304 して俺は、奴らと戦っていた。ずっと奴らと戦っていた。 : だけどな、もうダメだ。奴 らの魔手が、とうとう俺を捕まえた。俺はもうすぐ奴らに殺される。だけど岬ちゃんは大 丈夫だ。君は元気に生きていくんだ」 岬ちゃんは、わけのわからないことを口走る俺に、明らかに脅えている。 俺は岬ちゃんを解放し、一歩、後退する。 これから奇跡を見せてやる。の存在を証明する、最高の奇跡を見せてやる。 と戦う戦士、その雄々しい姿を見せてやる。俺がを倒してやる。 そうしたならば、岬ちゃんは俺の話を信じるだろう。そうしてニコニコ生きていくだろ う。自分を憎むことはやめるだろう。悲観的なその性格が改善されるだろう。 ついでに、そうだ。変わらぬ愛とかも、くれてやろう。君は恐れていた。他人に嫌われ ることを恐れていた。他人の心が変わることを恐れていた。だけども、もう大丈夫だ。俺 の心は変わらない。君が好きだ。その気持ちは、もはや決して、変わることがない。 なぜならば 「うああああああ ! もうダメた ! の精神攻撃だ ! 」俺は大げさに頭を抱えて、 岬ちゃんの目の前で雪の上をゴロゴロ転がった。 「俺の頭がおかしくなってるように見えるか ? だとしたら、それも含めてのせい だ。俺はもうすぐ殺される ! に殺される ! だけど一矢報いてやるそ ! 見てい
しよせん だいぶカチンと来たが、所詮、ロポットの言うことである。機械に何を言われても、そ れほど腹は立たない。 が、さらにロポットは謎めいた一言葉を口にした。 「大丈夫だよ。あたし、ひきこもりの脱出方法、知ってるから」 「 : : : なんだそれ ? 」 俺はついつい反応してしまう。 「佐藤君、たよね。 : : : 君、やつばりひきこもりなんでしょ ? 」 俺はその問いに答えるかわりに、公園の入り口に立てられた看板を指さした。その看板 には『チカンに注意 ! 若い女性の被害が相次いでいます』との警告文が、赤いペンキで 毒々しく書かれていた。 道 の「俺みたいなあやしげな人間を、こんな時間に呼びだして大丈夫なのか ? 危険だぜ」 主 ・ : あたし、いろいろ知ってるんだよ。君、日 「大丈夫。あたしの家、すぐそこだから。 物 造 曜の夜には、いつもこの公園で・ほんやりしてるよね。窓から見えたよ 章 ここに至って、俺はようやく、かなり不安になってきた。 彼女の正体も依然として謎だ。すべてが普通じゃない。 意図がっかめない。 ,
「ふうん」 先輩は目をそらし、そして。ほっんと呟いた。 「この前のさ、イジメられっ子救出大作戦。バカみたいだったけど、ちょっとかっこよか ったよ。 ・ : だから大丈夫だよ。佐藤君なら大丈夫たよ」 俺は、照れる。 そして時が経ち、先輩は卒業。 やはり汚い部室には、数学の参考書を睨む俺と、山崎がいた。 山崎が言う。 「佐藤さんも、今年で卒業ですね」 「そうだな。 : これからはお前が部長だ、頑張れよ」 「寂しくなりますね。みんな大きくなりますね」 「若いうちからそんなこと言うなよ。 そうだ。吸うか ? 俺はポケットからタバコを取りだして、山崎に差し出した。 山崎はそれを受け取り、恐るおそる火をつけた。 盛大にき込んだ。 涙目になりながら、山崎は言った。 「うまくいくといいですね」 つぶや にら
