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検索対象: 涼宮ハルヒの消失
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1. 涼宮ハルヒの消失

い。なぜなら俺が『俺』だったとき、『俺』は俺を見ていないからだ。この時の『俺』は、他 片にこの時間にやってきた俺を見てなどいない。思いっきもしなかった。当たり前だ。まさかこ こまで俺の時空がねじれているとは、過去の『俺』がチラリとでも発想できたはずがないだろ かえり う。背中の朝比奈さんが気になるあまり、他に何を考えることもなかった、その『俺』を顧み ず、俺は走る。 公園の角を曲がると百メートルほど前方に彼女はいた。こちらに背中を向けて歩いている。 、こ一丁こうとして ハイヒールが立てるカッカッという音がリズミカルに聞こえた。急いでどこカ冫彳 いる様子ではなさそうだが、あいにく俺は彼女に急ぎの用事がある。ここで見失うことがあっ たら何のためにここまで来たのか知れたものではないじゃないか。 もと わず 再び俺は走り出した。近づくにつれて、夜の僅かな光の下でも綺麗に伸びた手足やセミロン まちが グのふわふわ髪が輝いているかのように見えてきた。 , 後ろ姿だが間違いない。 すぐに追いついて、俺は呼んだ。 「朝比奈さん ! びたり。小気味よく歩いていたヒールの音が止まった。背中に柔らかくかかっている栗色の 髪がふわりと揺れる。スローモーションのようだった。ゆっくりと彼女が振り返る。 俺は彼女のセリフを予想した。 がみかがや やわ ′、り・い→っ

2. 涼宮ハルヒの消失

128 当時の俺は一一バターンいた。一人は中学生活を漫然と過ごしている俺。もう一人は長門の家 と、つな口っ の客間で朝比奈さんとともに時間を凍結されていた。 ついでにこいつのこともご注進しておこう。 「そこにいる古泉が超能力者だった。お前にはいろいろ世話になったし、世話もしたぜ」 おどろ 「それが本当だとしたら、驚くべき話です」 ゅうが かたむ 優雅にカップを傾ける古泉は、半信半疑の目の色をしている。 俺はハルヒに向き直り、 「どうして北高に来なかった ? 「別に理由はないわ。七夕のことがあったからちょっぴり興味はあったけど、あたしが進学す る頃にはジョンも卒業してるだろうし、ど、、 オししち探してもどこにもいなかったしさ。それに光 陽園のほうが大学進学率が高くてね、中学の担任がぜひこっちにしろってうるさかったのよ。 めんどう 面倒だからそうしてやったわ。高校なんかどこでもいいと思ってたもん」 古泉にも水を向けてやる。 「お前はどうしてだ。なぜそっちの学校を選んで転校したんだ」 「なぜと言われましても涼宮さんと同じです。自分の学力レベルに見合ったところに行ったま でですよ。さして北高が悪いとは言いませんが、光陽園学院のほうが校舎も設備も充実してい まんぜん

3. 涼宮ハルヒの消失

窓から西日が差し始め、傾いた太陽が巨大なオレンジボールとなって校舎の背後に隠れよう とする時間になっていた。 しぼ じっと座っているのも疲れてきたし、これ以上絞っても脳みそから有益なアウトブットを得 かばん 失られそうにもない。俺は椅子を立って自分の鞄に手を伸ばした。 消 の「今日は帰るよ」 「そう」 ードカ。ハーを閉じ、自分の通学鞄にしまい 涼長門は読んでいたのかそうでないのか解らない ( 込んで立ち上がった。ひょっとして俺が言い出すのを待っていたのか ? 鞄を片手に提げ、俺が歩き始めるまでそのまま立ち続けるかのごとく動かない身体に、 しおり しかし、まだだ。まだ投げ出すわけこま、 冫をしかない。俺はポケットから栞を出して折らないよ まぎ うに握った。これを紛れ込ませてくれたということは、三角帽子をかぶって本読んでた長門は まだ俺に用があるのだ。俺にだってあるそ。ハルヒの手製鍋料理を喰ってないし、朝比奈サン まぶた タもまだ目蓋に焼き付けていない。部室をデコレーションするのに忙しくて古泉とのゲームは かきよ、つ 佳境で中断している。あのまま進めば勝っていただろうから、俺は百円損したことになる。 かたむ なべ いそカ からだ

