なるべく長い方が振り子運動がしつかりできている証になり、運筆を確かにすることに 繋がります。 ともかく、横に縦にと振り子運動を大いに活用してください。運筆に不安がよぎった ら、あるいは線質が重くなりマンネリ化を感じてきたら、振り子運動を原点として、筆 の動きをチェックしましよう。 79 第 1 則振り子に動かす
墨跡の中には振り子運筆が縦に横に斜めにと、さかんに生きていることがよく察知され ます。 4 横画・縦画を振り子で引く さて、いよいよ横画と縦画を振り子運動によって引くことにします。これまでの内 容がよくのみこめ、筆を運ぶ呼吸のほどが納得されていれば準備は十分です。 ⑥ ⑦ ③ ④ ⑤ ① ② 図 1 ー 8 横画のいろいろ
目次 序章毛筆と脳、運筆と個性・作風 筆は特殊な筆記用具・ 2 毛筆で書すること・ 動いた結果が形であること・ 第一則振り子に動かすーーー横画・縦画を軽やかに運ふ・ 筆のコンディションと手人れ 2 筆の持ちかた・構えかた・ 振り子で線を引く・ 4 横画・縦画を振り子で引く・ 第二則旋回を大きく続けるーーー行書・草書の動きは円運動の連動が基本 1 行書から始めよう 2 横への旋回運動・ 60 54 49 46 88 82
得、さらに独自の墨痕淋漓 ( 墨が漲り溢れる ) にして雄壮無比の風格を確立したことで 知られます。 この宮島詠士が、門人に対する教えの中で名言を残しています。それは書線の理想と は、筆の軸先についている紐を持って筆をふらさげ、振り子状にすっと一振りして引か れた線たというのです。詠士の書線はきれが鋭く、透明感において追随を許さないもの で、彼の作品の中にはその極意にあたると思われる箇所がさかんに見られます。 けんしんすいろ これは中国の書論に現われる懸針垂露の理念を、実際的な筆の動きで示したものです。 懸針とは懸げた針を、垂直に上から下に落とすような縦画の鋭さをさし、垂露はひとし す すくの露が、ぼとりと葉から落下する状況を表したものです。ともに縦画を書く際のよか どみなきことを求めた語ですが、詠士の求める意味は、この二者のうちでは、とくに懸 子 針に近いものであることが理解されます。 振 まっすぐに入り、まっすぐに抜ける 第 では、これを実際に試みることにしましよう。用意する筆は三号から四号、つまり半 紙六文字詰に使う直径一センチ程度のものが適当です。これより小さいと筆触がかすか みなぎ
ジしよう。日本でも文部省による中等教員採用試験であ ふんけん 穩る文検の習字科ではこの書法が強制され、自ずから学 き校教育においても、その強い影響がありました。 1 ③の横画の練習から始めよう 図 これらの横画のうち、振り子運動の運筆に最も近い のは③になります。振り子運動を応用して、まず図 1 ー行の動 きをイメージし、軽くこのように筆を執って動かしてみましょ 筆 運 う。さらに動きがこなれてきたら、墨を含んで実際に書いてみ の ③ましよう。この場合、筆を強く使いすぎたり筆圧を加えすぎる と、動きが重くなったり筆先がもつれたりします。そういうこ 1 とのないよう、極力運筆を軽くして、明るい線が出るように気 図持ちを集中してください さて、いよいよ横画です ( 図 1 ー参照 ) 。先ほどと同じ運筆 をして、まず空中でから人りで方向が変わります。方向が
書きかたの中で述べてきました。しかし、文字を構成する画にはまだまだ異なった形を もつものがいくつもあります。それらにおいても、筆管を回す作用がつねに微妙にかか わっています。また、これは中国書法と日本伝統の和様とでも異なりがあり、適切な区 別と応用が必要になります。 る 左右の払いにおける筆管の回し 筆毛がスムーズに働くということは、振り子状態に筆毛が動けるということで、そのす ためにはその条件にかなうべく指が筆管に操作を与えねばなりません。左払いには曲線を 管 が人り、右払いには曲線が人る上に途中で線の太さを増し、さらに方向を変え右方に三筆 角状に鋭く払い出すという変化があります。振り子運動は単純な直線運動ですから、そ こに応用力が必要になるわけです。伸びやかな左右の払いは書作における腕の見せどこ第 ろですが、その表現の鍵をわすかな筆管の回転操作が握っています。
