価が世界でトップクラスであるといっても、この価格はないだろう。ある軍事雑誌では、最近の一 輌約八億円台という調達価格を『量産効果』の賜物とかなんとか解説していた。七四式戦車のよう に七百輌も量産するならともかく、わずか二百輌ていどの量産で『量産効果』による価格低下が実 現可能なのだろうか ? まあ、少しは量産効果もあるのだろうが、戦車にかぎらす、わが国の防衛装備品は、国内需要の みのため多品目少量生産となっているよな。戦車などは航空機よりまだマシだが、それでも月産ペ ースで一・六輌ていどにすぎん。ほとんど手作りに近いわけだ。つまり、 いくら防衛装備品が特殊 な工業製品であるとはいえ、生産設備よりも材料費よりも、なによりも人件費の占める比率は無視 できるものではないんだ。 おじさんが思うに、バブル崩壊以降のデフレ経済により、下請けから孫受けに至るまでの、製造 に関わる工員の作業工数あたりの賃金が安くなったことによる価格低下、というあたりが真相では ないかな」 ち 九〇式戦車のライバルたち イ の 太郎「わが国自漫の九〇式戦車だけど、そのライバルたちは、どのような実力を持ってるんだろ 戦う」 〇おじさん「そうさな、米軍のー 1 戦車や英国軍のチャレンジャー戦車などは、湾岸戦争で活躍 してあまりにも有名だ。だから、御主も多少は知っているだろうから、それ以外の戦車を紹介する 191
太郎「はいツ、がんばります。ところで、九〇式戦車とか米軍のー 1 戦車なんかは変速機もオ ートマチックで、七四式よりもっと操縦が簡単って聞いたけど おじさん「うん、しかも九〇式戦車はバイクのようなバー型のハンドルだから、操縦は容易だ そうだ。六一式戦車や米軍供与のー 4 戦車を操縦していた人からすれば、まさに隔世の感がある だろうな」 「地の利を活かして戦闘せよ ! 」陸自の戦車運用 用おじさん「つぎは、陸自の戦車運用、つまり戦車を用いた作戦について説明しようか。自衛隊の 車国土防衛戦における究極の目的は、戦勝を獲得し、国民の生命財産を守ることだ。クラウゼヴィッ ツの言を持ち出すまでもないんだが、戦争とは政治をもってする目的達成の手段にすぎない。戦争 ・目 陸の目的がなんであれ、また、それが自衛戦争であれ、戦争に勝たなくちや意味がないよな。 そして戦勝の獲得は、各種火力の発揮によって敵を撃破し、普通科部隊、つまり歩兵が目標を陣 よ 闘地占領することにある。その積み重ねによってはじめて目的を達成できるんだ。しかし、いかに歩 0 兵が最終的に陣地を占領し、戦闘の勝敗を決する存在だといっても、歩兵だけをもってして戦争に し か勝てるわけじゃない。 そのため、戦車部隊や特科部隊などの火力なくしては敵を撃破できないのだ。したがって、火力 の の発揮という点において、戦車は必要不可欠な存在だ。 地 一般的にどこの国の軍隊も、それぞれの国情に合致した独自の戦術を確立し、それを基礎として 127
おじさん「かっての第二次世界大戦時、ドイツ軍による電撃戦が確立される以前は、戦車は歩兵 支援のために存在すると言っても過言ではなかった。しかし、現代戦においては『歩戦協同』、自 衛隊では『普戦協同』というけれども、戦車に歩兵が随伴し、相互に連係して戦闘するのが常識だ。 いかに戦車が陸の王者とはいえ、その衝撃力をもってしても陣地占領することは不可能でね。逆 に歩兵だけでは機動力と火力の発揮に制約があるし、装甲防御力という面では己の着用する防弾チ ョッキのみが頼りなんだ。そこで、 <æo によって歩兵を装甲化し機動力をあたえ、戦車に随伴さ せて戦闘するようになったのだよ。 ところで、御主はタクシーを利用したことがあるだろう ? 」 太郎「は ? 当然あるに決まってるじゃないスか。いまどきの現代人で一度もタクシーに乗った ことのない人って、まずいないでしよう。でもなんで ? 