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検索対象: 技術と法律
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1. 技術と法律

第 2 部 1 はじめに バーソナルテータの収集・利用と法規制 人や物に関するテータに代表されるさまざまなテータを活 用することで、そこから得られる付加価値を用いて新規ビジ ネス・サービスを開発し、また、既存ビジネス・サービスを改良 することが期待されて久しい。 これらのテータは、消費者やビジネスの相手方に対して提 供するサービスに付随して発生し、これを取得する場合、共同 研究開発や業務委託に伴って相手方から提供を受ける場合 また、単純にこれらのデータを取引対象物とする場合等、取 得態様はさまざまである。そして、利活用態様も、利活用の目 的によってさまざまである。 本稿では、「個人情報の保護に関する法律」 ( 平成 1 5 年法 律第 57 号。以下、単に「法」または「個人情報保護法」という ) による規制との関係で取扱いに特に注意が必要となるバーソ ナルテータの収集・利用にフォーカスし、ポイントを解説す る。 2 バーソナルテータとは何か ( 1 ) バーソナルテータに含まれるデータ バーソナルテータとは、個人の行動・状態に関するテータ のことをいう。これは、個人情報保護法の個人情報 ( 法 2 条 1 項 ) に限定されない広い概念である。 たとえば、 DNA 、指紋、虹彩等を解析した結果である生体情 報、人の画像・映像、氏名、生年月日、性別、連絡先のような基 本テータ、決済に必要なテータ ( クレジットカード、銀行口座 のテータ等 ) 、スマートフォン・パソコンの利用によって生じる ログ ( 通信基地局との通信や GPS によって生じる位置情報・ 移動履歴 ( 通信履歴に含まれる場合がある ) 、アプリの利用に 伴って生じるテータ、ウエプサイトの閲覧履歴等 ) 、センサによ って取得する各種テータ等、およそ人に関連するものである 限り、すべてバーソナルデータに含まれる。 ( 2 ) バーソナルテータの収集経路 ( 1 ) で示したものの収集経路については、本人がサービス ( 売買、ポイントシステム、アプリ、ゲーム等多種多様であって、 8 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士日置巴美 また、有償・無償を問わない ) を利用することに伴って発生・提 供する場合、一定の区画に入った者について外観からカメラ やセンサによって情報収集する場合、企業間等の本人以外が テータをやり取りする場合が考えられる。 これらの収集経路は、バーソナルデータの本人と直接的関 係があるか否かによって収集に係る法的関係が異なると考 えて良い ( 本人と企業との契約書による契約や、本人が同意 する利用規約によるもの、企業間の契約、また、なんら法的関 係がないものもある ) 。また、テータによっては個人情報に該 当するものもあるが、その場合の適用条項、具体的な対応方 法が異なることとなる。 3 バーソナルテータの収集・利用と法規制 2 ( 1 ) の通り、バーソナルテータは広い概念であり、個人情 報保護法の個人情報が含まれる。したがって、バーソナルデー タを取り扱うにあたっては、はじめに個人情報該当性を判断 し、個人情報に該当する情報は個人情報保護法に則った適切 な取扱いを行わなければならない。 以下では、①個人情報該当性、②個人情報の適切な取扱い の概要、③データ利活用と個人情報保護法という項目に分け て、個人情報保護法の下でバーソナルテータを収集・利用す るためのポイントを説明する。 ( 1 ) 個人情報該当性 ( ア ) 個人情報とは何か 個人情報とは、 (i ) 生存する個人に関する情報であって、 ( ii ) 特定の個人を識別することができるもの ( 他の情報と容 易に照合することができること ( 以下「容易照合性」という ) に よって特定の個人を識別することができるものを含む ) 、また は ( iii ) 個人識別符号に該当するものをいう。なお、個人識別 符号は ( ii ) のうち性質上特定の個人を識別することができ、 かっ、明確化することが必要であるとされたものであって政 令で定められる ( 個人情報の保護に関する法律施行令 ( 以下「 施行令」という ) 第 1 条、個人情報の保護に関する法律施行規 則 ( 以下「施行規則」という ) 第 2 条から 4 条まで ) 。身体的特