4. 涼宮ハルヒの消失

処置なしだ。 手がかりはどこにある。これはハルヒによる人捜しゲームか ? 消えた自分の所まで辿り着 けという、そんな遊びなのだろうか。だが何のために。 俺は歩きながら考え込んだ。朝比奈さんの一撃の効果か、少しは頭が冷えてきた。カッカし ていてもいいことはない。こういう時こそ冷静に、冷静に。 たの 「頼むぜ」 っやは 呟きを吐いて俺が向かう先はただ一つ。最後の砦であり最終絶対防衛ライン。ここが陥落し しゅうりよ、つ たら一巻の終わり、打ち切り終了だ。 とうつうしよう 部室棟、通称旧館にある文芸部部室。 そこに長門がいなければ、俺に何ができるというのだろう。 とびら 失故意にゆっくりと歩き、時間をかけて部室へと移動する。数分後、古・ほけた木製扉の前に立 しんばくすうかくにん 、のった俺は胸に手を当てて心拍数を確認する。平常運転にはほど遠いが昼休みよりはマシになっ れんさ あ まひ レ こうなった ている。異常の連鎖に遭いすぎて、だんだん感覚が麻痺してきたのかもしれない。 やみくも 涼らもうャケである。最悪の結果を予想しつつ闇雲に前進するしかない。 俺はノックを省略し、勢いよく扉を開いた。 さカ とりで かんらく

5. 涼宮ハルヒの消失

教室に入ったってえのに空席がいくつもあるし、クラスメイトの二割程度に白マスクが流行し せんぶく ている。全員の潜伏期間と発症時期が同期を取ったとしか思えない。 もっと驚いたのは、俺の真後ろの席が一時間目が始まっても空席のまま取り残されているこ とだった。 「なんと、まあ しんにゆう ハルヒまで病欠してんのか。今年の風邪はそんなにタチが悪いのか ? あいつの体内に侵入 さいきん する勇気ある病原体がいようとは、ましてやハルヒが細菌だのウイルスだのに敗北を喫すると わるだく は、にわかには考えがたい出来事だ。何か新しい悪巧みを思いついて、そのための下準備をし なっとく ているといったほうがまだ納得できる。鍋以外にもまだ何かあるのだろうか。 どうにも教室内の空気が寒々しいのはエアコンがないせいでもなさそうだ。突然にして欠席 者が増えるとはな。なんだか五組の総人口までもが目減りしているような気さえする。 せま ハルヒの気配が背後から迫ってこないってのもあるが、なんとなく空気が違っている感じが した。 そうして漫然と授業をこなし、順当に昼休みになる。 俺が冷え切った弁当箱を鞄から取り出していると、国木田が昼飯片手にやって来て俺の後ろ の席に着いた。 まんぜん きっ

6. 涼宮ハルヒの消失

りくっ それは、お前サイドの理屈だろう。 「そうです。でも、決して悪いことではないでしよう ? あなたは数時間刻みで《神人》を暴 しゆみ れさせている涼宮さんを見たいのですか ? 僕が言うのも何ですが、決していい趣味とは一一一一口え ませんね」 俺にそんな趣味はないし、これからも持つつもりはない。そればっかりは断言しておかなけ ればならないな。 古泉はふっと表情を改めた。また元の曖昧スマイル状態に復帰する。 「それを聞いて安心ですよ。変化と言えば、涼宮さんだけでなく僕たちだって変化しています。 あなたも僕も、朝比奈さんもね。たぶん長門さんも。涼宮さんのそばにいれば、誰だって多少 なりとも考え方が変わりますよ」 失俺はそっぽを向いた。図星をつかれたからではない。自分自身にはそんな実感はないから、 、の図星なんかっかれようもないな。意外に感じたのは、長門がちょっとずつ変わりつつあるって ことをこいつも気づいているってことだ。インチキ草野球に三年越しの七夕、カマドウマ退治 涼に孤島の殺人劇やループする夏休み : : : 。あれやこれやをわたわたとやっているうちに長門の かい、」、つ ちょっとした態度や仕草が、すべての始まりを告げた文芸部室での邂逅から微細に変化してい さつかく るのは確かだ。錯覚ではない。俺にだって手作り望遠鏡くらいの観察眼はあるんだ。思えば孤 」とう あいまし びさい

7. 涼宮ハルヒの消失

その設問に、お前はイエスと答えたんだ。 、 4 」プつ、つ、刀 せつかく長門様が世界を落ち着いた状態にしてくれたのに、お前はそれを否定したんだ。四 ′」うてい 月に涼宮ハルヒと出会ってからこっちの、クダランたわけた世界のほうを肯定したんだよ。一 もうそう つの学校に宇宙人だの未来人だのエスパー少年がフラフラしているような、妄想みたいな世界 もど に戻りたいと思ったんだ。 なんでだ、おい。お前はいつもブッ、、フッ言ってばかりだったんじゃないのか ? 己の不幸を 嘆いてばかりじゃなかったのか ? だっしゆっ だったらよ、脱出プログラムなんそ無視してりやよかったじゃないか。そっちを選べば、お ふつう 失前は ( ルヒとも朝比奈さんとも古泉とも長門とも、普通の高校生仲間として知り合えて、 ( ル の ヒ ヒ先導のもと、それなりに楽しい生活を送れてただろうさ。ハルヒに何の力もなく、日常が歪 レ むえん み出すような現象とは無縁のな。 えら 涼そこではハルヒは偉そうにするだけのただの人間で、朝比奈さんは未来人なんていう特殊属 も 性を持ってない愛らしい萌えキャラで、古泉は背後に変な組織のない一般的な高校生で、そし て長門もおとなしい読書好き少女で変な使命を持っこともなく変な力を発揮するわけでもなく おのれ とくしゅ

