おじさん「そういうこった。さて、免許取得により戦車の操縦ができるようになれば、晴れて せんしやマン 戦車男の一員になれる。しかし、この後がまた大変なんだ。一人前の戦車男となるためには、さら に数々の教育訓練が待っている。原隊 ( 自分の所属部隊 ) での教育だけでなく、他の駐屯地で実施さ れる短期間の集合教育や、数カ月入校して教育を受けることもある。自衛隊には、隊員の教育訓練 を専門とする『学校』が存在するのは知っているかな ? 」 太郎「陸自の『富士学校』とか『武器学校』なんかのことでしよ。海自や空自には『第〇術科学 校』ってのもあるよね」 おじさん「そうだ。将来、太郎も、陸曹候補生などの試験に合格すれば、方面隊ごとに所在する 育『陸曹教育隊』に入校することになる。まあ自衛隊にかぎらず、民間企業でも研修につぐ研修で勉 の強するとはいえ、義務教育を終えても学校に入校するのは自衛隊くらいだろうな。しかも下っ端で 戦あるうちは、臨時勤務やその他の雑務にも追われるから、その多忙さも推して知るべしってもんだ 陸な」 で太郎「なかなか大変そうだなあー おじさん「まあな。じゃあ実際、太郎がこれからどんな訓練をするのか説明するとしよう。 せんしやマン 戦車男としての乗車時における最も基本的な訓練、それが単車訓練だ。七四式戦車の場合であれば、 操指揮官たる車長と、操縦手、砲手、装填手によって乗員が構成されている。つまり、車長以下四名 車の乗員が一体となって、はじめてその能力を発揮するってコトだな。そのために、この単車訓練に よって連携動作を演練するんだ。 せんしやマン
単車訓練は、『単車教練』↓『乗員の基本的協同動作訓練』↓『応用訓練』というように、段階 的に訓練することとなっている。単車教練とは基礎の基礎とも = 一一口うべき訓練で、号令による戦車へ の乗車・下車などが中心の訓練だ。まず、車長の『定位につけ ! 』という号令により、復唱すると 同時に、戦車の前に整列するところからはじまるのだ。で、この際、車長以下が、自分が車長であ れば『車長』、操縦手なら『操縦手』と、それぞれ自己の任務を呼称する。そして、車長の『乗車 用意、乗車 ! 』の号令でやっと乗車となるわけだ」 太郎「気軽に戦車に乗り込むってわけじゃないのか」 おじさん「ああ。戦車への乗車と言っても、車体の適当な部分を足掛かりにして『よっこらしよ』 とハッチを開け、おもむろに乗り込むのではない。緩な動作ではなくキビキビとした動作で乗車 するんだ。しかも、だれが戦車のどちら側の車体から乗り込むのか、その際は、左右どちらの足を 車体のどの部分に掛け、手は車体のどの部分をつかんで乗り込むのかまでが決められている。もっ とも、これは基本動作の確行を主眼とした訓練だからだけどな」 太郎「つまり、なにごとも基本は大事ということッスね」 おじさん「そうだ。まあ、このように単車訓練でも大変なんだが、これが小隊での訓練となると ト家長の指揮によりその四輌が連携 それ以上に大変でな。戦車小隊は四輌をもって構成されるが、 / ド して行動することを要求される。とくに、集中射による『同時弾着射撃』がその好例だ。太郎、御 主は俺と一緒に自衛隊の総合火力演習を見学したことあるよな ? あれでお馴染みの射撃要領さ。 『撃て』の号令で各車の射弾を一点に集中させるには、小隊長以下の息がピッタリと合っていなけ