2. 技術と法律

徴を数値化したテジタルテータ ( DNA 、指紋、虹彩等を解析 した結果であって具体的人物を特定し得るものに限定され る ) 、マイナン←、運転免許証や旅券の番号等がこれに当た る。 このように、個人情報該当性は、特定の個人を識別することが できるか否かによって定まるところ、具体的にどのような意味 で、また、判断基準はどのようなものか、わかりにくいと言わざ るを得ない。 特定の個人を識別することができるとは、情報単体または複 数の情報を組み合わせて保存されているものから、社会通念 上そのように判断できるものをいう。もう少し平たくいえば、 一般人の判断力や理解力によって、具体的な人物と情報との 間に同一性を認めるに至ることができるものであり、これが 法の保護対象となるか否かの本質部分である。 ( イ ) 個人情報の加工と個人情報該当性 個人情報を加工し、そこに含まれる氏名等の記述等を削 除することによって、加工後のテータ単体では特定の個人を 識別することができないとしても、個人情報に該当しなくなっ たと考えることは早計である。なぜなら、個人情報には、容易 照合性があることによって特定の個人を識別できる情報が含 まれるためである。この容易照合性とは、個人情報取扱事業 者が保有する各情報に内部でアクセスできる者の存否、社内 規程の整備等の組織的な体制、情報システムのアクセス制御 等の技術的な体制等といった取り扱う情報の内容や利活用 の方法等、情報を実際に取り扱う個人情報取扱事業者 ( 法 2 条 5 項 ) に認められる事情を総合的に勘案して判断されるも のである。たとえば、加工前後の情報に共通の旧が付されて おり、照合が可能となるようにしている場合は容易照合性が 認められやすい。また、加工後の情報に詳細な内容の記述等 が残されている場合、加工前の情報と一対一で突合し得るこ とから、容易照合性が否定されないことも考えられる ( 平成 25 年にこの点が争点となった大手交通系企業による乗降履 歴情報の加工・販売の例がある ) 。 このように、容易照合性は厳格な要件とされていることか ら、 a. もはや個人に関する情報とすらいえない状態 ( たとえ ば、統計情報 ) になるまで加工を施すか、 b. 積極的なデータ活 用のために新たに設けられた「匿名加工情報」 ( 法 2 条 9 項 ) を作成するかのいずれかによって対応することが考えられる。 ( 2 ) 個人情報の適切な取扱いの概要 ここでは、 2 ( 2 ) の収集経路の別を前提に、収集経路のそ れそれに代表的な例として①通信販売サイトに会員登録を して商品を購入する場合、②画像・映像を収集者の管理する 区域内にカメラを設置して収集する場合、 0 企業間でのデー タ取引について個人情報の適切な取扱いを概観する。 なお、個人情報のうち要配慮個人情報 ( 人種、社会的身分、病 歴にれに類するもの ) 等。法 2 条 3 項、施行令 2 条、施行規則 5 条 ) については別途義務が加重されていることから、実際に データを収集する際は、要配慮個人情報該当性の判断と、該 当する場合の必要な対応 ( 取得に係る本人同意等 ( 法 1 7 条 2 項 ) ) が求められることに注意しなければならない。 ( ア ) 取得 個人情報を取得するにあたっては、 ( i ) 偽りその他不正の手 段による取得が禁止され ( 適正な取得。法 1 7 条 1 項 ) 、 (ii)0a 特定した利用目的について、あらかじめ公表し、または、速や かに公表若しくは本人に通知する ( 書面への記入やデジタル テータの入力によって個人情報を取得する場合は、取得に際 して利用目的を明示する必要がある ) こと ( 取得に際しての利 用目的の通知等。法 18 条 1 項・ 2 項 ) が求められる。なお、利 用目的の特定については ( イ ) で詳述する。 ①通信販売サイトに会員登録をして商品を購入する場合 この場合、会員登録して商品を購入しようとする消費者か ら直接個人情報を取得することとなるため、多くの場合が適 正な取得と評価できる。ただし、虚偽の利用目的を告げ錯誤 に陥らせるなどして情報を取得する場合や、取得しないと説 明していた項目について取得する場合には、不適正と判断さ れることがあり得る。 会員登録に際して取得する個人情報については、その利用 目的を明示する必要がある ( その後の継続的なデータ収集に ついても、ここで併せて利用目的を明らかとすることが通常と 言ってよい ) 。多くの場合、利用規約およびプライバシーホリシ ーを示して対応している。その中で、利用目的を記載すること となる。 ②画像・映像を収集者の管理する区域内にカメラを設置して 収集する場合 まず、プライバシー侵害との問題で、社会通念上許容される 範囲を超えた態様 ( 撮影場所、撮影内容・利用目的、撮影方法 等を勘案する。 ) であるか否かによって、不適正な取得とされ ることがあり得る。自らが管理する敷地内において「防犯カメ ラ作動中」等として注意喚起しつつ撮影することについては、 適正な取得であるといえる。 このとき、利用目的については、撮影用カメラの下等の被写 体が把握できる場所に記され、公表されることが多い ( 適正 取得の点と相まって、単に自社ホームページ上に掲載する例 は少ないように思われる ) 。 3 企業間でのテータ取引 企業間でのデータ取引においては、提供者・受領者のそれ それにおいて適切な対応が求められる。 提供者側では、 a. 利用目的において第三者提供する旨定 め、これを本人に公表もしくは通知し、または明示する、個人 9

3. 技術と法律

技術法律 2 1 1 . おわりに 10. 工ンタメと知財分科会とは ~ 1 年半の軌跡 9. ハッカソンから考える法と政策制度 ~ いくつかの論点提示の試み 8. 電子機器を製品化する際に必要な法的対策 ~ 技適・ PSE 対応手法 7. お金にまつわるリエンジニアリングへの期待 6. 技術と法律についての雑感 5. スマートコントラクトは裁判で使えるのか ? ( 前編 ) 4. 強い T 特許を取得するには ? 3. バーソナルテータの収集・利用と法規制 2. 民事訴訟におけるソースコードの取扱いについて 1 . はじめに

