Ⅲ ら 真理は何でもって証明されるのか ? : ・要す るに利益 ( つまり、私たちによって承認される ためには、真理はどのような性質のものであ のるべきかという前提 ) でもってである。 『権力への意志』 ( 455 ) 「物事には 本質がある」という 考え方は絶対ではないイ 0 ヨーロッパに浸透していた、キリスト教に並ぶ遠近法的思考 である西洋哲学は、古代ギリシア哲学に由来している。そのツ ェッセンスを見ていこう。 西欧社会の遠近法的思考ー 2 「美しさ」の根拠となる 要素“「イデア」 人は野に咲く花や見栄えのよい男女を見 て美しいと感じる。また、すぐれた絵画、 彫刻、建築などの芸術作品を見たときも美 しいと感じる。 花や人、作品など個々の事物は異なって イデア ide a truth 道徳 7 morality
◆本質◆を求めて西洋文明は発展した 本質 ( イデア ) ・ルールを発見すれば本質を発見できるのでは ? ・それを応用すれば、よりイデアに近い営みができるのでは ? 数学自然科学美術道徳 「物事には本質がある」 とい 2 則提 イデアは、身近な言い方をすれば、物事 の「本質」と考えてもし ) い。「美の本質」 と一言われれば、言葉のイメージはなんとな くわかるだろう。しかし、それ自体をその まま目の前に提示することはできない。あ くまでも、具体的な作品として表現するし 力ない 逆に一一一口えば、芸術とは、「美のイデア」 にいかに自分の作品を近づけるか、とい一つ 営みともいえる。美のイデアに近いものほ どすぐれた作品であり、価値が高い、とい うわけだ。 このようなイデアは、あらゆるものに存 在するとされる。「正しさ」「等しさ」など の抽象的な価値はもちろん、犬、猫、山、海、 ペン、三角形など森羅万象に、だ。いずれ についても「本質」があり、「理想的な〇〇」 がある、というわけだ。 0
なニーな主張 すべての事物や価値 には「イデア」 ( 本質 がある 「本質」、「本質性」は、何か遠近法的なもので 皿あり、多数性をすでに前提している。つねに 根底にあるのは「これは私にとっては何か ? 」 0 の・ : である。 『権力への意志』 ( 556 ) 西欧社会の遠近法的思考ー 2 よりイデアに近い 事物や行動がより よいとされる しかしこれも一つ の遠近法的思考ー にすぎず、絶対で はない 自然科学の目標には 「イデア到達」がある このよ一つに 、てには真なる姿 ( 、刀 洋哲学の前提として、ヨーロッパの人々の 思考回路を形成した。そうしてヨーロッパ の人々は、あらゆる物事に潜む「イデア」 を見出そうとして、知的活動を重ねたのだ。 例えば、数学や自然科学。これらの発展 には、数のしくみや自然現象に隠れている イデアを見つけ出そうとする意味があった。 イデアがある、という考え方は、道徳 などの生き方に関する価値観にも影響を与 えている。「善」にもイデアが存在し、善 のイデアにより近い生き方が、より価値の 高い人生である、というわけだ。 「理想と現実」という一一口葉があるように、 私たちも物事には「理想的な姿がある」と つい考えてしまっている。これらの見方も 絶対ではないことをニーチェは指摘した。
ウイトゲンシュタイン 「語りえぬものについては沈黙しなければなら ない」【言語哲学】 1889 ~ 1951 に意味が生まれるメカニズムの本質を明確にしようとし 「コロロ、 - 続けた。人は、たまたま決まった慣習的なルールで運用され ている言語によって事実や感覚、真偽の判断などを行ってい るにすぎないことを指摘した「言語ゲーム」という言葉は有名。 フロイト 「夢には何らかの意味がある。実際、夢は願望 の実現なのた」【精神分析】 1856 ~ 1939 「無意識」を発見し、精神分析の分野を創始した。人間を突き 動かす性本能のエネルギーとして欲動 ( リビドー ) の力を提唱 し、意識と理性の至高性を否定。自らの合理性を疑わない知 識人の認識を揺るがすことになった。 を 冷戦が始まる 新産業革命が起こる フッサール ド客観性がある◆という確信が生じるのは主観 の内側である」【現象学】 1859 ~ 1938 現象学の創始者。客観的な世界の存在を覆し、現象を認識す ることの源は、純粋な意識の構造にあるとした。