Business Model 2025 日本にも広がる新しい波 英語圏でのトレンド 「 C r 0 W d S 0 u r C i n g 」 日本でのトレンド 「クラウドソーシング」 日本は他国と比べても、コンセプトが広がるスピードは加速的に速い。じわじわ 徐々に広がるというよりも、一気に爆発するようなスピード感で広がっていく。
C h 0 p te 「 1 新・経済バラダイムの出現 『経済行動と宗教ー日本経済システムの誕生』寺西重郎 ここに書かれていることは、私たちにとって非常に重要な視点である。よく「日本人にとっ て『世間様の目』が西洋における『神の目』である」と言われることがあるが、まさにその背 景を明快に示している。 私たち日本人は、宗教的世界観・人生観を職業行動、また生活の中で追求していこうとする 深層心理を持っている。そして、そこから来る世間の評価は、私たちの「生ーっまり、存在意 義と深いところで直結しているのである。つまり、これから広く普及するであろう高度に復活 した共有経済が、日本にも大きく広がる土壌は十分にあると一一一口える。なぜなら、「身近な他者 集団からの評イ 襾。は共有経済を支える要素そのものだからである。 さらに、次ページの図は、 Goog 一 e トレンドで見た英語表記の「 Crowdsourcing 」と日本語表 記の「クラウドソーシング」の検索数のトレンドである。 海外 ( 英語圏 ) においては「 Crowdsourcing 」は oaoooo 年の終わりくらいから上昇し始め、 じっくりと徐々に昇っている。しかし、日本はというと、 2 013 年の終わりから上昇トレン ドが始まったと思ったら、 2 013 年に飛び跳ねるようにキーワードが広まっている。 私は仕事柄、日本でまだ広く認知されていない次世代のコンセプトやキーワードを紹介する ことを生業のひとっとしている。
C h 0 p t e 「 1 新・経済パラダイムの出現 クラウドソーシングが世界において、大きな広がりを見せていることは知っていたが、日本 における普及速度には、じつはかなりの危機感を持っていた。 クラウドソーシングの領域において、世界がこれだけ先に進んでしまうと、日本が取り残さ れ、競争という側面においても、働き方という側面においても大きなマイナスの影響が生じる と感じていたからだ。 しかし、その心配は、ソーシャルビジネスやソーシャルデザイン、また 3 プリンタやメイ カーズの時と同様に一掃された。クラウドソーシングというキーワードも、 いったん広がり始 めるとそのスピードは本当に速かった。案の定、あっという間に日本において重要なキーワー ドとして認知され、その象徴として、株式会社クラウドワークスは、 2 14 年月に東証マ ザーズへスピード上場したのである。 普及スピードが速い理由のひとつには、欧米のような階層社会ではないこともあげられる が、前述したように日本人の持っている他者の目、世間を気にするという意味において、その 同質性が、世界でも稀に見るスピード感を生む背景につながっている。つまり、さまざまな規 制の問題があるにせよ、新しい共有経済の流れも、いちど広がり始めたら一気に認知され、文 化として定着することだろう。
B u s i n e s s M 0 d 引 20 2 5 また、目を背けずに見なければならない図が、水野和夫氏が『資本主義の終焉と歴史の危機』 で示した、世界の高所得国の人口を示したページの図である。 18 7 0 年から 2 0 01 年の 13 年間において、豊かな生活を営む先進国の人口は、約 % とほぼ一定なのである。この理由は、先進国がつねに、資源の安い国から仕入れをし、高 く売れる国で売るという行為を繰り返してきたことにある。 しかも、このような奪い合いは、極限的な超格差社会においては、同じ国の隣人同士でも行 われていく。日本においても、相対貧困率は拡大の一途を辿っている。相対貧困率とは、各国 において一般的な生活ができないという基準であり、日本で言えば、買い物を楽しんだり、友 人と食事に行くような余裕が全くない状態のことを言う。 この割合は日本では % にもおよぶ。つまり 6 人に 1 人が貧困である。月 9 万円以下で暮ら している日本人は 2 万人近くもいるのである。 さらに深刻なのは、若者のワーキングプア率の上昇傾向だ龜ページ図 ) 。 黒い都道府県では % 以上、グレーの都道府県では % 以上がワーキングプアである。代 の若者では、働いても自分の生活を成り立たせることのできないワーキングプアの比率がこれ ほどまでに高まっている。