4. 技術と法律

ていたため企業との取引実績や資産残高によって見える化さ れるとされていた。しかしここ最近、あらゆる公的機関は申請 があった人の Facebook ・ Tw e 「を良くも悪くも見てる。篠 原ヒロ氏 1 。の言い方をお借りするとすれば、信用の徳をどう 積むのか、現状の制度ならば徳が見えやすいのが学歴や収入 と言えるが、決済や収益の見える化や SNS を使い続けていく ことでテジタル上の信用を獲得していく方向にも、ビザもない のに興行に出て怒られる可能性もあると言える。 3 、お金による評価方法 著作権に対する意識が高まってきている。以前、某所で受 けた研修では弁護士から「中高生に向けて CD の貸し借りは 著作権法違反になると指導してください」との説明があった。 確かに私的利用とは家族程度まで 11 とされているので間違い ではない。中高生時代に友人と新しいアーティストを探して きては CD を勧めあった青春時代をもつ私としては複雑な心 境だと思ったのはもはや数年前。 CD ではなくストリーミング や You 和 be で音楽を楽しむようになった今の中高生世代に はその憂いはもはや理解できなくなってきたかもしれない。 音楽はかってバトロンによって囲われて生活費を得ていた音 楽家の時代、技術によってレコードや CD という媒体に乗せて 販売し著作権収入を得られる時代、そして何かしらのコンテ ンツに乗せて著作物使用料を得られる時代へと変化してきて いる。 You 和 be では再生された回数に応じて権利者へ収益 が配分される仕組みも技術の発展によるものといえよう。 音楽のみならず著作物を始めとした無形資産 (lntangi - ble Assets) は作った作品そのものが売れることだけで収 入を得るのではなく、ニ次的三次的な創作物による価値が生 まれる環境ができてきている。例としては宇宙兄弟とメルカリ のコラボである 12 。作家としても思いがけないものがファンの 手から生み出されることはうれしいし、ファンとしても正当な 価格が作家に還元されることでよい関係性が生まれていると 言える。 権利者ではない第三者からの指摘により気をつけすぎて 無難になり、トイレの落書きも書けなくなることは機知に富ん だ文化の衰退を起こしかねない。その点、 LDH がわかりやす く写真利用について明示したことはよい利用を促し、著作物 の価値の可能性が感じられる 13 。 近代において一般に著作権の価値は M & A もしくは相続の 時に評価される程度である。しかしこれからの脱近代におい て著作物を用いた広がりや創作性がプランド価値として技 術の発展により金銭的に評価されれば、資産としての価値が 10 「プロックチェーンで既得権を破壊する」と豪語、起業家・篠原ヒロとは何者 ? sider.jp/post-100681 あるとされるだろう。私はその時に出てくるビジネスに期待し ている。 リンクは 2017 年 10 月 16 日現在、下記プログにリンクー覧 があります。 http://bit.ly/reOkane 参考文献 1 . リエンジニアリング革命ー企業を根本から変える業務革新 マイケルハマー 2. くインターネット〉の次に来るもの未来を決める 1 2 の法則 ケヴィン・ケリー 3. アーキテクチャと法ー法学のアーキテクチュアルな転回 ? 松尾陽 ( 編集 ) 4. CODE VER 0N2.0 ローレンス・レッシグ ( 著 ) , 山形 浩生 ( 翻訳 ) 5. 魔法の世紀落合陽ー ( 著 ) 6. FinTech 大全今、世界で起きている金融革命スザンヌ・キ シュティ , ヤノシュ・バーベリス ( 編著 ) , 瀧俊雄 ( 監訳 ) 新井秀美 バロット行政書士事務所行政書士 大阪大学法学部卒。系や許認可グレー領域に関する起業相談や外国人向け のビサ申請の業務を得意とする。知的財産マネジメント研究会 Smips 工ンタメ と知財分科会共同オーガナイサー / 工ンジニアと法律家のための勉強会 Study Code 共同主催者を兼ねる。フェチ東京を運営していたため、クリエイテイプな 工ロには寛容。飛行機で行く出張が好きです。電通大ウエプデサインシステムプ ログラム在籍中。 肩書きは起業家・オタク・ノ、ツカーー BUSINESS INSIDER https://www.businessin- 1 1 文化庁テキスト http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/kyozai.html 1 2 クリエイターズ宇宙兄弟 x メルカリ https://koyamachuya.com/campaign/mercari/ 1 3 https://www 」 dh. co.jp/rule/ 24

