生活 - みる会図書館


検索対象: NHKにようこそ!
33件見つかりました。

1. NHKにようこそ!

「えやっ ! 」 俺は血まみれの右手に包帯を巻きながら、やはりコタッに座っていた。 一日十六時間もの睡眠を取っているからだろうか ? す どうも最近、頭の調子が悪い。 でに半年以上も他人との接触を断っているからだろうか ? 一日中、頭の中がもやもやと霞んでいる。トイレに行くその足取りも、妙にお・ほっかな が、そんなことはどうでもいい 当面の問題は、このどうしようもないひきこもり生活を、いかにして打破するかという ことだ。 の 俺は一刻も早く、この爛れたひきこもり生活から抜け出さねばならないのだ。 戦 人類社会への復帰を ! 章 ドロップアウトからの立ち直りを ! 働いて、彼女を作って、人間らしい生活を送るのだ ! このままでは、廃人だ。このままでは、人間失格だ。 かす

2. NHKにようこそ!

というか、無理だ。 俺のようなダメ人間に、まともな社会生活など送れるわけがない。 昨日、久しぶりに朝の七時というまともな時間に目を覚ましたものの、べッドに横にな ったまま、昼すぎまで物思いに耽ってしまったこの俺に、まともな社会生活なんて不可能 その後、軽く昼寝をしようと思って目を閉じたら、今朝の五時までぐっすり熟睡してし まったこの俺に、まともな社会生活なんて不可能だ。 今日見た夢をフロイト的に分析してみようとしたものの、「高校時代の先輩と、狭い部 室で不純異性交遊にふけった」という夢の内容は、「高校時代の先輩と、狭い部室で不純 異性交遊にふけりたかったという無意識を表している」という、それのどこが夢判断た、 そのまんまじゃないかという結果に終わってしまったこの俺に、まともな社会生活なんて 不可能だ。 朝飯を食おうと冷蔵庫を開けたら、なにひとっ食料が入っていなかったこの俺に、しか せつけん ふろ しそれでも空腹を我慢して風呂に入ったら、石鹸もシャンプーも切らしていたこの俺に 目覚ましテレビの「乙女座は恋愛運がアップ。思いがけない人から告白されるかも」と え ? できるも いう占いに「一日中部屋から出ないのに、どうやって告白されるんだ ?

3. NHKにようこそ!

「なにがだよ ? 」 : だから佐 「いろいろなことがですよ。今みたいに、気楽な毎日が続けばいいですよ。 藤さんは、頑張ってくださいよ。どこに行っても、頑張ってくださいよ。僕も頑張ります。 元気にいきますよ。なんとかなりますよ、 不安と希望が、共にあった。 夕日の射し込むポロ部室で、俺たちは・ほんやり笑っていた。 そうして俺は、大学に進学。 しかし、中退。 先の見えない生活に脅え、ワケの分からない不安にビビリ、見通しの利かない の上がらない、笑ってしまうほどに・ハカげた生活が延々延々と続いて続いた。 四方は姿の見えない恐怖に取り囲まれていた。 だから俺は閉じこもり、そして眠った。ぐうぐうぐうぐうと、眠り疲れるまで眠ってい た。春が過ぎ、夏が去り、秋になって、冬が来た。 三そして何度目かの、優しい、春。 未来に続く、時間はしかし、ばったりきつばり閉鎖されていて、俺はまったく途方に暮 れた。夜風は涼しく、気持ち良く、それでも俺は、眠り続けた。 おび 、うだっ

4. NHKにようこそ!

数年前のあの頃。俺たちは夢を見ていた。 汚い校舎の、・ほんやりした生活。 うつくっ 美しい少女たち。鬱屈しながらも笑っていた少年たち。 俺も、皆も、夢を見ていた。 夢のような生活の中で、俺たち若者は、誰しもが素晴らしい未来を思い描いていた。 放課後は部室に入り浸り、先輩とダラダラした時間を過ごす、そんな毎日。 地震が起きたら一発で崩壊しそうなほどに古くさい、そんな粗末なプレハブ小屋で、ビ クビクしながらタ、、ハコを吸う。 イトをするでもなく、部活に精を出すわけでもなく、成績も悪く、ヤル気もない。 だつのあがらない高校生だった俺は、それでもいつも、笑っていたのだ。 逅ある日のことだった。 ゴミやガラクタが一面に散らばった部室で、俺と先輩は呆けていた。 = 一「佐藤君。君、将来どうするの ? 」先輩は訊いた。 「まずは適当な大学に行きますよ。 : : : 何をやるかは知りませんが、たぶんそのうち、や りたいことが見つかるでしよう」

5. NHKにようこそ!

272 仕事中に他人と会話を交わす必要も、ほとんどない。ア。ハートでひきこもっているのと 大差ない。 何かを考える必要もない。条件反射的にぶらぶらぶらと誘導棒を振るだけだ。 夜風はだいぶ凍えるが、これで日給一万円 ( 交通費込み ) 。 働いて、ひきこもって、生活費を稼いで、そしてひきこもる。 そんな生活を続けていた。 驚くほどのス。ヒードで、月日は巡り、巡っていった。 そうするうちに、冬がやってきた。 ひきこもり五年目の冬だった。 今年の冬は、ひたすら冷えた。なぜかというと、コタッをリサイクルショップに売り払 っていたからだ。 かぶ 毛布を頭まで被っても、それでも寒い。ガタガタ震えてしまう。 そこで俺は、引っ越しの際に山崎が残していったノートパソコンを、カイロ代わりに使 ってみることにしこ。 『無印ペンティアム六十六メガヘルツのノートです。荷物になるから捨てようと思ってた けど、せつかくだから佐藤さんにプレゼントしますよ』 そんなことを言って山崎が置いていった旧式のノート。ハソコンを、腹の上に設置して、 おもむろに電源を入れる。耳障りな駆動音と共に、アニメ絵の壁紙が液晶ディスプレイに