8. 涼宮ハルヒの消失

憶を改変したり、『機関』の連中や宇宙人の長門と未来人の朝比奈さんにも違う人生を用意す る。朝倉を再登場させ、北高の生徒からハルヒが存在したという記憶を消し、朝倉はいたがハ ルヒはいなかったという歴史を作り上げる。長門の親玉すら消してしまう。 むちゃくちゃだな。 ぬす 「涼宮ハルヒから盗み出した能力によって、時空改変者が修正した過去記憶情報は、三百六十 五日間の範囲ー つまり去年の十二月ーー俺が来た時間から見てーーから、今年の十二月十七日までを改変し たわけか。三年前の七夕ー・ーなんと今日だ。ーーまでは手が回らなかったんだな。おかげで助か った。ハルヒがあの七夕事件を覚えていたせいでここまで来れた。しかしいったい誰だ、そん なハルヒ並みのバカをやったのは。 失長門は俺から視線を外さず、 もど と、つ力い、」、つ の 「世界を元の状態に戻すには、ここから三年後の十一一月十八日へと行き、時空改変者が当該行 為をした直後に、再修正プログラムを起動すればよい 涼じゃ、これから俺たちと三年後に行ってくれるんだな ? 再修正をしてくれるのは、お前な んだろう ? 「わたしは行けない」

9. 涼宮ハルヒの消失

替えマスコット兼宣伝係兼部室専用メイドにして実態は未来人。俺は彼女に付き合って三年前 の七夕の夜に時間旅行した。帰りは長門の世話になった。 「その時のジョンが、あんたなわけか。うん、信じてみても悪くないわね。そうか、タイムト ラベルかあ : : : 」 ハルヒは未来人を見るような目でまじまじと俺を見つめ、小さくうなずいた。 やけに理解が早いな。まさかこうも簡単に信じてくれるとは思っていなかった。だって以前、 二人きりの不思議市内探訪をやった時には例の喫茶店でお前は俺の話をまるで信じなかったん 。こ。せ一 0 「そのあたしは本当に。ハカね。あたしは信じるわよ」 ハルヒは身を乗り出して、 失「だって、そっちのほうが断然面白いじゃないの ! 」 の 大輪の花を咲かすような笑顔に見覚えがある。俺が初めて見たハルヒの笑顔だ。英語の授業 中に団設立を思いついた時に浮かべていた、百ワットの笑みだった。 宮 涼「それにさ、あたしあれから北高の生徒を全員調べたのよ。張り込みだってしたわ。でも、ジ ョンみたいな人はいなかった。もっと顔をよく見ておいたらよかったって思った。そう、三年 前にはあんたは北高にいなかったのね : : : 」 おもしろ

10. 涼宮ハルヒの消失

198 五秒か十秒か、長門は俺の手を噛んでいたが、ゆっくりと顔を上げて、 「対情報操作用遮蔽スクリーンと防護フィールドをあなたの体表面に展開させた」 長門は赤くなってもおらず、照れもしていない。朝比奈さん ( 大 ) のほうが両手でロを覆っ きゅうけつきおそ みようしび て驚いているくらいだ。俺は妙な痺れを感じて手首を見やる。吸血鬼に襲われたように空いて あとかた いた二つの穴が、見る間に跡形なくふさがっていく。映画撮影時の朝比奈さんのように、これ で俺も長門特製ナノマシンを体内に混入されてしまったというわけだ。 「あなたもー 長門に請われ、朝比奈さんもおずおずと片手を震わせながら出して、 : こうされるのも、久しぶりですね。あの時は本当にご迷惑を・ : 「わたしは初めて」 「あ。そ、そうでしたね。つい きゅっと目を閉じたまま、未来人は宇宙人のロづけを手首に受け、俺の時よりも短い気のす えたい からせき る得体の知れないナノマシン注入時間を終えると、空咳を一つしてから、 「では、行きましよう。キョンくん。これからが本番です」 まえふ だとしたら、ずいぶん長い前振りでしたね。ですが、俺だって必死の前説をやってたんです よ。もう二度とやりたくないですが。 しゃへい ふる さっえい めいわく おお