5. 技術と法律

テータについては b. 第三者提供することについて、本人の同 意を得る ( 例外によることも可能 ( 法 23 条 2 項、 5 項 ) ) 、 c. 記 録義務に対応する ( 法 25 条 ) ことが必要となる。 a 、 b は本人と の関係性によるが、利用規約・プライバシーポリシーを用いる 場合、これらに詳細を示して同意を得ることが多い。 受領者側では、利用目的の特定とその公表等が必要となる とともに、提供者側の記録義務 c. と対になる義務である確認・ 記録義務 ( 法 26 条 ) に対応する必要がある。この確認・記録の 内容として、個人情報の取得の経緯と本人同意という事項が あるところ、これによってそもそも個人情報が不正に取得さ れ、流通していることが疑われる場合には、取得しないことが 望ましいところである。仮に、受領者が不正であることを知り ながらこれを受領した場合には、不適正な取得とされること があり得る ( なお、取得した情報が、受領者にとって個人情 報・個人データに該当しないのであれば、確認・記録を含めて 個人情報保護法の義務に対応する必要はない ) 。 ( イ ) 利用 利用に際しては、ます、個人情報の利用目的をできる限り特 定しなければならない ( 法 1 5 条 1 項 ) 。法が求める程度に特 定できているか否かは、個人情報取扱事業者が個人情報をど のような利用目的で利用するかについて、本人が明確な認識 をもっことができる程度に具体的であることが求められる。こ の判断基準は一般人であり、一般的かっ合理的にどのように 利用されるか想定できる程度に特定する必要がある。単にお 客様サービスの向上等の抽象的な内容とすることでは足りな い。利用目的による制限があるために、個人情報の取扱い開 始の段階で予定しない利用目的を羅列することや、漠然とし た利用目的とする例が、実務上散見される。これに対しては、 後述の目的外利用 ( 法 1 6 条 1 項 ) に当たるとされる場合があ ることに注意が必要である。 個人情報の取扱いは、特定した利用目的の範囲内で行うこ とが原則であり、個人情報の取得後新たな利用ニーズが生じ たとしても、法の定めに従う必要がある。利用目的の変更は、 変更前の利用目的と企図する利用目的との間に関連性を有 すると合理的に認められる範囲内に限られる ( 法 1 5 条 2 項 ) 。 変更可能な範囲は一般人を基準に、本人が予期し得る限度 であるか否かによって判断される。たとえば、第三者提供を伴 わないような利用目的としていたにもかかわらず、事後に第 三者提供をする旨利用目的を変更することは認められない。 このような変更が許されない場合を含み、特定した利用目的 の範囲を超える取扱いを行う場合には、あらかじめ本人の同 意を得なければならない ( 法 16 条 1 項 ) 。 ①通信販売サイトに会員登録をして商品を購入する場合 たとえば、「当社は、 EC サイト ( サイト名 ) ご利用時の情報 を、商品の取引管理、代金のお支払、配送その他の取引に関 する手続に利用します」等とすれば、自らが行う商品購入に必 要な取扱いがあると理解できる。その他、個人情報取扱事業 者が新商品の開発の目的などで個人情報を取り扱うのであ れば、「当社は、 EC サイト ( サイト名 ) の閲覧履歴・購買履歴を 含む会員の情報を分析し、 EC サイト ( サイト名 ) において、販 売する新商品の開発に利用します。」とすることが考えられ る。 ②画像・映像を収集者の管理する区域内にカメラを設置して 収集する場合 たとえば、防犯カメラについては「当社は、店舗内に設置し たビテオカメラで取得したお客様の顔を含む映像を録画し、 犯罪行為等の防止・発覚時の対応等のために利用します。」と することや、近時の店舗内での消費者の動きをマーケティン グに活用することについては「当社は、店舗内に設置したビテ オカメラで取得したお客様の顔を含む映像を録画し、顔認証 テータの作成・照合によって店内での行動を把握し、滞留場 所・時間等の行動履歴を分析することで〇〇についてのマー ケティングに利用します」等とすることが考えられる。 3 企業間でのテータ取引 提供者は、第三者提供が行われる旨理解できるような利用 目的を特定する必要がある。テータを販売すると規定するこ とでも良いが、本人の理解を得るためには、削除する項目 ( 氏 名、住所等 ) を明示することや、提供する項目を列挙しつつ、 第三者に提供することを明示する方がより同意を得やすいよ うに思われる。 受領者は、取得した情報が個人情報に該当するかを判断す る必要がある。これは、特に提供者が氏名等を削除したテー タを提供する場合、受領者にとってそれが個人情報に該当し ない場合があるためである。その上で、個人情報に該当する 場合には、利用目的を特定し、必要な措置を講ずることが求 められる。 ( 3 ) データ利活用と個人情報保護法 匿名加工情報とは、①個人情報を加工して得られる個人に 関する情報であって、②特定の個人を識別することができす、 ③当該個人情報を復元することができないものをいう。その 加工について、施行規則 1 9 条に定める②③の要件を満たす のに必要な基準に従う必要があり ( 適正加工。法 36 条 1 項 ) 、 また、匿名加工情報を取り扱うことについて元の個人情報の 本人を識別するために他の情報と照合するなどの行為が禁 止される ( 識別行為の禁止。法 36 条 5 項、法 38 条 ) 等、一定の 取扱いが求められるものの、本人同意が不要となるなど、目 的外利用や第三者提供の制限が外れるために自由な活用が 期待されている。 個人情報と 3 ( 1 ) ( イ ) a. b. の情報のいずれを活用するかは、 それそれのメリット・テメリットを比較して判断する必要があ

