価基準として DAC5 項目の導入、 2 億円以上の事業の全件評価など、 ODA 事業 評価の充実化と定着のために、さまざまな取り組みが行われました。 平価の導入と定着一 NGO の分野で このように、日本の ODA 事業評価は、いわば時代の要請に応えるべく導入・進 化してきましたが、同じ国際協力の分野で活動する NGO にとっても、事業評価は 重要な活動の一つでした。主な背景には、第一に、「評価重視」の世界的潮流があっ たこと、第二に、 ODA 事業の効果・効率性について疑問を呈し、改善を提案する NGO の数が少なくなかったこと、従って、 NGO 自身が事業評価の重要性をよく理 解していたこと、が挙げられると思います。 そうは言っても、現実に事業評価を行うことは簡単なことではありません。日本 国内の国際協力 NGO を対象とした調査※では、 8 割を超える NGO が何らかの評価 を行った、と回答していますが、うち 2 割弱が、「評価に時間がかかりすぎて日常 業務に支障をきたした」、 1 割弱が「組織内の人間関係がギクシャクした」と回答し ています。また、実施有無にかかわらず、約 6 割が「成果は数値化できないものが 多い」、約 2 割が「評価の方法や手法がわからない」ことを、評価実施上の課題とし て挙げています。組織基盤が ODA 実施機関のように盤石でない NGO においては、 事業実施後に行う評価は、時間、人材、費用全ての面で負荷が重いことは明らか です。 それでも国際協力 NGO が ( 完璧ではないものの ) 事業評価をしている理由には、 やはり自らの事業・活動を改善していきたいという思いと、ドナーや支援先のコミュ ニティの双方に対する説明責任への認識があるからでしよう。必要なノウハウは研 修から、費用は評価に対する助成金などを活用し、やりくりしながら対応している うちに、徐々に「評価力」がついた団体も多いのではないでしようか。 ※「国際協力プロジェクト評価」 ( 2003.9 ) アーユス編 P145-146
C 0 ー u m n ・評価のメリット 私が ODA の仕事をしていた頃は、入職 2 年目に「評価研修」がありました。 1 か月間、 ー平価担当部署に張り付き、割り当てられた事業を評価します。倉庫から大量の関連 書類をひつばり出し、読んで整理し、時に現地に問い合わせつつ、事業は予定通り 実施されたか、期待通りの事業効果はあったか、実施中の対応は適切だったか、な どを検証し報告書を作成します。 1 か月では足りないほどの作業量です。おまけに先 輩が担当した事業を評価するので緊張も強いられます ( 上述の NGO 調査で「人間関 係がギクシャクした」という回答がありましたが、なんとなく分かる気がします ( 笑 ) ) 。 このキツかった評価研修が、私にとってかけがえのない学びになりました。特にそ の後の新規事業の形成に多くのヒントを得たと思います。評価は、次の事業や活動 をよりよくしていくための示唆の宝庫でもあります。 社会の課題解決をミッションとして持つ NPO なら、よりよい事業・活動をしていき たいと願っていると思います。評価は、その気づきと、次にやるべき具体的アクショ ンをあぶり出してくれます。先の NGO 調査でも、「事業の問題点が明確になり、修正 できた」「事業終了後の活動計画の策定に役立った」「教訓を新しい事業計画に反映 できた」ことが、評価のメリットとして挙げられています。 ・これから 社会の課題はますます多様化し複雑になっています。国連の持続可能な開発目標 (SustainabIe Development Goals: SDGs) には 17 の目標、 169 に上るターゲットがあ ります。一人で全てを達成することはできないので、 SDGs でも「パートナーとの協働」 が目標に含まれています。パートナーの大切な構成員である市民団体 NPO には、今 まで以上に、自らの事業・活動を振り返り、その評価結果を広く共有し、補完し合 えるパートナーを見つけ、今後どうしていくべきかのインブットを得ながら進化してい くことが求められると思います。 換言すれば、評価は、これからの時代、活動を続けるための前提条件。スタッフ 一人ひとりが評価から気づき、学び、これを財産として組織に蓄積していけば、団体 の力量がアップし、必ず活動の進化につながるのです。 1 = ロ