B u s i n e s s M 0 d 引 20 2 5 ている。さらには、人工知能が広範囲に行き渡り、社会全体の生産性が上がった後の富の配分 の問題にも密かに目をこらしている。 歴史を見つめれば、制度というのはいつの時代も、大衆の意識の成熟と社会の変化が相互影 響して、進化していく。そういった意味では、今の若手世代が社会の中心となる時代において は、べーシックインカム的制度は、当然のものと認識されていくだろう。 という傾向は薄 さらに、働く価値観も、「仕事は、時給が高ければとりあえず何でもいし れていく。米国においても、これを「目的経済」、つまり「意味を見いだし働く社会」として、 認識されつつあるが、日本もその方向へとより強固に歩を進めることになる。 日本におけるその現象の背 「求人はあるのに、時給が上がっているのに、働き手がっかない。 景にあるものは、「働く価値観の変化 , が影響している。この辺りは、拙著『ワーク・デザイ ンこれからの〈働き方の設計図〉』に詳しく書いたので、そちらを参照していただきたいが、 べーシックインカム的制度が導入されるとすると、タイムバンク、また一 mposs 一 b 一 e.com が広げ る贈与経済圏もますます拡大していくことは間違いない 「食べるために働かなければならない」という言説が、ゆっくりとではあるが力を失ってい くのが、この幻世紀である。
Chapter 1 新・経済バラダイムの出現 ほど、お互いの歴史や夢について語り合い、床についた。、 ヒジネスホテルに泊まっていれば決 して生まれない物語がそこにはあり、出張が旅になった瞬間だった。大手ホテルチェーンをし のぐほどの影響力を持ち始めている Airbnb の魅力が分かった一夜だった。 2 015 年において Airbnb の評価額は 2 兆円以上である。また、部屋を登録し、貸し出し ている人の平均収入は、地域によっては毎月 15 o ドルを超えている。 日本はまだ Airbnb の認知度は低いが、サービスの提供は始まっており、海外から来る人が 日本で借りられる部屋を Airbnb で探しても、その需要に供給が追いついていない時期も見ら れるようになってきている。 取引における信用の歴史 さて、ここで疑問が生じる。なぜ Airbnb では、知らない人同士が気軽に自宅を貸し借りす ることができるのか ? その信用はどこから生まれているのだろう ? ここで、知らないもの同士が取引をするにあたっての信用の歴史を少し紐解いてみたい。 世界を見れば西暦 10 0 c 年ごろに市場経済の源流がある。知らないもの同士が市場 ( いち ば ) に製品を持っていき、信頼できる仲介者を通じて見知らぬ人と取引を行っていった。つま り、信用を担保するものは、市場という仲介者であった。 そして 18 0 年代には、個人と企業との取引が広がる。そこでは法律も整備されていき、
B u s i n e s s M 0 d 20 2 5 すことができないところまで、その影響力を極大化させようとする生存本能からきている。 社会とライフスタイルの大きな変化 ふたつ目は、今は、社会の再構築期であり、テクノロジーや価値観の変化によって世の中に 広く普及する事業、サービスを展開しやすいからである。言ってみれば、幻世紀のインフラ構 築期、新たな文化創造期であり、人々のライフススタイルそのものが変化する時なのだ。 たとえば、 Airbnb は売上高非公開の企業だが、前章で記した通り、企業評価額は 2 億 ドル ( 約 2 兆円 ) を超え、ホテル業界首位のインターコンチネンタル・ホテルズ・グループ ( — ) の時価総額を上回る。 Airbnb は、幻世紀に確実に広がるであろう「文化」に関係する 事業であり、世界に広がりつつある新たなライフスタイルに、高い貢献価値を提供してくれて いる。日本においては法規制の問題があるが、観光立国日本を謳おうとする状況の中で、速や かに、柔軟な対応をとっていくべきだろう。 同社は現在、旅行者向けに新たなオンラインマーケットを準備していると言われており、こ れまでの「格安なゲストハウスを提供する」という役割を超えた、旅行者にあらゆるサービス を提供するプラットフォームへと進化しようとしている。 具体的には、その地域を巡るツアーや食事などの提供である。 Airbnb を利用する人は、当然ながら食事もするわけで、観光で来ている人も多いから、地