6. 技術と法律

第 1 部 1 . はじめに 民事訴訟におけるソースコードの取扱いについて 民事訴訟において , ソフトウェアの仕様が問題となる事例は いくつか考えられるが , その多くは , ①特許権侵害 , 著作権 侵害 , 不正競争防止法等を理由とする知的財産訴訟 , ②シ ステム開発に関連する損害賠償請求にニ分される。 1 これらの訴訟においては , 当事者からソースコードの提出 を求められることが少なくない。 しかし , 現実にソースコードを精査して判決をすることはあ まりないように思われる。例えば , 株式会社マネーフォワード の仕訳システムが , フリー株式会社の仕訳システムに関する 特許権を侵害していたか否かが問題となった裁判例 2 におい て , 原告であるフリー株式会社は , 株式会社マネーフォワード に対し , 仕訳システムのソースの開示を求めたが , 裁判所はこ れを認めなかった。 一方 , 技術者からすれば , ソースコードはノウハウの塊とい う意識があり , これを見れば請求の当否は一目瞭然であると の意識があるようにも思われる。 そこで本項では , 民事訴訟におけるソースコードの取扱に ついて検討し , 技術者と裁判所の発想のずれを考察したい。 弁護士法人淀屋橋・山上合同 弁護士・応用情報技術者伊藤太一 2. ソースコードの訴訟法上の取扱い ソースコードは , 訴訟法上 , 記載されている字面を問題とす るのではなく , 記載されている思想的意味内容を証拠資料と して収得するものであるから , 書証 ( 民訴法 219 条 ) として取 り調べられることとなる。 3 書証の申出は , ①所持者自ら提出する方法 , ②自ら所 持しない場合に , 所持者に文書の送付を嘱託する方法 , ③ 提出を拒む相手に対し , 文書提出命令の申立を行う方法があ る ( 民訴法 219 条 , 226 条 ) 。このうち , ②の文書送付嘱託に ついては , あくまでも任意の送付を嘱託するものであり , 裁判 所を介した嘱託がなされるとはいえ , 提出義務が課されるも のではないし 4 , 従わない場合の制裁もない。一方 , ③の文書 提出命令であれば , 命令の対象が訴訟当事者であって , かっ , これに従わない場合 , 裁判所は文書の記載に関する文書提出 命令申立人の主張を真実と認めることができる ( 民訴法 224 条 1 項 ) 5 。ただし , 第三者が従わない場合は , 決定で 20 万円 以下の過料に処せられるのみであり , 真実擬制効は働かない ( 民訴法 225 条 1 項 ) 。 6 1 平成 29 年 9 月 26 日午前 1 1 時の時点で株式会社工ル・アイ・シー提供の判例検索システムである判例秘書において「ソースコード」をキーワードとして民事事件全体を検索 したところ , 128 件がヒットした。概観ではあるが , そのうち , 1 00 件程度は知財訴訟であるように見受けられた。 2 東京地判平成 29 年 7 月 27 日。なお , 特許権侵害は否定されている。 3 なお , HDD や DVD に保存されたデータについても , 準文書として . 紙媒体としての文書に準じた規律が及ぶので ( 民訴法 231 条 ) , 以下 , 紙媒体によるかデータによるかを問 わず検討する。なお , データについては . 必要な場合 , プリントアウトして可読な状態にすることが想定されていることを理由に , データの提出義務が認められる場合 . これをア ウトブットするためのプログラムも提供する義務を負うという裁判例 ( 大阪高決昭和 53 年 3 月 6 日高民集 31 巻 1 号 38 頁 ) がある。 4 通説ではあるが , 近時 , 個人情報保護を理由とする提出の拒絶が頻発することで訴訟という公的手続における資料収集に支障を来しているとの問題意識から , 少なくとも 公法上の義務が課され , 開示について正当な理由があることを理論づけるものとして梅本吉彦「民事訴訟手続における個人情報保護」法曹時報 60 巻 1 1 号 3409 頁がある。 調査嘱託 ( 民訴法 186 条 ) が . 調査対象団体に公法上の回答義務を負わせることについては争いがないところ , 調査嘱託と文書送付嘱託で主体が , 裁判所と当事者という 点で異なるが , 手続保障の上での真実発見の要請という公益的目的に基づく制度であることにおいて両者に違いはない。また , 調査嘱託は , 当事者の主観に依らない客観的事 項について回答を求めることとされていることに鑑みれば , 裁判所が自らこれを調査しても公平性の問題がないので裁判所が主体となっているに過ぎないとも解しうること , 実務上も , 当事者からの申出に基づき裁判所が嘱託することがほとんどであることを併せ考えるなら , 文書送付嘱託の場合に公法上の義務を課して差し支えないと考える。 5 あくまでも文書の記載に関する主張であって , 文書から立証しようとしている事実について真実擬制が働くわけではないことに注意が必要である。ソースコードを例に取る と , ソースコードに「 p 「 in 廿 ("hogehoge つ」という記載があるとの主張が真実であると認められることがあったとしても , 当該記載が特許権を侵害しているという主張が真実と 認められるわけではない。また , 裁判所は , 真実と認めることが「できる」だけであって認めなければならないわけではないことにも留意が必要である。 6 ただし当該第三者が , 命令の対象者と実質的に同一とみられるような特別な関係があり , 命令の対象者が提出を拒ませているような場合等は , 法律上 , 真実擬制をするこ とができなくとも , 弁論の全趣旨 ( 民訴法 247 条 ) や訴訟上の信義則 ( 民訴法 2 条 ) によって真実擬制と同様の効果を及ぼすという立論があり得るように思われる。 4

