時間 - みる会図書館


検索対象: 涼宮ハルヒの消失
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1. 涼宮ハルヒの消失

124 むだ 手伝ったというかほとんど俺の仕事だったじゃねえかーーーと反論して時間を無駄にするつも りはない。そうた、俺はとうとう手がかりを見つけることができたのだ。おかしくなっちまっ きおく た世界でたった一人、過去の記憶を共有している人間を。 やつばりお前か。 ほかだれ 他の誰でもない、涼宮 ( ルヒ。 このハルヒが三年前の七夕に俺に出会っているというのなら、そこから一二年後のこの世界は その時点から地続きのはずだ。何もかもが「なかったこと」になっているわけじゃあない。俺 が朝比奈さんと三年ほど時間をさかの。ほり、長門の力によってまた元の時間に復帰できた、そ の歴史は確かにあったのだ。どこから違ってしまったのかはまだ解らないが、少なくとも三年 前まではこの世界は俺の知っている世界としてあったのだ。 まぎ いったい何が生じて俺だけが正気で紛れ込んでしまったんだ ? だが、それを考えるのも後にしよう。 めずら ハルヒの絶句という世にも珍しいものを見ながら俺は言った。 「詳しいわけを舌しこ、。 言オしこれから時間あるか ? ちょっとばかり長い話になりそうなんだ くわ

2. 涼宮ハルヒの消失

参るしかない。 ゆくえ 昨日まであったはずの教室がないなんて誰が想像する ? 人間一人が行方不明になったわけ とっかん じゃないんだそ。クラスの全員が消え去り建物自体が縮んでいる。突貫工事でも一夜では無理 だ。九組の連中はどこに消えた ? ぼうぜん 失あまりの茫然により、俺は時間の感覚を失っていた。どれだけそこに立ちつくしていたか、 もど 、の背を小突かれてようやく意識を取り戻したものの、俺は教科書を抱えたマシ = マロマンみたい ヒ レ な生物教師の声を上の空で聞いた。 涼「何してるんですか。授業はもう始まっています。教室に戻りなさい しゅうりよう 休み時間終了を告げるチャイムすら聞こえていなかったらしい。廊下には他に誰もおらず、 ひび 七組の教室からは教師の張り上げる声だけがわずかに響いていた。 ない。影も形も。 「いくらなんでも、これはないだろう : 古泉はおろか。 九組自体がなくなっていた。 かか

3. 涼宮ハルヒの消失

192 なぜだ ? なぜなら、と長門は客間に指先を向けて、 「彼らを放置できない」 とうけっ そこで寝ている俺と朝比奈さんの時間を凍結し続けるには、この時空を離れるわけにはいか ないのだ、と解説する。長門は時報を告げるような声で、 「エマージェンシーモ 「じゃ、どうしろってんだ」と俺。少し隹 . る。 「調合する」 相変わらす説明不足の物言いだ。 めがね 長門はゆっくりと眼鏡を外すと、両手で包み込むように持った。見えない糸に吊られている ふつう てのひら ように、眼鏡は掌の上に浮かんでいる。普通の人間がやるのを見れば本当に見えない糸が指か ら伸びているんだろうが、言うまでもなく長門はそんな普通のことはしない。 ぐにやり。 きかいうずま ゆが レンズごとフレームが歪んで、奇怪な渦巻き模様になったかと思うと、一瞬前まで眼鏡だっ たその物体は別の物へと変化していた。見たことのある形状だ。あまりお世話になりたくない おそ と思わせる、人間ならば本能的に恐れおののくべき器具である。 の ね あ いっしゅん っ

