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検索対象: 本当によい教育を実現するための覚書
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1. 本当によい教育を実現するための覚書

本当によい教育を実現するための覚書さいご 春樹も学校というシステムに最後まで馴染めませんでした。それをこんなふうに語っています。自分 は「右を向け」と言われたらつい左を向いてしまうような「猫的人格 , である。しかし日本の教育シス テムは、共同体の役に立つ「大的人格」をつくることを、ときにはそれを超えて、団体丸ごと目的地ま で導かれる「羊的人格」をつくることを目的としているようにさえ見えたと。そしてその傾向は教育の みならず、会社や官僚組織を中心とした日本の社会システムそのものにまで及んでいるように思える。 いかにも春樹らしいし、その問題意識から、羊を巨大な悪として扱う『羊をめぐる冒険』が生まれたの かもしれませんね。 だからこそ春樹は小説家になった。小説家なんて、この社会のしがらみから最も遠く離れることに成 功した人ですから。翻って僕はどうかというと、自分の精神を病むこともなく、それなりに適応してき 。といっても、完全 たんじゃないかと思います。「猫的人格」よりも「大的人格」に近いかもしれない に楽しんでいたかというとそうではない。何か漠然とした違和感を抱えながら、それなりにやり過ごし てきたという自覚がある。自分は猫だと言い切ることはとてもできないような、猫に強烈にあこがれを 持った大、という感じでしようか。だからこそ自分には、その架け橋ができるのではないかと思うので す。幸か不幸か、真っ当な道から外れてしまった自分だからこそ何か出来ることがあるかもしれない どちらか一方を排除し、他方を採用するのではない。完全な善悪で分けるのではなく、それぞれの良い ところをいかして、良いとこどりをするような。問題解決とはまさにそのようなもので、複数の考えか ーベン ) です。それができない ら全く新しい考えに統合し洗練させていくこと、つまり止揚 ( アウフへ だろうか。本書はそのための提言なのです。 最後に村上春樹「職業としての小説家」の中のとある文章を紹介したいと思います。 100

2. 本当によい教育を実現するための覚書

第 7 部私塾を作りたい一メンターの紹介ー であることは間違いないです。心理学によって何か慰めてもらおうというつもりで読むと、打ちのめさ れます。そこでは、現状を変えるにはマインドセットを変えるしかないこと、そして不断の努力を求め られるのです。アドラー心理学が「実践の心理学」と言われる所以がここにあります。強い気持ちを持 っためにとてもよい本です。 またその続編『幸せになる勇気』では、カウンセリングでよく用いられるという三角柱の話が好きで す。目の前に三角柱があることをイメージする。これは我々の心を表している。そして自分の位置から は三面のうち二面が見えている。一面には「悪いあの人」、もう一面には「かわいそうなわたし」と書い てある。カウンセリングに来る人はほとんどがこのいずれかの話に終始します。自分自身に降りかかる 不幸を語ったり、自分を苦しめる他社や社会を憎悪する。多くの場合、人はこの 2 っしか語っていない ということに気づきます。でも我々が語り合うべきものは、ここにはないというのです。それは隠れて いる一面にある。そこには何が書かれているか 「これからどうするか」です。 状況をよくするには「これからどうするか」を考えるしかない。僕はこれを実践するべく、今この文 章を書いています。 ・内田樹、藤原正彦、菅野仁、齋藤孝 教育界では言わずと知れた重鎮たちです。内田樹先生は元神戸女子大学の先生で、プログなどを通じ て教育について、社会について長く論じ続けています。藤原正彦先生は、数学者だからこそ国語を重視 する人です。小学生において重要なのは「一に国語、二に国語、三四がなくて、五に算数」という言葉 は名言だと思います。また、偉大な実績を残した数学者はみな子供時代を美しい自然の中で育ってきた とか、日本人の繊細さや四季を感じることの大切さなどを教えてくれます。まさに日本人としての品格 4