第一則振り子に動かすー・・、、横画・縦画を軽やかに運ぶ 長蜂羊 ( 山羊 ) 毛筆
えたものと考えて差し支えなく、篆隷の縦画と 縦筆 2 の 図画 ただし、何よりも重要なことは、長い縦画は 難しいという不安を払拭することにあります。 いくらわかっていても、また力量があっ ても、不安がよぎると手が縮こまり、自由に筆を動かすことができません。これはプレ ッシャーによって精神が圧迫され、運動野が萎縮している状態ですが、ここでも振り子 運動がものをいいます。 たとえば縦画⑧であれば、まずから起筆のポイント o に向かって真下から筆先を運 びます。二、三度筆管を上下に、振り子運動をするのもいいでしよう。その筆運びの流 れで細くすっと下方から上方に線を人れてゆき、横画同様の筆先の折り返しをの流 れで行います。起筆の手続きが済んだら、今度は上方から下方にあらかじめ引いた糸い 線の上を、縦画本来の太い線で書きあげます。下から上にー 弓いた細い線が運筆の基準に 縦筆なって、自信をもって運ぶことができ、かっ起 の筆の折り返しで得た筆毛の弾力が、運筆を軽や 図画 かにすることでしよう。下方から上方への線は
たび筆管を右回しし、筆毛の腰を下方に沈めます。最後に筆管の右回 しを続けながら、右上方に筆先が細くきれいに出るように気持ちを集 中してゆったりと抜き出しましよう。 筆 以上のように②は非常に技巧的な運筆をし、とくに筆管の右回しを ②繰り返すものです。このためにも筆を執るにあたっては、親指、人差 横指は極力浅く筆管に接しておく必要があります。筆管は親指と人差指 の間を回りながら機能するもので、もし筆管を握るように深く執って しまうと、筆管を回しにく、 筆の微妙な働きを感じにくいという不 図 す 都合が生じてしまうことになります。 動 いよいよ複雑なもののように この運筆は、言葉に表そうとすると、 子 受けとめられることでしよう。しかし、リズムよく運べば何でもない振 ことで、そのリズムとはもとより振り子運動です。どんな大家においても、運筆はこの 振り子運動のリズムを無自覚のうちに駆使しているのであって、これを失ったり、それ第 ができにくい筆や紙を使えば、運筆はたちまちにして滞ります。墨は濃いめの方が、手 ごたえがしつかりして練習になります。紙はあまりにじまず、比較的すべりのいい紙を
筆力のためが重要になります。振り子状に動かして起筆に人り、筆毛をしならせ弓が返 この場合、あまり筆毛が柔らかすぎるとうまく返 るように弾力を発揮させてください りませんし、強すぎる場合は鋭く返りすぎることがあります。少し強めで柔らか味も備 えた筆、つまり茶系の強い毛を芯にし、これをやわらかい羊毫で包んだ兼毫からはじめ るのが適当ではないかと思われます。 5 ①の横画の練習 残りは①と②になりましたが、これらは筆法の枠組みとして、③ 5 ⑦とはまったく異 質なものです。①では筆先の方向性をいっさい見せず、方向は水平が厳守され、直線か っ平坦です。しかし、この異質性も振り子運動で書くことで、とても平易に理想にかな った運筆が可能になります。 まずから起筆のポイントであるに人り、そこで一気に囲度ほど筆管を回転させま す。すると筆先は遠心力がついたように、ねじれが生じて広がります。筆先が広がった ら直ちに送筆に人り、筆毛の張りをそのまま持続しながら右方に運びます。まさしくこ れは平行移動ですが、この筆毛の状態を維持するために重要になるのが親指の働きです。 けん・こう