十二月十八日 - みる会図書館


検索対象: 涼宮ハルヒの消失
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1. 涼宮ハルヒの消失

煮こごりに閉じこめられたような十二月十八日が終わり、次の一日が始まった。 十二月十九日。 今日から短縮授業に入ゑ本来ならもっと早くに短縮されるはすだったのだが、この前の全 国模試で市立のライバル校に総合成績を追い抜かれたことにムカっ腹を立てた校長が、学力向 むりやりへんこう 上というお題目を唱えて無理矢理変更してしまったのだ。その歴史は変化しなかったようだな。 もくろ はら 変わったのは俺の周辺、北高、 coOco 団の周りだけか。何者かの恣意的な目論みを振り払う 失ことができないまま登校すると、五組の欠席者数はさらに増えていた。谷口もとうとう四十度 消 のが出たかのか、姿がない。 そして俺の後ろの席には今日もハルヒではなく朝倉がいて、 涼「おはよう。今日は目が覚めてる ? だといいんだけど」 「まあな」 かばん 仏頂面で俺は自分の机に鞄を置いた。朝倉は頬杖しながら、 第ニ章 ぬ ほおづえ

2. 涼宮ハルヒの消失

憶を改変したり、『機関』の連中や宇宙人の長門と未来人の朝比奈さんにも違う人生を用意す る。朝倉を再登場させ、北高の生徒からハルヒが存在したという記憶を消し、朝倉はいたがハ ルヒはいなかったという歴史を作り上げる。長門の親玉すら消してしまう。 むちゃくちゃだな。 ぬす 「涼宮ハルヒから盗み出した能力によって、時空改変者が修正した過去記憶情報は、三百六十 五日間の範囲ー つまり去年の十二月ーー俺が来た時間から見てーーから、今年の十二月十七日までを改変し たわけか。三年前の七夕ー・ーなんと今日だ。ーーまでは手が回らなかったんだな。おかげで助か った。ハルヒがあの七夕事件を覚えていたせいでここまで来れた。しかしいったい誰だ、そん なハルヒ並みのバカをやったのは。 失長門は俺から視線を外さず、 もど と、つ力い、」、つ の 「世界を元の状態に戻すには、ここから三年後の十一一月十八日へと行き、時空改変者が当該行 為をした直後に、再修正プログラムを起動すればよい 涼じゃ、これから俺たちと三年後に行ってくれるんだな ? 再修正をしてくれるのは、お前な んだろう ? 「わたしは行けない」

3. 涼宮ハルヒの消失

「そんなこと後で考えりゃあいい」谷口は笑い飛ばした。「もっと別に考えることがあるだ ろ ? 今日が何月何日がお前知ってるか ? 」 「十二月十七日」と俺。「それがどうしたんだ ? 」 おど 「どうしたもこうしたもねえ。一週間後に胸が躍るような日がやってくるのを、お前は知らん のかフ 「ああ、なるほど」俺は正解を思いついた。「終業式だな。確かに冬休みは心待ちするに足り るイベントだ」 いちべっ しかし谷口は、山火事に出くわした小動物のような一暼をみまい、 「違うだろ ! 一週間後の日付をよーく思い出してみろ。自ずと解答にたどり着くだろーが」 「ふん」 俺は鼻を鳴らして、もわっと白い息を吐いた。 失 消 十二月二十四日。 の いんぼう 解ってたさ。来週に誰かのでっち上げか陰謀のような行事があるってことくらい、とっくに みのが 宮お見通しだ。誰が見逃しても俺が見逃せようはずもない。俺以上にこの手のイベントをめざと 涼 やっ く発見する奴が近くの席に座っているのだからな。先月 ( ロウインを見過ごしてしまったこと を残念がっていたし、何かやるつもりなのは間違いない。 わか おの

