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検索対象: 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏
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1. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

・威嚇 閑話休題。ホイットニーの返書に話を戻しましよう。 「提案は考慮に値しない」と結論した後にも、ダメ押し とも思える記述が 2 ヶ所あります。その部分をあげてお きます。 he will not compromise it - - either ⅲ principle or basic form. He will not yield tO unnecessary de- lay. 冒頭の he も第 2 文の He もマッカーサーのことです。 it は GHQ 草案。したがって、 compromise は他動詞にな りますから、冒頭の文章は「草案の内容については妥協 するつもりはない」という意味になります。この内容に ついては、その後に但し書きがあり、「原則でも基本の 形においても ( either in principle or basic form ) 」とな っています。この principle と basic form は草案のどの 部分を指すかが、この後の日米交渉の鍵です。 さらに、「不必要な遅延 ( unnecessary delay ) 」には「妥 協することはない ( yield (o) 」、つまり、「改憲に不要 な遅延は認めないぞ」と脅しているわけです。ィールド ( yield ) はビジネスパーソンにはなじみのある単語で、 「利子」とか製造業で使われる「歩留まり」という意味 にもなりますね。 172

2. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

のかという、素朴ですが興味深い質間です。 TO begin with we have no objections tO the basic principles 0f your draft. But there are certain ques- tions. 冒頭の文で、「基本的なプリンシプル ( the basic prin- ciples ) 」については異存なしであると、いわば建前をく り返し、「しかし、いくつか質間がある ( But there are certain questions ) 」と本音を言い始めます。 ls it better tO retain our present constitution and then revise it in terms Of the basic principles you have set forth? Or, is it better to begin with a completely new document? 「現行の憲法をそのままにしておいて ( retain ) 、あな たの提案である基本的なプリンシプルによって ( in terms of ) 改定する方が良くはないか ? それとも、ま ったく新しい草稿 ( a completely new document ) から 始めるのがより良いのか ? 」。 さて、ホイットニーはどう答えるでしようか ? We have carefully considered that problem. We 190

3. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

収めます。 study out の out は「 ~ し切る」というニュ アンスです。「どうすれば良いか考えて結論を出さねば ならぬだろう」ということ。この部分、松本国務相の記 V. もう一度、原則について 右の案の実現につき、直ちに研究に着手すべきことを 録では次のようになっています。 約す。又、来る、 26 日は閣議定日なるをもって、今日 松本国務相は、 の結果につき報告する考えなり こで大切な質問をくり返します。冒 want t0 advise the Cabinet what and how many of the Constitution dO you consider basic and unalterable? I But first, how many of the articles in the new form) 」とは具体的に何を指すのかを知りたい。 ( fundamental principles ) 」と「基礎となる形式 ( basic 頭でも述べましたが、 GHQ の言う「基本となる原則 Articles are absolutely necessary.. 冒頭の Butfirst は「それにしても、第一には」。 200 「実は、

4. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

第 7 章逆襲と敗退 , こが大事なところなのだが」ということでしよう。国 務相が聞きたかったのは「基本的 ( basic ) で変更はで きない (unalterable) と考える条項はどれで ( what ) 、 いくつあるのだ ( how many ) ? 」ということです。彼は、 今日の会談の結果として、それを前述した 26 日の閣議 で伝えなければなりません。 ホイットニーの答えは、シンプルで威圧的でもありま す。 201 進めている印象を受けます。しかし、それも白洲次郎の ルを相手にほとんど一人で議論を展開し、優勢に論戦を ケーディス、ラウ工 て、松本国務相が、ホイットニ に書かれた以外のことも議論されているのですが、総じ この会談は 1 時間 40 分続きました。もちろん、 な松本国務相も苦しい立場であったろうと思います。 が幣原首相に伝えた趣旨とは明らかに異なります。剛腹 のまま何も変えるな」とも取れる発言で、マッカーサー Constitution) が基本であると考えている」。つまり、「こ 「書かれたまま ( as written ) の憲法全文 ( the whole basic. Ⅵ宅 feel that the whole Constitution as written is

5. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

第 4 章 2 月 13 日の会談 V. 日本側の受け止め方 次に、日本側の GHQ 草案に対する受け止め方を見て みましよう。 まずは、松本国務相のメモを読んでみます。ホイット ーの言葉を彼はどう理解しているでしようか。 3. 「吾人は日本政府に対し、此の提案の如き改正案の提示 を命ずるものに非ず、然も、此の対案と基本原則 ( funda- mental principles ) 及、根本形態 ( basic form ) を一に する改正案を速に作成提示せられんことを切望す」と ( 原文は漢字とカタカナのみであるため、読みやすくなるように漢字の 一部を修正し句読点を加筆している ) GHQ の記録にも、同じ点について記述された部分が あります。 General Whitney reiterated that it was not his in- tention tO imply that the draft Constitution must be accepted ⅲ its entirety but only that all 0f the basic prmciples contained in the document must alSO be pro- vided for in any Constitution that the Supreme Com- 123

6. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

第 8 章日本国憲法の成立 4 日の午前 10 時、予定通りに松本国務相、白洲次郎、 佐藤法制局第一部長、他 2 名が、日本語の草案と説明書 を携えて GHQ を訪間します。 日本側は 2 月 13 日案の日本語訳に近いものを提出し てくるであろうと考えていた GHQ は、この草案を読ん で驚きます。ケーディスは 1973 年のインタビューで、 この時の感想を次のように語っています。 . I expected a translation of our draft ー that would translate back into our draft, which theirs isn't. I didn't think that at that time they would just be adhering to basic principles. 最初の文は、「期待していたのは、我われの案の日本 語訳 ( a translation of our draft ) であって、それを英語 に逆翻訳 ( translate back into ) すれば、我われの案に戻 るはずであったが、出てきた案はそうはならなかった (theirs isn't) 」となります。実際、ねばり強い松本国 務相は、 GHQ 草案にある前文をそっくり落とすなど、 かなりの変更を加えていました。 二つ目の文は、「この時点で、日本側はマッカーサー 二原則 ( basic principles ) を遵守しているように ( would be adhering to ) は思えなかった」です。 211

7. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

第 4 章 2 為 13 日の会談 This Constitution represents the principles which the Supreme Commander and the Allied Powers are willing tO accept as a basis for the government 0f Japan . こちらは、米本国、極東委員会について一切触れず、「こ の草案にあるプリンシプル (the principles) は、日本政 府の基盤として ( as a basis ) 連合国も受け人れる予定 のものである (are willing to accept) 」とだけ書かれて います。受け人れられたのは草案ではなく、おそらくマ ッカーサーの三原則でしよう。松本国務相のメモにある 内容とはだいぶ違います。 . because the principles enunciated in this document provide a basis for free democratic government in Japan and for carrylng out the terms of the Potsdam Declara- tion . なぜ、連合国が受け入れるのかというと、この草案に 明示された ( enunciated) 原則が「民主的政府の基盤を 提供 ( provide ) するから」であり、また、「ポッダム宣 言の内容を実現 ( carrying out ) するため」であるとい うことで、 こには 2 月 1 日のメモランダムにあった、 改憲を行う法的根拠がほぼそのまま書かれています。 121

8. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

mander would support ・ 少し難文です。①の that 節にあるのは、 not ~ つまり「 ~ ではなくて、 ~ である」の構文です。「 ~ 」 にあたる節が二つあり、それが②と③の that に続く節、 両方ともマッカーサーが imply 、つまり「示唆する」に 関わる内容です。 最初に出てくる①の that は、主文の動詞 reiterated の 内容を受けるもの。 reiterate は、ビジネス交渉でも強調 したいことをくり返す場合によく使われる「再度言う」 という動詞です。 文法の講釈はこのくらいにして内容を訳してみると、 ②の that 節に言う「この草案を丸ごと ()n its entirety) 受け入れろとマッカーサーは示唆 ( to imply ) したいの ではない」。 request や order とはせず、 imply を使うとこ ろにホイットニーの外交力を感じないでもありません。 これで「強制性」が低くなるのです。 マッカーサーが「示唆」したいのが③の that 節。訳し にくいところですが、「最高司令官がサポートするのはど んな憲法であれ (any Constitution) 、この草案に含まれ た基本的な原則がすべて ( all of the basic principles ) 備 えられて (beprovidedfor) いる」憲法であり、マッカ 124 but ・ ~ 、

9. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

第 3 章改憲への道 合わない」と考えつつも、この時点ではまだ日本主導に よる改憲の望みを捨ててはいないようですね。 ・マッカーサーとホイットニーの関係 I thought it advisable tO agree t0 this meeting ( which Mr. Yoshida stated would be “ 0 代 the record ” and on a no commitment basis ) . 冒頭の文章は「この会談についてはご了解をいただき たいと考えていた ( thought it advisable to agree ) 」と 過去形です。さらに、了解して欲しいのは会談の延期で はなく、会談そのもの。つまり、ホイットニーは、マッ カーサーに吉田外相との会談については伝えていなかっ たか、了解をもらっていなかったかのどちらかです。 この会談を「吉田外相は『オフレコ』で拘束力はない としている ( Mr. Yoshida stated would be " 0 仕 the record" and on a no commitment basis ) 」と断っているのは、 勝手に会談を設定したり、延期を提案したという独断専 行に負い目があるからかもしれません。マッカーサーが こういうことにうるさいのか、ホイットニーが上司に気 を使っているのか、おそらくその両方でしよう。この文 章からは、そんな両者の関係までが読み取れてしまいま す。 85

10. 日本国憲法はどう生まれたか? : 原典から読み解く日米交渉の舞台裏

第 7 章逆襲と敗退 tried tO use your present ConstittItion as a basis for revision. lt was lmpossible. 「我われもその問題については深く考えた ( carefully considered) 」。単に「その件 (issue) について」とか「あ なたの提案 (yourpr 叩 osal) について」とはせず「その 間題 ( that problem ) 」としたところにホイットニーの 心の内が見えます。 GHQ は、極東委員会の件があり、 作業を日本政府に任せ、明治憲法の見直しから始める時 間がないという「間題」を抱えているのです。 そして、「現行憲法 ( your present Constitution ) を改 定の基礎 ( a basis ) にしようとした ( tried ) が、不可能 であった (ltwasimpossible) 」と結論してしまいます。 You must remember that this new Constitution is a document that will be presented to the world, and will demand the attention of the world. 次に、「なぜ不可能かについて」の説明。「新しい日本 の憲法は、世界に向けて発信され (will be presented to theworld) 、その注目を浴びるものでなければならない ( will demand the attention of the world ) 」。 幣原首相との会談におけるマッカーサーの発言を受け ての回答です。マッカーサーは「天皇を守るためには、 191