総額約一二億円の損害賠償を求めた事件です。明覚寺グループによる霊視事件では、、 しわゆる霊能者 が被害者の主婦らに「水子の霊がついている」とか「先祖の祟りがある」などと虚偽の内容を伝え、 供養料などの名目で被害者から一人当たり数十万円から数百万円を巻き上げていたもので、被害者が 各地で訴訟を起こしていました。大阪地裁では平成一〇年二月、同じ明覚寺に対する訴訟で、同寺に 対し約三六〇〇万円の支払いを求める判決を言い渡しましたが、本件では被告明覚寺側が原告被害者 側に総額一〇億八五〇〇万円を支払うことで、平成一一年一月二六日、和解に合意しています。 なお、同グル 1 プの幹部らは詐欺罪に問われ、裁判所は元管長に懲役三年六月の実刑判決 ( 名 古屋地裁・平成一一年七月一三日判決 ) を、また系列寺の元住職にも懲役一年の実刑判決 ( 同地裁・ 平成一一年七月八日判決 ) を言い渡しました。 ・飲食店の火災原因は冷凍庫の欠陥と、メーカー側の製造物責任を初めて認定した判例 飲食店経営のさんと家族が、平成三年七月、福島県いわき市にあった自宅兼飲食店から出火全焼 したのは冷凍庫の欠陥が原因として、その製造メ 1 カ 1 の三洋電機側を相手取り、総額約一二三〇〇万 円の損害賠償を求めた事件です。裁判所は、冷凍庫や壁の焼損具合と冷凍庫内部でのショ 1 トによる 発火の可能性を指摘し、冷凍庫が火災の発生源と推認できると、その欠陥を認定しています。その上 で、被告メーカ 1 側には安全性確保義務違反の過失があったとして、総額九〇〇万円の賠償を命じた のです。この火災事故は法施行 ( 平成七年七月 ) 前のもので同法は適用されませんが、その趣旨 に沿った判決が出されたと言えます ( 東京地裁・平成一一年八月三一日判決 ) 。 257
・利息制限法を超す利払いをさせた商工ローンに過払い分の利息を返還するよう命じた判例 元自営業者のさんは、商工ロ 1 ン最大手の社から、年利三七 % で三五〇万円を借りたのですが、 社の担当者からの要請で、支払期日に利息分を控除した金額を再融資してもらう形 ( < さんは利息 分だけを支払う ) で決裁してきたのです。同様の融資が六年間で約七〇回行われましたが、その間 < さんは利息だけを払い、元金は減りませんでした。 < さんは、利息制限法で計算し直すと、すでに 元金返済を終えているとして、社を相手取り過払い分の利息の返還を求めたという事件です。 裁判所は、約七〇回の融資は全体として一つの融資と見るべきと判断、約六 , ハ万円の利息過払いが あったと認め、社に返還を命じています ( 福岡地裁小倉支部・平成一一年一〇月一一六日判決 ) 。 ・霊感商法で献金を強要された主婦からの損害賠償を認めた最高裁の判例 しわゆる霊感商法の被害者です。統一協会 ( 世界基督教統一神霊協会 ) の信者に 主婦の 0 さんは、、 「家族に不幸が起こる」などと脅され高額な献金をさせられたとして、同協会に対し、献金額返還と 慰謝料の支払いを求める裁判を起こしました。 裁判所は、信者らの献金勧誘活動は違法として、統一協会に献金額と慰謝料合わせて二六〇〇万円 の賠償 ( o さんの請求額は約一一九〇〇万円 ) を命じた二審判決を支持、被告統一協会側の上告を棄却 しています ( 最高裁・平成一一年三月一二日判決 ) 。 ・霊視商法をめぐる損害賠償訴訟で、被害者と宗教法人の和解が成立 霊視商法の被害者約三〇〇人が、東京、大阪、名古屋など全国七地裁で、宗教法人明覚寺に対し、 256
