おじさん「うむ。戦車用のプールのような施設を用いて訓練しているよな。 こ、イテク戦車でも空を飛べるわけでは しかし、この世に万能の兵器なぞ存在しないのだ。いかしノ ない。垂直に近い断崖絶壁を昇り降りできないし、超壕能力以上の地隙を飛び越えたりすることす ら不可能だ。たとえば、昭和三十 5 四十年代の少年雑誌には、シュノーケル装備で渡河することが 可能な戦車を『スゴイぞ ! まるで忍者だ、これが潜水戦車だ』などと紹介した記事が掲載された りしていたんだ。 まあ、これは少年向けに兵器を紹介した記事だから、このように大袈裟な表現がなされているの であって、実際には戦車の渡渉可能水深には限度がある。通常動力型、つまりディーゼル機関の潜 話水艦を、俗に『可潜艦』と呼ぶのと同じようなものだ。地形などの自然環境ですら限定的にしか克 害服できないのだから、天然であれ人工であれ、各種の障害は戦車の行動を阻害することになる。と 各くに、人為的に構築された『対戦車障害』などの場合は、それ以上にやっかいな敵となるのだよ。 対戦車障害とは、人工的に構築されるか、自然の地形・地物に手を加えるなどにより構築される。 そして、『対戦車障害』の際たるものは地雷原だろう。現代の戦車は、マイン・プラウという鋤の で ような装置を車体前方に装備できるようになっていて、それを用いて進路上の対戦車地雷を掘り起 こし、爆発させて処理しながら地雷原を通過することも可能だ。しかし、保有するすべての戦車に 兵 マイン・プラウが標準装備されているわけではないし、その能力や効率からいっても、やはりエ兵 車部隊に地雷原啓開してもらう必要があるわけだな」 109
でも売れるのだから、まだマシと言うものだろう。 こうして用廃となる戦車だが、そのすべてが鉄屑となって売り払われるわけじゃない。なかには、 2 広報展示用として第二の人生を歩む戦車もあるんだ。 この場合、たいていは自衛隊の駐屯地や基地などに展示されるが、民間に無償貸付されることも ある。ただ、これは法人などの団体、あるいは博物館などにかぎられているがね。しかも貸付だか ら、その所有権はあくまで防衛庁にある。したがって、個人で戦車が欲しいからといって買えるわ けではないのさ。 これが欧米ならば、軍から払い下げられた戦車を購入して、個人所有とすることも可能だが、わ が国においてそれはまず不可能。だったら、せめて展示車輌を動態保存してはくれまいか、とおじ さんは思う。航空機なら一度主翼を切断されてしまえば、接合したところでまず飛行不能だよな。 これに対して戦車なら、たとえ車体やシャーシを切断されてもなんとかなる。可能なら、武器学校 などで戦車を動態保存していただけたら、と思うんだが。 さて、このように第一線で活躍した戦車も、その末路は悲しいものがある。従来は、自衛隊全体 における戦車の用廃数もたかが知れていたけれども、戦車の装備定数が九百輌から六百輌に削られ てしまった。これにより、今後は七四式戦車の用廃ペースも年間何十輌にも達するだろう。 願わくば、一輌でも多くの戦車に、全国各地の駐屯地などに展示され、平時の戦車にふさわしい 余生を送ってもらいたいと思う。間違っても実標的にはしてほしくないものだ」
戦車の洗車はタイへン ! 陸自戦車男の苦労話 もさせてやるところだが、航空科は空を飛べて いいなあ。戦車は陸の王者だが、攻撃へリに狙 つぶや われちやかなわんよ』と、皮肉混じりに呟いた のが印象的だったな。このとき、戦車を体験操 縦させてもらえる絶好のチャンスだったのだが、 だ時間がなくて実現できなかったのは、いまでも 大残念に田 5 うぞ。 るさて、戦車にとって戦車砲は、敵戦車を撃破 「可能な唯一の武装だよな。もし、戦闘中に砲が 一ま使用不能ともなれば、ただちに戦闘を中止して れ 人後方へ離脱し、砲身を交換しなくてはならん。 砲車載機銃の予備銃身は携行できるが、予備の戦 」戦車砲身までは携行できないし、その場での迅速 な交換も不可能だ . 太郎「だったらイスラエル軍の戦車のように、 迫撃砲も搭載すればいいんじゃないの ? 」 おじさん「しかし、観測手段もなしに目標に 命中させるのは困難だし、もともと戦車の撃破 147
