が多いのです。 「一般論ガバナンス」の限界 もう一つ、前に触れた大切な点に戻りましよう。それは、そもそもガバナンスの議論の 根幹を揺るがすような話、多くの研究の現段階での結論は「社外取締役の比率と企業の業 績の間には、何らシステマティックな関係はみられない」というものです。実は、ガバナ ろ ンスの議論ではもう一つ大きなテーマがあります。それは、が取締役会長 (Chair ・ ん person) を兼任するかどうか (CEO duality) です〔注リ。 そんなことを書いていたら、 て とをコントロールしたり助言したりする取締役会の最高責任者を同じ人物 Wall street Journal がの現っ が兼ねているというのは、野球で言うとピッチャーと審判を同じ人がやるのと同じだ、とのメグ・ホイットマン側 が会長を兼任することに決ま取 いう批判はかねてからありました。年前は、おそらくアメリカの For ( une 500 など、大 ったことを報道していまし も 企業の 7 割以上はが会長を兼任していたと思います ( 逆に、兼任させないと、取締 そ ーも そ 役会は 0 O を信頼していないあかしだということで、株価が下がったりということもあ 章 りました ) 。今はその比率は 5 割以下にはなっていると思います。いずれにせよ、「 第 が取締役会長を兼ねているかどうかと企業の業績の間には、何らシステマティックな関係 【注リ 403
取締役選定に関わる経済合理性に基づく要素 候補者の要素 会社の状況 ・社内か社外か ・会社の業績 ・他社の CEO ・会社の経営環境 ・特別な知識、専門性、経験 ・会社の戦略 ・特別なソーシャルキャヒ。タル ( つま・会社のライフステージ ( 会社が比較 りコネ ) 的初期の立ち上げでは「助言」を得 ・取締役としての評判 意とする取締役が役立つが、「監視」 ・業績の良い会社の経営者あるいは取が得意な取締役は役に立たない ) 締役 ・他社の取締役 ・取締役会の方針と意見や経験が合致 しているか ・性別および人種 を「経済合理性に基づく」選定と呼び、実はも う一つそれとは全く対照的な「社会的な動機」 による選定も多く報告・研究されていることを 示しています。第 1 章で「制度派理論」につい てご紹介しましたが、それに近い話です。日本 やアジアにおいても欧米においても、経営にと って合理性というのは必要条件ではあるかもし れませんが、必要十分条件では決してありませ ん。 経済合理性に基づく選定の要素として過去の 研究が明らかにしているのは上の表の点です。 日本で議論されているよりはるかに広いカテゴ リーという以外、あまり驚くようなことはない と思います。ただ、例えば「会社が比較的初期 の立ち上げでは『助言』を得意とする取締役 が役立つが、『監視』が得意な取締役は役に立 396
すでにご説明したように、社外Ⅱ客観的とは必ずしもならないことは、多くの研究結果 が示しています。さらに言えば、取締役の仕事はコントロールだけではなく、助言やコネ を含めた資源へのアクセス窓口でもあります。会社のライフステージ、業界、あるいは経 営環境、さらにはその会社の文化や価値観によって、ふさわしい取締役は違うはずなので す。 そう考えてみると、かまびすしいガバナンスあるいは社外取締役に関する議論は、いっ Warren Buffett, Berkshire Hathaway Letters t0 Shareh01ders 2007 取締役を探すコンサルタントや O がよく一言うのは「女性はいないか」「ヒスパニ ック系は ? 」「外国人は ? 」といったことだ。まるでノアの方舟に乗せるメンバーを 集めようとしているのではないかと思ってしまう。何年もこうした取締役候補の話を 聞いているが、「優秀なオーナーのように考えることができるか」という ( 肝心な ) 質問をなぜ誰もしないのだろう。 第 1 0 章そもそも「取締役」ってなんだろう ? 407
「社外か、社内か」だけで分けるのは、あまりにも単純すぎるというのはアメリカでは実 業界でも、アカデミアでも常識なのです。「社外取締役」の価値とは社内の出世競争とか、 の覚えめでたさという「社内要因」にとらわれずに客観的な意見を言うことができ ることです。しかし、「社外」だからといって、必ず「第三者 =independent 」かといえば、 そうではありません。例えば、その会社の大きな取引先だったり、あるいはその会社のコ ンサルティング業務などをして「利害」が絡んでいたりするかもしれないからです。 実際、もう随分昔になりますが、ディズニーの「中興の祖」、マイケル・アイズナーの ろ 時代にはそういうことがありました。