C h 0 p te r 1 新・経済バラダイムの出現 的失業問題 ( テクノロジーの進化により人間の仕事が少なくなっていく問題 ) に対処する方法であるなどと声高に 主張されることも珍しくなくなった。 そんな中、人材系企業大手が世界の若者に対する職業観、就職観を調査して発表し、その結 果が話題を呼んだ。私自身、記者発表にて参加し、話をさせていただいたのだが、そのアンケー トから見られる傾向は次のようなことだった。 「発展途上国の若者は、とても勢いがあり、日本の若者はおとなしい。」 ただ私は、単純にそういう側面からのみ語ることはできないと説明させていただいた。 社会問題の先進国と言われる日本において、若者は意識的、無意識的に関わらず今後の社会 の方向性を敏感に感じ取っている。 公務員というのはまさ たとえば、現代においても、公務員の人気は衰えることを知らない。 / に「安定志向」の象徴と捉えられるが、同じ意味においてべーシックインカムも、その安定を 支える制度である。強まる公務員志向の一方で、採用人数は今後減ることはあっても増えるこ とはないだろう。その結果、今後べーシックインカム的制度を待望する方向へと向かっていく のである。 ・怠け 一方、現代の中年より上の世代などでは、べーシックインカムなんてとんでもないー 者が増加して、社会がおかしくなる ! 財源がない ! など単純な議論がなされることも多い しかし、若者は、「格差を広げる経済ーと「ギャンプル化するビジネスーの足音を明確に聞い
C h 0 pt e 「 1 新・経済パラダイムの出現 どこが現代経済社会の限界なのか ? 世界の富裕層上位人の資産総額は、貧困層億人の資産総額に匹敵し、上位 1 % の富裕層 が持っ資産総額は、残る四 % の人口の資産を合わせた額と同程度。そんな社会を私たちは生き ている。にも関わらず、その問題に触れようとする専門家の語る言葉は、あまりにも遠くの沿 岸から響く独り言のように聞こえ、生身の体で日々を忙しく生きる私たち市民の心を打っこと はほとんどない 暴かれた「格差を広げゆく資本主義」の実態 そんな中で、小さな奇跡とも言える現象が世界、そして日本で起こった。 ハリ・スクール・オプ・エコノミクスのトマ・ピケッティ (Thomas Piketty) 教授が発表し た書籍『幻世紀の資本』が放った波動は、瞬く間に世界中に広がり、私たち市民の心を強く打っ た。世界中、彼が行くところには人だかりができ、日本でも、 6 千円もする分厚い書籍が、たっ た 1 ヶ月で万部のベストセラーを記録、彼の来日シンポジウムには 7 千人を超える応募が殺 到した。何が彼をそこまでにしたのか。それは、経済学者のポール・クルーグマンが言う通り 「不平等の統一場理論を発見した」からである。
B u s i n e s s M 0 d 引 202 5 日本人の経済行動を根底から支えるカルチャー ここで「日本でも本当に、同じような共有文化が広く、深く根付くのか ? ーという疑問が生 、。ム自身が、こういった世界的なトレンドを日本においていち早く じる人もいるかもしれなし不 紹介してきた立場から、答えは「根付く」と断言できる。なぜそのように言えるのか、少しだ け触れてみたい。 まず、次の文章は、一橋大学名誉教授・寺西重朗氏が語る日本人の経済行動の根本背景につ いてである。 日本人の経済行動と経済システムの特質は、平安末期以後の仏教の世俗内易行化という宗教 変化のインパクトを反映して生み出された、世俗の営みの中に宗教的世界観・人生観を追求す るための求道主義に源流を持つ。易行とは比較的容易な宗教実践で悟りに達し、救済を受ける ことができるという教えであり、この時期の大衆救済の必要性の高まりに対応した宗教の変化 であった。易行化の結果、人々は従来の難行を伴う膨大な仏門内での知的作業から解放され、 宗教的世界観・人生観を日常的・世俗内生活における職業・芸術行動のなかで追求するように なった。 ( 中略 ) その達成度ないし成果は、仏門に替えて、「顔の見える」範囲のすなわち個別 に認識されうる範囲の身近な他者集団のなかで、評価されることとなった。