向に運筆して、はねの位置に至ります。さらに断筆し、今度は右回りに起筆を人れ直し てはね出します。この起筆は縦画の左輪郭上に乗せるのがよく、運筆は左払いのとき同 様に、腹から押し上げるようにしてそのまま離します。 以上のように、運筆には常に筆管の右回り、左回りの回転が微妙にかかわっています。 これをなめらかにするためには、これまで述べてきたように筆管を指先で浅く執ること が不可欠の条件になりますから、いま一度自己の執筆の形を詳細にチェックしてくださ 3 中国書法と和様の相違 平安時代中期、仮名書法が形成されていくに伴い、それまで専ら中国書法でも、とく に王羲之書法に準拠することにつとめられていた漢字書法も、柔らかな日本独特の書風 わよう に改められていきました。これを和様と呼んでいます。ただし、当時からそのような名 称があったわけではなく、江戸時代に人って儒者の間で中国風の書法がさかんになり、 わよう もつは 162
方勢の楷書の場合 転筆のある横画は比較的細く書くので、起筆の筆先を菊度左上の方向に軽く人れ、直 ちに運筆します ( この場合、長い横画のように起筆を形作らない ) 。次いで転折部でぐ っと筆圧を加えて筆先を広がらせ、折り返しに人ります。このとき左払いの起筆の場合 と同様に筆管に 5 度程度の右回転を加えます。筆管だけに回転を加えればいいのであっ て、これによって筆毛全体にしなりが出、下方への動きが軽くなります。さらに動きに 順じて筆管に右回転を加えて筆先の方向を次第に左上に向けてゆき、はねの位置に至っ てほぼ真上に向けます。最後のはねは、むしろ筆の腹から押し出すようにはねるのがよ 、決して筆面を裏返して筆先をはね出してはいけま せん。 折 転転折とはねにおいても、断筆をするか否かは技法上 書 の好みの問題で、良い悪い、あるいは優れる優れない 巧の問題ではありません。転折で筆毛を突き上げるかわ 図 . りイ冖」、 いったん断筆し、筆毛を人れ直すようにしても 結果は同じです。ただしはねのポイントで断筆する場 筆先の通過 160
筆先の通過 合は、筆毛を人れ直す位置を線の左輪郭上に移した方がきれいにいきます。 円勢の楷書の場合 以上は方勢の楷書の場合ですが、円勢の楷書の場合は角を作ることができませんから、 断筆もできないことになります。転折部で突き上げず、直ちに筆管に 5 度程度右回転を 加え、そこで生じた筆毛の弾力を使ってそのまま方向を転じます。行書、草書の場合も る び 心得はほぼ同じと考えて差支えありません。 線 隷書の場合 す 回 を 隷書の場合はこれらと異なり、断筆は必ずしなくてはな の 書 りません。筆管の回転も、もっと顕著に用います。まず横筆 画の起筆で筆管を度右回転させることは前掲の横画のと 図きと同じで、そのまま運筆して転折部で断筆します。楷書第 のときよりもっと明瞭に、次の起筆は横画の収筆とは離し て人れ、横画のときとは逆に左回転して人りそのまま縦方
を、レム・つりゆ - っ こと浮雲の若く、矯きこと驚龍の若し ) 」と讃えたのです。 しかし、一画一画の転折部 ( 点画の折れ目 ) を見ると不思議なことがあります。とく にそれが「書」の字に表れていますが、三つ目の転折で輪郭に小さな欠けが認められる ことです。この現象は図 6 ー 2 に示した -Q o で、前画の収筆に次の起筆を少しずらせ て人れ直したことから生じたものに違いありません。これが断筆の技法で、目だちませ んが他の画においても、この技法が多用されているものと思われます。 す 直 筆脈のダイナミック れ 人 これは運筆を極力短い単位に捉え、それを連動することによ ら 筆 断 っ って字形を作り上げるという考えに立つものです。これによっ の て草書とはいえ、一画一画が非常に明瞭になり、どこの部分をつ 七 叶見ても不鮮明なところがありません。一画一画を切って繋がな 第 いと書けない、即ち断筆しないと書けないというのではなく、 図この断筆の箇所が第五則で述べた起筆、収筆の働きを発し、錯 覚を促して一画一画を長く張りのあるものに見せているのです。
縦への旋回運動・ 第三則筆の執りかた・位置を変える , ーー筆の執りかた・位置によって表現の幅を広げる・ 執筆を示しあう・ 2 執筆と作品表現・ 3 表現に応じて執筆を変える 第四則筆毛は・ハネの集まりーーー筆毛のしなりと、もどりの力を使う 筆毛のパネを確かめる・ 2 筆毛パネの連動・ 第五則紙離れをすばやくーーー線質には紙離れの跡によって促される錯覚あり・ : : : : 三 : ・ : ・ 錯覚とは何か・ 2 収筆のきれは起筆から・ 3 収筆の技法・ つまったら入れ直すーー・運筆は途中できってつないでもかまわない : 第 137 133 130 127 141
