・語られなかった「 9 条改正」 ゲストスピーカーの話は、先述したように児戯に等しいものばかりであったが、さすが に、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」共同代表・櫻井よしこの開会の辞は、よく練 り込まれたものだった。よく練り込まれていた、と言っても、その内容が高尚であった り、新機軸を打ち立てていたりしたわけではない。櫻井の挨拶はこの大会の「周囲」の文 脈を極めて巧妙に織り込んでいる、という意味だ。 不思議なことに、日本会議の改憲運動部局でありこの大会の主催者である「美しい日本 の憲法をつくる国民の会」は、独自の憲法案を発表したことはない。彼らの言う「美しい 日本の憲法」とはいかなるものか、一切、語られたことはない。会の公式サイトに記載の ある運動目標も、「憲法改正を求めるーという文言にとどまっている。彼らが目下積極的 に展開している署名活動で用いられる署名用紙にも「私は憲法改正に賛成します」と一言 のあるのみで、何をどう改正するのかはおろか、改正の方向性さえ記載されていない。 つま り「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、これまで「憲法は改正されねばならない。 なぜならば、改正されねばならないからだ、という、トートロジーとしてさえ成立しない 133

第四章草の根 「憲法尊重擁護義務ー ( 憲法四条 ) を負う国会議員が、同じく憲法で保障された「集会、 結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」 ( 憲法幻条 ) をないがしろにする発言をす るなど、到底許しがたい。 そして、こうした発言が飛び出た「文化芸術懇話会」もまた、日本会議や日本青年協議 会と浅からぬ関係にある。 ・ズブズプだった「文化芸術懇話会」 ますは、「沖縄の 2 つの新聞社は絶対つぶさなあかん」と発言した作家の百田尚樹。剽 窃と欺瞞の多いこの人物について言及することは筆が汚れるので、あまり言及したくはな そこで、左写真をご覧頂きたい。 これは日本会議が改憲運動のために立ち上げた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」 ( 幻参照 ) のパンフレットだ。代表発起人たちの顔写真が並ぶ中、右下に百田の写真も 使われていることがお分かりいただけるだろう。 百田はテレビでもそこそこ顔が売れているため、日本会議や「一群の人々ーにとっては 117

自民党内では党の綱領から自主憲法制定を外すべきではないかとの議論がなされたが、当 時初当選だった安倍首相や我々が『憲法改正を下ろすなら自民党なんていうのはやめるべ まそのメ / ヾ きだ』と反対した。い 、ノーが中心となって第二次安倍内閣を作った。安倍内閣 は憲法改正の最終目標のために、みんなの力を得て成立させた」と、述べている。 ( 美し い日本の憲法をつくる国民の会 2014 ) この「みんな」とは誰なのだろう ? 「美しい日本の憲法をつくる国民の会」のサイト (http:// kenpou1000.org/) を見てみよう ( 下写真 ) 。 、刀 何 トップページをスクロールすると、まっさきに出てくるのが、 議 3 名の共同代表の顔写真だ。櫻井よしこ ( ジャーナリスト ) 田久 本保忠衛 ( 杏林大学名誉教授 ) 三好達 ( 元最高裁判所長官 ) という、 章おなじみの顔ぶれ。 第 1 ロロ 0 交 ネットワ - ク 5 月 3 日を第一第の第 「憲法改正、待ったなし ! 」

三好達・元最高裁判所長官は日本会議の代表 ( 当時 ) であり、田久保忠衛・杏林大学名 誉教授は日本会議の代表委員 ( 当時 ) でもある ( ※ 2 ) 。また、役員名簿を見ると、事務局 かばしま 長を務めるのが、日本会議の事務総長である椛島有三であるのをはじめ、役員のほとんど が、日本会議の役員と重複する。この役員名簿の重複をみればわかるように、「美しい日本 の憲法をつくる国民の会」は、「新しい時代にふさわしい新憲法ーの制定を運動目標とする 男働団体なのだ。事 日本会議が、一般市民万人の賛同者を集めるために作った、リ 実、川月 1 日の設立総会には多数の日本会議会員が参加していた。つまり、衛藤は、い らぶ日本会議の会員たちに「安倍内閣は我々みんなのカで作った」とエールを送ったのだ。 ・「日本会議のお仲間内閣」となった第三次安倍内閣 衛藤晟一が、「みんなで作った安倍内閣」と日本会議の功績を讃えるのも無理はない。 「日本会議国会議員懇談会」に所属する国会議員が第三次安倍内閣の全閣僚四名に占める 割合は、 8 割を超えていた ( 図表 1 参照 ) 。 図表 2 で一小す通り、公明党出身の閣僚以外はほほ全員が、日本会議国会議員懇談会に所

起こしを基本方針としている ( 自由民主党 2015 ) 。おそらく、自民党の運動方針は、 「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の運動方針と共同歩調をとることを前提に立案さ れたものなのであろう。 このように、巻頭特集からだけでも、日本会議 / 日本会議の改憲運動別働隊である「美 しい日本の憲法をつくる国民の会」 / 日本青年協議会の改憲に対する並々ならぬ決意がう カカい・知れる。 しかし、この号で目立つのは、この巻頭特集ではない。それに続く、漫画コーナー 「憲法の時間です ! 」こそが極めて特異だ。 ・漫画「憲法の時間です ! 」の一コマに戦慄 「憲法の時間です ! 」は『祖国と青年』名物の漫画コーナー。毎月、鈴木由充編集長みず からが担当している ( 漫画コーナーでのペンネームはひらがな表記の「すずきよしみ つ」 ) 。「青木協子ーなる女性キャラクターが日本青年協議会や日本会議の運動を漫画で表 現するというのがおきまりのパターンだ。漫画コーナーなので、通例では巻末に掲載され