6. NHKにようこそ!

労働を始めることにした。 日雇いの、肉体労働だ。 イベント会場への物資搬入やら、引っ越しの手伝いやら , ーー意外に仕事は上手にこなせ たまにミスをして偉い人に殴られることもあったが、しかしそれでも肉体労働は爽やか だった。体を酷使すればするほど頭の中は空つ。ほになった。数年ぶりに、すっきり眠れた。 カードの借金があったので、最初の一カ月間は連日連夜働いた。複数の派遣会社に登録 し、毎日仕事を入れた。 ある程度生活に余裕ができると、今度は一気に仕事を減らした。一カ月の半分だけ働い て、残りの半月をひきこもって暮らすことにした。月収が十万ほどもあれば、結構快適な 生活ができるものだった。 できる限り夜勤の仕事を選んで働いた。深夜の交通整理などが最高だった。警備員とし イて登録してもらうには四日間の法定研修を受ける必要があったが、それさえ乗り切ってし まえば、これほどに楽な仕事、他にはな、。 章 + 深夜、人里はなれた工事現場で、真っ赤に輝く誘導棒をゆらゆらと振る。聞こえるもの は、背後で鳴り響くエ事機械の駆動音だけ。そして警備員は俺一人。たまに車が通りがか れば、適当に誘導棒を振って「危ないよ、徐行だよ」 さわ

7. NHKにようこそ!

15 章戦士の誕生 さあ、これから俺は、外に行って来るよ。 もう、俺はもう、ひきこもりなんかとは、おさらばするよ。 しゃあね。 さらば。 : が、しかし、なぜかアパートのドアは開かなかった。 な。せだ ? な・せ、ドアが開かない ? そうして俺は、不安に駆られた。 ーーー何者かが、俺の脱出を妨害している。 「そうだよ。だって佐藤さん。外に出ちゃったらひきこもりじゃなくなるもの スビーカーがそんなことを言った。 つまり 「妨害、されてるのよ」 スビーカーが語ったその一言が俺にもたらした衝撃は、到底計り知れない。 一妨害。 そう言えば、思い当たる節もあった。 たとえば、俺がひきこもり生活を始めた、あの頃のことを思い出してみよう。

8. NHKにようこそ!

270 夏が終わった。生活費が底をついた。 食費もないので、寝て我慢することにした。五時間起きて、十五時間寝る。そのような スケジュールで暮らしてみた。 最初の三日間は、何も食わなくても別にどうってことはなかった。ちょっと胃がきりき りと痛むぐらいだった。 しかし四日目にもなると、食べ物のことしか考えられなくなった。 ラーメンが食いたい。カレーライスも食べたい。意志とは関係なく、体が切実にカロリ あらが ーを求めていた。その欲求に抗うことは不可能らしかった。 そこで絶食五日目に、俺はとうとう外出した。 手元に残っていた数百円で、菓子。 ( ンとアルバイト情報誌を購入し、その日のうちから 十章ダイブ

9. NHKにようこそ!

ハ章追憶、そして誓約 155 来月、仕送りがストップする。そのとき俺は、どうしよう ? この生活も、もうすぐ終わる。 いっそ人生、終わらすか ? 俺はエロゲーのシナリオを書いていたパソコンの電源を切り、とりあえず山崎に電話を ~ かけた。『ごめん、シナリオ、もう書けない』と謝ろうとしたのだ。 だが電話は話し中だった。耳を澄ますと、隣室から怒鳴り声が聞こえてきた。 『どうしてそうゆう話になるんだよ ! 』 しや、テクニックがどう もりのこの俺には、あなたを喜ばせてやるだけの力は無い とかって話じゃなくて。 ああ、俺だって、強い人間になりたかったさ。頼りがいのある、そこにいるたけで周囲 を明るくする、そんな人間になりたかったさ。幸福をばらまきたかったさ。 しかし現実は、ひきこもりだ。外を恐れるひきこもりた。 なんか知らないけど布くて怖くてしかたがないんた。 だからもう、ダメなんだ

10. NHKにようこそ!

んならやってみろ」と、どこまでも寂しいツッコミを入れるこの俺に まともな社会生活なんて、不可能だ。 あああ。 死のうかな ! 死のうかな ! だが、俺は死なない。なぜならば、俺は強くて逞しい戦士だからた。を倒すその 日まで、俺は地べたをいずってでも生き延びる所存である。 勝っか、負けるか。それはいまだにわからない。しかし必要なのは立派な勇気だ。 だから勇気を振り絞り、まずはひとまず朝食を作ろう。 べッドからのそりと起きあがり、押入れの中から非常用のカップラーメンを取り出す。 冷蔵庫の上に置いてあるポットから、お湯を注ぐ。 そして待つ。 隣室の 202 号室からかすかに鳴り響いてくるアニメソングに耳を傾けつつ、俺は三分、 気長に待った。 : どうでもいいことだが、今年の春に新しく入居してきた隣人は、どうもアニメが好 たくま