7. 技術と法律

本稿の場面設定は , ソースコードを利用した立証をしたい ものの , ソースコードを所持していないことが前提となるの で , 以下 , 文書提出命令の問題に重点を置いて論じることとす る。また , 本稿では , 私文書たるソースコードに限定して検討 する。 3. 文書提出命令への壁 文書提出命令については , ニつの壁がある。 ーっ目は , 文書提出理由の有無であり , 民訴法 220 条が , 一般的に提出義務を法定しつつ , 同条 4 号イ ~ ホにおいて除 外事由を設けていることが問題となる。ソースコードでは , 特 に 4 号ニの専ら文書の所持者の利用に供するための文書 ( 自 己専文書 ) に該当するかが問題となるであろう。この点 , オー プンソースであったり , 契約当事者へのソースコードの提供 が約定されていたりすると , 自己専文書に該当するとはいえ ない。しかし , 特許権侵害のように , 契約関係にない当事者間 での紛争の場合 , ソースコードを提供すべき状況が考えがた く , また , ソースコードがノウハウの塊であることからすると , 自己専文書該当性が争われるように考えられる。 なお , 特許訴訟や著作権訴訟においては , 民訴法上の文書 提出義務除外事由である技術又は職業の秘密に関する文書 ( 民訴法 220 条 4 号ハ , 197 条 1 項 3 号 ) であっても , 正当な理 由がなければ提出を拒むことができないとされている ( 特許 法 105 条 1 項 , 著作権法 114 条の 3 ) 。 しかし , 実務上より大きな壁となるのは証拠調べの必要性 ( 民訴法 181 条 1 項 ) である。裁判所は , たとえ当事者が申し 出た証拠方法であっても , 取り調べの必要性がなければこれ を却下することができる。ここで , 文書提出命令の申立てにつ いての決定に対しては , 即時抗告ができるが ( 民訴法 223 条 7 項 ) , 申立てを却下した理由が , 証拠調べの必要性なしであ る場合は , 即時抗告ができす判決理由に対する不服申立手 段である控訴によらなければならない 7 。法文の定めに反する との見解もあり得ようが , そもそも却下決定に対する抗告と は , 口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立を却下した決 定に対する不服申立てであり ( 民訴法 328 条 1 項 ) , 口頭弁論 を経てなされる裁判である判決に対する不服で賄われるもの は対象とならない。証拠調べの必要性なしとは , 換言すれば , これを取り調べなくても事実認定ができるとの証拠価値の判 断の問題であり , 自由心証主義 ( 民訴法 247 条 ) の問題であ るから , 判決に対する不服申立である上訴によって検討され るべき問題である 8 。 さて , 一般論としていうと , 文書所持者が書証として文書を 提出することについて , 裁判所が証拠調べの必要性をいちい ち精査し , 個別に採否を検討することはないといってよい 9 。し かし , 鑑定・検証・証人尋問・文書提出命令等 , 手続が重くな ればなるにつれ , 裁判所は , 証拠調べの必要性について慎重 な判断を行う傾向がある。これは , 証拠収集については , 第一 次的に当事者が行うべきという弁論主義の建前によるものと 考えられるが , それ故代替方法による立証が可能であり , か つ , そちらで心証形成が十分にできるのであれば , 必要性な しとして却下されることが多いといえるのである。 このことは , 主張立証責任を負う側が文書提出命令の申立 を行う場合 , 特に深刻になる。すなわち , 正面突破をしようと して文書提出命令を申し立てたら , 脇道で敗訴の心証を取ら れ , 本案ごと文書提出命令の申立ても却下されるという , 踏ん だり蹴ったりの状態ができることとなるのである。 1 。 なお , 手続面にも若千付言する。証拠調べの必要性の有無 については , 民訴法と特許法では若干異なる問題がある。す なわち , 当事者としては , 文書提出命令の判断が出る前は , 証 拠を見てもらっていないのであるが , それなのに必要性がな いとはどういうことか , という疑問が生じる。この点 , 民訴法 223 条 4 ~ 6 項は , 文書提出義務の存否を判断するために , 裁判所が , 裁判所限りで文書を閲覧することができる , いわゆ るインカメラ手続を定める。しかし , これはあくまでも文書提 出義務の存否の判断のための手続であって , 証拠調べの必要 性のための手続ではない。そのため , 証拠調べの必要性につ し、て , 同手続を利用することはできない。 一方 , 特許法 105 条 2 項は , 特許法上の文書提出義務の除 外事由である「正当な理由」を判断するためにインカメラ手続 を利用することができるところ , かかる正当な理由とは営業 秘密であることの他 , 訴訟追行上の必要性をも加味して総合 的に判断されるものとされており , 具体的には , 営業秘密の開 示により所持者が受ける不利益と書類が提出されないことに より申立当事者が受ける不利益が比較衡量されることとな る 11 。ただし , 特許法 105 条 2 項は , 当事者間でのみしか使え す第三者に対し提出を求める場合は , なお , 民訴法の規定に 7 最高裁平成 1 1 年 ( 許 ) 第 20 号同 12 年 3 月 1 0 日宰ー小法廷決定・民集 54 巻 3 号 1073 頁。 8 逆にいうと , 文書提出理由なしで却下する場合 , 取調べの必要性は肯定されているのであるから , 取調べをすれば心証が変わる可能性がある。そうすると , 当該審級における 判断を尽くさせる必要があるので , 抗告によって判断の誤りを是正させる必要があるといえる。 9 例外は , 時機に後れた攻撃防御方法である場合 ( 民訴法 1 57 条 ) や , 違法収集証拠等を理由とし証拠能力が争われる場合などであろう。 10 文書提出命令の申立てに対し , 独立した決定書が作られる事例もないではないが . 実務上口頭弁論終結の際には判断を留保し判決書において , 代替方法による心証形 成ができており , 必要性があるとはいえないとして却下される事例も少なくない。理論的には , 口頭弁論は , 訴訟が裁判をするのに熟したときに終結するので ( 民訴法 243 条 1 項 ) , 判断留保の状態で口頭弁論を終結するということは取り調べなくても裁判をするのに熟している , すなわち取調べの必要性がないといっているのに等しいといえる。ただ し , 口頭弁論終結後 , 判決書作成をしている際に取調べの必要性があると判断するに至り , 改めて口頭弁論を再開することもないとはいえないだろう。 1 1 中山信弘「注解特許法第 3 版」 ( 青林書院 ) 1 182 頁 5