物事に普遍 的な妥当性が生じることもまた、意識の内側の構造に由来す ると考えた。体験を注視することを通して、真善美などの諸 価値の普遍的な意味を探ろうとした。 アメリカ産業の曜進 レウィ = ストロース 「我々一人一人は、さまざまなことが生起する ある種の交差点である」【構造主義】 1908 ~ 2009 文化人類学者で構造主義の実質的な創始者。ソシュールの言 語学の理論を背景に、社会における人間の行動は無意識的な 要素の組み合わせ ( 構造 ) で成り立っていると考えた。以後の 人文・社会学に大きな影響を与えた。 を 石油ショック 現代哲学 帝国主義の時代が開幕 国際連盟ができる 「権力は自動的なものになり、権力は没個性化 する」【エビステーメー論】 1926 ~ 1984 ある時代・社会には、総体的な知の枠組み ( エピステーメー ) があると提唱。権力の系譜を問い、そのフィクション性を描 出したことから、「現代のニーチェ」とも評される。 アーレント 「政治の存在理由は自由であり、自由が経験さ れる場は活動である」【公共哲学】 1906 ~ 1975 ハイデガーの弟子で、戦後はドイツからアメリカにわたって 活躍。労働のみを中心的価値にとらえた現代社会を批判し、 人間同士のコミュニケーションによる政治と芸術を取り戻そ うと考えた。 ロールズ 「正義は社会制度の第一の徳目であって、これ は真理が思想体系の第一の憾目であるのと同様 である」【正義論】 1921 ~ 2002 近代の社会契約論を現代的に再構築。自由主義の伝統にのっ とりつつ、社会的・経済的不平等を是正するための公正な分 配についての原理を考案した。この「正義論」は、社会主義に 幻減した若者たちに希望を与えた。 ノージック 「政治哲学の根本問題は、何らかの国家が必要な のかどうかにあり、この問題は国家がいかに組織 されるべきかの問題に先行する」 リハタリアニズム 【自由至上主義】 1938 ~ 2002 ロールズのライバルにして、批判者となる。巨大な国家から 個人の自由を守ることに視点を置き、国家は個人の自由を保 護するための最小国家であるべきと考えた。 ソシュール 「シニフィアンとシニフィエを結びつけている 絆は恣意的である」【構造主義言語学】 1857 ~ 1 91 3 言語と概念の関係を考察し、比較言語学に大きな成果を上げ た。言語において音素列 ( シニフィアン ) と概念 ( シニフィエ ) の結び付きは恣意的 ( たまたま決まっている ) であるとし、記 号論、構造主義の礎となった。 ハイデガー 「存在するとはどういうことか。その根本的な 意味は何なのか」【存在論】 1889 ~ 1976 現象学の手法を用い、存在を理解することは、実存 ( 自身の 主体的な意識 ) を通してのみ可能であるとした。後の実存主 義などにも多大な影響を与えた。 サルトル 「実存は本質に先立つ」【実在主義】 1905 ~ 1980 人間存在の特異性を明らかにし、存在には本質がない、人間 の実存こそが本質であるとする実存主義を広める。「現代」誌 を主宰し、知識人や芸術家の社会参加 ( アンガージュマン ) を 提唱。自らも論争家として社会活動を広く展開した。 メルロ = ポンティ 「私の身体と世界とは同じ肉でできている」 1908 ~ 1961 サルトルとともに「現代」誌を創刊。認識において身体 ( 存在 ) と 心 ( 理念 ) はつねに関わり合うという「両義性の哲学」を考察した。 2000 0 ・ , 第ニ次世界大戦 ラッセル 「いかなる論理的パラドックスのなかにも一種 の自己言及的な言葉がある」【数理論理学】 1872 ~ 1970 言語の構造を厳密に特定し、論理学、数学的における有効な 推論の形式を大成。どのような条件を持つ場合に命題が真と なるかを徹底的に吟味した。ベトナム戦争に反対するなど、 社会運動家としても活動。 8 石