いまだに有効な対戦車地雷 あるいはサスペンションといった部分に限定され、乗員も戦死することはないよな。しかも、機動 不能となったところで戦車砲などの射撃は可能だから、戦闘力を奪うまでには至らない。戦車の外 部に予備の履帯を搭載していれば、それを用いてその場で修理可能でもある。 ところが、近年の対戦車地雷は磁気感応式などのように、直接戦車が踏み付けなくとも爆発する 構造となっていたりするから、じつに厄介なんだ。もちろん破壊力も向上していて、車体底部の装 甲板を貫徹して戦 闘室内部にまで被 害をおよばすどこ め をだろか、場合によっ で作ては戦車砲の搭載 用た 似弾薬が誘爆して完 に全に破壊されるこ 地物 車実 ともあり得るのだ 対が 演な 式し こ、つなると乗員 は負傷して戦闘不 能どころか、最悪 の場合、戦死する 107
可能性もある。また、戦車が全損しなくとも、大破でもすれば野整備レベルでの修理はまず不可能 で、戦車回収車などを使用してデボ、つまり補給処に後送しなければならない。 地雷ってのは受動的な兵器でね、当然ながらそれを埋設した側の軍隊は、敵の予想接近経路に地 雷原を構成するんだ」 太郎「もし、予想に反して敵部隊がその経路上を通過しなかったらどうするの ? おじさん「いい質問だな。通常は、どうしてもそこを通過せざるを得ないように、河川や地隙な どの地形障害や、対戦車壕などの人工的な対戦車障害、さらに対戦車火網と複合的に組み合わせる ことで、敵戦車部隊を地雷原へ誘い込むのだよ。 このように、地雷は現代でもなお有効な対戦車兵器と一一 = ロえるのだ」 戦車の敵は兵器だけではない。各種障害の話 おじさん「『戦車の敵は戦車』とは、むかしから良く言われるけれども、敵の戦車をはじめとす る兵器だけが『敵』ではない。気象条件などの天候や、地形地物などといった自然環境も戦車の敵 となるんだ。 現代のハイテク戦車は、ナイト・ピジョンやサーマル・イメージャーなどにより、夜間や霧とい った条件下でも走行間射撃が可能だし、シュノーケル、つまり潜水装置等を使用したうえで防水処 としよ、つ 置をすれば、『潜水渡渉』により渡河することも可能だ」 太郎「自衛隊でも潜水渡渉訓練をやっているよね 108
数値で比較 ! 戦車の一般的な性能・諸元 各国 MBT のエンジン出力比較 ( 単位 = h p) 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 7 7 つまり潜水装置を装着すれば、もっと深い河川 も渡れるのだよ。 そして旋回能力だが、じつは戦車の最小旋回 半径は、自動車などの装輪車輌よりもはるかに 小さいんだ。これは、履帯の片側にプレーキを かけて、反対側の履帯のみが駆動することによ って可能なワザだ。これが信地旋回と言われる もので、左右の履帯をそれぞれ逆方向に回転さ せれば超信地旋回といって、『回れ右』のよう に、その場でくるりと旋回することが可能なん だ。もっとも、すべての戦車が超信地旋回能力 があるわけではなく、ロシアの e ー系戦車な どはこれが不可能だ。とは言え、一般的な戦車 7 では車体幅の二倍程度の最小旋回能力ってとこ ろだ。 太郎「意外と小回りが効くんだな」 おじさん「そう。そして、これらの性能・諸 元に密接に関連しているものが『重量』だ。一
の装甲防護力は保証されそうだ」 太郎「九〇式戦車の縮小版って感じなのかな ? 」 おじさん「まあ、そんなところだろう。九〇式の重量は約五十トンで、諸外国のと比較す ればかなり軽量だ。しかし、それでも内地で運用するにはデカくて重すぎると言われている。だか ら小型軽量化するのだろう。現在のわが国は専主防衛を国是としているのに、が国土防衛戦 で運用困難とあっては本末転倒だよ。 それよりも問題なのは、空輸が不可能であるという点だろうよ。これは戦車の設計面での問題で はなく、トランスポーターの要求仕様に問題がある。つまり、現在開発中の次期輸送機 0 ー >< の最 ミサイル 大ペイロ 1 ド ( 搭載量 ) が、空自のベトリオット地対空誘導弾や陸自の野外手術システムの搭載を 前提とした二十六トンで充分である、としている点にあるということだ」 太郎「これじゃ、 0 ー >< に次期を搭載することはできないよね」 おじさん「まったくそのとおりだ。 0—>< は、装備開始から三十年以上にもわたって運用する機 期体なのだから、その要求仕様が誤った見積もりのうえに決定されていれば、装備化した後で泣くこ とになる 米国同時多発テロ事件以降、いかに低強度紛争重視の時代となり、重厚長大な装備の必要性が減 の 戦少したとしても、わが国に対する大規模着上陸侵攻の可能性が減少したとしても、自国のを 〇搭載できない輸送機を国産開発するというのは、ハッキリ言って税金のムダだな。 おじさんは、最低でも、抽出した戦車一個中隊を緊要正面に転用するなどの緊急空輸可能な能力 231
