①株主資本の分類の基本的な考え方 ますは、株主資本の分類の基本的な考え方をザックリと理解してください。次のページの図 表 4 ー 8 をご覧ください。株主資本は、株主から出資してもらった元本 ( 元手 ) である「資 本」と、会社が稼ぎ出した儲けの蓄積である「留保利益」の 2 つの概念に大きく分類できます。 め この「資本」と「留保利益」を、これまで勉強してきてよく理解していただいている一言葉で言 の えば、「資本金」と「繰越利益剰余金」です。まずは、この「資本金」と「繰越利益剰余金」 人 の 2 つの言葉だけを使って、「資本」と「留保利益」の基本的な考え方を説明します。 め この 2 つの中で、資本金は基本的に配当できないもので、繰越利益剰余金は配当できるもの 深 を です。その理由を考えるには、会社法が株主及び債権者 ( お金を貸してくれている人 ) を保護す るものであるということを理解しておかなければなりません。 ます、株主の保護という観点です。株主の保護というのは、配当できないというより、資本さ 金の額を勝手に変えてはいけないということです。会社が株主から資本金を集めてきて、経営章 第 者が何の承認も得ずに資本金を減らして、その減らした分のお金を勝手に使うというようなこ とがあってはなりません。ですから、資本金を減らすには株主総会での決議が必要になります。 実は、資本金を配当できないようにしている真の理由は、債権者を保護するためです。会社
むしろ、稼ぎ出された儲けは、何らかの形で分配したり、会社に再投資したりすべきものなの です。 資本と留保利益についての基本的な考え方は以上です。簡単に一一一〕えば、株主の出資額は払い 戻しをしてはならない。事業活動によって出資額以上の余剰が生まれた分 ( 剰余金 ) に限って 配当してよいというのが原則です。 ②準備金はなせ必要なのか 原則は以上の通りですが、配当可否をもう少し詳しく見ていきましよう。図表 4 ー 9 をご覧 ください。上側の図は 256 ページの図表 4 ー 8 と同じものです。株主資本は元本である「資 本」と、儲けの蓄積である「留保利益」の 2 つに大きく分類できると言いました。 この株主資本の科目を、配当できるかできないかの観点で整理しなおしたのが図表 4 ー 9 の 下の図です。このように整理すると、株主資本は「資本金」、「準備金」、「その他剰余金」の 3 つの欄に分かれることがわかります。この 3 っ欄の中で、株主資本を理解するためのカギにな るのが、資本準備金・利益準備金という 2 つの準備金の存在です。 前述したように、資本金は債権者を保護するための余裕分として機能するので重要なもので す。債権者は資本金を見て、その会社が債権者を保護する余裕がどれくらいあるかを判断する 258
ん。そのようなリスクに対処して債権者を保護するために、資本金は配当できないことにして いるのです。 債権者へ分配する資産が残っているかどうかを、実際の資産価値を調査し計算し判断するに は大変な時間と手間がかかります。なので、現実的には計算書類から判断するしかありません。 つまり、債権者に分配する資産を確保しておくために、現実の資産価値と計算書類の数字のズ め レの余裕分として、資本金分を維持することにしているのです。 株主は有限責任です。有限責任というのは出資額以上の責任は負わないという意味です。具の 体的には、会社に財産がなくな 0 て債権者への支払いができなくなっても、株主が追加の負担 め を求められることはないということを意味します。 深 を もし、資本金分の資産を株主に先に分配し、債権者に分配する資産が会社に残っておらす、 債権者が貸付金の回収ができなかったとしても、債権者は株主に借金の返済を要求することは できません。株主は出資した範囲の有限責任しか持っていないからです。なので、資本金分をさ 先に株主に分配することを制限しているのです。これが資本金を配当不可にしている真の理由章 第 なのです。 一方で、繰越利益剰余金は配当可能です。なぜなら、繰越利益剰余金は元本を元手にして稼 ぎ出されたものだからです。繰越利益剰余金は株主のものであり、株主が自由に処分できます。