陸自戦車男のユニフォームと装備 太郎「おじさん、野営訓練の写真ですけど見ますか ? 自分の戦闘服姿、なかなかキマッてるで 備しょ どおじさん「どれどれ、ふうむ。馬子にも衣装というやっかな ? ところで、戦闘服と一 = ロえば、ど ム この国でもそうだが、一般的に、戦車乗りのユニフォームは歩兵のそれとはデザインを異にしてい フ る。と同時に難燃性の付与や着脱の容易さなど、機能的にもいろいろと考慮されているんだ。これ ュは、戦車王国と呼ばれるドイツ連邦軍やイスラエル国防軍などをはじめとする国々で、難燃素材で 車できたファスナー式カバ 1 オール、つまり『つなぎ型』のユニフォームが用いられていることから 印もわかるだろ、つ。 陸 このユニフォームは着脱が容易でないため、その出現当初は戦車乗りから敬遠された。しかし、 はマシかも知れんな。で、照明下の戦闘であろうとなかろうと、先に敵を発見して初弾を命中させ た方が勝ちだな」 太郎「それじゃあ、逆に初弾を外して敵の反撃で弾が命中でもしたら、生き残れないってことス かね」 オ乗員の練度や士気などはこちらが上回っているだろうから、 おじさん「おそらくそ、つだ。ごが、 日ごろの訓練の成果を遺憾なく発揮できれば、ーを撃破するのも難しいことではないだろう よ せんしやマン 133
写真や図版が豊富で理解しやすくなったとは言え、米軍のマガジンのように、全ページがカラ ーの漫画で説明しているわけではない。昨今、若年世代の国語力低下が社会問題となっているが、 教範に記述してある専門用語の漢字が読めなくては内容も理解できず、訓練にも支障があるという せんしやマン ものだ。つまり、脳みそまで筋肉でできていては戦車男も勤まらないのだ。 せんしやマン また、もちろん戦車男には体力も必要だ。椅子に座ったまま戦争するんだから楽だろう、と思っ たら大間違いだ。つねに戦車に乗って走り回っているわけではないしな。戦車部隊が宿営する際は、 戦車を止めて偽装をほどこし、乗員が交代で直接警戒にあたる。状況によっては、直接警戒用の個 人用掩体、つまりタコ壷や車体がすつほりと隠れるような掩体 ( 穴 ) を掘ることもある。この場合は、 施設科部隊の油圧ショベルなどが支援にやってきてあるていどは掘ってくれるが、あとは自分たち で完成させなければならないし、個人用掩体までは掘ってはくれんぞ。 七四式戦車の時代までは乗員が四名だったけれども、九〇式戦車では三名に減った。だから、こ れらの作業も一苦労だ。また、状況によっては普通科部隊のように、個人装備火器で下車戦闘する こともあるし、車載機関銃を降ろして使用することもあるんだ。 このように体力も求められるが、重要なのは持久力だけではない。なかでも筋力は大事な要素だ な。九〇式戦車は自動装填装置の採用によって、人力で弾薬を装填することはなくなった。しかし、 戦車へ弾薬を搭載する作業までが自動化されたわけではない。 だから、一発一発の戦車砲弾を手渡しで車内の弾架に搭載することになる。しかも五発や六発ど ころの話ではなく、数十発もの搭載数となる。これは重労働だ。なにしろ、多目的対戦車榴弾一発 142
であれ、いや、自衛隊にかぎらすおよそ組織という組織にとって、協調性というのは非常に重要な 要素だ。なぜなら組織とは人により構成されるものであって、『組織機能の骨幹は人にあり』と言 っても過言ではないだろう。そして、組織の規模にかかわらずチームワークは不可欠だ。 一人で戦車を操縦することは可能でも戦闘するのは不可能であるし、逆に乗員の頭数がそろって いたところで、連係動作が上手くできなければ満足に戦闘できない。したがって戦車は、車長以下 の乗員が一体となることによって、はじめて戦車としての機能を発揮できるんだよ。このように、 知カ・体力そして協調性が戦車男に求められる資質ということかな」 戦車の洗車はタイへンー・陸自戦車男の苦労話 おじさん「どうだ、すこしは戦車に慣れたかい ? 太郎「ええ、まあ。でも各部の手入れや洗車が大変ッスー おじさん「だろうな。陸自航空科部隊の装備するヘリコプターなどの航空機は、乗員、つまりパ イロット自身が整備することはまずない。飛行前の外部点検こそパイロットが実施するが、飛行後 点検や整備は整備員が実施する。航空自衛隊に至っては、飛行前点検はもちろん、機上無線機のポ イス・チェックすら整備員がコクピットに乗り込んで実施するくらいだ。 ところが戦車の場合はこうもいかんよな。乗員点検と称して、車長以下が、みずから点検しなけ ればならないのだ。それも運行の前後だけすればよい、というものでもない。運行中、つまり戦車 の走行中であっても、燃料やオイル漏れの有無、各部の異音などの異常徴候や、積載品等の緊定状 せんしやマン せんしやマン