らっこ。 両手に缶ビールを抱え、もう一度山崎の部屋に入る。 「飲もう 「いいから、飲もう」 俺は缶ビールを山崎に手渡した。 「大丈夫こ。、 たしつか、かならず、ひきこもりから抜け出せる日が来る」 自らの願望を、大声でロに出す。 「大丈夫だ山崎君。俺はひきこもりに関してはプロフェッショナルなんだ。俺がついてい る限り、これ以上事態は悪化しない ! 」 そうして俺たちは、酒を飲んだ。大音量でアニメソングをかけ、意識が飛ぶまで酔っぱ その宴は深夜遅くまで続いた。 アニメソングの OZ が終わると、俺たちは歌を歌った。・ すいぶんと酔っぱらっていたの で、もしかしたらそれは、夢の中での絶唱だったのかもしれない。 だが、夢なら夢で、それでいし ともかく俺は、元気に歌った。
262 もう少しで日が暮れる。公園を歩く人影も、めつきりその数を減らした。 岬ちゃんは、俺にサインペンと朱肉を手渡した。 「拇印で良いよ , と言った。 「佐藤君なら、あたしを好きになってくれるよね」と言った。 : こうやって長い間、頑張って計略を推し 「だってさ、あたしよりもダメ人間だもん。 進めてきたんだから、もう、あたしのとりこでしょ ? 」 「優しくしてよ。あたしも優しくするからさ」 タメだよ 「・ : : ・やつばり、。 「どうしてさ」 「ムダだよ。おんなじだ。余計に辛くなるだけだ。それに第一、虚しすぎる」 俺は立ち上がり、契約書とサインペンと朱肉を突き返した。 元気良く言ってやった。 「岬ちゃんは大丈夫だ ! ぜんぶひとときの気の迷いた ! 乾布摩擦をして、心身を鍛え なさい ! そうしたならば、馬鹿な考えはなくなる・せ ! 君みたいな可愛い女の子なら、 素敵な人生をゲットだぜ ! 下を見るな ! 上を見ろ ! 大丈夫だ ! 」 そうして俺は、早足で逃げた。 むな
が、遅かれ早かれ、人間誰しもいっかは働かなければならない。それは事実だ。 、し、刀学 / よいのだ。 いつまでも親のスネを齧っているわけこよ、 「大丈夫 ! 大学やめたって資格を取れば余裕で就職できるよ。今、情報処理検定試験と O »-2 とワープロと。ハソコンとソロバンと、その他色々な資格の勉強してるところだ から、もう少しだけ仕送り頼むよ ! 』などといった最悪な大嘘で、親を騙し続けているわ けにもいかないのだ。 だから、そう。 タイムリミット が、刻一刻と近づいている。 それはおそらく、あと数カ月。 たた 親が仕送りを止めるその前に、俺は自らの甘ったれた性格を叩き直し、この腐ったひき こもり生活から脱出しなければならない。 を、うち倒さなければならない。 しかし、できるのか ? 俺にそんな大それたことができるのか ? トの外は危険で一杯だ。車が猛ス。ヒードで走り回り、杉花粉が飛び交い、たまに は通り魔などが出没する。 そんな危険な世界へと飛び立っことができるのか ? 本当に大丈夫なのか ? ・ : 正直言って、はなはだ不安だ。
から、果てはラカンまで。「ラカンはわからん ! と言って = ッコリ微笑む彼女の素敵さ に、俺はすっかり打ちのめされた。もう部屋に帰りたい。 そんな俺の様子を見かねたのか、岬ちゃんは大胆に方向転換した。 「ああ、ごめんね、難しいことばっかり言っちゃって。やつばり佐藤君には、こうゆう学 術的な話は向いてなかったみたいです。 : : : でも、大丈夫だよ。明日があるから , 「 : : : はあフ . 「人間だもの、苦しいよ 「悩んでる君は可哀想。だけど、上を向いて歩こうよ。そのままの君でいいんだよ。夢が あるから大丈夫。ひとり・ほっちじゃないんだよ。歩いていけば、道はあるのさ。みんなが 君を、応援してる。頑張ってる君、輝いてる。ポジテイプシンキングで行けばいいのさ。 明日に向かって一緒に歩こうよ。未来は素敵だよ。人間たもの、人間だもの、人間だもの かばん 俺は岬ちゃんの鞄をひったくると、逆さまにした。どさどさどさっと大量の書物が地面 に雪崩落ちた。 文庫、知的生活文庫。『早わかり精神分析』『完全精神病マニ = アル』『人生に詰まった時に読む本』『マーフィーズゴーストの人生成功法則』『脳髄革命』 『みつお』『みつる』エトセトラ H. トセトラ