・詐欺師に現金を渡したら終わり この事例の香川君の行為は、テレビに出たい という五月さんの気持ちを利用した悪質な犯罪 です。最近 ( 平成一一年夏 ) も同じような事件 のニュースが流れましたが、これは悪質商法と いうより、むしろ詐欺に該当します。詐欺罪の 法定刑は「一〇年以下の懲役」という重いもの です ( 刑法二四六条 ) 。 しかし、犯人は処罰されても、詐欺の被害者 がその損害を取り戻すのは容易ではありませ ん。この事例でみても、五月さんが払った二万 円を取り戻すのは難しいと思います。被害届を 出すと、相手側が示談にしたいと返金してきた り、少額訴訟など裁判手続きにより取り戻す方 法も確かにあります。ただ、詐欺師の多くは、 金を使い切っていたり、隠してしまい、実際に 損害を全額回収できるかどうかは疑問です。 結局、詐欺の被害にあわないためには自分で 予防するしかありません。どんなに美味しい話 でも結論を急がす、まず相手の話が事実かどう か調べてください。それが被害の最大の予防法 です。五月さんの場合も、テレビ局に電話一本 入れていれば、香川君の話がウソだとわかった でしよう。とにかく、五月さんのよ、つに現金を 渡してしまっては、詐欺師の思うツボです。 ・クーリング・オフできる場合もある この事例と同様に街角で声を掛け、モデルや タレントに誘うキャッチセールスがあります このケースでは、仕事を紹介するという名目で 勧誘し、実際にはモデルクラブや芸能学校への 入会・入学をさせるものが少なくありません この契約には訪問販売法 ( 平成一三年六月一日 より、法律名が「特定商取引に関する法律ーと 変わった ) が適用されますので、契約書の交付 日から八日以内ならクー リング・オフで解約す ることもできます。
相手は信用してはいけません。①の関門を潜って入り込んできた相手に対しては、一度ならず二度、硯 三度と、慎重に内容を検討すべきなのです。少なくとも、その場で安易にハンを押すようなことは、 避けた方が安全でしよう。本当に欲しいものなら、また後から取得するチャンスも訪れるはずです。 という気持ち ただ、こういう場合、どうしても「断ったら二度とチャンスがなくなるのでは・ が働きます。そこが、悪質業者や詐欺師の狙い目なのです。 仮にチャンスを失ったとしても、悪質商法や詐欺の被害を防げたからいい。縁がなかっただけだ。 被害にあわないためには、そう考えて、キッパリ断れる勇気を持っことも大事です。 最後に、不幸にして被害にあってしまった場合には、③のように専門家に相談してください。直接、 相手と交渉しても、トラブルが解決する可能性は薄いと思います。そして、それ以上に、被害がより 大きくなる危険性すらあるのです。ですから、クーリング・オフや中途解約など、法律で定められた 手続きに応じなかったり、逆に妨害をするような相手方とは、下手に話合いを続けてはいけません。 、くらかでも法律をかじっている人などがいると、その人が前面に出て交渉を続ける 家族や友人に、し 場合があります。しかし、相手は違法を承知で行動しています。大概は、時間稼ぎをされるだけで、 適切な解決はまず期待できません。被害にあったと思ったら、すぐに消費者センタ 1 や市民法律相談、 あるいは弁護士などの専門家に相談して、その指一小を受けるようお勧めします。 なお、業者のウソを信じるなどして不当な契約をした消費者を守る「消費者契約法」が平成一三年 四月から施行されます。これまで救済が難しかったトラブル解決にも役立つよう期待して止みません。
・マルチ商法は販売より会員の勧誘が主目的 マルチ商法 ( 連鎖販売取引 ) とは、次の四つの 要件にすべて該当するような商法のことです ( 訪問販売法一一条※ ) 。 ①物品を販売する事業であること 鍋や洗剤、布団、健康食品などだけでなく、 サービス ( 役務 ) の提供も対象です。 ②商品の再販売業者を勧誘すること 委託販売や販売の斡旋も対象です。この事例 のよ、つに、 一般の消費者を次から次へと業者に 仕立て、鎖のように繋がっていくので、マルチ 商法のことを連鎖販売と呼びます。 ③特定の利益が得られるとして勧誘すること 上位のランクに上がれば、新加入者が入会時 に支払う金額の一部を受け取れるということを 条件として、勧誘することです。 ④加入時に二万円以上の負担をさせること 名目は何であっても、同じです。 なお、事例からもわかるように、マルチ商法 の加入者は、販売利益よりも新規会員の勧誘に よるリべート獲得に力を注ぎます。 ・被害者が加害者になる危険も大きい マルチ商法は、二〇日以内ならク 1 リング・ オフができます。しかし、④の負担金が二万円 以下というように、四つの要件の一つが欠ける ため、マルチ商法の規定が適用されない場合が あります ( これをマルチまがい商法という ) 。 ング・オフ期間は一般の この場合には、クーリ 訪問販売と同じで、八日間です。 なお、マルチ商法の恐さは、事例の愛子さん のように「被害者ーが、次の段階では「加害者ー に代わってしまう点です。また、被害者の多く は、友情という言葉を切札に使われ、仕方なく 加入しています。しかし「そんな安つほい友情 なら、なくなった方がマシだ」と断固拒否する 方が、真の友情ではないでしようか ※平成一三年六月一日から法律名が変わり、「特定 商取引に関する法律」三三条になった。
・はじめに 悪質商法とは、消費者の無知や弱みに付け込み、巧妙かっ強引な手口で無理矢理モノやサ 1 ビスを 購入するよう誘い込む販売方法です。悪質業者は、必ず儲かるなどの欺瞞的なセールスト 1 クで消費 者に近づいてきます。たとえば、霊感・霊視商法、かたり商法、資格商法の他にも、勧誘の手口や事 業の実態から、キャッチセ 1 ルス、アポイントメントセールス、商法、押し付け商法、マルチ商 法などもあり、その種類は多種多様です。ただ、消費者被害はこれら悪質商法だけに特有というわけ ではなく、表向き健全な業者や合法的な事業でも、時として、違法な手口や強引なセールスが行われ ることもあります。たとえば、欠陥商品や変額保険のトラブル、あるいは最近話題になっている商工 ロ 1 ンの過剰融資や強引な取立てが、それです。 ここでは、悪質商法を始めとして、消費者被害が発生した事件で、裁判所がその加害業者に対し、 どのような対応をしているか、判例から紹介してみました。 巻末読物工 最近の判例から見た悪質商法の姿 255
儲かるって 言われて その気に なったのは そっちじゃない 何な 工 0 - 支出入会金 2 ロ分 40 万円 収入報奨金 9 万円 差引 ー 31 万 私なんか 三一万も 損してるん だからーーーっ 、、その結果 、一 ~ 夛ニ人の友人を 朝 ( ) 失っただけでなくイ 社宅にも 居づらくなって しまったのです 愛子さんは マルチ商法の 被害者 ですが 友人を 勧誘した 点では 加害者でも あります
あとがき 私達が、この「マンガ法律の抜け穴」シリ 1 ズを初めて世に出したのが、今から五年前。阪神淡路 大震災やオウム真理教への強制捜査が始まった一九九五年のことです。しかし、阪神淡路大震災復興 基本法など被災地の復興を図る特別立法が震災の翌月から続々と制定されたのに対し、松本サリンや 地下鉄サリンなどオウム事件の被害者救済の法案は遅々として進みませんでした。オウム二法が漸く 成立・施行され、破産後に同教団やその関係者が取得した資産についても被害者救済のために使える 目処が立ったのは昨年暮れのことです。 最近では、商工ローンの強引な取立てがあります。この問題では与野党ともに対応が素早く、国会 は一月足らずのスピード審議で、上限金利の引下げ、根保証した連帯保証人に対する追加融資の通知 義務、罰則の強化などを盛り込んだ出資法や貸金業法の改正を行いました。しかし、債務者の意向を 無視した過剰融資や根保証をした連帯保証人に対する強引な取立ての違法性が新聞やテレビの話題に かなりの時間が経過しています。当然、その間に被害が 上がってから、この改正法案成立までには、 増えたことは論を待ちません。また、住所や電話番号だけでなく、その資産内容から病歴まで、本来 保護されるべきはずの個人情報が自由に売買されている問題では、まさに法整備の遅れが情報漏洩者 や販売業者の摘発を阻んでいます。私達は「法の保護」を受けているはずなのに、このような現実の トラブルに対して、現行法では対処しきれないというケ 1 スが少なくないのです。法律が万全でない 270
