うめ 「 : : : ああ」と、呻く。 かんべきらく′」 そろそろ現状を打破しないと、完璧に落伍する。人類社会から落ちこ・ほれてしまう。 ただでさえ大学中退というドロップアウトだ。早く職を探して社会に復帰しなければ。 しかしーーーどうしても、それができない。 なせか ? どうしてなのか ? 答えは簡単だ。 ひきこもりだからである。 今、もっともホットな社会現象の「ひきこもり」。それが俺だ。 今、もっとも大流行な社会現象の「ひきこもり」。それが俺だ。 一説によると、現在の日本には、およそ二百万人ものひきこもり人間が棲息していると いう。二百万人と一 = ロえば、恐ろしい数だ。街頭で石を投げればひきこもりに命中する。 生 いや、やつばりそんなことはないか。ひきこもり人間は外に出歩かないからな。 の と、と , もかく。 戦俺はまさしく、現在日本で大ブレイク中の「ひきこもり」なのである。 章しかも、かなりのべテランひきこもりだ。 外出は週に一度。コンビニに食料とタ・ ( コを買い出しに行くその時だけ。 セロ。睡眠は一日十六時間 友人の数は、・ そ
ひきこもり継続期間は、今年で早くも四年。 実績は、大学中退。 : まったく、どこに出しても恥ずかしくない、もはやプロフェッショナルとも一言うべ き驚異のひきこもりである。 実際、よそのひきこもり人間には、そうそう簡単に負ける気がしない。 もしも「全世界ひきこもりオリン。ヒック」などが開催されたのならば、俺はかなりの好 成績を収める自信がある。 ウォッカに逃避するロシアのひきこもりにも、ドラッグに逃避するイギリスのひきこも りにも、室内で銃を乱射するアメリカのひきこもりにもーーどんな国のどんなひきこもり にだって、俺は見事に勝つ自信があるぜ。 そう。 ますたっ やま′」 ゴッドハンドの異名を持っ極真空手の創始者、かの大山倍達氏は、若い頃に山籠もりを して精神力を鍛え、世界最強の空手家になったという。その観点から考えてみると、数年 間にわたってア。 / 、ートに籠もり続けてきたこの俺も、いままさに、限りなく世界最強の男 そこで、ものは試しだ。 ビール瓶を用意して、それを手刀で割ってみよう。
322 二十一世紀初頭、日本中で「ひきこもり」が大ブレイクした。 僕は目ざとい男だったので、時流に乗って大儲けしようと思った。 「ひきこもり小説を書いて、有名になろう ! , 「ひきこもり小説でベストセラー作家にな ろう ! 」「そしたら印税で ( ワイに行こう ! 」「ワイキキだ ! 」 夢はどこまでも広がった。しかし、いざ書き始めてみると、僕はすぐに後海した。辛か リアルひきこもり人間が、ひきこもり小説を圭日くとどうなるか ? 必然的に、自らの体験を創作に利用せねばならなくなる。自分のことを書かねばならな くなる。 いかに自分と似たキャラクターを登場させようと もちろん小説はフィクションであり、 も、彼は彼で、僕は僕だ。同じ口癖を持っていようとも、同じアパートに住んでいようと も、彼と僕とは何の関係もないのた。住む世界が違うのだ。 それでもやはり、辛かった。恥ずかしかった。自らの恥を全世界に向けて大公開してい あとがき おおもう
具合が悪くなってぎたので、適当な大嘘をついて、ともかく逃げ去ることにする。 「俺はねえ、そもそも普通のひきこもりじゃないの。確かにひきこもってはいるけど、そ れは仕事柄、仕方がないのー 「仕事って、何さ ? 「何それ ? つまりホームオフ 「在宅で仕事する人間のこと。だから俺、ソーホーなの。アパート イスで仕事をしているだけであって、決して単なる無職じゃないの。確かにひきこもって はいるけど、それは職業柄、仕方がないんだ ! マンガ喫茶で。ハイトしようとか思ったの 背後の彼女が呼び止めた。 「待ってよ ! きっと後悔するよ 「何がだよ。そもそもあんた、何者だ ? 」 「ひきこもりのダメ人間を救済する、親切な娘です」 「手紙に書いてあった『プロジェクト』ってのは、なんなんだ ? 」 「計画の内容は、現時点では極秘です。でも、悪いようにはしないので、安心してくださ
『目を覚ませよ ! 』の表紙。そこには黒いゴシック体で、こう書かれていた。 若者を襲うひきこもり。あなたは大丈夫ですか ? 俺の視線に気づいたすハサンは、宗教的笑顔をさらに輝かせて、言った。 「これが今月の特集なんです。聖書的な見地から、ひきこもりについて考察しています。 興味がおありですか ? 」 俺を襲った恐怖、それを言葉で言い尽くすことなど到底不可能たった。 見透かされているのか ? もしやこのオ、、ハサンは、俺の正体がひきこもりであると、すでに知っていたのか ? からわざわざ、このような冊子を俺に手渡したのか ? それはひどく恐ろしい予感だった。 見知らぬ他人に、ひきこもりのクズ人間であると知られてしまうーーーその想像は、どう にも耐え難い、恐布、悪寒、わななき、そして混乱を、俺に激しくもたらした。 だがーーまあいい。落ち着け。 まず - はともかく、ごまかすことだ。
