術の進歩にともなって複合材料などを多用し軽量化することが可能だ。しかし、戦車はそうもいか ん。火砲やミサイルの装甲貫徹力の向上に、指をくわえて眺めているわけにもいかんしな。 かといって、装甲を無制限に厚くしていけば、際限なく巨大で途方もない重量となってしまう。 これでは機動性が損なわれ実用的とは一一 = ロえないし、機動性を重視すれば軽量なのが望ましいだろ ? このように、軽量でありながら防護力に優れた装甲材料はたしかに理想なのだが、重量と防護カ というのは相反する要素なんだ」 太郎「しかも、装甲材料はただ厚ければ、 しい、というものでもないでしよう」 もろ おじさん「そのとおり。また、単に硬いだけでもダメだ。硬さのみを追求すれば、逆に脆いもの となってしまうのだ。 一般的に戦車の装甲は、砲塔部と車体部で異なる構造であることが多い。その材質は、従来は防 最近の戦車では複合装甲が主流となっているんだ。防 弾鋼が単独で用いられることが多かったが、 弾鋼は、鍛造あるいは圧延もしくは鋳造のいずれかで製造される。代表的な防弾鋼板は、『均質圧 延鋼板』や『表面硬化鋼板』などだな。 前者は、ニッケルやクロムあるいはマンガンやモリプデンなどを混合し、その強度を増したもの で、表面も内部も同じ硬さであるため『均質』と呼ばれる。これは、第二次大戦以降における防弾 鋼板の主流となった。後者は、圧延鋼板の表面に炭素成分を含有させて、熱処理を施し鋼板表面を 硬化させたもので、旧陸軍の戦車が、これをリべット止めした構造だったんだ」 太郎「リべット止めとは、現在からすればいかにも古臭いなあー
これは塗料の性質によるものでね、日光などによってどうしても退色してしまうんだ。どこの国で もそうらしいが、戦車などの車輌にはフタル酸系エナメルという油性塗料で塗装がほどこされるこ とが多い。これに対し、一般的な航空機の塗装には、ポリウレタン系樹脂塗料というのが用いられ ているんだ。 次郎「じゃあ、ポリウレタン系樹脂塗料を使って塗装したらいいんじゃないですか ? おじさん「それがだね、ポリウレタン系樹脂塗料というのは耐光性などに優れるだけあって高価 でね、装備数の桁が違う車輌に用いるのは不経済なんだ。なんたって、世界一リッチな米軍ですら、 いかに高く 戦車にステルス塗装どころかポリウレタン系樹脂塗料すら使用していないというから、 つくかかわかるだろ、つ ? 通常、冬季迷彩の場合は水性塗料が用いられるが、これは塗装を落としやすくするためなんだ。 また、模型に用いられるような、塗布すると膜状となるマスキング液のような塗料もある。これは 一般的な水性塗料よりももっと除去が楽だ。なにしろ、ペイント・リムー ( 塗料剥離剤 ) が不要 装でね。しかし、いかんせんまだまだ高価な塗料だ。米軍やドイツ連邦軍などは、この手の塗料を冬 わが国で全部隊に導入するのは予算的に難しいところだな」 季迷彩に使用しているようだが、 ン 次郎「ところで、外国の戦車には、形式名の後にニックネームがついていたりしますよね。『レ キ マオパルト』とか『エイプラムズ』とか」 車おじさん「ああ。動物の名をつけたものもあれば、軍人や国家指導者の名を冠したものもあるな。 これに対してわが国の戦車の場合、戦前戦後と一貫して制式化された西暦年 ( 旧軍では皇紀だが ) の 251
野外照準規正 ( ボアサイト ) の実施要領 試験標的 これは、一点ボアサイトが実施できないときに用いられる 平行ボアサイト 0 一般的には、この一点ボアサイトが用いられる 一点ボアサイト 28 るのはい言うまでもない。 が狂っていれば、目標に正確に命中させることは不可能であ 砲でも野外照準規正つまり、ボアサイトを実施する。照準具 小銃などで、射撃前に零点規正を実施するのと同様に、戦車
