P 「 0 g u e 人生の悩みはすべて 「人間関係」でできている アドラー心理学の基本前提 アドラー心理学とは、アルフレッド・アドラーが 最初のアイデアを提示し、その後継者と 研究者たちが発展させてきた心理学理論のひとつで とリわけ子育てや学校教育に生かされてきた。 アドラー心理学を知ると、人間関係が変わる。
所有の心理学 P68 無意識や感情などの部分は、人 ( 全体 ) を支配 ( 所有 ) して突き動かすことがある、とする心理 学の考え方 ( 対 : 使用の心理学 ) 信念 P88 ・ 92 「世界は ~ である」など、世界や周りの人に対する仮想的な理解の仕方のこと。 人は信念に 劣等感を感じている欠陥部分を努力によって肉体的に克服したリ、劣等感を感じずにすむ 補償 P44 かを解明しようとする心理学の領域。幸せとはどのように創り出せるのか、を関心事とする。 人間や組織、社会の姿はどのような状態、要素によって本来あるべき優れた方向に向かうの ポジティブ心理学 P25 エネルギー ( リビドー ) によって人の行動の多くを説明しようとした。 晩年にはナチスに追われ、ロンドンに亡命した。無意識に着目し、性的衝動の基になる心的 ジークムント・フロイト ( 1856 ~ 1939 ) は、精神分析を創始した人物。ウィーンで長く活動したが、 フロイト P24 は行 解明しようとする。行動主義と対比的な立場で、脳科学と関連して発展。 心理学的アプローチの一つ。人の記号・情報処理 ( 認知 ) の過程を理解することで人間の性質を 認知心理学 P25 あると見なして、人間を全体的に理解しようとする心理学の立場。 人は無意識や外的環境に支配されて行動するのではなく、自由意志をもった主体的な存在で 人間性心理学 P25 な行 その人にとって心理的に大きな打撃となった経験のこと。 トラウマ ( 心的外傷 ) P90 た行 方。 ( 対 : 要素論 ) 人としては一貫している」とし、人間を一つの分割不可能な全体 ( 統一体 ) としてとらえる見 「人間の意識、無意識、思考、行動などは、対立せす協力し合って人間全体を作っておリ、個 全体論 P22 ・ 67 ・ 70 人の行動と意識の現象との関連性を研究する学問。 心理学 P22 ・ 24 きる、という感覚。 共同体感覚を構成する感覚。所属する共同体の中で、周リの人に安心して任せることがで 信頼 P156 とも言える。「ほら、やつばリ世の中は〇〇だ」などと人が思いがちなのはそのため。 基づいて世界や人の行動を意味づけるため、常にその信念を強化する理由を探している、 3 「人間は目的がまずあって、それを達成するために思考したり行動したりしている。人間の 目的論 P22 ・ 48 ま行 に努力すること。アドラー心理学においては、人間の行動の動機として重視される。 ( ごまかせる ) ような価値観を持っこと。劣等感を解消または覆い隠すために肉体的、精神的
L e 5 5 0 コ 0 解説 1 一アドラー心理学の全体像 1870 年にオーストリアで生まれたアドラーは、同時代のフロイトやユングと共に臨床心理 学の基礎を築いたと評価されています。後半生はアメリカに渡って活躍し、独自の心理学の体系 を作りあげました。現代のアドラー心理学はその理論として次の 5 つの前提を基本としています。 ①目的論〕人はまず目的を持ち、その方向に思考し、行動する ②全体論〕人の意識、無意識、思考、行動は個人として一貫している ③社会統合論〕人は社会に埋め込まれている社会的な存在である ④仮想論〕人は自分、他者、周りの世界を自分が見たいように見ている ⑤個人の主体性〕人は自分の人生を自分で決めることができる この 5 つの基本前提は、私たちが学校で習ってきた自然科学の原理とはまったく違うものです。 自然科学は、原因と結果に関する法則 ( 因果律 ) によって成立しています。たとえば持ってい る物を放せば、重力が原因として働くことで、下に落ちるという結果 ( 現象 ) が生じます。 022