単なる人寄せパンダとして重宝されているという面もあろう。 見逃せないのは、「文化芸術懇話会」の呼びかけ人である衆院議員・木原稔の存在だ。 木原は当選 3 回・熊本一区選出。日本会議の熊本支部は多久善郎という人物が理事長を 務める。木原の活動報告プログには、この多久善郎と活動を共にする姿が繰り返し報告さ れている。 この事実から、つかかい知れること は、「地元有力支援者と活動を共に している」という点のみで、何ら問 題はない。ただし、この多久善郎な る人物、単なる「日本会議の地方支 部の理事長」というだけではく、日 本会議の事務局を担う右翼団体・日 本青年協議会の理事長を務め、「一 群の人々」の中で極めて重要な位置 を占める人物の一人なのだ。 国民の手でつくろう 美しい日本の憲法 あなたのご協力で憲法改正を実現する 1000 万賛同者のネットワークを ! 美しい日本の憲法をつくる国民の会 、応 : 物代 & ! をな代表 e 久のきん 118

諌山仁美なる人物 ( もつばら日本会議関連の著作を出版する会社明成社の社員。 1986 年生まれ。この界隈では「若手ーに属する女性だそうだ ) による、「『おしゃべりカフェ』 で憲法改正の女性の輪を広げよう」という記事など、改憲運動に関する記事が目白押しだ。 また、表紙記載はないが、巻頭特集としては「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の 2015 年度総会についての報告記事が掲載されている。 「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の年次総会は 2015 年 3 月四日に開催された。 政界からの出席者は次世代の党から平沼赳夫、自民党から古屋圭司、民主党から渡辺 周、維新の会から馬場伸幸という錚々たるメンバ 。「万人賛同者獲得運動の推 進」「地方議会での意見書採択運動の推進」など 2015 年度の運動方針を採択するとと もに、当時、 2015 年Ⅱ月川日予定だった ( この大会開催時の様子は第四章参照 ) 武道 館での大会までに、「万筆の署名の獲得」「衆参合わせて 480 議員の賛同獲得」 「都道府県での意見書採択」を当面の目標として公表された。 法 この運動方針は、自民党の「平成幻年党運動方針 . と酷似している。 憲 「憲法改正を党是とする保守政党としての誇り」を前面に打ち出したこの運動方針は、国 章 第会議員一人あたり人の党員獲得をノルマ化するなど、改憲に向けた草の根の掘り

キーワード的には「皇室中心」「改憲」「靖国参拝」「愛国教育ー「自衛隊海外派遣」とい ったものでしかなく、「日本会議が目指すもの . に示された内容の思想性や政治性に目新 さは一切ない。 ( ※ 3 ) とはいうものの、いかに主張の内容が陳腐で新奇性のないものとはいえ、今や日本会議 は、閣僚の 8 割以上を支える一大勢力である。現実に、彼らはこうした「なんら新奇性の ない古臭い主張ーを、確実に政策化し、実現化している。 ・日本会議の活動方法 日本会議の特徴は、上述の個別目標に相応した分科会的な別働団体を多数擁している点 にある。 例えば、「改憲ーという目標。この目標を達成するため、日本会議には冒頭で紹介した 「美しい日本の憲法をつくる国民の会」 ( 通称「万人ネットワーク」 ) をはじめと し、「新憲法研究会」や「二十一世紀の日本と憲法有識者懇談会」 ( 通称「民間憲法臨調」 ) など、複数の別働団体を擁している。

・安倍内閣を支配する日本会議の面々 2015 年 2 月 4 日。船田元 ( 自民党憲法改正推進本部長・当時 ) は、安倍首相との会 談の後、記者団に「憲法改正案原案の提示は 2016 年夏の参院選前ではなく、選挙後に なる」という見通しを語った。 各紙の報道 ( ※ 1 ) を見ると、自民党内の議論の位相は、もはや「改憲の是非ーではな く「改憲をいつ行うか」に変わりつつあることが如実に見てとれる。 「改憲の是非ーではなく「いっ改憲を行うか。が議論の軸となっているのは、なにも自民 党内に限った話ではない。 2014 年川月、「平成年 7 月に実施される予定の参議院選挙で、『憲法改正国民投 票』の実現と、過半数の賛成による憲法改正の成立をめざし、万人の賛同者を集 めることーを運動目標とする「美しい日本の憲法をつくる国民の会」なる団体が旗揚げさ れた。 同年川月 1 日に開催されたこの団体の設立総会に出席した衛藤晟一 ( 首相補佐官 ) は、 来賓挨拶で、「 1993 年に初めて自民党が政権を失ったとき ( 註〕細川内閣成立をさす ) 、 まじめ

・美しい伝統の国柄を明日の日本へ 2 ・新しい時代にふさわしい新憲法を 3 ・国の名誉と国民の命を守る政治を 4 ・日本の感性をはぐくむ教育の創造を 5 ・国の安全を高め世界への平和貢献を 6 ・共生共栄の心でむすぶ世界との友好を の 6 つであるという。これら 6 項目にはそれぞれ美辞麗句がちりばめられた説明文がっ いている。その内容には立ち入らないものの、説明文を読めば、 「皇室を中心と仰ぎ均質な社会を創造すべきではあるが ( 1 ) 、昭和憲法がその阻害要因 何 となっているため改憲したうえで昭和憲法の副産物である行きすぎた家族観や権利の主張 議を抑え ( 2 ) 、靖国神社参拝等で国家の名誉を最優先とする政治を遂行し ( 3 ) 、国家の名 会 本誉を担う人材を育成する教育を実施し ( 4 ) 、国防力を強めたうえで自衛隊の積極的な海 外活動を行い ( 5 ) 、もって各国との共存共栄をはかる«o)- 章 と、要約することができよう。 第