47 三章邂逅 むな ! 」と叫んでみるも、それはあくまで虚しい独り言に過ぎ 「酒らあ。もっと酒持ってこい 間に、陰々滅々とわびしく響いた。泣きたくなった。 ず、夕方の薄暗い六畳一 全部あの女のせいなのだった。あの女のおかげで、俺のひきこもり脱出大作戦は、惨め な失敗に終わってしまった。人を呪い殺す力が欲しい あぎわら : あのやろう、あのやろう、く、く、くそう。いまごろ奴らは、俺を嘲笑っているに 違いな、。俺は笑いものにされているに違いない。 『店長、今日、頭の変なひきこもりが店に来ましたよ』 『えつ、それは本当かい岬ちゃん』 『この店でバイトするつもりだったみたいですよ。ひきこもりのくせに、身の程をわきま えろって感じですよね』 『まったくだね。無職で中退で気持ちの悪いひきこもりなんかが、社会に出られるワケな いのにね』 などなどといった感じで、奴らは俺を、面白おかしい話のネタに使っているのだ。ああ、 なんてことだ。許し難い。ゆるせない。 ふくしゅう だから復讐を。今こそ復讐を。絶対に仕返ししてやる しかし、俺はひきこもりなので、上手に復讐する方法が思いつけなかった。だからこの
266 よ、つこ 0 子 / 、刀ノ ただひとつだけわかることがある。 俺はひとりだった。どうしようもなく孤独だった。この状態は、イヤたった。寂しいの はイヤだった。 「だがしかし ! 俺は叫んだ。 「だがしかし ! だからこそだ ! 俺は叫んでいた。 「寂しいのは当たり前だ ! 寂しいのが嫌なのも当たり前だ ! たからこそ俺は閉じこも る。ひきこもる。長い目で見れば、これが一番の解決方法だって、わかるだろう ? なあ わかるたろう ? 答えはない。 「わかるか ? 俺の言うことをしつかり聞くんだ。そうすればわかる。誰にだって、手に 取るようにわかる。 つまりだ。つまり俺たちは、寂しいからひきこもってるんだ。こ れ以上、寂しい思いをしたくはないから、ひきこもってるんだ。なあ、わかるだろう ? これが答えなんだ ! 」 答えは、ない。
15 章戦士の誕生 さあ、これから俺は、外に行って来るよ。 もう、俺はもう、ひきこもりなんかとは、おさらばするよ。 しゃあね。 さらば。 : が、しかし、なぜかアパートのドアは開かなかった。 な。せだ ? な・せ、ドアが開かない ? そうして俺は、不安に駆られた。 ーーー何者かが、俺の脱出を妨害している。 「そうだよ。だって佐藤さん。外に出ちゃったらひきこもりじゃなくなるもの スビーカーがそんなことを言った。 つまり 「妨害、されてるのよ」 スビーカーが語ったその一言が俺にもたらした衝撃は、到底計り知れない。 一妨害。 そう言えば、思い当たる節もあった。 たとえば、俺がひきこもり生活を始めた、あの頃のことを思い出してみよう。
272 仕事中に他人と会話を交わす必要も、ほとんどない。ア。ハートでひきこもっているのと 大差ない。 何かを考える必要もない。条件反射的にぶらぶらぶらと誘導棒を振るだけだ。 夜風はだいぶ凍えるが、これで日給一万円 ( 交通費込み ) 。 働いて、ひきこもって、生活費を稼いで、そしてひきこもる。 そんな生活を続けていた。 驚くほどのス。ヒードで、月日は巡り、巡っていった。 そうするうちに、冬がやってきた。 ひきこもり五年目の冬だった。 今年の冬は、ひたすら冷えた。なぜかというと、コタッをリサイクルショップに売り払 っていたからだ。 かぶ 毛布を頭まで被っても、それでも寒い。ガタガタ震えてしまう。 そこで俺は、引っ越しの際に山崎が残していったノートパソコンを、カイロ代わりに使 ってみることにしこ。 『無印ペンティアム六十六メガヘルツのノートです。荷物になるから捨てようと思ってた けど、せつかくだから佐藤さんにプレゼントしますよ』 そんなことを言って山崎が置いていった旧式のノート。ハソコンを、腹の上に設置して、 おもむろに電源を入れる。耳障りな駆動音と共に、アニメ絵の壁紙が液晶ディスプレイに
終章 Z にようこそ ! 春になった。 俺はやつばりひきこもっていた。 ーーなせだ ! どうして俺はひきこもっているんだ ! しい加減にしろ ! 真面目に働 などなどと、自分に怒りをぶつけてみたりもするが、当然の事ながら、そうそう簡単に ひきこもりから脱出できるわけもない。 もろもろ 迫り来る神経症に、じわじわと忍び寄る自殺願望に、その他諸々の困った物事 ( 家賃が そ もんもん 値上がりしたこと、行きつけのコンビニが閉店したこと ) に、俺は今でも悶々としていた。 にああ、そのうえ明日は警備の。ハイトだ。ひたすらにめんどくさい。 鬱々と思い悩んでしまう。 それなのに、窓の外は桜が満開だ。大学の新入生なんかが、ア。ハート の前を颯爽と歩い 章 終ていた。全世界から見放されたような気がした。全人類からバカにされているような気が うつうつ さっそう