①資本金と資本準備金への割り振りはどう考えればよいのか 出資額のうち、資本金と資本準備金へどのように振り分けするかは、資本準備金が出資額の 2 分の 1 を超えない範囲であれば自由に配分できます。通常、出資額のすべてを資本金とはせ ず、一部を資本準備金にするのが一般的です。なぜなら、資本準備金と利益準備金の合計額が 資本金の 4 分の 1 になっていなければ、配当するたびに準備金を積み立てなければならず、配 め 当できる額が制限されるからです。 の 人 ただ、前述したように、資本金は債権者が会社の信用を測る目安であり、登記して公一小する ものですから、できるだけ資本金を多くしておきたいと考える人もいるでしよう。逆に、資本め を 準備金の額を多めにして、経営の柔軟性を高めておきたいと考える人もいるでしよう。 また、資本金の額によって、具体的な影響が出てくることもあります。例えば、会社法上で ら は資本金が 5 億円以上になると大会社に分類され、会計監査人の設置などの義務が増えます。 さらに、資本金の額によって税率も変わりますし、資本金が 1 億円以上になると、税務調査の章 第 管轄が税務署から国税局に替わります。 したがって、実務的には、事業計画によって資本が 7 億円必要な子会社を作るような場合に、 大会社にしないために資本金 4 億円、資本準備金 3 億円というような入れ方をしている会社が
あったりします。また、国税局の管轄になりたくない中小企業などは、資本金 8 千万円、資本 準備金 4 千万円といった入れ方をしている会社もあります。 会社法が施行され、株式会社の資本金は 1 千万円以上というような最低資本金規制は廃止さ れ、今では資本金 1 円でも会社が設立できるようになりました。また、総資本約町兆円の超巨 大企業トヨタ自動車の資本金はわずか 4 千億円程度です。兆円を超える利益剰余金は積み上 がっているものの、総資本に対する資本金の割合は 1 % 未満です ( 2016 年 3 月期 ) 。このよ うな例からもわかるように、昨今では資本金の額自体は大きな意味を持たなくなってきている と一一口、んるでしよ、つ。 ここまで、資本準備金について長々と説明した最後にこんなことを言うのは恐縮ですが、私 たち財務諸表が読めればいいだけの人にとっては、やはり資本金と資本準備金は同じ種類のも の、つまり株主から会社に注入してもらったお金に係るものであると理解しておけばよいと思 います。第 2 章でも説明したように、財務の専門家が財務分析をするときも、資本金と資本剰 余金はセットで見ています。 ④その他資本剰余金 次に、 259 ページの図表 4 ー 9 の下側の図の網掛け部分の「その他剰余金」が、どのよう 266
図表 2 ー 6 をご覧ください 。これはの純資産の部の表記例です。純資産の部については、 第 4 章で詳しく説明します。ここでは、次に説明する「株主資本等変動計算書」を理解してい ただくために、「株主資本」の項目を簡単に説明しておきます。 「—株主資本」は、大きく「 1 資本金」「 2 資本剰余金」「 3 利益剰余金」の 3 つに分かれま す。「 4 自己株式」については第 3 章で詳しく説明しますので、ここでは取りあえず無視して おいてください。 資本金は株主から資本金として注入されたものです。資本剰余金の中に「資本準備金」とい礎 う項目がありますが、これはさまざまな 法 理由から、払込資本のうち資本金として 差 計上しない額を積み立てておくところで 余余金緬 表 す。「その他資本剰余金」は、資本金や 等益額 金本金益金剰 資本準備金を取り崩した場合に、その減財 差価 式算有ゲ評権少差額などが入るところです。このあた章 部本金剰資そ剰利そ任繰株換他へ再約 己・の延地予りの詳しい内容はまた第 4 章で改めて説第 6 の資本本厂 , 益 , 一主資資いリいに 自価そ繰土株 2 産株 1 2 3 4 評 1 2 3 新明しますので、ここでは「 1 資本金」 表資 図純ー と「 2 資本剰余金」は同じ種類のもの、
いしている点がもうひとつあります。多くの会計の入門書には「会社がお金を集めてくる方法 は、他人から借りる方法と、資本家から資本金として入れてもらう方法の 2 つがある」と書い てあります。私たち会計の素人はそれをそのまま鵜呑みにするから会計がどこまでいってもわ からないのです。 会社がお金を集めてくる方法は、実は 3 つあります。それは、他人から借りるという方法、 資本家から資本金として入れてもらうという方法、この 2 つの方法に加えて「自分の会社が稼 ぎ出す」という 3 つ目の方法があるのです。つまり、自分の会社が稼ぎ出した「当期純利益」 が、の右下に表されている「利益剰余金」に積み上がっていくのです。 もう一度をまとめて説明しておきましよう。 3 つの方法、つまり他人から借りる、資本 家から資本金として入れてもらう、そして自分の会社が稼ぎ出すという 3 つの方法で集めてき たお金が、今現在どういう形に変わって会社の中に存在しているのかということを表している のがなのです。 ちなみに、の右側の総額を「総資本」と呼ぶことがあります。負債の部と純資産の部の 合計のことです。の左側の総額を「総資産」と呼ぶことがあります。資産の部の合計のこ とです。総資本の額と総資産の額は常に同じです。また、純資産の部のことを「自己資本」、 負債の部のことを「他人資本」と呼ぶことがあります。自己資本と他人資本を足したのが、
