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検索対象: 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜
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1. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

芽米を用いて醴酒をつくる 芽米の調製と醴酒の製造 まず、籾を使って芽米をつくゑその方法は、 時 図 5 ー 1 に示すように、一晩、水に浸した籾を 摂氏二五度 ( ℃ ) の温度に保った暗い部屋に置 漬菌工芽 浸殺 % 発 き、籾が乾かないようにしておくと、七—八日 み夜秒。所 5 0 「′日っム も で根を出す。そのとき胚芽は籾の中で伸びてい る。それから、室温を三七℃に保ったままで発籾 るアミラーゼは活性が弱く 、芽米では醴酒をつくり得なかったのではないかとも考えられ る。また、アミラーゼ活性の強いことで知られる麦芽が醴酒づ くりになぜ使用されなかっ たかという疑問もわいてくるのである。そこで次のような実験を行ない 、芽米による醴酒 つくりの可能性を探ることとした。 砕 米 芽 図 5 ー 1 芽米の調整法

2. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

前三〇〇〇—二〇〇〇年の頃、ここに住んでいた縄文人は、この土器に山で採集したヤマ ブドウを入れ、貯蔵の間に発酵してできたと思われるワインを飲んだのだろう。また最近、 青森の縄文時代の遺跡である三内丸山遺跡からは、注ロ土器、ニワトコ、ヤマブドウ、さ らに発酵液につきやすいミ = バイが大量に出土していて、これらの遺物からも、果実でつ くられた酒が注ロ土器で飲まれた可能性が考えられている。 北海道にその例をさがすと、アイヌの人たちが、「 トーノト」と呼んでいる濁酒は植物 神 の浸出液、または果汁にシラカノ。 の 、 ( 、イタヤカエデの樹液からっくった酒を入れてできた 古もので、これもおそらく、古代からの伝統酒だろうといわれている。 章 さらに稲の渡来以前や稲の生育できない山間部では、アワやヒ工による酒づくりが行な 第 われたと思われる。たとえば、アイヌの人々のつくる「しと ( しとぎ ) 」はアワやキビの もち性の雑穀粒を主体にヒ工 ( うるち性 ) などを混合した餅で、それを神々にお供えする という ( 木俣美樹男他、一九八六 ) 。 また、静岡県磐田郡の青崩峠南麓の集落では、脱殻したヒ工の粉に水を加えて、ヒ工だ んご ( 生シトギ ) をつくり、 ハレの日に神供し、その後、焼いて食べた。また、ヒ工の粥 をつくり、麹を入れ、さらに、もろみに「抱き湯、 ( 暖気樽に相当 ) をすると、三—四日で

3. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

仕込んでいる。 この方式が日本における蒸米のバラ麹の源ではないかという考えが、加藤百一博士をは じめ多くの日本の研究者の見解である。 また、福建省を中心に、もち米を主原料にして、麹には紅麹菌による米バラ麹、さらに アミロ法でつくった米酒を酒母にしてつくる紅酒がある。 の そ また、江南地方には紅麹菌の繁殖を手助けするためか、蒸米にまず黒麹菌を繁殖させ、 その上から紅麹菌を繁殖させた烏衣紅曲を麹にした紅酒がある。 の伝統的な麦麹は小麦の全粒ないし粗割砕粒を稲わらのっとにくるんで製麹するので、草 包麦麹と呼ばれている。 世 古代、江南地方には非漢民族によるロ噛み酒づくりがあったが、漢民族の江南地方への 章 南下とともに、彼らがもたらしたカビ酒によって、ロ噛み酒はしだいに淘汰された。すな 第 わち、米粉 ( しとぎ ) を口噛みしてつくる酒から、米粉 ( しとぎ ) にカビを生やしてつく る酒にかわってきたことになる。 アンチュー 149

4. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

まず、第一の群は、酵母により直接エタノールに変換される発酵性の糖、たとえば、グ ルコース、フラクト ース、ショ糖などを含む果実などを発酵させてつくる醸造酒であり、 ブドウ酒、リンゴ酒などがこれに当たる。めずらしいものとして、中央アジアにある、馬 乳や山羊乳などからっくられる乳酒が知られている。特に、ブドウ酒は古代ギリシアや ローマでは、神々に捧げる神聖な酒として尊ばれていた酒であり、人類がつくり出した酒 のなかでも古い起源をもつものである。 第二の群は、イモ類や穀類などのでん粉質を原料としてつくられる醸造酒であり、この 場合には、まずアミラーゼの力をかりて、でん粉質を発酵性の糖にかえることが必要であ る。そのため、この第二の群はアミラーゼ源の種類によって次のような三つのグループに 分けられる。 ます、第一のグループとして、現在では南アメリカを除く地域ではあまり用いられてい ない方法であるが、人の唾液に含まれるアミラーゼによってでん粉を糖化し、生成した糖 を酵母で発酵させた酒、すなわち、ロ噛み酒がある。 南アメリカでは、現在でも、トウモロコシやキャッサ。ハいもを使って、ロ噛み酒がつく られている。また、中国の江南地方、台湾、日本では、ロ噛み酒は古代によく使用された イ 4

5. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

東南アジアに見られるしとぎ しとぎ ( 粢 ) とはイネ、アワ、キビなどの穀粒を湿式粉砕した加工食品である。すなわ ち、穀粒を水に浸漬し、柔らかくしてから臼でついて製粉すると、粘らず、そのまま乾燥 させれば、サラサラした粉になる。穀粒は水に浸すことによってもろくなり、強い力を加 とえなくても、容易に砕けるので、比較的簡単な道具で粉を得ることができる。 A 」 し 木俣美樹男氏によると、しとぎは、南中国、台湾、ポルネオ、ミャンマー スリランカ魲 章など、東アジア南部から東南アジアにかけて広範囲に分布している。また、インド半島南 第 端のタミル・ナドウでもっくられていて、ヒンズー教の神に供えられている。これらの もちこ、つじ 国々では、しとぎで米餅麹をつくり、カビ酒用の麹として使われている。植物の固体や くさこうじ 汁液をしとぎに入れて、つくった米餅麹は草麹と呼ばれ、専門的には区別されているが、 ここでは広い意味での米餅麹の中に入れることとし、東南アジアでの米餅麹の分布を、吉 田集而氏の『東方アジアの酒の起源』によってまとめると、表 4 ー 1 のようになる。なお、 ここにあげたそれそれの米餅麹について、詳しくは第 7 章で述べることにする。

6. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

第 7 章世界各地のカビ酒とその起源 マヒドン大学の研究者により、タイ北部の少数山岳民族が芽米酒をつくっていて、彼らも 実験室でアミラーゼ力の強い芽米をつくることができたことを発表していた。 また、吉田集而氏は、インド東北部のアッサム地方において、ロタ・ナガ族、レンマ・ ナガ族、アンガミ・ナガ族が芽米酒をつくっていて、この酒は伝説の中にも出てきている シッキムのガントクで見られるレ プチャ族の餅麹。シダを用いてつ くる。 ( 小崎道雄氏提供 )

7. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

来た道」において、近年になってわかってきた考古学上の新知見や傍証などをもとにして、 日本酒は中国の江南地方で先史時代に生まれた米麹の酒を源流にして、殷・周の古代王朝 時代につづく春秋戦国時代に、江南地方からわが国に渡来した人々によって、稲作農耕儀 礼の酒として伝えられたのであるとしている。 また、花井氏はそのほかの説として、日本の神話・伝説を中心に書いた歴史書で七—八 づ世紀頃に成立したといわれている『古事記』の中に、朝鮮の百済から須須許理という酒づ の くりの技術者が渡来して、旨酒をつくり、応神天皇に献上したと書かれていることをもと 代 本にした鄭大聲氏の朝鮮からの渡来説や、さらに、麹を使ってつくる酒がアッサムから中国 西南部の雲南にかけての地方で生まれ、中国南部の照葉樹林帯を経て日本に伝播したとい にう中尾佐助氏の説を紹介している。そのほか、よく実った稲穂についた青い稲麹と呼ぶカ ビの胞子を種麹に利用したという文献があることから、日本酒が日本で発明されたとする 小泉武夫氏の説もよく知られているものである。 なおらい 一方、加藤博士は前述の著書の中で、「直会とは神との共飲、共食を意味する。神に供 献したものを口にすることによって、神と同じ霊力が分け与えられるという信仰に基づい ていて、直会が神祭で大きなウェイトを占めていた。神祭はまず、酒づくりから始められ

8. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

米 ) を使って醴酒をつくることは容易であることは明らかである。 しかしながら、芽米アミラーゼより麦芽アミラーゼの方がアミラーゼ活性は大きい。そ れなのに、なぜ、醴酒の糖化剤に芽米が使用されたのであろう。その理由を探ってみた。 稲の起源は「アッサム・雲南説」が有力で、それが長江流域の江南で稲作として花開き、 江南から縄文後期 ( 約三〇〇〇年前 ) に北九州・南朝鮮に渡来し、またたく間に日本のほ ぼ全土に植えつけられたと考えられる ( 第 1 章参照 ) 。一方、小麦・大麦の栽培の歴史を 餅たどると、小麦は南西アジアの「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる地域で、紀元前七〇〇〇 年頃に栽培化され、紀元前二〇〇〇年頃に中国へ伝播し、日本列島でも縄文時代晩期、あ 章 るいは遅くとも弥生時代には渡来し、栽培されていた。大麦も同じ頃に「肥沃な三日月地 第 帯」で栽培化されたが、日本列島に伝播したのは小麦より少し遅れて、紀元五世紀頃には 日本に存在していたらしい。九三四年に成立した源順著『倭名類聚鈔』の中に、「蘖は芽 米で、飴をつくるーとある。これは中国の百科辞典ともいえる『説文』から引用であるが、 その後の版では「飴は麦蘖でつくり、米蘖ではつくらない」としている。これは、麦芽ア ミラーゼが芽米アミラーゼより強力であることが明らかになったからであろう。

9. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

食糧化学工学科 ) に、オーストリアのインスプルック大学から女子留学生のアンドレアさ んが文部省の国費留学生 ( 大学院修士課程 ) としてやって来た。彼女は、インスプルック 大学の教授の示唆で、日本の伝統食品である糸引き納豆の粘質物の研究がやりたいと申し 出てきた。 糸引き納豆の研究では、その頃までに次の二つのことがすでにわかっていた。まず第一 に、稲わらには野生の納豆菌がついていて、稲わらづとに煮立ての大豆を入れると、大豆 の熱で稲わらについている雑菌はほとんどのものが死減するが、納豆菌は熱に強い胞子を 持っているために、納豆菌の胞子だけが生き残る。そして、その熱が納豆菌の胞子発芽の 刺激剤となり、稲わらづとの保温作用が有利にはたらいて納豆菌の胞子が発芽し、稲わら に包まれた大豆の中で納豆菌だけが繁殖して糸引き粘質物をつくり、糸引き納豆ができる、 ということである。そして、もう一つは糸引き粘質物が、アミノ酸の一種で、動植物のタ ン。 ( ク質中に見出されるグルタミン酸の重合物 ( ア。ポリグルタミン酸 ) であることが明 らかにされていた。 そこで、私たちは彼女にその粘質物の生成に関する遺伝生化学的研究をしてみたらどう かとすすめ、彼女は、当時研究室の助手であった原敏夫君 ( 現在、助教授 ) といっしょに

10. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

神は神功皇后・仲哀天皇で、近郷八か荘一一三か村の総鎮守と伝えられている。宮司の赤 木勇夫氏によると、例祭のときには、赤飯または白飯の入った重箱に清酒をかけて神前に 供えるが、明治の頃までは、神田でとれた米でつくった濁酒 ( ドプロク ) を赤飯や白飯に かけていたと伝えられ、昔はロ噛み酒をかけていたかもしれないというお話であった。 このように、調査した神社では、今は失われているものの、かってはしとぎから神酒を つくっていたと想像されるロ伝が残されている。 さて、いささか余談ではあるが、おもしろい例を紹介しておこう。 一九九七年九月二七日、厳島神社に参詣した折に知ったのだが、ここの末社の養父崎神 社に伝わる儀式に「お鳥喰式ーがある。船で沖合い二〇〇—三〇〇メートルくらいのとこ ろに出て、そこで神官が祝詞を奏し、しとぎを海に浮かべると、楽の音につれて、神社の 杜から雌雄一双の神鴉が交互に飛来し、しとぎ団子をくわえて神社の杜に運ぶのである。 これが「お鳥喰式ーで、神鴉に運ばれて、しとぎは神にお供えされるのである。 神前に供え、数日後直 また、大分県大山町の天満社では、霜月祭りにしとぎをつくり、 会にて、参列者はしとぎを生のままいただくという。しとぎを焼いたり、蒸したりして食 べてはいけないといわれている。大分県日田市鈴連町の天満宮では、やはり霜月祭りにし