ディズニーの取締役には、アイズナーの子供が通っ ん ている学校の校長先生だとか、アイズナーの家を設計した建築士だとか、いわゆる「お友 て 達」がたくさんいたのです。しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いでディズニーの業績を上げてい っ たアイズナーは、前に示した通り ( 0 の強い影響力で ) 自分の思い通りの取締役会を 役 取 つくり上げていました。「社外」と「第一二者」は必ずしも同じではないのです。 この根拠については例えば他 そして、極めつきは報酬額の開示です。まず、社外取締役の報酬、そしてその後はジェ社比較などあり、どの会社をそ ーも そ フ・イメルトから始まるトップ 4 人の報酬が、その中身および根拠とともに詳細に示され比較先として選んだかなど研 究者とすれば突っ込みどころ 章 ます窪リ。社用機を使ったとか、車が貸与されているかなんてところまで入っています。 満載なのですがここでは飛ば o よく、アメリカ企業の経営者の報酬が高すぎるのではないかと議論になりますが、その前します。 第 401
最近、「日本企業にも社外取締役が必要だ」「義務付けよう」「そこまでする必要はな い」なんていう話をよく聞きます。ちなみに、日経テレコンで調べてみると、日本経済新 ワん 0 「 1 尸 0 1 年年 聞朝刊に「社外取締役」という言葉が使われた記事が過去 1 カ月で件、 では 3 8 8 件ありました。 少し前の「日曜に考える」という記事で「社外取締役、義務付け必要か」について経営 共創基盤の冨山和彦 0 と新日鉄住金の佐久間総一郎副社長 ( 当時常務 ) が意見を戦わ せていました往 1 〕。冨山氏は「空気を読み合う村型統治の打破のために必要だ」と指摘窪 1 〕 し、一方で佐久間氏は「監査役制度が十分機能しており、個別企業の判断にゆだねるべき だ」という意見でした〔注 2 〕。 W 手 e 「 0 、 M. C. 、エ一 = ョ an 、 A 」 . 、 Cannella 、 A. A. 29 2. A multidisciplina 「 y 「 eview ofthe di 「 ecto 「 selection 一ま「 0 ど「 e 」 OU 「 8 一 ofManagement, 38 】 243 ・ 277. 2 013 住・ 9 月日 388
こうした議論が繰り返される要因として、日本企業のガバナンスが弱く、社長の暴走に【注 2 〕 このお 2 人はいずれも私の親 歯止めがきかなかったり、経営の透明性がいまひとつだったりという点が指摘されます。 しい先輩で ( 冨山氏はコー オリン。ハスや大王製紙がその「いい ( 悪い ? ) 例」として挙げられます。実際、アメリカボレイトディレクション 時代の、佐久間氏は大 の上場企業では、例えば取締役川人のうち、内部者はとだけという企業がた 学スキー部の ) 、奇遇だと思 くさんあり、そうした意味で日本企業は「世界標準」ではないと、識者や投資家は指摘す ったものでした。 るのです。ただ、一方で多くの社外取締役を人れて「世界標準」だったソニーのような会 社が泥沼の赤字にあえいでいたりすることも事実です。ここではアカデミックな研究の視 点を人れて、この「取締役」について考えてみたいと思います。 ろ ん 取締役、あるいはガバナンスに関しては経営学だけでなく、ファイナンス、会計学、経 て 済学、あるいは社会学と幅広い研究がなされてきています ( それが、ここで取り上げた論 っ 文のタイトルに mu 三 d デ c 一 plina と人っている理由です ) 〔注旦。そして、そうした膨大な研【注旦 役 HiIIman 、 CanneIIa 両教授と締 究の現段階での結論は「社外取締役の比率と企業の業績との間には、何らシステマティッ も、テキサス < & 大学時代 ーも クな関係はみられない ( つまり、論文によって正の相関だったり、負の相関だったり、相からの親しい友人です。 そ ・も そ 関がみられなかったりとバラバラ ) 」というものです。これについてはもう一度、あとで 章 詳しく触れます。 第 389