ることがあったからだ。戦車砲の構造は、大まかに言えば根一兀のほうから『砲尾環』と『砲身』で 構成される。十九世紀以前の火砲は、砲口から弾を込めて、砲尾に開いた穴から裸火で点火する方 式だった」 太郎「現在の大砲からすれば、ずいぶん原始的だねー おじさん「うん。このような前装式火砲は、再装填に手間がかかることと砲側員が敵に暴露する などの点で問題があってね、その後、閉鎖機をそなえた後装式火砲に取って変わるようになったん だ。閉鎖機とは弾を装填する際の砲尾の閉鎖に用いられるもので、ボルト・ナットの原理を応用し た『隔螺式』や垂直または水平に動作する鎖栓が砲尾を閉鎖する『鎖栓式』などがある。七四式戦 能 機車搭載の百五ミリ戦車砲には『垂直鎖栓抜式』の閉鎖機が用いられているんだよ。 つぎに砲身の構造なんだが、その根元には弾薬が装填される部分の『薬室』がある。この部分は 構 そ薬莢が納まるから、当然だが砲の口径より太くなっている。戦車砲は、他の火砲と同様に『ニッケ ル』『クロム』『モリプデン』『バナジウム』を用いた鋼材で作られるけど、その成分比率は各国と る ても秘密だと言われているんだ。で、その構造は『層成砲身』と『単肉砲身』に区分される。前者は とうかん 砲身に『たが』をはめたり套管で締め付けるようにしたもので、昔の旧式な戦車砲や野砲に多く見 られるものだ。一方後者は、鍛造または遠心鋳造により製造され、中小口径の砲に用いられる」 中太郎「エンシンチューゾーってなんスか ? 車おじさん「簡単に一言えば、高速回転する円筒形の鋳型に溶鋼を流し込む製造方法さ。しかし、こ の方法で製造された砲身は強度に限界があるため、現在は『自緊単肉砲身』が一般的だ。これは油
陸自における手旗信号の一例 おじさん「おそらくな。で、御主は自衛隊の富士総合火力演習 外で、戦車などの射撃に際して、緑や赤の旗を用いているのを見た 旗 ことがあるだろう。あれは、第三者に弾薬装填の有無を周知させ ノるものだ。緑は射撃準備よしを、赤は射撃で危険だということを IJ レ . ・、レ オ ( 知意味するためのものだよな。 色関 橙不 ところが、型戦車の登場以前は、指揮官車の標示する旗が あと 『前進用意、前へ ( 前進せよ ) 』とか『後へ ( 後退せよ ) 』とか、 了あるいは『撃ち方やめ』といった号令を示していたんだ。つまり、 当時の戦車は、手旗を用いた原始的な信号通信によって、指揮官 ま の命令が伝達されていたのだよ。 も・旗よ 色備 では、当時の戦車では、車内における乗員間の意志疎通はどう 緑準 していたのか。これも各国ほば同様で、たとえば『右旋回』なら 車長が操縦手の右肩を、『停止』なら頭を足で蹴るといった原始 危的かっ粗暴なものでね。これは、車内の騒音のため、いくら車長 が叫ばうとも操縦手に伝わらないことが多かったためだ。これで こし . 2 ま は操縦手もたまらんぞー 旗見 色発太郎「戦車に無線機が装備されたことで、操縦手も安堵したで 赤敵 しようね」