4. 涼宮ハルヒの消失

112 急な坂道をハイベースで駆け下り続けるのは難しい。十分ほどは急激にテンションが上がっ わきめ こうぎ たことで脇目もふらずに走っていたが、心はともかく両足と両肺が酷使に抗議行動を始めやが った。考えてみれば三時間目が終わってからでも充分間に合ったな。この時期なら光陽園学院 しゅ、つりよ - っ とうちゃく も半ドンになってるだろうが、終了のチャイムまでに到着すればいいのだ。北高からなら散歩 気分で歩いたとしても一時間もかからない。 時間配分の失敗に気づいたのは日課となってる強制 ( イキングコースを下り終え、私鉄沿線 にある私立高校が見えてきた辺りである。校内がしんとしているのは授業中だからだろう。俺 かくにん は腕時計を確認する。俺たちの高校とそう違っていないだろうから、たぶん今は三時間目だ。 てことは門が開くには後一時間以上は楽にある。この寒空の下、手ぶらでポサッと待っていな ければならない。 「ありがとよ」 「あ、ああ・ : : う・」 頭の横で指をクルクル回す谷口をそれ以上見ることなく、かくして俺は教室を飛び出し、一 分後には学校を飛び出していた。 うで じゅうぶん

5. 涼宮ハルヒの消失

は大人しくて寡黙な宇宙人製の有機アンドロイド、長門有希に他ならない。あいつの言葉を疑 うくらいなら俺は自分の頭を疑うさ。 「ねえ、ジョン。どうしたの ? また変な顔してるわよ」 ハルヒの声すら遠くに聞こえる。 「ちょっと黙っててくれ。今、考えをまとめてるんだ」 ここは考えどこだ。違う高校に行ってた ( ルヒと古泉、未来人じゃない朝比奈さん、何も知 らない長門について考えて、俺が考えるべきはそんなことではないことを再確認する。 ハソコンに表示された長門の自己表現。そのメッセージを疑うかどうかでもないんだ。 俺は背筋を伸ばして深呼吸する。 そう 失それより何より確かなのは、俺がこの世界から脱出したいってことだ。すでに馴染みとなっ の て俺の日常に組み込まれた団とそこの仲間たちと再会したいのだ。ここにいるハルヒや 朝比奈さんや古泉や長門は、だから俺の馴染みではないんだ。ここには『機関』も情報統合思 涼念体もなく大人版朝比奈さんが来ることもないのだろう。それは間違っている。 決心までに、たいした時間はかからなかった。 俺はポケットからくしやくしゃの紙片を取り出し、

6. 涼宮ハルヒの消失

180 から別の朝比奈さんが現れて、またまた変なことを言い出すのではないだろうな。そうやって だっすいきから 俺は永遠にこの時間で違う朝比奈さんに出会い続けるのでは いかん、思考が脱水機に絡 せんたく まった洗濯物のように同じ所で回ってる。なあ、いったい俺は何をしているんだ ? 誰か教え てくれ。 朝比奈さん ( 大 ) は一分くらいそうやって寄り添っていたが、 「ふふ」 ほほえ 俺の考えを読みとったように微笑んで、 「そろそろ時間です。行ぎましよう」 何事もなかったように立ち上がった。残念ながら俺も我に返る。そうだった。行かなくては ならないのだ。えーと、どこへ ? 第二の行き先へ。 朝比奈さんの腕時計は午後十時前を表示していた。『俺』が中一ハルヒの共犯役として東中 ほどこ のグラウンドにイタズラ描きを施し、ペソをかく朝比奈さんの手を引いて長門のマンションに ころあ 上がり込んでいる時間。その『俺』の時間はもう止まっている頃合いだ。 もう一度、長門の世話にならなきゃな。 「その前に」 が

7. 涼宮ハルヒの消失

182 ハルヒ。ジョン・スミスをな : : ・・」 「覚えておいてくれよ、 むちゃ この時はまだ十一一歳の ( ルヒ、これからも東中で無茶なことをし続けるであろう ( ルヒに、 俺は心の底から祈っていた。 忘れないでいてくれ。ここに俺がいたことを。 ぶんじよう すっかり道順を暗記している高級分譲マンションへは、今や目をつむってでも行ける。俺は ひか 斜め後ろで控え目に歩いている朝比奈さん ( 大 ) を同伴し、一一十数時間前にもやって来た真新 しい建築物を見上げていた。朝比奈さん ( 大 ) は、まだ誰も出てきてないのに俺の背後に隠れ るようにナイスパディな身体を縮めて、 「 : : : キョンくん、お願い」 あいカん つの時代の朝比奈さんでも、あなたの依頼を袖 哀願されて拒否する理由はまったくない。い にするほど俺はヘそ曲がりな人間ではありませんからね。 「ごめんね。わたし、ちょっと長門さんって今でも苦手で : : : 」 ふんいき そういや部室や前回ここに来たときの朝比奈さん ( 小 ) もそんな雰囲気だったな。ハルヒを 除いて、宇宙人・未来人のどちらにもニ = ートラルに接していたのは古泉くらいだ。 きょひ どうはん