」 おじさん「当たり前だが、タクシーは『ヘイ、タクシー ! 』と手を挙げるだけで停車してくれる。 いや、べつに『ヘイ』と叫ぶ必要もないけどな。そして『ヘイ、どちらまで ? 』とのゝ 先を告げれば自宅の玄関先にも横付けしてくれる。まあ、江戸っ子じゃあるまいし、いちいち『へ イ』もないだろうがな。 、つまり装甲人員輸送車は、その用途から『戦場タクシー』と表現される。七三式装甲車 が代表的だな。だが、 乗用タクシーのようにドア・トウ・ドアというわけではない。突撃発起点で、 客である兵隊さんは下車しなければならないからだ。これは、現在の、つまり装甲歩兵戦闘 戦場タクシー <CO と戦車の関係 110
可能性もある。また、戦車が全損しなくとも、大破でもすれば野整備レベルでの修理はまず不可能 で、戦車回収車などを使用してデボ、つまり補給処に後送しなければならない。 地雷ってのは受動的な兵器でね、当然ながらそれを埋設した側の軍隊は、敵の予想接近経路に地 雷原を構成するんだ」 太郎「もし、予想に反して敵部隊がその経路上を通過しなかったらどうするの ? おじさん「いい質問だな。通常は、どうしてもそこを通過せざるを得ないように、河川や地隙な どの地形障害や、対戦車壕などの人工的な対戦車障害、さらに対戦車火網と複合的に組み合わせる ことで、敵戦車部隊を地雷原へ誘い込むのだよ。 このように、地雷は現代でもなお有効な対戦車兵器と一一 = ロえるのだ」 戦車の敵は兵器だけではない。各種障害の話 おじさん「『戦車の敵は戦車』とは、むかしから良く言われるけれども、敵の戦車をはじめとす る兵器だけが『敵』ではない。気象条件などの天候や、地形地物などといった自然環境も戦車の敵 となるんだ。 現代のハイテク戦車は、ナイト・ピジョンやサーマル・イメージャーなどにより、夜間や霧とい った条件下でも走行間射撃が可能だし、シュノーケル、つまり潜水装置等を使用したうえで防水処 としよ、つ 置をすれば、『潜水渡渉』により渡河することも可能だ」 太郎「自衛隊でも潜水渡渉訓練をやっているよね 108
これは、『使い捨て型』と『再使用可能型』に大別される。前者としてはベトナム戦時に米軍が 多用したー肥シリーズのロケットランチャー、戦後にドイツのダイナマイト・ノーベル社が開発 したパンツアーファウスト 3 が有名だ。同じものが自衛隊でも使用されているが、発射装置のみ再 利用するので『弾薬扱い』になっている。後者には、旧ソ連製のー 7 や、スウェーデンの 社が開発した八十四ミリ無反動砲『カールグスタフ』、米軍のーロケット発射筒などがあ る」 太郎「ひとくちに対戦車火器っていっても、無反動砲もあればロケットやミサイルもあって、な 器 火かなか多様ッスね」 戦おじさん「うむ。さて、御主は御存知ないかもしれんが、昭和三十年代から四十年代にかけて一 行 ! 』という、第二次世界大戦をテーマとした米国の > ドラマがあった。 擡世を風靡した『コンバット 個かのサンダース軍曹が活躍することでお馴染みのヤツだ」 太郎「知ってますよ。事故でもう故人となってしまったけど、ビッグ・モローが主演だよね。ビ ウデオで観たんスけど、おじさんはリアルタイムで観てたんでしょ ? ク おじさん「いや、俺もビデオで観たよ。本放送が終わってから生まれたんだからな。おっと、歳 をかバレるか。で、この作品は、当然ながら米国の視点で描かれているから、ドイツ兵は『やられ 戦役』として登場するんだが、この『やられ方』というのがじつに情けない。なにしろ、自分が投擲 兵した手榴弾を相手に投げ返されて爆死するんだから。 このお約束の演出、実戦でもしばしば発生しているから描写としてはリアルで、笑ってはいかん。
