執る - みる会図書館


検索対象: 書の十二則
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1. 書の十二則

た際の執筆、下は一九八六年に私が上海のお宅を訪問したときに示された執筆です。当 時はすでに九十歳になっておられましたが、執筆がまったく変っていないことがわかり ます。 ・こちょうぎよう 呉長邦は呉昌碩の孫になる人です。これは一九八七年に杭州の西冷印社での交流の際 に撮った写真で、王个簓の執筆と一致するものです。これによって呉昌碩の執筆も、筆 る 管の中ほどを執り、潘天寿ほどには人差指を立てない柔らかいものであったことが想定 を されます。 置 なお、概して言えば中国人の執筆は作品表現のいかんにかかわらず、誰においてもほ位 ぼ一定のもので、筆管の最頭部を執る人はほとんどありません。 執 の 筆 3 表現に応じて執筆を変える 第 場の条件、作品表現に順じて 執筆が各書家の表現のありかたにいかに結びつくものであるか、さまざまな事例によ

2. 書の十二則

ジしよう。日本でも文部省による中等教員採用試験であ ふんけん 穩る文検の習字科ではこの書法が強制され、自ずから学 き校教育においても、その強い影響がありました。 1 ③の横画の練習から始めよう 図 これらの横画のうち、振り子運動の運筆に最も近い のは③になります。振り子運動を応用して、まず図 1 ー行の動 きをイメージし、軽くこのように筆を執って動かしてみましょ 筆 運 う。さらに動きがこなれてきたら、墨を含んで実際に書いてみ の ③ましよう。この場合、筆を強く使いすぎたり筆圧を加えすぎる と、動きが重くなったり筆先がもつれたりします。そういうこ 1 とのないよう、極力運筆を軽くして、明るい線が出るように気 図持ちを集中してください さて、いよいよ横画です ( 図 1 ー参照 ) 。先ほどと同じ運筆 をして、まず空中でから人りで方向が変わります。方向が

3. 書の十二則

を自己の指の延長と考えて、まさしくなりふりをかまわないカずくの運筆で、それが著 しく低い執筆に繋がっています。このように執筆は書する場の条件、あるいは作品表現 のありかたに順じて選択しうるものといえるでしよう。 これまで述べてきた執筆法を分類すると、以下のようにまとめることができます。 筆管の上部を執る 肘を机に着ける筆管の中程を執る 筆管の下部を執る 筆管の上部を執る 筆管の中程を執る 筆管の下部を執る 筆管の上部を執る 肘を机に着ける筆管の中程を執る 筆管の下部を執る 筆管の上部を執る 筆管の中程を執る 筆管の下部を執る 単勾 双勾 肘を上げる 肘を上げる 113 第 3 則筆の執りかた・位置を変える

4. 書の十二則

す。これによって筆管が立ち、かっ指の振り幅が自由になって、筆を大きく動かすこと がで、るよ一つになります % 筆を指先で執るべきいま一つの理由は、前述したように指の神経は指先に最もよく集 まっていることです。言語野と運動野の一連の働きによって文字を書す行動が現われる わけですが、筆管を動かすだけで筆管の先に差し込んである筆毛を動かそうというので すから、よほどそこに微妙な神経が働かなくてはなりません。試しに、手袋をして筆を 執ってみてください。神経を断ち切ることが、いかに動きを無感覚にするかがよく納得 されるでしよう。指先の神経を駆使することが、確かな筆運びには欠かせないのです。 す 動 子 一執手首、腕、肘 ーレ 次に筆を執った手の構えかたと姿勢について述 てのひら 起べていきます。まず手首の構えですが、掌の甲を 首少し起こし気味にします。これは筆を執る五本の第 すなわ 指、即ち「五指の集中」を得るためです。中国人 図は筆を立てるにあたって、手首をほぼ直角になる

5. 書の十二則

ることを避けて、もつばら意のままを書跡として表すために高い位置を執ったものと思 われます。 このように筆管の下部を執るか上部を取るかは、作品表現のありかたと密接に結びつ くものであることがわかります。下部を執るほうが安心で、上部を執ると不安定になる ことは確かですが、上部を執ることに置れると、わずかな指の動きで筆先を鋭くきかせ る ることができるようになってきます。大脳運動野の働きについて述べてきたとおり、下 の位置で執ることがあまりに身につくと、繰り返しになりますが大脳運動野のプログラを 位 ムに深く刻み込まれてしまうと、手首を紙面から離すことが怖くてできなくなってしま います。どちらの方法にも積極的にとりくんで、下と上とではどのような働きの違いが あるか、自分の手にどんどん覚え込ませましよう。 の 筆 第 中ほどの位置 中ほどの位置の執筆は、低い位置と高い位置の双方の良さを兼備するものということ にしかわやすし ができるでしよう。西川寧は中国書法のすべてに通じた近現代日本書法史における屈指 の大家で、とくに中国古代の金文 ( 周王朝の青銅器に刻された文字 ) を芸術表現に成し