8. 技術と法律

1 . なぜこの本を作ろうと思ったのか。 とても端的にいえば新しいものが見たい ! という思いが気 づけばこうなったということです。 loT 、 XR 、プロックチェーン、なんちゃら Tech 、バイオなど 技術を用いたアート作品を始めとした制作物や、よく考える なーというビジネスモテルが面白い。具体的なモノを作れは しないのですごいなーとただ見ていただけだったのが、ハッカ ソンに出てから、作るとは言われたモノを作ることではなく、 聞かれたことに意見申し上げることでもなく、「やれることを 自ら見つけやっていくこと」と考えるようになりました。 元々自分で始めたウエプサービスを介してこういう世界を 作りたいと言う野望があり、日々あちこち拝見させていただい ているのですが、やつばり作ってる人に聞くのは楽しい。サー ビスに落とし込んでいくことはメンタルが何度となく崩れるだ ろうけど頑張っていただきたい。もがいているのならば何かし ら一緒に考えていく方向性をアウトブットしたいと思っていま す。 法律界隈の人にエンジニア・クリエーターさんからお声が かかるときはもうすでに何かができているか、やりたいことが ある程度決まっている、例えると、 0 → 1 は始まっている。で、 次に 1 → 1 0 や 1 OO となっていく段階です。 ジャストアイティアの段階でエンジニアやクリエーターの 卵とフランクに話ができる場所があちこちにあればかえって リーガルリテラシーにも貢献するはず、と考えています。 法律は人の生活を豊かにし、生命身体を守るためのルール であるにもかかわらず、法律があるからダメ ! と杓子定規にぶ るまう行為が横行しているように思います。ルールにとらわれ てかえって悪く足かせになっていることは法に携わる者として 悲しい。 2. 研究会と StudyCode 勉強会を主催してます 前書きを書いている足立さんと私はほぼ月に 1 回、政策研 究大学院大学にて行われている Smips ( 知財マネジメント研 究会 ) オーガナイサーをしています。足立さんは知財関連法を 含め多分野の法解説などをする法律実務分科会を、私は前 述のエンタメと知財分科会を担当しています。参加は無料で どなたでもこ参加可能、予習も不要ですのでぜひ遊びに来て ください ( http://www.smips.jp/ ) そしてさらに 2017 年 9 月からは Smips のスピンオフとし て StudyCode というエンジニアと法律家がお互い学びあう 勉強会を始めました。 ( https://studycode.connpass.com/ ) StudyCode では法律に興味あるエンジニアさんの登壇者 も募集しています。こういうことが話せるので、法律家側の意 見が聞きたい、エンジニア・テザイナーからの疑問をぶつけた いなどありましたらせひ投げかけてください。 いつの日かビジネスが生まれたり、プレイクスルーのきっか けがあったりしたら泣いて喜びます。型を知った上で破ること がイノベーションだと思います。業種の壁を越えてイノベーシ ョンを起こせるよう継続していきます。どちらの会も活発な議 論を歓迎していますので、ぜひお気軽にこ参加ください。 3. 最後に そして執筆陣のみなさま、誰一人として暇な人はいないの に即答で協力してくれた人たちばかりです。みんな個々人で活 動しているエンジニアやクリエーターをサポートしたいと考 えている人たちです。こういった方々とこ一緒できることはと ても光栄であり、ご紹介くださった方々含め感謝の気持ちで いつばいです。本当にありがとうございました。 灯領域に関心のある弁護士・中小企業診断士・大学教授・ イノベーションの仕掛人・エンジニアと様々な立場の方が各 々の専門分野に基づき技術と法律の知的好奇心を揺さぶる 寄稿をしてくださいました。直前までいろいろとお手間をおか けしてしまいましたが、引き続き今後とも仲良くしていただけ れば幸いです。 「プログラムコードぽいのが書いてある画面と法律の本を 背景に毛先の赤いそことはなく私っぽい女の子が魔方陣だし ている感じのキャラクターがいいです」というよくわからない オファーにもかかわらずイラストを仕上げてくださった樋上 いたる先生と先生につないでくれた A ちゃん、本当にありがと う ! 愛用しまーす。 このページはシェアフリーです。 Twi 廿 er などでの感想をお 寄せいただける際には #Smips #StudyCode # 技術と法 律とつけていただけると探しに行きます。 「技術と法律」共同編集代表新井秀美 37