おじさん「かっての第二次世界大戦時、ドイツ軍による電撃戦が確立される以前は、戦車は歩兵 支援のために存在すると言っても過言ではなかった。しかし、現代戦においては『歩戦協同』、自 衛隊では『普戦協同』というけれども、戦車に歩兵が随伴し、相互に連係して戦闘するのが常識だ。 いかに戦車が陸の王者とはいえ、その衝撃力をもってしても陣地占領することは不可能でね。逆 に歩兵だけでは機動力と火力の発揮に制約があるし、装甲防御力という面では己の着用する防弾チ ョッキのみが頼りなんだ。そこで、 <æo によって歩兵を装甲化し機動力をあたえ、戦車に随伴さ せて戦闘するようになったのだよ。 ところで、御主はタクシーを利用したことがあるだろう ? 」 太郎「は ? 当然あるに決まってるじゃないスか。いまどきの現代人で一度もタクシーに乗った ことのない人って、まずいないでしよう。でもなんで ? 」 おじさん「当たり前だが、タクシーは『ヘイ、タクシー ! 』と手を挙げるだけで停車してくれる。 いや、べつに『ヘイ』と叫ぶ必要もないけどな。そして『ヘイ、どちらまで ? 』とのゝ 先を告げれば自宅の玄関先にも横付けしてくれる。まあ、江戸っ子じゃあるまいし、いちいち『へ イ』もないだろうがな。 、つまり装甲人員輸送車は、その用途から『戦場タクシー』と表現される。七三式装甲車 が代表的だな。だが、 乗用タクシーのようにドア・トウ・ドアというわけではない。突撃発起点で、 客である兵隊さんは下車しなければならないからだ。これは、現在の、つまり装甲歩兵戦闘 戦場タクシー <CO と戦車の関係 110
1790 ー型に換装してパワーアップした、最新型のメルカバ・ 3 ですら千二百馬力に すぎない。それでいて全備重量は六十五トンだから、出力 / 重量比からすればかなり非力だ」 太郎「つまり、九〇式戦車より重いくせに低出力ってこと ? 」 おじさん「そういうことだ。では、その非力なエンジンに起因する機動力不足に目をつむってま でこだわった、乗員の生存性はどのへんに見出せるんだろう。ます、 coæk>—on 同様のフロン トエンジンというレイアウトと、それにより奥まった砲塔。被弾確率減少のため、ウェッジ・シェ イプにデザインされた砲塔形状。そして、砲塔リングより上には極力弾薬を搭載しないなどといっ た配慮のそこここに、貴重な人的資源を安易に喪失してなるものか、というイスラエルの意気込み が伝わってくる。 その証拠に、車体後部内のスペースに搭載された弾薬を降ろして、兵員輸送や負傷者後送に使用 したりもしているんだ。メルカバは戦車でありながら、ある種理想のにもなる ( 少々苦しいが ) し、最も堅牢な装甲野戦救急車ともなりうると言えるだろう」 そして最後に紹介するフランスのルクレールは、九〇式戦車と同様に戦車砲の自動装填装置を装 備した戦車だ。その出現時期および性能などから、厳密には戦後第三・五世代として分類されてい る。ルクレーレよ、。、 テシタル・データバスによるデータリンク・システムにより、車輌相互間の戦 闘情報や車輌情報の共有などが可能なんだ。データリンク・システムを有する水上戦闘艦は、 一九七〇年代末から登場していたが、戦車の世界では比較的最近となって実現されたといっていい。 これは、戦闘車輌用デジタル・コンピュータの小型軽量化によるところが大きいよな。 194