が同じ大学を出ているケースが結構あるという記事が出ていました。そのつもりで 選んだわけではないのでしようが、共通のバックグラウンドがあると盛り上がったり、、い を許せたりするということでしよう。 取締役の選定に限らず、あるいはアメリカなのか日本なのかにかかわらず、人間の世界 は「合理性」だけでは割りきれません。「正しいことを言っているのに、なぜ皆分かって くれないのか」なんて、歳を過ぎてそんなことを悩んでいてはいけません。 しかし、だからといって何もできないわけではありません。「合理性だけでは割りきれ ない、「正しいことを言っているのに、皆分かってくれないーは、結論ではなく、出発点 なのです。それを前提にどうしたらいいかということなのです。 それでは、以下は、こうした研究が、私たち、特に日本企業の経営に関わったり、取締 役の選定を含めガバナンスに関してどうしようかと悩んでいたりする方々にどのような示 唆があるかを考えていきたいと思います。 「解決策」としての取締役論議 ここまで申し上げたように、アメリカを中心に取締役 (board ofdirectors) に関する研 第 1 0 章そもそも「取締役」ってなんだろう ? 399
胆力が必要」といった議論がありますが、胆力のある意思決定を導くのもガバナンスの役 割なのです。 その 1 つが株式あるいは株式オプション的な報酬体系です。取締役会の中心議題も、当 然「どのように安全に経営するか」ではなく、「どのようにして企業価値を高めるかⅡど のようなリスクを取るべきかになります。その意味で、取締役の役割は 3 っというより 3 ・ 5 っと言ったほうがよいかもしれません。 翻って、日本のコーポレートガバナンスはどうでしようか ? 「リスクを管理する」と いう話は聞いたことがありますが「リスクティクを奨励するーという話は、寡聞にして知 りません ( 図 ) 。チャンスをつかむことより、法令順守こそがガバナンスの役割だと思い 込んでいないでしようか。もしそうだとすれば、外部取締役に弁護士の先生が多い理由も よく分かりますが、リスクを冒さないことばかりが強調されるのではないかと危惧します。 「サラリーマン社長がますますサラリーマンのように行動する」のでは何のためのガバナ ンスか分かりません。このあたりは 2015 年 6 月に発表された政府の成長戦略で「ガヾ ノ【注 8 〕 ナンスの強化」としてやっと少し触れられているようですが、どうでしようか。実際アメ一方で日本におけるガバナン ス関係の書籍の多くは弁護 リカを見習えと言っているようですが、私の知識では「弁護士」が社外取締役になってい 士、会計士の先生によって著 る一流企業はほぼ皆無です窪 8 〕。 されているようにみえます。 394
の間にか、それぞれの企業の「本当の問題」がどこにあるかを素通りしたまま、こうした ほうがいいという「問題解決策」の議論に終始していることが分かります。これは、第 1 章で「制度派理論」に関する論文をご紹介したときにも触れたのですが、世の中に様々な 新しい「問題解決策」が蔓延するのは結局、本当に何が問題なのかという現実が分かって いないことの証拠ではないでしようか ? だいぶ前のことになるのですが、確かリコーの当時取締役 ( ! ) 副社長の遠藤紘一氏が 「」と称してこんなことを言っていらっしゃいました。 今の日本企業のガバナンス論議にとって最も大切なのは、実は社外取締役をどうするか 「 what ( 現象 ) 」を十分観察しないうちに「 why ( 原因 ) 」を急いで考えてしまうこと が多い。 「 whaTThenwhY ( 「何が」のあとに「なぜ . が来る」 ) という標語をつ くり、「何が起きているのかを正しく理解できていない状態では、いきなり、なぜを 考えても、解決にならないことを戒めている。 408
日本のガバナンス議論の「問題」 翻って日本でよく聞くガバナンスの議論とは、まさに「どの会社もこうすればよい」的 な、極めて一般的で安直な議論が横行していないでしようか。もちろん、一般論は、一般 論であるからこそ間違ってはいません。「経営者に対して客観的な意見の言える取締役は 重要だ」という考えそのものに対して、それが間違いだという人はいないはずです。しか し、それが「だから社外取締役を義務化しよう」ということになると、大きな飛躍がある と思うのです。 ここであの有名なウォーレン・バ フェット氏が 2007 年に株主に宛てた発言をご紹介 しておきます。 lnstead, consultants and CEOs seeking board candidates will often say. We ・ re looking for a woman. or a Hispanic, or someone from or what have you. 一 ( sometimes sounds as if the mission is ( 0 stock Noah ・ s ark. Over the years l've been queried many times about potential directors and have yet ( 0 hear anyone ask. "Does he think like an in ・ 406