ミサイルなどを、ミリ波レーダーが探知する。そして、その飛翔経路をコンピューターが計算し、 爆発パネルを作動させることで目標を破壊する仕組みさ」 太郎「へえ 5 、じつにユニークなアイディアだなあ」 おじさん「まったくだな。もっとも、完全な実用化まではまだ時間を要するらしいがな。このよ うに、時としてロシアは、西側諸国が思いもっかないようなアイディアの兵器システムなどを具現 化したりするから、けっして技術的にも侮れんぞ。これは、なにも自由な体制となってからの話で はない。旧ソ連時代からもそうだったな。しかも、戦車などの陸戦兵器以外の分野においても、こ の傾向は顕著だった。一例を挙げれば、水上戦闘艦の、つまり垂直発射システムや、カモフ ーホーカム攻撃へリコプターのイジェクション・シートによる脱出システムなどがそ、つだ。 現在のところ、飛来する対戦車ミサイルの直接的な破壊を狙った防御システムは、ドイツのメー カーが発表した同種のものを除けば、このアレナ Q<cn くらいのものだ。しかし、いずれ同種の防 御システムが世界的に普及するかも知れんな。このロシアの独創的な技術開発に、今後も目が離せ ないとい、つものだろ、つ」 歩兵が戦車をノックアウト ! 個人携行対戦車火器 おじさん「つぎは、個人携行対戦車火器だ。これは、主として対戦車榴弾等を用い て戦車などの装甲目標の撃破に用いられる火器で、兵士が一人で携行・操作可能なものをいう。射 手と装填手の二名で操作するものもあるがな。
山と山の間隔をいわゆる『ロ径』と呼んでいる。でもって、ライフリングの溝は何本でどちら回り なのか、というのを『四条右転』とか『二十八条右転』というような表現をするんだ。また、溝が 一回転する長さを口径の倍数で表わす。同様に、『五十一口径百五ミリライフル砲』などと、砲身 の長さも口径の何倍かで表現している。 そして後者の滑腔砲は無腔線、つまりライフリングがないわけだ。そのため、滑腔砲でいうロ径 とは単に砲ロの直径を差す。ライフリングのない滑腔砲から発射された砲弾は、旋動することはな 。したがって、弾丸の安定には翼、つまりフィンが用いられるんだ。 ところで太郎、話は聞いてるかな ? 太郎「ハア、聞いてますが、なにか ? おじさん「なんだか、おじさんばかり喋っていて質問が全然ないから、寝てるんじゃないかと思 ったぞ」 太郎「大丈夫ッス、そのうち鋭い質問やツッコミをガンガン入れますから おめし おじさん「そう来なくちゃな。まあ、御主の質問は鋭いというより時にトンチンカンだったりす るがな。で、余談だが、 日頃モデルガンや電動ガンに親しんでいる軍事マニアであれば、銃身や砲 身を『バレル』と呼ぶのは常識だろう」 太郎「自分もそのくらいはわかるツス」 おじさん「そうか。これは中世ヨーロッパで使用された火砲の砲身に、樽に用いられるような『た が』をはめたことに由来するのは知ってるな ? 当時は冶金技術が未発達で、しばしば砲身破裂す
車の整備にはげんでいるのだ」 米軍も驚いた ! 陸自戦車男の偽装テクニック おじさん「戦車の偽装、つまりカモフラージュには、大別すると迷彩塗装による方法と偽装網等 を用いる方法がある。前者は二色の迷彩塗装がなされており、濃緑色と淡茶褐色から構成されてい る。後者は三色の迷彩で構成される、いわゆるカモフラージュ・ネットだ。これは『バラキューダ』 と通称され、もともとは一九八〇年代にスウェーデンから導入したものを東レが国産化したものな んだ。ちなみに陸上自衛隊の装備するヘリコプター等の航空機には、黒が一色多い三色の迷彩塗装 が用いられている」 太郎「じゃあ、なぜ航空機の迷彩塗装は三色で、戦車の迷彩塗装は二色なんスかね ? おじさん「これは多分に費用対効果の問題だろうな。なにしろこの迷彩色は、戦車等の戦闘車輌 だけでなく七三式小型トラック ( ジープの制式名称 ) をはじめとする装輪車輌や、中型以上のトラッ クに搭載するシェルター ( プレハプ小屋状をした鉄の ) 等にまで塗装されるのだ。陸自の保有する航 空機は、総数でせいぜい五百機にも満たないが、 二色迷彩塗装の対象となる車輌および器材等は概 算で『万』を越えるだろう。装備している数量の桁が違うんだ。それに要する塗料の量たるや、莫 大な量だ。 あるとき、おじさんはそれが気になって、富士総合火力演習の際に地上展示していた八二式式通 信車の説明係の隊員に、車輌一輌につきどれくらいの塗料を要するのか聞いてみたことがある。 せんしやマン 158