難燃繊維の普及と耐久性に富むスライド・ファスナーの出現により、迅速な脱着が可能となったの だ。このため、現在では各国で広く使用されるようになったのさ。 これに対して、わが国で使用されている『戦闘服、装甲用』は、芳香族ポリアミド系繊維と難燃 レーヨンの混紡で、迷彩二型、つまり新迷彩のパターンがプリントされた生地でできている。写真 で御主が着ているやつだね。これは難燃素材というだけでなく、近赤外線偽装がほどこされた生地 でもある。つまり、肉眼でも赤外線暗視装置でも発見されにくいわけで、偽装性にも優れているん だ。形状は、ファスナー式でもカバーオール型でもなく、一般部隊の隊員が着用する『戦闘服、一 般用』同様、ボタン止めで上下に分かれたセパレート型だ。 上衣のデザインは、一般用の戦闘服と似たデザインだけれども、背部の襟の下あたりに救出用ル ープがついている点が異なる。これは、被弾した車輌から乗員を救出する際に使用する取っ手で、 この部分をつかむか、もしくはなにかに引っ掛けて引きずり出すために設けられているんだ」 太郎「戦車からの脱出訓練で、実際にやるんですよねー おじさん「うむ。従来は、このような状況下では、乗員の弾帯、いわゆるピストル・ベルトやズ ゆる ポンのベルト部分をつかんで引っ張り出すしかなかったが、弾帯ゃべルトは時として外れたり弛ん だりすることもあるから具合が悪いよな。たかが取っ手とはいえ、これが付加されたことで、万一 の際における乗員の救出も楽になるだろう。 そしてズボンだが、ポケットの位置などの構造は、第一空挺団などの隊員が着用している『戦闘 服ズボン、空挺用』に酷似した形状だ。こちらも上衣と同様、難燃素材を使用している。 136
れている。つまり、手で必要な大きさに切断して使用できる、いわゆるプラスチック爆弾のような これが戦車に命中すると、装甲板の表面に潰れて密着して起爆し、装甲 材質の炸薬と思えばいい。 板の裏面に応力波が生じて積層状に剥離する。その破片が車内で飛び跳ねて戦車の乗員を殺傷し、 内部を損傷させるわけだ。これが有名なホプキンソン効果というやっさ。 せんしやマン 切り刻まれて戦死するのだから、この作用は非常に恐ろしいよな。もしおじさんが戦車男だった としたら、勘弁願いたいものだ。信念のために生き、信念のためには死をも恐れぬことを信条とす るおじさんだ。己の墓など無用だと思っているくらいだから、どうせ死ぬんだったらそのときは搭 載弾薬が誘爆して、肉片どころか骨も残らぬほど木っ端微塵になるのが理想だな」 太郎「へえ、男らしいっていうか、まさにプロの自衛官って感じだけど、壮絶な死に方ッスね」 戦おじさん「軍人が畳の上で死ねるのは、平時の話さ。有事になったらそうもいくまい。平素から そ覚悟があるかどうかが重要ってことだ。で、最近の戦車は、被弾による弾薬の誘爆時に吹き飛んで 砲砲塔内部の損害を減少させるための『プローオフ・パネル』が設けられていたり、装甲裏面の剥離 戦対策としてケプラー繊維の内張りを施したりしている。乗員の生存性を重視した設計であるのは非 せんしやマン 砲常に好ましいことだが、おじさんが戦車男だったとしたら余計なお世話だな。もっとも、徹甲弾だ 酳って装甲を貫徹すれば車内を飛び回るから、どのみち切り刻まれて戦死することになるし、湾岸戦 砲 争のソ連戦車のように弾薬が誘爆することもある。おじさんと運命をともにする他の乗員にとって イは、『戦死するのはアンタだけで結構』ということになるだろうがね」
2 戦車への乗車要領 車砲操装 縦填 長手手手 下車時の定位 短間隔 短間隔 形戦車への乗車は、それぞれ 隊の隊形に整列した後、車長 の「乗車」の号令によって の 実施するのが基本である。 ト国」 れ乗車にあたっては、車体お ま よび砲塔部の「手かけ」や ー 9 圉 「足かけ」を使用して、定 集 められた順序に従って乗り 9 砲手 込むのだ。 ろ ′ー車長 戦 れ ま 集 の形 車隊 戦の し倒 9 目 - 短間隔