9. 技術と法律

れている 3 。 とはいえ、厳密に言えば、お互いの引渡し ( 履行 ) には時間 差が生ずるので、例えば、買主が売買代金を振り込む送金ボ タンを押した瞬間に、目の前にいた売主が自動車のキーを 持って逃亡する可能性もないわけではない。また、遠隔地にい る当事者同士の契約や、実行に一定の手間が掛かる義務 ( 海 外送金や輸出入の手続等 ) だと、この同時性の確保が難しい。 そのため、実務上は、第三者が当事者の間で取引の対象や代 金を預かる存在としてのエスクロー ( Escrow ) を立てること がある。 2 スマートコントラクトの成立と実行 スマートコントラクトの概念は、米国の法学 x 暗号学者であ る Nick Szabo 氏が 1997 年に公表した論文 4 まで遡る。当 時、プロックチェーン技術は未だ存在していなかったが、その コンセプトである「スマートコントラクトにより、コンビュー タ・ネットワークを介して、関係性を定義し、かっ確実性を確 保するために、ユーサ・インターフェイスとプロトコルを統合 する。」 5 という考え方は、現在も踏襲されている。スマートコン トラクトでは、法律上の契約の要素に当たる部分は、プログラ ム上、ユーザ間の関係性の定義 ( Definition ) としてコーティ ングされる。 例えば、スマートフォンに実装された非接触℃により解錠 される自動車の売買を考えると、解錠権限の譲渡が自動車の キーの引渡しに対応する。仮に、この場合の売買代金の支払 いに暗号通貨を用いることが定義された場合には、法律上の 同時履行の原則 ( キーと代金の同時交換 ) をスマートコントラ クトに、自動執行 (Auto-Execution) のプロトコルとして実 装することも可能である 6 。これは、自動執行の場合は、誰かの 恣意が介在するおそれがなく、システム全体で一種のエスク ロー機能を提供できるからである。この恣意の排除は、プロッ クチェーン技術を活用した DApps (Decentralized App ⅱ cation ) 7 の場合にはより強力となる。 もっとも、すべてのスマートコントラクトがネットワーク上 で完結できるわけではなく、現実の物理空間での裁判所を通 じた執行が必要なケースも存在するであろう。その際に問題 となるのは、スマートコントラクトにおける当事者間の合意の 内容は、どこに存在するのかという点である。 法的に有効な契約といえるためには、当事者間の申込みと 承諾の意思表示の一致があれば、契約の形式は問われない ことは前述したが、スマートコントラクトの場合、契約の要素 はすべてプログラム上の定義としてコーディングされてしまっ ており、ほとんどの場合はユーザの可読性がない。可読性が ない要素を当事者の意思表示の内容となるように実装する ためには、スマートコントラクトにより実現したい契約の要素 については、ユーザ・インターフェイスを通じてユーサ ( 契約 当事者 ) に表示するとともに、申込みと承諾の仕組みをプロト コル上で実装した上で、その一致を確認する (Verify) する必 要がある。 このような当事者の意思表示の一致をプロトコルとユー サ・インターフェイスを通じて確保するという過程は、後述の 電子署名やプロックチェーン技術による非改ざん証明という 機能だけでは実現できない。記録 (Record) が改ざんされて いないということと、記録内容やプロトコルの仕組みが契約 の成立条件として十分かは全く別個の問題であり、スマート コントラクトのデサインを考える上で重要である。 このほかにも、スマートコントラクトのデザインを考える上 では、ある種のスマートコントラクトがアーキテクチャとして テファクトスタンダードとなること上で考慮すべきいくつかの 論点が存在する。例えば、当事者が契約内容をフェアなもの とするために十分な交渉カ (Bargaining Power ) を持たな いとき、スマートコントラクトに実装されるべき契約の要素の 決定プロセス自体をどのように設計するかなどの問題があり 得るが、これらはまた別の機会に検討したい。 Ⅲスマートコントラクトの証拠価値 1 法律上の証拠価値 日本の民事訴訟制度において、証拠となり得る能力 ( 証拠 能力 ) 、すなわち裁判官が判決中で事実を認定する基礎とし て用いることができる資料の種類に制限はない 8 。そのため、 スマートコントラクトを含め、電子的な証拠にも証拠能力は ある。よく、電子的なテータが証拠となり得るかという問いが 提起されるが、これは証拠能力の問題ではなく、証拠として信 頼に値するかどうかという実質的な信用性 ( 実質的証拠カ ) の問題である。 例えば、紙媒体で先ほどの自動車の売買契約書が作成され た場合を考えてみよう。そして売買契約書には代金が 100 万円と記載されているが、売主は「合意した代金は 200 万円 3 民法第 533 条 ( 同時履行の抗弁権 ) は、「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の 債務が弁済期にないときは、この限りでない。」と規定している。 4 Nick Szab0 "FormaIizing and Securing Relationships on Public Networks" (Peer-Reviewed 」 ou 「 n 引 on the lnternet, Volume 2 , Number 9 , 1 , September 1997 ) 5 "Smart contracts combine p 「 0t0C0 with user interfaces tO formalize and secure relationships over computer networks. " 6 鳥谷部昭寛他「スマートコントラクト本格入門」 ( 技術評論社、 2017 ) 68 頁以下 7 https://github.com/DavidJohnstonCEO/DecentraIizedAppIications 8 ちなみに、刑事訴訟制度上は証拠能力に一定の制限がある。例えば、違法に収集された証拠には、原則的には証拠能力がないとされる。

10. 技術と法律

技術の世界において、 工ンジニアがコンピュータを動作させるために組み上げるプログラムのことを 「コード ( Code ) 」と呼びます。 一方、法律の世界において、 3 足立昌聰 「技術と法律」共同編集代表 2017 年 10 月吉日 ここに「技術と法律」の準備号を刊行します。 2 つの「コード」が共に発展する一助となることを祈念し、 まだまだ試行錯誤の状況ですが、 「 Study Code 」です。 技術者と法律家の交流を図る会 技術者と法律家が、それそれ自身の分野の情報を他方に提供し、 もうひとつは、 「技術と法律」です。 自由に論稿を投稿できる 技術者と法律家が、技術と法律が交錯するテーマについて、 ひとつは、 2 つのプラットフォームを作ることにしました。 わたしたちは、技術者と法律家は互いの「コード」を理解するための場として、 2 つの「コード」が密接に関係する時代の中で、 人工知能や仮想通貨に対する規制論や、リーガルテックのような新ビジネスが勃興するなど、 交わることなく、それそれの進化を遂げてきました。 技術者と法律家という全く異なる人たちにより、 2 つの「コード」は、 「コード ( Code ) 」と呼ばれます。 立法者が、国や組織の行動のルールとして作り上げる法令のことも