謝辞 長年の恩師である野田俊作先生に感謝します。アドラーギルドでの野田先生の講座からたくさ んのことを学びました。また、たくさんの翻訳書と解説書をたゆみなく出版してアドラ 1 心理学 の普及に貢献している長年の友である岸見一郎さんに感謝します。彼の著作と翻訳からたくさん のことを学びました。最後に、アドラー心理学に関するたくさんの有用な論文を公開している日 本アドラー心理学会に感謝します。その一つひとつの論文がアドラー心理学の発展のための基礎 となるでしよ、つ。 向後千春 参考文献 ( 著者アルファベット順 ) ・アルフレッド・アドラー ( 岸見一郎訳 ) 『生きる意味を求めて』アルテ、 2007 ・アルフレッド・アドラ 1 ( 岸見一郎訳 ) 『人間知の心理学』アルテ、 2008 ・アルフレッド・アドラー ( 岸見一郎訳 ) 『性格の心理学』アルテ、 2009 ・アルフレッド・アドラー ( 岸見一郎訳 ) 『人生の意味の心理学 ( 上・下 ) 』アルテ、 2010
無意識も感情も使うのは「私」という個人 しかし、よく考えてみれば、無意識も感情も自分 全体の一部分なのですね。無意識を使うのも、感情 えを使うのも「私個人」以外にはありえないのです。 を 方 無意識や感情を使って、何かをなしとげようとし 見 ているのは「私個人」です。これが、アドラー心理 学が「使用の心理学」であると呼ばれることの意味 です。 体 1 い感 配るむ 全てや 支い悩 もし、あなたが、 怒りや後悔や嫉妬といった感情 に支配されて、それがつらいのであれば、こうした 留哥ゝ のし↓のえ彳い 感情が私を翻弄しているという「所有の心理学、の 言き 考え方をしているからかもしれません。とすれば、 を憮がた情 楽 「私個人はこの感情を使って、いったい何を目指し コ【、ているのだろうか、と考えることで、感情に支配さ れることから抜け出すことができるかもしれません。 使用の心理学と所有の心理学 使用の心理学 所有の心理学 = 「個人がさまさまな部分を 使って、目的に向かって全 体を動かしている」 →「この感情を使って自分は 何をしようとしている ? 」 と自分を探求する ↓ 自分をより深く 理解できる 069
。ー , 、代表者はジークムント・フロイト ( 1856-1939 ) 。「無意識」や「リ ビドー ( 性的エネルギー ) 」の 概念で人間行動を説明。 第 2 勢力 さまさまな分野に影響を与えたアドラーの考え方 第 3 勢力 第 1 勢力 人問性 心理学 精神分析 代表者はカール・ロジャーズ ( 1902-1987 ) や工イブラハム・ マズロー ( 1908-1970 ) 。自 己実現を目指す人間の性質に 迫る。両者とも、若い時にアド ラーから多くを学ぶ。 アドラーの 考え方 臨床心理学の基礎を築いたアドラー マな研 グに用 第 2 の勢力は「行動主義」。これは現代の行動分 セ幸の ・がそ 析学や行動療法に展開していきます。一方、期待や イ 研 信念といった媒介変数の考え方を取り入れることで ま 2 実 都 ( 〔認知心理学への道筋をつけ、現代の認知療法にもっ 代ンる究 ながっています。 第 3 の勢力は「人間性心理学」。自己実現を目指 す人間の性質を明らかにしようとし、後に「ポジテ イプ心理学ーへと引き継がれていきました ( 上図 ) 。 ンキ底行 ソス徹の開 アドラ 1 は心理学史の中では、心理療法や臨床心 ワの璢氓 ンバ蕉療理学の基礎を築き、人間性心理学の源流となりまし ョ。 1 経動 ジ 8 を行 は 8 義や た。しかし、彼の先進的な考え方はそれに留まらず、 1 主学 表訂一行分 代臼ナ的動さまざまな人々に影響を与えました。 行動主義 ポジティブ 心理学 025