要で中に入れるぞ。しかも入場は無料だ。こんど連れて行って 亠のげ・よ、つ。 この広報センター、全国の陸上自衛隊を代表してしてい 内る広報館のようなものでね。さまざまな展示品があって、一日 の 中居ても飽きないぞ。で、展示品の最大の目玉が九〇式戦車の タ試作第一号車というわけさ。他にも、おじさんが所属していた 航空科自漫の対戦車へリコプター、ーの初号機なども 自目玉だが、やはり御主には戦車を見てもらいたいな」 次郎「九〇式戦車の試作第一号車、量産型とどこが違うんで 朝すか ? 」 おじさん「それは、行ってからのお楽しみさ。で、その九〇 乍車ー陸上自衛隊武器学校が所在する土浦駐屯地に 式の試イたか、 展示されていたもので、広報センターの建物が完成してから搬 入したわけではなくてね。なんと、建物の建設に先立って、あらかじめ搬入したんだ。これは、 九〇式戦車が自走して建物の中に入ることが不可能だからだ。 また、戦車操縦シミュレーターがあって、無料でプレイすることが可能だ。このシミュレーター 戦車を操縦しながら敵を撃破しつつ、画面に示されるミッションをクリアしていくやつでね。シミ ュレーターといっても本格的なものではなくゲームといっていいんだが、はっきり言って小さな子
を有してしかるべし、と思っているくらいなんだが。さらに、戦車部隊の転用にともなう緊急空輸 だけでなく、火力の貧弱な空挺部隊の支援に戦車を空輸できればなおよい、 太郎「かって諸外国軍には、空中投下したり空輸が可能な空挺戦車というのがあったよね。シェ リダンっていう名称だったつけ ? 」 おじさん「うん。しかし、輸送機の搭載量により設計重量が制限されていたから、火力面ではと もかく、主力戦車ほどの装甲防護力を備えるには至らなかったがな。現在でも空輸可能な軽戦車や、 装輪戦車とも一一 = ロうべき『重装輪戦闘車輌』の開発が模索されているけれども、その能力は限定され る。 ところが、戦術輸送機としても運用可能な 0 ー片の登場によって、その状況は一変したんだ。今 日では、一輌の e を一機の 0 ー片でまるごと空輸可能となったのさ。 もし、おじさんが空自のトップなら、迷わず米国のボーイング o ー片輸送機のライセンス国産か、 0 ー片と同等スペックの輸送機を国内開発する方向で決心するな。いまは空自の装備をテーマに議 論しているわけじゃないからその思考過程などは割愛するけど、すくなくとも、世界第一一位の c_DQ と常任理事国入りをめざすほどの立場にあるわが国が装備する軍用輸送機としては、けっしてオ ースペックではないよ。ク大は小を兼ねるクが、その逆はあり得ないのさ。しかも、まったく 要求仕様の異なる輸送機と哨戒機を一機種をベースとして開発したところで、部品の共通化とそれ によるコストダウンなどたかが知れているってもんさ。 (-) ー 1 輸送機の場合では、政治屋が抵抗勢力に屈して、周辺諸国に配慮するなどというタワケた 232
取らないと一一一一口えるだろう。だからこそ、わが国の民生品は高品質であり、世界に冠するメイド・イ ン・ジャパンとしての地位を確立し得たのだよ」 「ああ、もったいない ! 」用廃戦車の末路 おじさん「形のあるモノはいっか壊れるもので、それは戦車とて例外ではないよな。非消耗品た る自衛隊のあらゆる装備品には、おのおのに耐用年数が定められている。そのため、戦車にかぎら す車輌の場合は、たとえ途中で修理不能なほどに損傷しなくとも、定められた走行距離あるいは時 間に達すると、お役御免で現役引退となるんだ。そして不要決定がなされ、用廃 ( 用途廃止 ) つま りスクラップとなるわけだ 太郎「スクラップかあ。もったいないッスね。戦車なんかも巨大なプレス機で、グシャッと一瞬 にして潰されてしまうのかな」 おじさん「、 ノノノいくらなんでもそりや無理だな。というか、戦車を丸ごとスクラップとする んではなく、使用可能な部品は外して整備した後、別な車輌に再使用することはあるよ。これは、 陸上自衛隊内における整備段階区分の上位に位置する『補給処』の担当だ。用廃となった戦車から は、主要な部品が外され材質ごとに区分される。そして車体や砲塔部は、無惨にもガス溶断機など で切断されてしまうんだ。 これは、秘密保全上の措置であると同時に、第三者たる個人または団体に悪用されないためでも あるんだ。なにしろ、独立まもないころのイスラエルなどは、英軍駐屯地などの不要品集積所、早 226