8. 涼宮ハルヒの消失

204 まだ飛び出すわけこよ、 冫をしかない。すべてを見届けてから、というのが長門のアドバイスであ る。いったんそいつに世界を改変させておいて、それから修正プログラムを撃ち込む。そうで ないと俺が脱出プログラムを起動させる歴史が生まれないからなんだという説明には、まるで なっとく 納得も理解もでぎないが、長門と朝比奈さん ( 大 ) にとっては自明のことらしい。この二人に は時間がどういうふうに流れているのか解っているのだろう。俺には解らない。どうやっても やっ きまじめ 解らないのなら、解る奴の指示に従うだけだ。あの長門は嘘を吐かない。いつだって生真面目 な顔で俺たちの側にいてくれた : じゅうにぎ 俺は長門のくれた短針銃を握り直して、その時を待つ。 そいつは、静かな歩調で北高校門前まで歩いて、暗がりに包まれた安物の校舎を見上げるよ うに足を止めた。 へんかん 北高の制服だ。長門が言っていたとおりの人物である。そいつが俺たちの世界を変換し、 co Oco 団のメンツを。ハラバラにして単なる人間に変えてしまった張本人だ。俺の記憶だけを残し、 俺以外の全員の記憶と歴史を変えちまった。 そいつが、今からそれをするのた。 だっしゆっ わか

9. 涼宮ハルヒの消失

ています。ここまで来るのにけっこうがんばったんだから」 ブラウスの前ボタンを弾き飛ばさんように朝比奈さんは胸を張った。物理的にあり得ないよ まど うなプロポーションが強調され、俺の目を惑わすことしきりだったが、残念なことに精神のほ よゅう うは今そこにある光景を視神経の保養所とする余裕を失っている。俺は訊いた。 「何が原因なんです。俺のいた未来が変わっちまったのは解りました。でも、いっ変わったん ですか ? 「詳しいことはこの時間にいる長門さんに聞いたほうがいいです。でも一つだけ、あなたのい た時間平面が改変されたのは、『今』から三年後の十一一月十八日早朝です」 俺の体感では二日前のことだ。時間平面の改変か。てーことは : : : 。俺は古泉が言ってた二 かいしやくきおく ラレルワールドじゃないほうが正解だったか。 通りの解釈を記憶から掘り起こした。パ 失「そう。一夜にしてデータ : : ええと、世界自体が変化してしまったんです。あなたの 記憶だけを残してね。遠い未来からでも観測できる、すごい時空震だったわ」 さまっ O や時空震なるテクニカルタームに興味がないわけではなかったが、そんな些末なこと 宮 涼にツッコミを入れる時間がもったいない。もっと重要な質問がある。 「朝比奈さんがここで待っていたということは、俺が巻き込まれた未来の異変を何とかするの も、あなたがやってくれるんですか ? 」 しん

10. 涼宮ハルヒの消失

ことを知らない。 では誰が ? 朝倉のナイフ一閃を素手で止めてくれたのは、そんなことが出来そうなのは、それをするだ ろう奴は 長門しかいない。 そして俺が意識を失う前に見た二人の朝比奈さん。大人でないほうの朝比奈さん、あれは俺 の朝比奈さんだ。この世界にいる、俺がよく知っている愛らしい未来から来た上級生だ。 加えてもう一人、あの声の主もそうだ。最後に俺に呼びかけた、どっかで聞いたことのある 思い出そうと努力して、そんな努力は必要ないことに間もなく気付いた。 失あれは俺の声だ。 の 「なるほど、そうか」 と一一一一口うことは、・こ。 涼もう一度、俺はあの時間に行かなくてはならないのだ。十二月十八日の朝つばらまで時間遡 こう この時間にいる朝比奈さんと長門と三人で。 行しなくてはならない。 そうして、世界を今ここにある形に戻すのだ。 声。 いっせんすで