L e 5 5 0 コ 2 解説 2 一アドラー心理学は「使用の心理学」 全体論を自動車に例えて考えてみましよう。自動車は、エンジン、プレーキ、ハンドル、ウィ ンカー・ : のように、さまざまな役割を持っ部分から構成されています。それぞれの部分はお互い に協力し合って、最終的には「目標地点に移動する」という目的を達成しようとしています。 この自動車の動きを最終的に決めているのは「運転者」です。人間の話に戻せば、その人の行 動を最終的に決めているのは「個人ーということです。つまり、個人が、意識と無意識、理性と 感情、心と身体を使って全体の行動を決めているわけです。これを「使用の心理学」と呼びます。 「使用の心理学ーに対立する考え方は「所有の心理学」です。これは、「私の中の一部分が、私 全体を所有している」という考え方です。所有の心理学は、ある意味で便利な考え方です。なぜ かといえば、自分の行動を、無意識や感情のせいにしてしまえるからです。「あの時は、無意識 や感情が自分を支配していたので、本当の自分ではなかった」と言い訳をすることによって、自 分の責任を逃れることができるからです。 068
アドラー心理学 〔作画〕ナナトエリ〔監修〕向後千春早稲田大学教授、日本アドラー心理学会会員 コミックでわカる 旧 BN 978-4-04-601011-7 C2011 ¥ 1000E 9 7 84 0 4 6 0 1 0 1 1 7 坂井麻衣は、アバレル店の店長を「ある理由」から退職 リ失意の中、郊外のシェアハウス「日暮荘」にやってきた。 ふじきき物う ト彼女はそこで出会ったイケメン同居人、藤崎悠のゴリ の押しで塾の先生を手伝うことになリ : 書 本 そして、じんわり泣けるシェアハウスの物語。 コミックでわかる アトラー心理学 アドラー心理学がこれ 1 冊で全部わかるー 向後千春 ( こうごちはる ) 日本アドラー心理学会会員。早稲田大学人間科 学学術院教授。博士 ( 教育学 ) ( 東京学芸大学 ) 。 1958 年生まれ。専門は教育工学、教育心理学、 アドラー心理学。特に、 e ラーニング成人教育、 インストラクショナルデザイン。 著書に『教師のための「教える技術」』 ( 明治図書 出版 . 2014 ) 、『 200 字の法則伝わる文章を書く技 術』『いちばんやさしい教える技術』 ( 永岡書店ー 2014 , 2012 ) 、『統計学がわかる』『統計学が わかる【回帰分析・因子分析編】』 ( 技術評論社 . 200 乙 2008 ) など。 早稲田大学オープンカレッジにて、アドラ - 心理 学講座を担当。 定価 . ー税 I<ADOKAWA 発行株式会社 KADOKAWA 旧Ⅱ川ⅢⅢ II 馴川 1 9 2 2 01 1 01 0 0 0 9 Adlct'ia11 卩、、・ ch い鬲叮 Beginner's GLlide tO Adlerian Psych010gy 0 筰画〕ナナトエリ 〔監修〕向後千春 カバーイラスト / ナナトエリ カバーデザイン / ( KADOKAWA 中経出版日 C デザイン室 601011
アドラー心理学 〔作画〕ナナトエリ〔監修〕向後千春早稲田大学教授、日本アドラー心理学会会員 コミックでわカる 旧 BN 978-4-04-601011-7 C2011 ¥ 1000E 9 7 84 0 4 6 0 1 0 1 1 7 坂井麻衣は、アバレル店の店長を「ある理由」から退職 リ失意の中、郊外のシェアハウス「日暮荘」にやってきた。 ふじきき物う ト彼女はそこで出会ったイケメン同居人、藤崎悠のゴリ の押しで塾の先生を手伝うことになリ : 書 本 そして、じんわり泣けるシェアハウスの物語。 コミックでわかる アトラー心理学 アドラー心理学がこれ 1 冊で全部わかるー 向後千春 ( こうごちはる ) 日本アドラー心理学会会員。早稲田大学人間科 学学術院教授。博士 ( 教育学 ) ( 東京学芸大学 ) 。 1958 年生まれ。