「対立する理性と本能、しかしそのどちらをも、消し去ることは叶いません。ならば僕た ちはどうするべきなのか ? ーー、・適当なところで妥協して、女とっきあってみたりするつ・ 結婚して子供を作ってみたりする ? ええ、確かにそれが普通のやり方です。しかしです ね。僕は知ってるんですよ。女ってのは、アレ、人間じゃありませんよ。むしろ限りなく 化け物に近いんです。一年ほど前に、僕はその事実に気がっきました。学費を稼ぐために コンビニで・ハイトしてた頁、ど、、、 ヒナしふいろいろあったんですよ。あまりにも最悪な思い出で、 もう思い出したくもないですがね . そこまで一気に喋ったところで、山崎は俺の冷蔵庫から二本目のビールを取り出した。 止めるまもなくプルトップを引き開けて、一気に飲み干しやがる。 そうして彼は、唐突に叫んだ。 ン 「ーーー女はクソだ ! 女は死ね ! 」 の 紀すでに山崎の顔面は、嫌な感じに赤い。完全に酔っぱらっているらしい この男、すぐに酔うクセに、しよっちゅう酒を飲んでいる。若年性アル中なのではない 十 かと疑ってみたこともあったが、いつだったか彼は教えてくれた。 五『北海道の実家がワイン工場でね。中学の頃から酒を飲んでるんです。たから僕は大丈夫 なんですよ ! 』 どこらへんが大丈夫なのか、それはぜんぜんわからない。だがーーー一度酔っぱらった山 しゃべ
『目を覚ませよ ! 』の表紙。そこには黒いゴシック体で、こう書かれていた。 若者を襲うひきこもり。あなたは大丈夫ですか ? 俺の視線に気づいたすハサンは、宗教的笑顔をさらに輝かせて、言った。 「これが今月の特集なんです。聖書的な見地から、ひきこもりについて考察しています。 興味がおありですか ? 」 俺を襲った恐怖、それを言葉で言い尽くすことなど到底不可能たった。 見透かされているのか ? もしやこのオ、、ハサンは、俺の正体がひきこもりであると、すでに知っていたのか ? からわざわざ、このような冊子を俺に手渡したのか ? それはひどく恐ろしい予感だった。 見知らぬ他人に、ひきこもりのクズ人間であると知られてしまうーーーその想像は、どう にも耐え難い、恐布、悪寒、わななき、そして混乱を、俺に激しくもたらした。 だがーーまあいい。落ち着け。 まず - はともかく、ごまかすことだ。
・ハカカ ! 夢があるから大丈夫 ? ・ : 夢なんてねえよ ! これからも毎日毎日「もうダメだもうダメだ ! ーと呟き続けて生きていくのだろう。 それでいいのか ? どうなのかフ そんなことをほんの少しだけグチグチと思い悩んでみもしたが、結局俺は、契約書にサ インした。 一方岬ちゃんは、鞄に契約書をしまうと、俺の肩を撼んでぐっと引き寄せた。 至近距離で目が合った。 そ そうして彼女は、高らかに言い放ったものだった。 に「 ZÆX にようこそー ャケに気負ったその表情こ、ど : 冫ナしふ笑いのツポを刺激された。 微妙な笑いの発作に襲われながら、俺は、思った。 章 終 : どこまで続くものかは知らないが、できる限りは頑張ろう。 ・ほんやりと、そう決心してみた。 の会員ナイハー第一号、佐藤達広の誕生だった。 っや