4. 涼宮ハルヒの消失

ことを知らない。 では誰が ? 朝倉のナイフ一閃を素手で止めてくれたのは、そんなことが出来そうなのは、それをするだ ろう奴は 長門しかいない。 そして俺が意識を失う前に見た二人の朝比奈さん。大人でないほうの朝比奈さん、あれは俺 の朝比奈さんだ。この世界にいる、俺がよく知っている愛らしい未来から来た上級生だ。 加えてもう一人、あの声の主もそうだ。最後に俺に呼びかけた、どっかで聞いたことのある 思い出そうと努力して、そんな努力は必要ないことに間もなく気付いた。 失あれは俺の声だ。 の 「なるほど、そうか」 と一一一一口うことは、・こ。 涼もう一度、俺はあの時間に行かなくてはならないのだ。十二月十八日の朝つばらまで時間遡 こう この時間にいる朝比奈さんと長門と三人で。 行しなくてはならない。 そうして、世界を今ここにある形に戻すのだ。 声。 いっせんすで

5. 涼宮ハルヒの消失

246 さて、と俺は考える。 終業式はすで終わって担任岡部から通知票を拝領し、今年中の高校生活はこれで終わりだ。 本日の日付は十一一月一一十四日。 消え失せていた一年九組とその生徒はちゃんと復活して、今回ほとんど出番のなかった古泉 一樹もそこにいた。朝倉は半年以上前に一年五組から姿を消していたし、谷口は引き続き浮か かぜはや れていたし、俺の後ろの席には今日もハルヒが陣取っていたし、風邪も流行ってなどいない。 めがね ぐうぜん 講堂で見かけた長門の顔には眼鏡がなく、終業式終わりに偶然出くわした朝比奈さん鶴屋さん そろ じよう あいさっ とちゅうかくにん コンビは揃って挨拶してくれた。通学途中に確認したところ私立光陽園学院もまっとうなお嬢 もど 様女子校に戻っていた。 世界は元通りになっている。 せんたく しかしながら選択権はいまだ俺の手の中にある。俺と長門と朝比奈さんがもう一度過去に 十二月十八日未明にーーー戻らないと世界はこの通りにはならない。行ったからこそ元通り エピローグ

6. 涼宮ハルヒの消失

て困ったのは意外にもたった一人だけだった。そいつ以外の全人類は別に困りはしない。なぜ にんしき なら事態の発生自体に気づくはずもないからだ。認識の外にあるものを認識することは決して できないのである。彼らにしてみれば世界は何も変わっていなかった。 では誰が困ることになったのか。 言うまでもない。 こんわく ぼうぜん 俺だけが困惑の中で立ちつくし、呆然としたまま世界に取り残されることになったのだ。 そう、やっと俺は気づいた。 十二月十八日の昼休み。 ともな 形を伴った悪い前兆が、教室のドアを開いた。 かんせい わあ、という歓声が教室前部のドア付近にいた数人の女子から上がった。入ってきたクラス すきま メイトの姿を確認しての声らしい。わらわらと群がるセーラー服姿の隙間から、重役出勤して きたそいつの姿がちらりと覗く。 かばん 通学鞄を片手にぶら下げたそいつは駆け寄ってきた友人たちに笑顔を向けて、 のぞ えがお

7. 涼宮ハルヒの消失

す かがや 見上げる。夜の空に輝いているのは冬の星座だ。空気が澄んでいるぶん、夏よりはっきりと 見える。首の向きを変えると、民家の屋根の上に北高の校舎の頭が確認できた。 ゃいんまぎ まちが 現在位置はどこかと見回してみる。夜陰に紛れていたが間違えようがない。数時間前にも俺 きおく はここに いこ。ハルヒのポニーテールと古泉の体操服姿が場所の記憶と共にある。 ぐうぜん 。こと田 5 、つ。 偶然にもハルヒと古泉が着替えをした場所だった。偶然 それで、今はいつなのか ? うで 腕時計を見た朝比奈さん ( 大 ) が教えてくれた。 「十二月十八日の、午前四時十八分です。後五分くらいで、世界は変化します」 二十日にエンターキーを押して三年前に飛んでった俺からしたら、十八日は二日前のことだ。 その日、何の気なく目を覚ました俺はいつものように学校へ行き、すっかり様変わりした北高 きようこ、つ 失の様子に恐慌状態に繃がた。存在しない ( ルヒに、いるはずのない朝倉。俺を知らない朝比奈 ふつう の さんと、普通の人間になってた長門。 ヒ レ なにもかもはここから始まったのだ。始まりの時に居合わせている現在の俺。ならば、始ま 涼らないようにすることたって出来るのだろう。そのために今、俺はここにいる。 ひた シリアスな心意気に浸っていると、 「あ、靴。忘れて来ちゃった」 きが