・アトピー偽薬訴訟で、死亡した幼児の両親と販売業者との和解が成立 神奈川県のさん夫婦は、アトピー性皮膚炎の長男 ( 当時四歳 ) の治療のため、その治療に効くと 偽って社が販売していた乳液を購入し、長男の全身に塗布したが症状は改善しなかった。その後、 同社から別の乳液を勧められて購入、それを塗布したところ、さんの長男は激痛と全身けいれんを 起こし、間もなく死亡してしまったという事件です。大学病院の鑑定で、死亡の原因は二つの乳液に よるものと断定されました。 さん夫婦は、販売業者の社を業務上過失致死容疑で告訴するとともに、同社に約五六〇〇万円 の損害賠償を求める民事裁判を起こしましたが、被告社側が両親であるさん夫婦に一三〇〇万円 を支払うことで和解が成立したものです ( 横浜地裁・平成一〇年九月三日和解 ) 。 ・ワラント訴訟で証券会社の責任を認め、顧客に損害賠償を支払うよう命じた最高裁の判例 大阪市のさん ( 女性 ) が、新日本証券の社員に勧められてワラント債 ( 新株引受権の付いた社債 ) を購入したものの、社員の十分な説明がなかったために損害を被ったとして、同社とその担当社員に 対し、総額約一一五〇〇万円の損害賠償を求めた裁判の上告審です。 裁判所は、一般投資家に対し、証券会社の社員が危険性の高いワラント債の説明を十分にしないで 勧誘したことは違法性が高く詐欺的と、被告証券会社側の説明義務違反を認定した一一審大阪高裁判決 を支持、証券会社側の上告を退けた ( 最高裁・平成一一年一〇月一二日判決 ) 。一審では原告女性側 の敗訴でしたが、二審は判決を変更、被告側に約一八四〇万円の支払いを命じたものです。 258
・育成内職商法は消費者契約法で取消を この事例は典型的な育成内職商法です。他に、 ミミズやコオロギ、キノコなどがありますが、 ようは「タネ」を買って、育てたものを業者に 買い戻してもらうという商法です。 これと似た商法に預託商法 ( 第五話参照 ) と 呼ばれるものもあります。最近では、経営者が 出資法違反で有罪判決を受けた「和牛商法」が 有名ですが、牛や馬、ダチョウ、あるいは植物 などを購入し、業者に育成を委託して、最終的 に売却益を受け取るというものです。この預託 商法は「特定商品等の預託等取引契約に関する 法律」の規制を受け、消費者は一四日以内なら クーリング・オフができますが、育成内職商法 には、このような規制法がありません。商品の 育成と管理を自分自身で行うため預託商法には なりませんし、この事例のカエルは割賦販売法 や訪問販売法 ( ※ ) の指定商品ではないので、 これらの法律の適用も受けられません。 なお、これまで被害に気づいても、消費者は、 刑法の詐欺罪で告訴するか、民法の不法行為に 基づく損害賠償を請求するしか方法がありませ んでした。しかし、平成一三年四月一日以降の 契約は、消費者契約法四条により、少なくとも 契約後六カ月間は契約の取消しができます。 ・裁判に勝っても被害の回収ができないことも 悪質業者の多くは、朝比奈氏のように集めた 資金を浪費してしまうか、隠してしまう場合が ほとんどです。裁判で勝訴判決を得ても、静江 さん同様、賠償金を受け取れない場合も少なく ありません。金を払ったら、まず取り戻せない とい、つことを肝に命じておくことです 「し言かあっても、その場で契約してしまう : 、 / ド一ヾル のは危険です。絶対に儲かると強烈。 ーンを上げたり、今日限りなどと契約を急ぐよ 、つな業者は、とくに危険です。 ※平成一三年六月一日から法律が「特定商取引 に関する法律と変わった。