ミサイルなどを、ミリ波レーダーが探知する。そして、その飛翔経路をコンピューターが計算し、 爆発パネルを作動させることで目標を破壊する仕組みさ」 太郎「へえ 5 、じつにユニークなアイディアだなあ」 おじさん「まったくだな。もっとも、完全な実用化まではまだ時間を要するらしいがな。このよ うに、時としてロシアは、西側諸国が思いもっかないようなアイディアの兵器システムなどを具現 化したりするから、けっして技術的にも侮れんぞ。これは、なにも自由な体制となってからの話で はない。旧ソ連時代からもそうだったな。しかも、戦車などの陸戦兵器以外の分野においても、こ の傾向は顕著だった。一例を挙げれば、水上戦闘艦の、つまり垂直発射システムや、カモフ ーホーカム攻撃へリコプターのイジェクション・シートによる脱出システムなどがそ、つだ。 現在のところ、飛来する対戦車ミサイルの直接的な破壊を狙った防御システムは、ドイツのメー カーが発表した同種のものを除けば、このアレナ Q<cn くらいのものだ。しかし、いずれ同種の防 御システムが世界的に普及するかも知れんな。このロシアの独創的な技術開発に、今後も目が離せ ないとい、つものだろ、つ」 歩兵が戦車をノックアウト ! 個人携行対戦車火器 おじさん「つぎは、個人携行対戦車火器だ。これは、主として対戦車榴弾等を用い て戦車などの装甲目標の撃破に用いられる火器で、兵士が一人で携行・操作可能なものをいう。射 手と装填手の二名で操作するものもあるがな。
ひとくちに機動といってもだ、その目的により『戦略機動』『戦術機動』そして『接敵機動』に 区分される。それに、機動の手段も地上機動だけとはかぎらないしな。『空中機動』もあれば『海 上機動』もある」 太郎「空中機動、つまりへリボーンでしょ ? おじさん「まあそうだが、空中機動とはなにもヘリポーンだけを差すものではなく、たとえば米 軍が 0 ー片輸送機に戦車を搭載しての戦略機動も『空中機動』なんだよ。もっとも、わが国には戦 車を搭載可能な輸送機はないがね。というより、そんな巨大な輸送機を保有している国は米・露く らいだけどな。ちなみに自衛隊では、文書の記述上はヘリボンと標記するんだ」 太郎「じゃあ、空挺降下のこともエアボーンじゃなくてェアボンって書くのかな ? おじさん「いや、それは日本語のままだ。空挺作戦などと標記するけどな。また、海上機動の場 合は、海上自衛隊のつまり輸送艦や、民間のー。型カー・フェリーに搭載されて機動 れする『北方機動演習』が有名だな。軍艦マニアなら常識だろうが、。ー。というのはロールオ なン・ロールオフつまり車輌が自走して乗り降り可能なフネのことさ。 ノイー そして攻撃準備完了となれば、、 しよいよ攻撃開始だ。しかし、敵を攻撃するには敵と接触し、な のおかっ敵よりも有利な体勢を占める必要がある。このための機動を『接敵機動』というんだ。もち はろん、これに際して事前偵察が必要なのは言うまでもないがね。で、偵察は、敵部隊の規模とか能 鵰力を知るためだけじゃなくて、その企図を看破するためにも重要だ」 太郎「つまり、敵の狙ってる目標だとか、どんな作戦を考えているのか見破ることだね」
とまあ、このへんまでは乗用車のカタログなどにも記載されているもので、戦車だから特殊なも のというわけじゃない。特殊と言えば、戦車を解説した書籍などにかならすといってよいほど出て くる動力関係の性能を表わすものにパワー・ウェイト・レシオ、つまり出力 / 重量比がある。これ は、戦車が搭載するエンジンの馬力を全備重量で割ったものだ」 太郎「つまり、この数値が大きいほど機動性に優れた戦車ってことでしよう ? おじさん「そのとおり。現代のの多くはこれが二十五前後でね、わが国の九〇式戦車はじ つに三十という高い数値を叩き出している。 ら もっとも、こうした性能・諸元はメーカーや軍が発表したカタログデータ上の話であって、戦場 第環境を模擬して実用試験が行なわれた結果であるとは言え、カタログどおりの性能を発揮できるか は、実際に戦場へ行ってみないことにはわからないんだ。