10 8 ルサンチマン〈るさんちまん〉↓、 4 、 alt 「 uism 、 Altruismus 「 essentiment ( 仏 ) 、、 自分の利益や欲望よりも他人の利益を優先する考え敗者が勝者に対して抱く怨恨感情のこと。敗者は、 無神論〈むしんろん〉・ 2 atheism 、、 Atheismus 方。親切、博愛、隣人愛に通じるが、ニーチェはこ ルサンチマンから相手を「悪」と規定し、その対極 神は存在しない、とする立場。ニーチェはときに無れを畜群道徳であるとした。 にある自らを「善」とする。ニーチェは、「ローマ 神論者といわれるが、彼は「神は死んだ」と神の存 帝国時代に迫害されていたキリスト教徒はルサンチ マンから、貧しいこと、弱、 在を前提した発言を ( 象徴的とはいえ ) くり返して隣人愛〈りんじんあい〉↓。 8 、 142 しことが尊いとい一つ道・徳 しし・カ十 / し neighbor-love 、、 NächstenIiebe おり、妥当な指摘とは、 観が生まれた」と主張した。ルサンチマンとは要す 自分の欲望を抑制し、人のために奉仕すること。ニー るに、逆恨み、負け惜しみによって自らを正当化し チェはこれを自然な人間らしさに反する感情であようとする感情のこと。 物自体〈ものじたい〉↓ thing ゴ itself 、、 Ding an sich 畜群本能に由来するとして批判した。また、隣 カント哲学では、人間の認識には限界があり対象人愛は自己愛が足りないものが自分を愛させようとローマ帝国〈ろーまていこく〉↓、 6 8 や現象自体は認識できないとする。物自体とは、認することにすぎないとも指摘した。 the Roman Empi 「 e 、、 das 「Ömische Reich 識できない対象の本質的な実体、本体のこと。 古代ヨーロッパに君臨した帝国。紀元前 8 世紀頃の 都市国家に始まり、王政、共和制を経て紀元前年 倫理学〈りんりがく〉↓ ethics 、、、 Ethik に帝政となる。 152 世紀の最盛期は、ヨーロッパ 人間がお互いの間で行う行動についての善・悪を問 全土から北アフリカ、ブリテン島に至るまでの大帝 国になった。 し、規範、原理、道徳を追究する哲学。 ルー・ザロメ〈るー・ざろめ〉・、掲 ワークナー〈わーぐな↓・秬 欲望〈よくほう〉・ P138 、、、 Lou A. Salomé desi 「 e 、、 Trieb, Ve 「 langen 、、 W. R.Wagne 「 足りないこと、ものを満たそうとして「ほしい」「し ニーチェが一目惚れをし、失恋した女性。弟子とし ( 1813 5 18 8 3 ) ドイツの作曲家、音楽家。 たい」と思う感情。欲望を満たすための行動はキリスての彼女の才能をニーチェは手放しでほめている。 音楽、劇、文学を融合する総合芸術を作り上げるこ ト教では悪とされるが、ニーチェにとっては欲望こそ自 後に、彼女との交流は、妹エリーザベトら家族とのとを目指し、ヨーロッパ音楽に絶大な影響を与えた。 然な人間の姿なので、肯定されるべきものである。 不和を招くこととなった。 バイロイト祝祭劇場を設立。ニーチェは初めワーグ ナーに心酔するが、やがて権力者におもねる姿に失 望し離れていった。 里目一〈りそう〉↓ ideal 、、 ldeal 現実に対して「あるべき」または「本質的な」姿の 我思う、故に我あり〈われおもう、ゆえにわれあり〉 こと。ヨーロッパ社会では禁欲主義的な生き方が理 4 想とされが、ニーチェはこれを畜群本能から生まれ 一 think he 「 e → 0 「 e 一 am. 、、 CogitO e 「 go sum. ( ラテン ) た一つの考え方とし、世の中の理想に最高の価値を デカルトの有名なフレーズ。この世のすべての存在 置くことの意味を否定した。 を疑ったとしても、考えている自分の存在だけは疑 - んない という意味。デカルトの思索は、哲学的に 自我の存在を基礎づけたとされ、以降の西洋哲学の 底流となった。 や・ら・わ行 ま行 759
をうたね ルサンチマンから 脱却した人間は 0 0 これが ニーチェの言う 「超人」の生き方 なんです たから 「欲望のままに 生きる」って ことなんだ : 「カへの意志」に 身を委ねて 生きられる ニーチェって、 なんかスゴイ プラス思考 ですね・ : ですね それ、 新知恵さんが 言ってたけど・ : ニーチェは そんなふうに 生の本質を とらえ 生を徹底的に 肯定したんです 最初にお話しした 彼が「生の哲学者」 と言われる ゆえんですね もしゃ : に、新知恵さんっ あれ ? 言ってません でしたつけ ? ああー そういえば そう言って ましたよね : 大パニックの へどかて あった : 聞いてない ですよーっ " あれつ ? 0 129