3. 本当によい教育を実現するための覚書

第 6 部教育現場のあるべき姿 残念な子供が多いのですが、たまに私立の中高一貫高に通っている中学生が紛れ込みます。そうすると 学力はもちろんのこと、学習〈の向き合い方、あるいは生き方そのものといっても良いのかもしれませ んが、そのあまりの格差に愕然とします。同じ中学 3 年生の世代で、一方では方程式、関数の扱い方、 分数の計算や通分すら分からない子がいて ( その原因が自分ではなく、さも周りの人間や学問そのもの にあるかのように振舞う ) 、他方では高校の内容である三角比をものすごいスピードでバリバリ解き進 めていく。もはや同じ人間だと思えません。使っている教科書がそもそも違っているのだから当然です よね。もちろんどちらの子供がより幸せな人生を歩むのかは現時点では誰にもわからないでしよう。し かし僕は中学 3 年生で分数の計算や割合の感覚、方程式、関数の意味が分からず、そのことについて引 け目を感じずむしろ堂々として、かっ個別指導塾に来ているような人間は嫌いです。できれば関わりた くない。勉強についていく気もなく堂々としている人が存在していてもいいが、学習塾には来てはダメ でしよう。学年相応の学力がついていないのなら、恥じらいを持ってほしい。 ■格差社会の中で生きるには あるいは当然のことながら、学習塾に来ているという時点で最低限の経済的な余裕があると推察され る。それすらもない環境とはどのようなものなのか。僕はまだそのようなものを実感を持って想像する この格差の問題について、ハックルさん ( 岩崎 ことができません。本やテレビで見聞きするしかない 夏海さん ) がプロマガの中で紹介していた話は強烈でした。 そんな現代にあっても、貧困を意識せざるを得ない場所というものもある。それは小学校だ。小学校 の先生に話を聞くと、とても面白い。今の小学校が、いかに格差が拡大しているかということを教えて くれる

4. 本当によい教育を実現するための覚書

第 7 部私塾を作りたい一メンターの紹介ー ・吉田松陰 ( 松下村塾 ) 吉田松陰は言わずと知れた、「松下村塾」で江戸から明治にかけて活躍する人材を多数輩出した人物 です。松下村塾出身者には松下村塾の双璧、高杉晋作と久坂玄瑞がおり、まさしく倒幕の原動力になり ました。伊藤博文、山県有朋は後の明治政府の最高指導者となりました。松陰は歳の若さで「安政の 大獄」最後の犠牲者としてその生涯を閉じています。実質、松下村塾で教えたのは二年半という短期間 であり、それでいて輩出した人物の質・量ともに、歴史上類を見ないほどの充実ぶりであるとされてい ます。 処刑が決まった前日に、一日半かけて執筆したのが『留魂録』で、その冒頭に記された辞世の句「身 はたとひ武蔵の野邊に朽ちぬとも留め置かまし大和魂」はとても有名です。 下田踏海事件では、日本に開国を求めるためにペリーが黒船でやってきたときに、「いま外国に行っ て勉強しなければ日本が大変なことになる」との思いから、弟子を引き連れて小舟を盗んで戦艦に接近、 アメリカに連れて行ってもらうように頼みました。これは国禁を破る行為なのでまさに命がけです。し かしペリーとしても日本との約束を破るわすこ、、 : ( し力ないということで、断りました。そしてボートで送 り返され、もう隠し立てができないということで自首をします。このとき松陰は極刑も覚悟しました。 その時のことをベリーはこんなふうに語っています。 「この事件は、厳しい法律を破り、知識を増やそうと生命をかけた、二人の教養ある日本人の激しい 知識欲を示している。日本人はまさに研究好きで、常に知的能力を増大しようとしている。この興味深 い国の前途は、なんと有望なことだろう。」 当時、ペリーにここまで言わせる日本人がいたということが驚きです。そして「処刑しないように」 と幕府に要請したというのです。それで死刑は免れた。このような事件が示す通り、相当に異端な人物 9