実践する : 教材とツール ( 道具 ) 評価ツールセット社会的インバクト評価イニシアチブ http://www.impactmeasurement.jp/guidance/ 事業評価を実際にやってみたい。でもまわりに聞ける人もいないし、研修の機会も当分 ない・・・何を頼り進んでいけば ? という時に役立つツール集。サイトから誰もがダウンロード できます。分野ごとにまとまっているので、「ロジックモデルって、私の事業では例えばこう 組み立てるのもありなんだ」と分かる具体例や、実際に使える豊富な指標の例を見ながら、 最初の一歩を踏み出すことができます。 教育、就労支援、地域まちづくり、環境教育、文化芸術の各分野のツール集に加えて、 共通の実践マニュアルもついています。 NGO かんたん評価ガイドライン国際開発センター評価事業部 http: 〃 www.idcj.or.jp/shakaikouken/IDCJNGOkantanhyoukaguideIine.pdf 国際開発の勉強会で生まれた事業評価のガイドライン。国内の事業でも基本枠組みは 転用できます。本文は 7 ページ。質的調査の工ッセンスがぎゅっと詰まっているので、「なる ほど、こういう方法をこういう流れで使うのか」というイメージがつきやすくなります。 学ぶ : 講座・研修 評価士養成講座日本評価学会 http://evaluationjp.org/activity/training.html 評価の幅広い知識と技法をもつ人材の養成を目的とした 6 日間の初級講座。 1 年に 2 回 実施され、 NPO/NGO に限らす、 ODA などのコンサルタント、大学・学校、助成財団、省庁、 地方自治体などからも受講者が集まります。講師陣は学識 / 実践が豊富な評価エキスパー トたち。座学とワークショップで構成されており、試験に合格すると「評価士」の資格が認 定されます。 PCM 手法コース ( 計画・立案コース / モニタリング・評価コース ) 国際開発機構 https://www.fasid.or.jp/training/4_index_detail.shtml プロジェクトの立案・運営・管理能力をもつ人材養成を目的に実施されている研修。 PCM ( プロジェクト・サイクル・マネジメント ) は、プロジェクトの計画・実施・評価という 一連のサイクルを「プロジェクト・デザイン・マトリックス ( PDM ) 」と呼ばれるプロジェク ト概要表を用いて管理運営する手法。 JICA や国際機関で使われています。計画・立案 / モニタリング・評価の 2 つのコースがあります。 65
このブックレットの 目的と活用方法 多様な顔をもつ分、とかくそれぞ れがもつ曖昧なイメージのまま議論 が進んでいきがちな事業評価。この ブックレットの目的は、まず「事業評 価って、なに ? 」という基本的な問い に向き合い、ひとつの像をお見せす ることです。もちろん ていることが、すべて正解とは限り ません。執筆者ひとりひとりが真剣に 考えたうえでお見せするひとつの像 です。皆さんはどう考えるでしようか ? ぜひ仲間や支援者、事業パートナー たちと議論する際の材料にしてみて ください。 事業評価に限らず、ますは知り、 実践し、考える過程で、それが持っ 力と限界が見えてくるはず。皆さんが 評価を考えるスタート地点に、この ブックレットを置いてみてください。 何のために事業評価をするの ? 今までどおりがんはればいいと 思うんだけど・・ 4 評価と呼ばれるものが たくさんあって、なんだか混乱する。 いったいいくつあるの ? 事業評価と言っても、 何から手をつけたらいいの ? 不安や疑問も次々湧いてくる。 に 実際のところ、ほかの NPO / NGO は 事業評価のことどう思ってるんだろう。 やってるのかな ? 事業評価、やってみようかな。 でも実践するのにもうちょっと 羊しく知りたいのだけれど。 = = ロ なんで最近、事業評価への関心が 高まっているの ? 2
起緊急・復興支援では「中間評価」が効く ! 「評価」ときくと、準備が面倒、コストがかかる、事業が止まってしまう、など と現場側では思われがちです。あるいは説明責任のために、資金調達のためにな どの理由で「やらなければいけない」存在になることも度々。でも、「評価」は事 業を実施する NPO にとって、とても有益なものになるのです。ここでは、特に緊急・ 復興支援の場面における評価の有用性についてご紹介します。 公益社団法人セープ・ザ・チルドレン・ジャパン (SCJ) は、 2011 年 3 月に起き た東日本大震災の被災地域を対象に緊急・復興支援事業を実施しました。 SCJ が 災害発生直後に被災地域入りしたのが 2011 年 3 月 14 日で、震災が起きてわずか 3 日後。緊急支援を迅速に進めることを最優先にしたため、とにかくできる活動 から順次進めていきました。被災した子どもに関するデータなどを NGO が単独で 入手できない制約もあり、限定的な情報に基づいて計画をつくらざるを得ない状 況でした。 ただ、 SCJ は被災地域を対象に、 2015 年末までの 5 カ年にわたる復興支援事 業の展開を計画していました。このため、緊急時に現地で見聞きした情報と見通し のまま事業を継続するには無理があり、結局 5 年間の事業期間中に 2 度の中間評 価を実施し、その都度包括的な計画の見直しを行いました。各評価調査を行う度 に、情報収集や関係者の訪問調査など、スタッフへの負担は避けられないものの、 事業全体を改めて振り返り、その後の方向性や方法論を精査するのに有用でした。 具体的には、以下のような点が挙げられます。 計画の妥当性を検証できる一その 1 災害直後に行う緊急支援においては、どの団体においても充分な情報やアセス メントの機会もままならない中、迅速に支援活動を展開せざるを得ない状況に陥 りがちです。緊急時に NPO が行う支援内容にはそんなにバリエーションがあるわ けではなく、 SCJ も主に避難所での「こどもひろば※」の運用と子どもや養育者向 けの備品配布などに集中しました。 もう一方で、被災した住民が避難所から仮設住宅などに移動するくらいのタイミ 58
