王は警吏に訊ねた。あの若者は、帰って来たか、と。 警吏は、 しいえまだ姿を見せておりませんと答えた。 王はそうかと言うものの、なぜか満足げに笑う事は出来なかった。 それがなぜなのか、王自身にも判らなかった。 なぜだ、なぜ、あの若者が戻って来ぬ事を、当然と思い、満足す る事が出来ぬのだ。そう仕向けもしたと言うのに。 もしかすると、心のどこかで、あの若者が戻って来る事を期待し 王 ていたのか。 た せ 馬鹿な。人を信じたところで、裏切られるだけ。常にそうだった″ らではないか。そしてこれからも。 刑場に、石工が引き立てられて来た。 その佇まいは堂々としており、あたかも演劇に登場する英雄のよ うにも思えた。悲劇の英雄に。 いや、実際そうだ。 友と称する者を信じて裏切られた悲劇であり、その身をもって人 を信じる事の愚かさを示す英雄なのだ。 日はすっかりと傾き、色を伴い始めた。