図 4 ー ) は二つの連動が複雑に交錯しています。筆毛が収筆から次の起筆に転ずる転折 部が、断筆のできるポイントです。断筆することにより、すいふんと連動がやりやすく なった方がある筈です。収筆でいったん筆先を紙面から離し、改めてそこに強く打ち込 んで転折に移るのは、仮名書法における堂々たる一技法です。同じポイントでこの動作 を二度繰り返してもかまいません。何度も繰り返していくうち、打ち込み直してもポイ ントをはずさない技量がやがてついていきます。 集 のを \ 当し、 ) つの、第お 古 本 関 図 151 第 6 則つまったら人れ直す
广右回し 上方に突き上げ 3 ⑥の横画の練習 運⑤と形状が似ておりながら、起筆の動きがかなり異なるのが⑥の 筆横画です。さきにこれを⑤の円筆に対して方筆であるとのいいかた のをしましたが、そもそも筆は丸いものなのですから、丸い筆で角ば 画った形状を一筆の中で作らなくてはならないということです。その て o のポイント 9 ために、図 1 ー 9 のように、からに運び、続い で人筆したら、まず始めに少し下方に運筆して起筆の輪郭を作り、 図 さらにもう一度筆圧を上方に加えて、そこで得た反発力を用いて右 つな 筆方〈の運筆に繋ぐということです。これを振り子運動の動きを失わ のず、一瞬にしてやらなくてはなりません。文章で説明するとずいぶ 収んまぎらわしいものに受けとられることでしようが、やってみれば ⑥さほどややこしいことではなく、慣れてくれば何でもありません。 横 右方〈の運筆では、図 1 ー 2 のように筆管を右回りに回し、とく に収筆では⑤よりも幾分強く右回りを加えて、筆先を上方に突き出 図 します。これによって、横画の形状に角ばった鋭利な印象が強調さ
右払い 右払いは楷書・行書では形作りますが、草書には堅固しくなるので付けないの普通で す。隷書では右払いではなく、波磔になります ( 漢代には草書に波磔を加えた章草と呼 ばれる特異な字体がありました ) 。 楷書の右払い ( 図 7 ー 3 ) では、起筆で筆先を菊度左上方向に整え、そのまま運筆します。 このとき、心持ち筆管を左回りにすると、あとの払いでの方 筆先 向転換が楽になります。たたし、あくまでもほんの心持ちで 運す。点に至って筆管を度程度左回転し、筆先を左方に方 の 向転換して右方に払い出します。 この点で断筆する人としない人があります。これはあく 書までも技法上の好みの問題であって、断筆すると点の認識 楷 が作風に明瞭に表れます。例えば欧陽詢書法や北朝系の楷書 であれば、断筆を加えた方が作風のアクセントになり、虞世 図 南など南朝系の書法であれば、断筆でできる節目は柔らかさ の妨げになるでしよう。行書の場合は流れを重んじますから 筆 先 の 158
「点」の重要性 書における「点」は、活字や硬筆で書く「点」とたい〈ん意味あいが異なるものです。 活字や硬筆で書く点は、ただそれがあるかどうかの文字言語としての機能において働き をもつものですが、書においては点といえどもそこに起筆、送筆、収筆があって、三過 折筆の技法が最小限のスペースの中に凝縮されなくてはなりません。点は文字構成のう ちの最も小さな存在でありながら、技法の上では書法のありかたや技量の到達が表れる、 きわめて重い位置づけを担っているのです。 とくに重要なことは、点の技法は歴史に直結しているということです。筆先が点の中 のどの位置にあるか、どこを通りどう抜け出るかということが、単に個人的な好みとか 流儀にとどまるものではないのです。つまり、書法が生み出されて継承されてきた歴史 過程を表すものとして、古人はそれをいかに理解し、修得し、踏まえるかを書法の格意 識として、明確に反映させてきました。 「点」と個性 したがって、古人の書作を臨書するにおいては、その書作の中の点の作り方をよく観 166
王鐸、趙之謙の書法は共に絶大の筆力で知られますが、その根源は強烈な起筆と収筆 の抜きのすばやさにあります。途中の線は、起筆で生み出された筆力を収筆に送り出し たものなのです。重要なことは、送筆において起筆で生み出した筆毛の弾力を消耗して しまわないことです。筆力が消耗すると、言いかえるならば起筆で弓なりに立ち上がっ た筆毛が運筆の途中で腰を落としすぼまると、軽快な収筆が表現できなくなるというこ とです。収筆の歯切れの良さはまず起筆で根源になる筆毛の弾力を得、送筆によってこ れをそのままに収筆に伝えることで発揮されるものです。したがって起筆に力がなく筆 毛の根源になる弾力を得なくては、収筆の切れ味も表現しえないということになります。 とくに注意したいのは、収筆をきれいに仕上げようと、ていねいに幾度も撫で直しを することです。そうすると収筆だけに墨が濃く残ってたちまち字形全体が重く見える逆 効果の錯覚が生じ、せつかくの運筆の動きが消沈してしまいます。思いきって動き、収 筆はすばやく反射的に紙から離すこと。それが躍動感のある、生きいきとした線を引く コツなのです。これは仮名書にも直結するもので、運筆が紙から離れるにあたっては、 スピードを上げ、離れてなお空を舞う程に大きく筆を動かしましよう。