5. 本当によい教育を実現するための覚書

第 3 部個別指導塾の問題点 oo 円程度のお金を払っています。それが教科書の内容をなぞっているだけ、しかも本人に全くやる気 がない、仕方がないから言われたところだけ勉強してやるという態度、あるいは大半を寝ているだけと なったら、もはや狂っているとしか思えません。親の怠慢でしよう。その上、本人に「塾に行く必要は ない」「塾に行きたくない」と自己主張するほどの主体性もない。思考停止以外のなにものでもありま せん。もはや被害者といってもいいのかもしれない 少しこちらから詰めると半ばャケクソで「勉強好 きなャツなんかいるわけない」「やる気なんかないに決まっている , と真正面から主張する奴もいます。 それで学習塾に来ている。本人、親、双方ともに純度 % の馬鹿です。えらいもので、そのレベル の馬鹿だとさすがに長くは続かず、数ヶ月で退塾していくケースが多いのですが。そのような人間を、 金儲けのために入塾させるやり口が気に入らない。金さえ払えば何でもいいんです。カモがネギ背負っ てきているんですから。しかしそこで講師をやっている僕も、それに加担していると一一一「えるのでしよう。 とはいえやはり、この壮大なお金と時間の無駄を僕は穏やかに見ていることはできません。だいたい中 学生レベルの内容を、親が教えられないものなのでしようか。 ■個別指導塾の書き入れ時 そして酷いのが夏期講習・冬期講習です。これこそまさに個別指導塾の書き入れ時です。がっぽがっ ぼのガッポリ建設 ! ちやり—んちやり—んとどこからともなく音が聞こえてきます。これは元々の週 1 回や週 2 回の授業に加えて、夏休みを利用して授業を増やしましよう ! ということです。 例えば、ある塾では夏休みにデフォルトでコマを提案します。毎週の指導に加えて、追加分がて す。夏休みが 1 ヶ月半、お盆や週に 1 日の休みを除けば実質日程度になるでしよう。毎日 2S3 コマ を消化すれば間に合う計算です。現実的な限界の数字です。はもちろん、その多さにギョッとして減 少させることも想定しての数字であり、営業マンが最初のハードルや値段設定を高く設定しておいて、

6. 本当によい教育を実現するための覚書

第 8 部やりたいこと 思えば僕は昔、パズル雑誌で「ナンクロ」というパズルにハマりました。マス目に数字が書いてあっ て、同じ数字のマスには同じ言葉が入る。そして意味のある言葉を完成させていく。カナのものや漢字 のもの、いろいろありました。これでだいぶ言葉を覚えたと思います。何しろ言葉を知らないと解けな いのですから。そしてつい先日、宮本哲也『伝説の算数教室の授業』の中で紹介されていた「計算プロ ック」というパズルにハマりました。これはものすごくエキサイティングです。「足し算」「掛け算」「四 ージョンは鬼の所業です。でもこれが頑張れば解ける 則何でもあり」で難易度が違うのが良い。四則バ という絶妙な難易度なのです。良い年こいた大人なのに、深夜のファミレスで 3 時間も没頭してしまい ました。これはぜひ子供にやらせたいですね。「面積迷路」も面白いです。パズルが子どもの学力向上 に最も適していると考えて、パズル職人として活動している東田大志氏は『パズル学入門』『京大・東 田式日本語向上パズル』などの著書でパズル普及に努めています。これらもいい教材になると思いま す。 歳以上の子どもが対象になるようなロールプレイングゲームなどの複雑なゲームは、子どものスト レス発散につながり、創造性や忍耐力を培うのにむしろよい影響があるという研究結果があるそうです ( 『「学力」の経済学』 ) 。歳以上というのはさすがに高度なレベルのものだと思うのですが、僕個人と してはドラクエ、に代表されるから得たものはものすごく多いと感じています。何回やった か分かりません。 『桃太郎電鉄』に関しては、日本の都道府県と名産品を把握するのにこれ以上の教材はないでしよう。 陰山英男『本当の学力をつける本』の中で見たのですが、小学生の段階で都道府県名を集中的に学習す る時間は一時間もないそうです。確かに不思議です。僕自身は間違いなく「桃鉄」で都道府県の大体の 位置、都市名、その読み方、名産などを覚えた記憶がありますが、桃鉄をやっていない人はどうやって 0