専門は教育工学、教育心理学、 アドラー心理学。特に、 e ラーニング成人教育、 インストラクショナルデザイン。 著書に『教師のための「教える技術」』 ( 明治図書 出版 . 2014 ) 、『 200 字の法則伝わる文章を書く技 術』『いちばんやさしい教える技術』 ( 永岡書店ー 2014 , 2012 ) 、『統計学がわかる』『統計学が わかる【回帰分析・因子分析編】』 ( 技術評論社 . 200 乙 2008 ) など。 早稲田大学オープンカレッジにて、アドラ - 心理 学講座を担当。 定価 . ー税 I<ADOKAWA 発行株式会社 KADOKAWA 旧Ⅱ川ⅢⅢ II 馴川 1 9 2 2 01 1 01 0 0 0 9 Adlct'ia11 卩、、・ ch い鬲叮 Beginner's GLlide tO Adlerian Psych010gy 0 筰画〕ナナトエリ 〔監修〕向後千春 カバーイラスト / ナナトエリ カバーデザイン / ( KADOKAWA 中経出版日 C デザイン室 601011
行動主義 P25 心理学の基本的な立場の一つ。客観的で観測可能な人の行動を研究対象とし、刺激 = 反応 の関係性、法則性を見出すことで人間の性質を解明しようとする。 交友のタスク P133 ・ 135 アドラーが提唱した、人間が克服すべき 3 つのタスク ( ライフタスク ) の一つ。仲間の中で 自分の居場所をどのように見つけるか、という課題。達成するには、他者に対して関心を持 ち、他者の存在を考慮する必要がある。他者との結びつきが発展すると「友情」が生まれる。 個人心理学 P70 アドラーによる自らの心理学の呼び名。個人 (individual) とは、「分割できない」という意味で、 アドラーは、個人はそれ以上分割することはできす、全体として理解するべきだ、と説いた。 個人の主体性 P22 ・ 160 人の人生は何かの原因や環境で「できる」「できない」が決まるのでなく、自分で人生を決め ることができる、とする考え方の根拠にあるもの。 個性 P110 劣等感を補償するための行動様式でパターン化されたもの。同じような劣等感を抱いてい る人でもそれに対する向き合い方や、乗り越え方は人によって異なる。アドラー心理学にお いては「性格」「パーソナリティ」などの語も同様の文脈で使われる。 さ行 自己欺瞞 P90 自らの無能さが露呈することを恐れて、「〇〇のせいでできない」などと言い訳をして、行動 を起こさないこと。 自己受容 P157 共同体感覚を構成する感覚。所属する共同体の中で、自分があリのままでいることができて いる、という感覚。 仕事のタスク P132 ・ 134 アドラーが提唱した、人間が克服すべき 3 つのタスク ( ライフタスク ) の一つ。地球上で人類 が存続するためには、人は一人ひとりが、自分らしい資質を生かして社会の発展に貢献する 必要がある。そういう仕事をどのようにして見つけるかは、人生において重要な課題となる。 私的論理 P159 自分にしか通用しない目的達成のための考え方。他者とは共有されえないため、固持している と共同体感覚を抱くことができない。共同体感覚を育むとは、私的論理で動いている自分に 気づき、共同体のメンバーが共有できる共通感覚へと変換していくこと。 社会統合論 P22 ・ 114 「人間は社会に埋め込まれている社会的な存在である」とし、何者にも依存しない孤立する人 間を考えることはできない、とする考え方。 使用の心理学 P68 意識、無意識、理性、感情、心、身体といった要素 ( 部分 ) の活動を最終的に決め、全体と しての行動を決めているのは個人の意志である、とする心理学の考え方。アドラー心理学は この立場をとる。 ( 対 : 所有の心理学 ) 所属 P156 共同体感覚を構成する感覚。「この共同体の中に自分の居場所がある」という感覚。仲間の 中で安心していられる感覚。 2