6. 書の十二則

は、しなるときには幾分広がっています。ただし、この広がりかたは毛の質に弾力があ るかないか、柔らかいか硬いかによって異なり、硬い筆毛でも一日墨液にひたしておく とずいぶん柔らかくなります。 しかし、やってみるとまっすぐに人り、さらにまっすぐに抜けることが、たいへん難 しいことであることがわかると思います。理屈では指は紐を持つだけで振り子を自由に 動かしているはずなのに、自分の意思や癖が知らず知らすに紐から筆の軸に伝わってい るのです。場合によっては筆毛にすでに癖がついてしまっていることもあります。 では、目をつぶって同じことをやってみます。いっ筆毛が紙に接するかわかりません が、無意識にすっと筆先が紙面に当たったとき、実に美しいまっすぐな線が引けているか に違いありません。それが詠士のいう、最も美しい書線なのです。目をつぶればなぜ引 子 で線けるのか、それはまさしくそこに雑念振 運ぐがないからで、それこそが「心正しけ つれば則ち筆正し」の状態を得ているの第 振ま 5 です。しかし、書は目をつぶっていて 図引はできるものではありませんから、目

7. 書の十二則

つまりそれが見る人にとっては 王羲之独特の筆脈のダイナミッ 所 箇クさであり、運筆の妙として迎 る えられたものと思われます。図 が 6 ー 3 は米董の尺牘からとった ′西 断ものです。彼が断筆を使ってい るのは、まさに王羲之気分で筆 筆 教 断 の 字を執っている表れです。 集 運筆を極力小さい単位として 米 捉えて書くことは、私たちにとってはたいへん参考になる方法で 図す。王羲之においては転折部の断筆は表現効果のためのものだっ たのでしようが、これは転折部ではいったん筆を離し、一呼吸し 改めて入れ直して書くことができるという意味でもあります。例 えば図 6 ー 4 の「極は見ばえがする一方で、複雑な点画構成に よる難しい字形ですが、断筆のできる箇所は 0 で示すようにきわ 148

8. 書の十二則

ずれの種類においても、人差指からの四指がたいへん 動太く長く、また甲が長く、親指は四指から遠く離れて、 王しかもパランスからいってかなり小さなものです。こ 提 れではとても、親指 ( また拇指 ) の名は似合いません。 ををの猿の手は木にぶらさがるための発達をとげ、人間の手 は道具を作り、かっ使うために発達をとげた結果の相風 作 図 違なのか、あるいは人間は親指が発達していたからこ そ、木から降りて道具を作り始めえたのか、これは今後の議論が待たれるところです。個 したがって、筆を執るにあたっては、親指をよく機能させることが肝要です。しばし筆 ば鉛筆やポールペンを握るようにし、親指を前に突き出すような持ちかたで書くところ を見かけますが、これでは敏感なはずの親指の働きがまったく生きていず、 いい字が書筆 毛 けるはすがありません。神経が指先に集中していることは、誰もが知るところです。硬 筆にしても毛筆にしても、親指は極力浅く、指先で軸に接するほどにすることが、親指序 の働きをよく生かすための秘訣です。

9. 書の十二則

2 筆の持ちかた・構えかた 指と筆ーーー八面出鋒 一般には日本では筆は「持つ」と、 しいますが、「執る」とのいいかたもあります。 「執」は「小説を執筆する」、あるいは「手術を執刀する」「執務中である」というよう に決して特殊な語ではなく、指先の働きに意味あいが多く込められています。これに比 かばん す べ「持つ」は「重い鞄を持つ」「持ち物検査」というように、まさに行為そのままをさか す簡便な語です。したがって、筆のように微妙な性能を指で扱う用具に対しては「執 子 る」と表すのがふさわしいのであり、筆の執りかたは日中両国を通じて執筆法と称され ています。 むち 第 筆毛は一本一本が鞭打っ弾力性の集合体なのですから、執筆法で一番大切なことは、 筆毛が自由に伸びのびとその性能を発揮できるようにすることです。中国では、筆先が はちめんしゆっはう 自在にどの方向にも働くことを八面出鋒といっています。筆を握るように窮屈に持っ

10. 書の十二則

萎縮と脳 伸びのびと書きたいというのは誰もがもっ願いですが、なかなかそれが思うようにゝ かないのが現実です。そう思えば思うほど、意識が先んじて気持ちと手の動きとが噛み 合わなくなったり、同じ人であっても多勢が見ていると緊張して書きにくいとか、調子 の良し悪しがあって、思いの外よく筆が動いてくれる日があれば、なかなか調子の上が らない日もあります。 この現象は前述の大脳科学や筆跡学から見ていくと、よく説明がっきます。まず大脳 科学の立場からいうと、手の動きが縮むとか大きく広がらないのは、大脳運動野の手に いったん萎縮状態に陥 関する体部位局在が萎縮しているということになるのでしよう。 った体部位局在は、なかなか改めることができません。つまり、筆を執って最初に動か すときに、まず思いきって大きく動作することがいかにたいせつであるかということで す。意識と手の動きとが噛み合わないとは、気持ちを動かす大脳前頭葉の働きと運動野 の働きが、調和を得ていない状態をいうのでしよう。スホーツでは準備運動やイメージ トレーニングを、とてもたいせつにしています。書するにおいてもこれは大いに参考に なることです。スポーツ感覚を取り人れ、リラックスして大きく手を動かすことから始 178