C 0 ー u m n 事業評価 : 国際協力で定着したのはなぜ ? 特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン事務局長 : 木内真 . 理 - 了・ 「よいことをしているのになぜ評価されなければいけないのですか ? 」 国際協力の現場で評価が本格化した頃、とある事業の評価を行おうとした知人が、 その事業の担当者に真顔で聞かれたそうです。 今から約 60 年前、 1954 年に日本の政府開発援助 (ODA) は始まりました。 ODA 事業の「評価」が登場したのは 1975 年。すでに 40 年以上の歴史があること になります。経済開発機構 ( OECD ) 開発援助委員会 ( DAC ) に開発評価ネットワー クの前身が発足したのが 1981 年ですから、日本の ODA 事業評価の取り組みは、 国際的にみてもかなり早く始まったと言えます。 その ODA 事業が牽引してきた国際協力の分野でさえ、現場では冒頭のような発 言があったわけですから、「評価」の定着がいかに一筋縄ではいかなかったかがう かがい知れます。このコラムでは、日本の国際協力 (ODA と NGO の双方 ) で、事 業評価が定着するまでにどのような過程や困難があったか、それをどのように乗り 越えてきたか、またこれからの課題について、個人的な体験も振り返りながら書い てみたいと思います。 平価の導入と定着ー ODA 分野で ODA 事業評価が導入された 1975 年は、日本の ODA が拡大し、世界第 4 位と なった頃でした。当時の評価の目的は「フィードバック」。すなわち評価結果は専ら 組織内部で共有し、そこから得られた教訓や経験を、その後の事業の形成・実施・ 管理の改善のために活用する、というものでした。 1980 年代に入ると、国の政策で日本の ODA は急速に拡大します。 ODA の原資 は私たち国民の税金ですから、当然、きちんと使われているのか、事業の効果は 出ているのか、を問う声も大きくなります。 1992 年に発表された ODA 大綱では、 評価結果は原則公表となり、対外的な「説明責任」を果たす機能も併せ持つように なりました。その後も、評価の客観性を保っための第三者評価の導入・拡充、評
C 0 ー u m n 「社会的インバクト評価」とは ? 認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会事務局長 / 社会的インパクトセンター長甲島山奇貴・泰 「社会的インパクト評価」ということば、最近耳にしたことはありませんか ? これを読んでいる皆さんのように、社会的課題解決の担い手である NPO / NGO やソーシャルビジネスなどの団体が生み出す「社会的な価値」 = 「社会的インパクト」 を可視化する評価の枠組みとして、最近注目を集めています。 社会的インパクト評価は、「事業や活動の短期・長期の変化を含めた結果から生 まれた『社会的・環境的な変化、便益、学び、その他の効果』を定量的・定性的に 把握し、事業や活動について価値判断を加えること」と定義されています。 社会的インバクト評価イニシアチブの設立 日本では NPO の事業評価はこれから、というところ。社会的インパクト評価を 推進するために、 2016 年 6 月、現状や課題、将来めざす姿や、それに向けた取り組 みなどについて議論し、実行を主導するプラットフォーム ( 共通の場 ) として多様な 団体が参加する「社会的インパクト評価イニシアチプ」が生まれました。 このイニシアチプでは、 NPO を含む民間事業者、シンクタンク、中間支援組織、 資金提供者、研究者、行政など様々な分野の人々が連携して、日本全体に「社会的 インパクト評価」を普及させるための具体的なアクションを計画・実施。 2017 年 6 月 現在、約 140 団体が参加しています。最初のプロジェクトとして、 2020 年までに社会 的インパクト評価を推進するビジョン、そして必要な取り組みをまとめたロードマッ プ※ 2 が作成され、 2017 年 2 月に発表されました。 推進に向けたロードマップ ( 行程表 ) このロードマップは、 2020 年までに実現したい社会的インパクト評価をめぐるビ ジョンと、そのために必要な取り組みが「文化の醸成」「インフラ整備」「事例の蓄積・ 活用」の 3 つのテーマとそれに連なる様々な小分類で構成されています。テーマごと に 2020 年までの目標が設定され、その達成に向けたアクションプラン ( 行動計画 ) 50