を抜けて海に出る とお前達なら言うだろうが知っての通り俺達にはそれが出ことを考えていた。町までのルートは暗記していても、そこから先 来なかった。代わりに学校から何時間も地形を眺めて記憶した。道は遠すぎて道が分からなかった。遠目にもはっきり見える大きな建 路の分岐、身を隠せる茂み、水場に繋がる路、全てを頭に叩き込んだ。物の間にはちゃんと切れ目があるのか。迂回して歩くとどれ位かか 朝露に濡れた草を踏んで俺達は校舎裏の小道を下った。正門からるのか。海は全て水で出来ていると聞いたことがあるが、水に触れ 伸びる道は広くて見晴らしが利く分見つかりやすい。こっちなら学られる場所まで降りられる地形になっているか。俺の悩みは尽きな 校からは死角になり誰かとすれ違う危険も少ない かった。俺達はまるつきり同床異夢の道連れだった。

2. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

「おめでたい奴だな」 家畜、或いは生贄だ」 オザキは細い草を咥えたロの端を歪めて冷笑を浮かべた。 「生贄って、何の生贄だよ」 彼がオザキと呼ばれているのは 3 年前のある夜中に学校の窓ガ「オキャクサマさ」 ラスを割ったからだとある先生が言っていた。 また耳慣れない一一 = ロ葉が登場して俺は混乱した。 その意味は俺には良く分からなかったが、少なくともこのエピ「オキャクサマって何だ ? 」 ソードが示すとおりの反抗心の塊がオザキというキャラクターだつ「俺達の造物主。専制君主。スポンサー。絶対神。そして敵」 た。先生達もオザキにだけは当たりがきっかった。 「さつばり分からない」 「俺達がここから出るには卒・するしかない」 「それなら別にいい。まあ、もうすぐシュウカーが始まる。そうす オザキは咥えていた草を道端に吐き出した。 れば嫌でも分かるさ」 「卒・するにはシュウカ■に受からなきゃならん。シュウカ■で一オザキはまたどこからか草を咥え直すと、来た道を戻って行った。 度採用されたら、あとは一生ずっと奴らの言いなりだ」 柵の向こうの海は、その日は霞んで見えなかった。 卒■、シュウカー、耳慣れない一一一口葉に俺は戸惑ったが、リ 男の一一一口葉 がより気になった。 当時の俺には学校に気になる女の子がいた 「奴らって誰のことだ ? 」 彼女はいささか皮肉を込めて特子、と呼ばれていたが、別にいじ 「ここの連中と、ここを使ってうまい汁を吸っている連中の事だよ」められていたわけではない。むしろ誰からも一目置かれていた。運 オザキが先生達を明白な軽蔑を込めて「ここの連中」と呼んだ事動神経抜群で頭も良く、先生にも気に入られていた。自分の優秀さ に純真な当時の俺は衝撃を受けた。 を鼻にかけることも謙遜することも無く、ただただひたむきだった。 「何でそんな言い方をする」 「私は特別な存在になる」それが彼女の口癖だった。もう十分特別 オザキはどこから取り出したのか新しい草を口に咥えた。 な存在だ。周りがそういうと彼女はまだまだ違うと言った。その暑 「お前、あの連中が俺達の家族だなんて信じてるのか ? 」 苦しさへの皮肉と優等生へのやっかみが形をとったのが特子、とい 「ずっとそう一一一一口われてたじゃないか」 う呼び名だった。 「そりゃあそう言っておけばお前のような奴が何でも言うことをき容姿にも優れている彼女とお近づきになりたい沢山の男の一人が いてくれるからな」 俺で、そんな俺にある日彼女から声をかけてきた時は正直ラッキー オザキは咥えたばかりの草を吐いた。 と思った。用件が何であれ。 「分からなきやはっきり言ってやる。奴らにとって俺達はせいぜい「最近、オザキ君と喋っているでしよ」

3. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

学まで出た。就職もした。 日本語になってないよ 女 田刀 1 なってるよ ! 日本語に ! 論理的に話そうか。今まで、つま女何の話し。 い方向に、生活が、男 1 外の世界の話し。 り、要するにね、この部屋に 3 人で来る前ー って言って女 この部屋が、外の世界とは違う世界みたいな言い方だね 日々の生活が、しし 、方向に進んできたことがあったか、 男 1 それいいね。そうしたらいい るんだ そんなことわかって 女 この部屋を、外の世界と切り離して考えるんだよ。 男 1 口を挟むなー・だからね、僕が言いたいのは、君と僕がこの男 1 とう・やって ? ・ 部屋に来たということは、その時点で、日々の、この部屋に来る前女 男 1 認識するんだよ。君がやってるみたいに の生活に絶望していたからだろう、だから、この部屋に来たことに よって僕たちの生活がいい方向に進まなかったとしても、それは想女 男 1 外の世界と、この部屋 定の範囲内だ、って言いたいんだよ。分かる ? うん 女 分かった分かった。 女 男 1 男 1 この部屋では、外の世界の法律は適用なれない ( 座り、水を飲む ) しくこ女 じゃあ、その、日々の生活よりも悪い方向に進んで、 女 男 1 だから、人を殺しても罰せられない とは ? それは想定の範囲内 ? またそ、つとは限、らない 男 1 他には ?. 男 1 追々考えてい だから、これからの話しをしてるの。想定してないの ? ・ 女 あっそ : してる 男 1 女 とうするの 男 1 名案じゃない ? ・ 女 男 1 その時に選女 そんなの、ただのごっこ遊びよ。ままごとでは、女の子が それは、犬兄に応じて行動していくしかない レール。ここにドアかあって、あなたはここから帰って医、て、仕事 択肢の現れるんだから。 で疲れてるから、私がご飯を作って。でも、茶碗には何も人ってな 女 選択肢ね。今も無限にあると思うけど 男 1 いし。コップにも。それで、夕方のチャイムか鳴ったらおしまい。だっ : そうだね、未来は無限に広がっている : て、それじや生きていけないんだもん。 女何それ 男 1 それで、生きていくんだよ 未来は無限に広がっている。ずっとそうだった。だから大男 1

4. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

テープルには、シーン 1 と同じ位置に、男 1 と女か座っている 男 2 はいなし 女 私もうだめ 男 1 も、フ少した 女 こんなの、正気じゃない 男 1 むしろ、正気に近付いてる。今までが狂ってたんだ。 死にたい 女 男 1 死んでも、何も変わらない 女 死んだら、さすがに変わるよ 男 1 ( 笑って ) そうか、死んだら変わるのか てた ? ・まあ別にいいんだけど。なんかい ちいちつつかかってくる女 だって、死んだ後のことは、忍、 考 0 、で医ないカ、ら 男 1 のよね。無理して話し合わせる必要なんてないのに。たぶん、私に 君が言う、認識、っていうのはつまり、世の中の常識とし 気があるのよ。 ~ = 0 ってなかったけどね、私、あなたが初めてだったて分かっていることなの。 そ - り・やそ、つよ のよ。前の恋人とはね、しなかった。あっちが、無理だって。それ女 らい私覚悟してた。ちょっとだけ、難しい関係だったからね。で男 1 もっと深い、真理みたいなものかと思ってた も、あなたよりは単純だったかもしれない 女 じゃああなたは毎日、自分を認識してるの。呼吸とか、心 臓の音とか。 先冫黙の後、男 2 、立ち上のって、部屋の奥へ 男 1 今、心臓の音は開こえる ? : 宀一口 ( 尻を捉えるよ、つなことしないで 女何考えてるの : 男 1 ( 一瞬、目を見開く ) ( 笑って ) いや、ごめんよ。屁 理屈だった。 女 ( ため息 ) どうするの 男 1 と、フしよ、つカ 女何をへらへらしてるのよ。状況は変わったのよ。 男 1 ( 突然立ら上がり ) 分かってるよそんなことー ・じゃあ、と、フにかしてよ 男 1 と、つしよ、つもないたろ、つ・。こ、つなることネ 0 へ刀かってたし、 特にマしなければな、らないことはない 余計な口を挟むな。 女余計な口を挟むな ? これは私の冏題でもあるの 男 1 だから、騒がないでくれ。分かってたことなんだから 女 想定できてたのに、 何も対処法が無い、ってわけ ? 準備し てなかったの 男 1 : 全部他人任せなんだな。大丈夫だから。このままで。 女 あ、そう。何もいい方向には動きそうにないけど。 男 1 い方向 ? 今まで、 い方向に進んできたことがあった ? シーン 2

5. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

ある晴れた昼下がり、一台のトラックが俺を迎えに学校へやって めんね。涙声で繰り返す先生に俺は返す言葉が見つからなかった。 俺達は一人ずつ校長先生に呼ばれた。この日だけはあだ名ではな来た く正式名称で呼ばれる。と言ってもただの番号だが。 特子は三日前、オザキは前の日に別の車に連れられて行った。 「番、旭ケ■動物園」 閑散とした校舎の前で、俺は二、三の仲間と共にトラックに誘導 特子の親友の花子はそう告げられて嬉しそうにはにかんでいた。された。車に乗り込む寸前、 >- 先生の姿が見えた。とっさに俺の胸 それぞれが違った行き先を告げられた。喜ぶ者もいれば落胆するに一縷の希望が湧いた。卒■式の前の晩にしたように、俺を助け出 者もいた。「カル■ス闘牛場」行きを告げられたオザキは証書を引してくれるのではないか。俺は必死で先生に合図を送ろうとした。 き裂き、校長先生に突っかかった。先生達があわてて壇上に駆け上最後にははっきり声を上げた。だが先生の目が俺を見ることは一度 がり引き離した。 も無かった。 考えてみれば当たり前だ。人間に俺達の一一一口葉は分からない。俺達 「行番」 ついに俺の名前が呼ばれた。 が人間の一一一一口葉を分からないように。分かった振りをしていただけな 不思議と期待も不安も感じなかった。冷えている頭の中に心臓ののだ。先生がかけてくれたと思っていた一一一口葉も、本当のことだった 音だけが別の誰かの物の様に激しく鳴っていた。 のか今では確信できなくなった。 「吉・コーポレーション」 俺達を乗せたトラックは校門を出て坂道を下り始めた。途中で何 その言葉を聴いた瞬間、心臓の音が連続した轟音になって頭に襲度か見覚えのある景色が見えた。俺達が何時間もかけて歩いた道を、 い掛かった。校長先生の姿が歪み、戻ったときには天井が見えた。 トラックは十数分で駆けた。 吉■コーポレーション。俺はその名前を知っていた。自分が誰か も、学校がどういう場所かも、自分のこれから辿る運命も、知りなあの日、卒■式の後で俺の所に特子が来た がらただ見ないようにしていたのだ。 「落ち込んでる ? 」 薄れ行く意識の中、特子の名前が呼ばれるのを聴いた。「 90 番、特子は言わずもがなな事を訊いた。彼女は勝者で俺は敗者だった。 ・・ディ」壇上に上がった特子は誇らしげに胸を張っていた。 初めて特子を疎ましいと感じた。 「濃い牛乳を出し続けるんだよ」 「でも、遅いか早いかの違いかもよ」 校長先生が特子に言った。はなむけには奇妙な一一一口葉だ。そう思っ特子は俺の隣に腰を下ろした。 た所で俺の記憶は途切れた 「乳牛の平均寿命は 5 年程度なんだって。その後は乳が出なくなる から、食肉用に回されるらしいわ」

6. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

画面が まだ前置きもなしにしんじつを映すころ とおくのこころ、幾つも壊れて とおいもちかいも いったい何なんだろうなって それでも言葉は取り上げられて 、楽しそ、つに笑、フにらじよ、つを刺すことで、せ力いに . 留まろ、つとした きっと、何でも良かった 何でもいいカら、かんじよ、つか、欲しかった どららにしても、矢印が内外に向いて、それぞれの痛みだけがあった いち早く先に進もうとした者たらも、やかて、ロをつぐんでいった 焼き鳥はお張って、帰りにお菓子も買って ノにかかった袋が風を受けて、ハサバサと音を立てて 震えて けれど草花に四月を映して 先のこと、なんにも分からなくても こんなま即はじめて、あーなんて軽快なペダル 私たちの運命の 1 日 クワン・アイ・ユウ 「、」も「。」も打てすにいるのに トウテンとかクテンとかって、カタカナにすると可愛いよな、なんて % 鹿なことばかり ( なかんで来る 揺れて 優しさに触れて 肌に触れて 「、」も「。」もまだ打てずにいるのに くしやみ一つ 風にゆられる草花に八つ当たりしてから あ、そうかと気がついた あの日のゆらぎ 早花たらは今も笑うし、耐えているようで あの日のゆらぎ 冷たい風のなか、 いのちのぬくみ 冷たい風のなか、 いのちのぬくみ 「、」も「。」も、まだ打てずに み、こか、らの医」っかけはわか、らがよい 僅かにぬくみ 僅かにぬくみ

7. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

「外に出たい ? 」 「サンプルは届けたのか ? 」 「そう思ってました。ちょっと前までは。今はよく分かりません。「発送はしましたが何しろ夜です。返って来るのは明日ですね。まあ、 僕らが外に出る事がどういう事なのか : ・分からなくて」 ただの風邪だと思いますよ」 「そうね。私も : ・あなた達が卒■する事が本当に良いことなのかど「安心は出来ん。検査結果が分かるまでは隔離しておけ。万が一と うか、分からなくなることがある」 いうことがある」 独り言のように >- 先生は呟いた 「分かってます。分かってます。何しろ、シュウカ■前の大事な体 「外の世界には、色々な人がいるわ。良い人もいるけどそうでないですからね」 人もいる。あなた達をただのモノと同じように消費しようとする人「あの子達をまとめて廃棄処分にするような事は万が一にもあって も沢山いるでしようね」 はならん。くれぐれも気をつけてくれ」 「前にオザキが同じような事を言ってました。でも特子や他の先生それは高熱が生んだ幻聴か夢だったのかもしれない。声の主が誰 はあいつの言うことには耳を貸すなって」 かも分からぬまま俺は断続的な眠りに飲み込まれた。 「私がこんな事を言って良い立場ではないことは分かってる。でも 時々考えてしまうの。ここでは誰もがあなた達を大切に思ってるわ。 オキャクサマが学校に来る。 そこからあなた達を外へ送り出すことが、どんな意味を持つのかっそう聞かされたのは蒸し暑い初夏だった。 先生達は総出で学校を隅から隅まで片付け、掃き清め、磨き上げ、 今の俺にはそのとき先生の表情の意味が分かる気がする。だが俺達にもくれぐれも失礼の無いように言い含めた。 その時の俺にはオザキの言葉以上に全く分からなかった。先生の目当日、俺達は運動場に整列してオキャクサマを迎えた。 は俺を見ているようでも、俺のずっと向こうの何かを見ているよう初めて見たオキャクサマは、何だか奇妙だった。 でもあった。 当時の俺の頭では上手く一一一一口えないが、印象として何か骨格や肌の 艶が俺達とは別の生き物のように思えた。 その晩、俺は熱を出した。 これまで学校の外から来た人を遠くから見たときにも、同じ印象 何度も嘔吐し、息を切らす俺を先生はっきっきりで看病してくを持ったことはある。だが間近で見るオキャクサマにはもっと強い れた。 違和感、はっきり一一一口えば嫌な感じを受けた。 高熱と悪寒にうなされる俺の耳に、途切れ途切れに誰かの会話が数十名でぞろぞろと入ってきたオキャクサマは俺達をじろじろと 聞こえてきた。 眺め回した。いつもの外から来た人達の鋭い視線とは違う、胡乱で

8. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

「白猫」 いつもの道、というものがある。駅までの道、学校までの道、 誰かの家までの道。お気に入りの店までの道。いつもの道、には、 そのときどきのじぶんが編みこまれている 駒込に住んでいたときのことだ。毎日通る道の途中に、猫の いる家があった。窓が道に面して大きく開かれている家で、常 に白いレースのカーテンがかかっていた。猫はカーテンと閉まっ たガラス窓の間に座り、どこかを見ていた。最初に、あれ、猫、 と気づいたとき、置物かなと思った。そのぐらい猫は動かなかっ た。一度見つけると気になるもので、通るたび窓をみた。概ね 猫はいた。あるとき猫は寝転んでいた。猫は猫であった。窓の 上にも高窓があり、そこにも猫はいた。とはいえ下にもいる 二匹目だった。そうこうしているうちに三匹いることもあった。 高窓までは猫専用通路らしきものがあるようだった。猫は絵画 7 夏野雨 福岡ポエトリー主宰。 福岡ポエイチコーディネータ。 詩と短歌を書いています。 Natsuno Ame のように外を見ていた。空を見ていた。猫の尻尾は長かった。 毛は短かった。すべて白い猫だった。 朝、よく、猫をみかけた。帰りはどうだったのか、記憶がない いなかったように思う。帰りはいつも夜で、暗かった。朝は明 るく、猫がよく見えた。あちらからもよく見えたろう。あると き手を振ってみた。猫は我関せず、全く反応しなかった。猫な のだから当然だ、と、妙に納得した。しかしたびたび手を振っ てみた。猫はたまにこちらをみた。それから通り過ぎる何十日か、 何百日かのうち、思い出したように手を振った。猫はしばしば こちらを見た。三匹のうちどの猫なのかはわからなかった。見 分けようがないほど彼らは似ていた。白猫の目のふちはどれも うすいピンクで、そこだけが生き物の証明のようだった。その 道を通っているあいだ、私は猫を知っていた。道と猫はセットで、 馴染むというのもおかしいほど私の生活に溶け込んでいた。 しかし、ある日わたしはその道を通らなくなった。近くの町 に引っ越したのだ。理由は何だったか、ちょうど賃貸契約の更新 月だったとか、気分を変えたかったとか、小さなことの積み重 なりだったようにおもう。猫のことはすこしも頭をかすめなかっ た。私はほどなく新しい町に馴染み、それからまた引越しをした。 そしてまた。毎日通う場所も変わり、いまは福岡に住んでいる。 猫に手を振った日からはずいぶん時間が経った。そのうちの何 百日か、何千日かのあいだに、あの白猫たちのことを思い出し たか、といわれると、殆ど思い出したことはない。その後の引 越しの決定的な理由のいくつかは思い出せる。またあの町に住 みたいかと聞かれたら、住んでみたい、とおもう。しかし住ん でみたい町は無数にある。網目のようだ。今もその網目のひと

9. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

こ、こなり・たカった あんた達みオしこ 田中ジョヴァンニ 地獄の様な毎日の中で、過去を振り返ることが無くなった。 美しいモノか美しいままで亠る為に、も、つ何も思い出さないようにしている 輝かしい思い出か、この汚らわしい日々に浸食される様な気がするんだ。 音楽を聴いたり本を読んだり映画を観たりしても泣けなくなってしまったん だから。何も感じない。何にも感動出来なくなったんだよ 祖父と従兄弟と伯父が死んだ時、何故自分じゃないのかと言った自分が、やっ と真っ当な人間に成れたと思った。 大人なので、とかそういう 事・にしておくカュ = 。 隹も口にはしないでも散々経 験してきた身として分かるんだよ。日々の中に居る大半の人々は、自分に消え だけど、この毎日が全てを変容させそうだ。生きる意味が重責に成ろうとして欲しいんだと。 ている 責任は負うべきなのだろう。それは分かっている。だが重荷に感じてはいけ 共に、なんてのはもう良いんだ。もう正論じみた説教は聞きたくない。偽善 だとか独善だとかに思われて、追い詰められているようにしか感じない だってそうだろ、楽しかったじゃないかその普遍の楽しさを仮初にでも得 られたんだから、所謂普通の人間に成れたと思ったろ ? ・ 出会いの偶然が運命なのかは分からないが、救われたのは確かだ。 だから、い出さない、考えない、感じない様にしているんだ。 最初からそうだった。生きるべきでは無かった。死ねと言われたあの日々に 命・を絶っておくべきだったんだ 生医ながらえてしまったか、らこそ、関係性の中に亠仔在してしまったからこそ、 古しんでいる。分かっているよ、伝えるべ医ではないと 世界を変える為には自分の変わるべきだとかそんな事は分かっていて、それ の出来ないからこんな事になっているんだよ 支えが重責に成ろうとしている。お互いにでは無い。お互いにでは無いから こそ 軽薄になりたかった。異常者ならばそういう 期待しないでくれ。本質は変わらなかった。この地獄で気付いたんだ 生きていても良い事は無いと。 普通になれたと思っていたでも違ったんだ 最早、誰とも会話すら出なくなりつつある。 これが散文か日記か詩かなんてことはどうでも良い 欠如が良かった。

10. ゆとり世代の総合表現マガジン さかしま 2017年度号

女 あ、電気屋にはよく行くの 男 1 え : : : あ、そうだね、あんまり行かないよ 男 1 そんなこと今はど、つでもいいたろ 女 じゃあ、何かと、つでもよくないの 男 1 それは : ・これか、らと、つす - るか、とカ 女 大丈夫なんでしよ。 男 1 うん、そうだけど。状况が変わったんだし。 女 想定の範囲内で、でしよ。 まあ、そ、つだけど・ 男 1 : まあ、そうだね・ 女 煙草は吸うの 男 1 吸うよ 女 銘柄は。 男 1 何でも 女 例えば 男 1 ィ一フィ -z ・とか、キャビンとか キャビンって、ウインストンになったやつよね 女 そ、つ・だよ 男 1 、ゝーん。じゃあ 女 男 1 もうやめてくれ 男 1 あ・・ 女座ったら。 うん 男 1 男 1 、椅子に座り、水を飲む。煙草 ( セプンスター ) を出して、ロ に加える ここではだめ 女 男 1 なんで。 と田心、つ 女 あんまり、情報を残さない方かいし 男 1 情報 ? ・ここにいこ隹かは、煙草・を吸う・つて ? ・ 女 分からないでしよ。どこまでヘ刀かるのかそ、つい、つのが。 男 1 そう・だね : : ごめん。 ( 煙草をしまう ) ごめん。 女 男 1 いや、ごめん。 長い沈黙 男 1 男 1 男 1 女 男 1 いや、ちょっと今は、休ませて。走ってきたから。女 男 1 女 : 何 ? : 何よ ゃ。なんでもない 妊娠はしてないよ。 え ? ・ 子どもできたから煙草やめてって、言ったと思ったんで や、そ、つい、つわけじゃ・ そう・ その :