戦後のわが国は、幸か不幸か実戦経験が 費 のないから、国産戦車の実力は未知数だろう ? 有事という実戦の場において、はじめてその真価を 戦問われることとなるんだよ」 リッター数百メートル ? 戦車の燃費はどれくらいか メ おじさん「七四式戦車は、平坦地を時速三十五キロで走ったとき、一キロメートルあたり約二・五 百 数 リットルの燃料を消費すると言われている。つまり、軽油一リットルあたり四百メートルっていう タ わけだな」 太郎「え、たった四百メートル ? 燃料ガプ飲みのアメリカのスポーッカーより、十倍も燃費が
太郎「そうスよね。だいいち、この爆発で自分も傷ついたりしたら、なんのための爆発反応装甲 かわからない。が爆発するたびに、みずからの損傷も増加していくんじやマヌケだよなあー おじさん「そしてこの、技術的にそれほど高度なものじゃない。世界に冠たるハイテク国 家であるわが国のこと、同様のものを開発するのは雑作もないことだ。それにもかかわらず、自衛 隊ではなぜかこれを採用していないんだな。は、主として成形炸薬弾に対処するためのもの であって、徹甲弾に対しての防護力向上にはほとんど役に立たない。それでも、これにより七四式 戦車などの装甲防護力も、従来より向上するのは間違いないのだから、自衛隊にはなんとか予算化 していただきたいと思うんだがな」 太郎「技術はあってもカネがない、ってことですね」 おじさん「おそらくな。さて、つぎは車体構造なんだが : : : 。車体部には動力伝達のための変速 機、つまりトランスミッションやエンジンが搭載されている。近年の戦車では、これらは『パワー パック』として一体になっているけれども、以前はべつべつに装備されていたんだ。 変速機も、かっては前進五段・後進一段などの手動、つまりマニュアルが一般的だった。戦前の 戦車や六一式戦車などがそうで、乗員の練度によっては変速操作も非常に難儀なものだったんだ。 そのため、むかしのトラックで用いられた『ダブル・クラッチ』のようなテクニックが必要とされ た。つまり、クラッチを切ってギアを一度中立、つまりニュートラル位置に入れ、アクセルを踏ん で回転数を合わせてから任意の位置へシフト操作をし、ギアを繋ぐんだ。このような変速操作を自 衛隊では『中間ガス』と呼んだが、長時間の操縦ではかなりの疲労となったそうだから、馬鹿にで
車『チョールヌイ・オリヨール ( 黒鷲 ) 』の開発も試作でストップしたままで、資金難のため量産 めど 化の目処は立っていないんだ」 太郎「なんだか、いまの低迷するロシアを象徴してるみたいだなあー おじさん「で、一九八〇年代に入ると、列国の第三世代がつぎつぎとデビューを飾った。 これに対しわが国も、世界に伍する戦車として九〇式戦車を開発するわけだ。百二十ミリ滑腔砲や 複合装甲といった第三世代としての標準装備に加え、七四式戦車で確立された姿勢制御技術も継承 された。また、フランスのルクレールと同様に、自動装填装置を採用して注目を集めたのは御主も 知っているとおりさ。 このように、世に戦車が登場して百年にも満たないが、この間の技術的進歩には目覚ましいもの があったな。その一方で、戦車を取り巻く政治的・戦略的環境も変化してきた。近年は、各国とも 戦車などの重厚長大な装備を大幅に削減する傾向にあってね、一部では戦車不要論も叫ばれている んだ。 でも、『衝撃力の発揮』という戦車ならではの特性を考えたとき、それは他の手段をもって容易 に代替できるものではないことがわかるよな。だから、いかに戦車の存在意義が低下しようとも、 戦車という兵器がそう簡単に消滅してしまうとは、おじさんには思えない。 おそらく今後も、戦車は戦車として陸戦の主役でありつづけるだろうし、また、時代の変化に適 合したスタイルとなって生き残るに違いないだろうよ