いまの強さに 達したら 不断に超越を 求めます すぐにそれを 超越した強さを 求めます 生命体すべての 「カへの意志」が せめぎ合うことで 世界は成り立って いるのです 「カへの意志」は すべてのものが 生きてるん ですか : ・ ? その通り そうして 自己拡張を 目指している 「カへの意志」で そのバランスこそが 世界のありよう であり、 生の本質だと ニーチェは 考えたんです 一 D 人間を支配 しているのは 理性や 感情ではない 人ー 本当は しかし人間は、 「善悪」 ルサンチマンに由来するなんて ないのに : 「善悪」を その欲望に当てはめ、 抑え込んでしまう なんです ! 「カへの意志」 人間が欲望として 感じられるのも 「カへの意志」の働き 728
1 力への意志 せめき合い、間的にある形・現象をとる ( 世界は「カへの意志」のせめぎ合いの連続 ) 教 宙 学 科 然 自 思想 ムロ 政 伝統 争 族 民 国家 道 婚 い口 「意志」に 主体や帰属性はない そもそも「意志」とい一つ言葉のイメージ に惑わされて、私たちは本質を理解しづら くなっている。 日常生活において、意志という言葉は「私 の意志で離婚を決めました」「強い意志を持 って、上司に僕の意見を言ってやる」とい うように使うのが普通だからだ。そのため、 「生を動かすのはカへの意志」と聞くと、 考える力を持った「誰か」や「何か」が 私たちを乗っ取り、操っているかのように 錯宀見してしま一つ。 しかし、カへの意志は、何らかの主体が 持つ意志ではないし、帰属性もない。目的 ) て、それぞれの力を常に大きくしよう るもの ある。 132
プラトンのイデア論 自 井女 美美 西欧社会の遠近法的思考ー 2 実際 彫刻 現実世界の 事物に宿る 美のイデア 絵画 建 き刃識には 理性的な 思考が必要 感覚的に 認識できる いるのに、なぜ人は美しいものに対して「美 しい」という感想を持つのか それは、それらのものごとが「美しさ」 を成立させる本質的な何かを有しているか らだ。 このように考えたのが、古代ギリシアの 哲人プラトンだ。このような美しさを成立 させる超越的な根拠をプラトンは「イデア」 と呼んだ。つまり、理想の世界に「美のイ デア」というものがあり、それがある形を 通して実世界に現れた事物が、花や美男美 女と言われたり、芸術作品などになる、と いうわけだ。 ただし、完全な美のイデアは真理とし て存在するだけであって、実際に見たり触 ったりすることはできないあくまでも現 実世界に形を持った仮の姿 ( 仮象 ) として しか、人間は美に接することはできない したがって、プラトンの考え方では、イデ アの存在は、思考を通してしか認めること はできないとされる。 9
00 ! 「生」の本質を受け止めて生きる 「芸術的」な生き方 「節度」を大切にする生き方 ・自由な人生 ・決められた人生 ・人に認められるための人生 ・希望に満ちた人生 ・自分で自分を認める人生 ・人に評価される人生 ・楽しい人生 ・つまらない人生 0 0 理性」 = 形式、秩序 、情動 「 ~ するべき」が行動になる が行動になる 人生を楽しむことを 恐れてはならない ニーチェは、人間は本来、贅沢を愛す る生き物だと述べている。「贅沢癖は人間 の心の奥底にまで及んでいる。余計なもの、 過度のものは、彼の魂が最も好んで泳ぐ水 であることを、この癖は示している」と彼 はいう。もちろん彼は贅沢癖をネガテイプ に考えていたのではない。そのまったく逆 ニーチェ自身、芸術を愛し、グルメで あり、豊かな生活を大切にした。 彼のいう贅沢とは、金がなければ得られ ないものばかりではない。豊かな心、喜 べる心があればいい繊細な情緒があれば こそ、人は多くのものを生みだすことがで きるのだ。 その点、いま、生活を心から楽しんでい る人はどれだけいるだろう。「贅沢は敵」と ばかりに、ひたすら守りに入る。目先の数 百円、数千円を節約するためにワンシーズ ぜいたく 1 イ 8