8. 涼宮ハルヒの消失

この古泉がどちらの古泉なのか、それは格好を見れば解った。 こん 紺ブレザーの制服姿。黒い学ランではない。 それは北高の制服だ。 てんてき とん 俺は被さっている掛け布団から片手を出した。点滴のチープがぶら下がっている。それを 見つめながら、 「今はいつだ」 おどろ 古泉はこいつにしては驚いた表情となって、 じようきようはあく 「目覚めて最初の質問がそれですか ? まるで自分の置かれている状況を把握しているような セリフですが、お答えしますと今は十二月一一十一日の午後五時過ぎです」 三十一日か : 失「ええ、あなたが意識不明になってから、今日で三日目ですね」 の 三日目 ? 意識不明 ? 「ここはどこだ」 宮 涼「私立の総合病院です」 俺は周囲を観察した。なんたか立派な一人部屋、そのべッドの上で俺は寝ている。個室に入 れられてるとはな。我が家にそんな財源があったとは知らなかった。

9. 涼宮ハルヒの消失

208 ちくせき 『わたしのメモリ空間に蓄積されたエラーデータの集合が、内包すゑ ( グのトリガーとなって 異常動作を引き起こした。それは不可避の現象であると予想される。わたしは必ず、三年後の 十二月十八日に世界を再構築するだろう』 たんたん そして淡々と、 『対処方法はない。なぜならそのエラーの原因が何なのか、わたしには不明』 俺には解る。 長門が自分でも理解できない異常動作の引き金が何だったのか。積もり積もったエラーデー タとやらが何なのか。 それは思いっきりべタなシロモノなんだ。プログラム通りにしか動けないはずの人工知能で も、そんな回路が入っていないロポットでも、時を経たらそいつを持つようになるのがパター ンなんだ。お前には解るまい。だが俺には解ることだ。たぶんハルヒにも。 こんわく はかな いごこち 俺は長門の困惑した顔を心ゆくまで観察した。文芸部員の儚い女子生徒は、居心地が悪そう に立ちつくすのみだった。その今にも消え人りそうな姿に俺は心中で語りかける。 それはな長門。感情ってャツなんだよ。 なおさら だれ お前は無感動状態が基本仕様だから尚更だったんだろう。たまには喚いたり暴れたり誰かに お前なんかもう知らんと言いたかったことだろう。いや、こいつがそう思わなかったとしても、 ふかひ わめ

10. 涼宮ハルヒの消失

十二月二十日。 世界がおかしくなって三日目の朝、夢のない眠りから覚めた俺は、相変わらず胃の中に三十 ミリ弾がダース単位で入っているような気分でべッドから身を起こした。掛け布団の上で寝て いたシャミセンがごろんと転がり落ち、でろんと床で長く伸びた。その腹を軽く踏みながら、 ためいき 俺は溜息をつく。 のぞ 部屋の戸口から妹が顔を覗かせた。覚醒している俺を見て残念そうな表情を作り、 失「ねえ、シャミ、喋った ? おとと の 一昨日の晩からこればっかり訊きやがる。俺の返答も代わり映えしない。 ねこじゅ、つもうかんしよく 涼足の指にかぶりつく猫の柔毛の感触を味わっていると、自家製「ごはんの歌」を唄いながら けづくろ 妹がシャミセンを連れ去った。猫よ、 をしいよ、飯喰って寝て毛繕いするのが仕事だ。一日くらい 立場を人れ替えて欲しいものだ。案外、俺が探しているアイテムを簡単に探し当ててくれる可 第三章 しゃべ ぶとん