区分されていて、資本剰余金の配当に伴う準備金の積み立ては資本準備金へ、利益剰余金の配 当に伴う準備金の積み立ては利益準備金へ繰り入れられるのです。 また、ここまでくれば会社法上の「欠損」の意味も正しく説明できます。欠損とは分配可能 額がマイナスの状態のことです。つまり、 259 ページの図表 4 ー 9 の下の図の、配当できる 「その他剰余金」の合計額がマイナスになっている状態のことなのです。 ⑥欠損てん補のための資本から利益への振替え 資本と利益の混同は禁止されてきました。何の手続きも経すに資本を利益に振替えてしまう と、振替えた結果、配当可能となります。そして、それが実際に配当されてしまえば、儲けて もいないのに会社財産が減ってしまうからです。 しかし、欠損のてん補のために資本を減らしても、繰越利益剰余金がマイナスからゼロにな るだけで、配当もできないため、会社財産が減少する可能性もありません。むしろ、資本を使 って事業をした結果、資本を食いつぶしてしまったという事実を表すことになるという意味で、 資本と利益の混同に当たらないとされています。 ただし、欠損のてん補額を超えて資本金や資本準備金を取り崩した額は「その他資本剰余 金」に繰り入れられます。ちなみに、欠損のてん補額を超えて取り崩した利益準備金の額は 270
、。 , Coffe 円 B っ 22 を 資本金と株式の関係 私たち会計の素人がついつい混乱してしまうのが、資本金と株式の関係ではないで しようか。過去には額面株式という制度がありました。みなさんも円株とか 5 万円 株といった言葉を聞いたことがあるのではないでしようか。昔のように、株式が額面 発行されていた時代には、発行価額に発行済株式数を掛ければ資本金の額になってい ました。 また、昔の株式の発行価額には、額面発行、時価発行、中間発行 ( 額面と時価の中 間付近で決定する方法 ) という 3 つの方法がありました。 そのような時代は、資本金と資本準備金への振分けも、本来の資本準備金の目的に フィットした意味合いがあったのではないかと思います。例えば、額面 5 万円の株の 発行価額が 7 万円だった場合、 5 万円を資本金に繰り入れ、 2 万円を資本準備金に繰 り入れるといった振分けです。額面部分の 5 万円を資本金として保持し、それを超え 272
資本の中に比較的柔軟に動かせる部分を持っていたほうが経営はやりやすくなります。 そのような利害関係の狭間で生まれたのが資本準備金です。会社法では、株式を発行して払 込みを受けた金額 ( 出資額 ) の 2 分の 1 を超えない額を資本準備金として計上することができ ることになっています。正しく一一一口えば、出資額の 2 分の 1 以上を資本金にしなければならない ことになっていて、残りは資本準備金に入れなければならないことになっています。資本金に 入れない分を勝手に配当されては困るので、資本準備金にして配当できないものにしているの です。図表 4 ー 9 の下側の図の通りです。 読者のみなさんの中には「どうせ配当できないなら、資本金にしとけばいいじゃないか」と 思われた方がおられるでしよう。実は、準備金には将来の損失に対する準備という目的がある のです。 準備金は、 190 ページで説明した退職給付引当金のようなイメージで理解しておくのもひ とつの方法です。退職給付引当金は将来にほほ間違いなく発生する費用の当期分を引当てて準 備しているのに対し、準備金は将来の欠損に備えるために準備しているものという考え方です。 出資額をすべて資本金にしていたとすれば、欠損をてん補するには資本金を減らす減資を行 う必要があります。しかし、準備金が積み上がっていれば、資本金を変えずに欠損のてん補が 比較的柔軟にできるのです ( どうして柔軟なのかについては 263 ページの「 co e Break 8 」 260