おじさん「うむ。戦車用のプールのような施設を用いて訓練しているよな。 こ、イテク戦車でも空を飛べるわけでは しかし、この世に万能の兵器なぞ存在しないのだ。いかしノ ない。垂直に近い断崖絶壁を昇り降りできないし、超壕能力以上の地隙を飛び越えたりすることす ら不可能だ。たとえば、昭和三十 5 四十年代の少年雑誌には、シュノーケル装備で渡河することが 可能な戦車を『スゴイぞ ! まるで忍者だ、これが潜水戦車だ』などと紹介した記事が掲載された りしていたんだ。 まあ、これは少年向けに兵器を紹介した記事だから、このように大袈裟な表現がなされているの であって、実際には戦車の渡渉可能水深には限度がある。通常動力型、つまりディーゼル機関の潜 話水艦を、俗に『可潜艦』と呼ぶのと同じようなものだ。地形などの自然環境ですら限定的にしか克 害服できないのだから、天然であれ人工であれ、各種の障害は戦車の行動を阻害することになる。と 各くに、人為的に構築された『対戦車障害』などの場合は、それ以上にやっかいな敵となるのだよ。 対戦車障害とは、人工的に構築されるか、自然の地形・地物に手を加えるなどにより構築される。 そして、『対戦車障害』の際たるものは地雷原だろう。現代の戦車は、マイン・プラウという鋤の で ような装置を車体前方に装備できるようになっていて、それを用いて進路上の対戦車地雷を掘り起 こし、爆発させて処理しながら地雷原を通過することも可能だ。しかし、保有するすべての戦車に 兵 マイン・プラウが標準装備されているわけではないし、その能力や効率からいっても、やはりエ兵 車部隊に地雷原啓開してもらう必要があるわけだな」 109
服も独特なら、靴もまた独特の形状だ。第二次世界大戦時の戦車兵は、旧帝国陸軍をはじめとし て、各国とも丈が長い革製の長靴が一般的だった。戦後における各国の戦車兵は、歩兵用のコンバ ット・プーツと異なる、紐なしの専用プーツを着用するのが一般的だ。これも、素早い着脱を重視 した結果で、わが国もまた同様だな。戦前は、紐なしの長靴で戦後の自衛隊でもバンドで留める『戦 闘靴、装甲用』が用いられている。 また、多くの場合、戦車乗りは歩兵用とは形状の異なるヘルメットを着用している。自衛隊では、 戦車用へルメットを戦車帽と呼称している。最近、『装甲車帽』と呼称変更されたようだが、これ は正式名称の話だ。第二次世界大戦時は、各国とも素材に皮革を用いるのが主流だったけど、日本 陸軍ものは、なんと厚紙を成形して革でつつんだものだったのだよ。 太郎「 : : : 貧乏くさいッスね 備おじさん「これは、ト銃弾や砲・迫っまり迫撃砲の弾片から頭部を防護するためのものではなく、 ど車内の突起物から頭部を保護することを目的としているからなんだ。また、素材が革といっても当 一時の飛行帽のような柔軟な革ではなく、厚手の革を何層にも重ねて成形したものが多かった。その フため、ヘルメットは脱いでもその形を保っていて、かなり剛性が高かったのだよ。 ュ 戦後は、旧ソ連などの共産圈では革や布製のヘルメットが使用されたが、米軍などではグラスフ の 男 アイバーなど樹脂性のものが多用された。現在では、自衛隊をはじめとする各国とも、ケプラー繊 車 維などを使用したヘルメットを使用している。ちなみにケプラーは米国デュポン社の商標で、わが 7 陸 国では合弁会社の『東レ・デュポン』が生産を担当している。