第 5 章蘖と餅麹 白米枌水道水芽米枌 IM 乳酸芽米粉圧搾 パン酵母 3g 緩衝液 3g 90m1 24g pH4.2 10mI 愉却 蒸煮 120 ℃ 10 分 根した籾を一—二日おいて乾燥させ、これを粉ひき 器で粉砕し、籾殻や根を取り除くと芽米の粉ができ る。 発 こうして調製した芽米を用いて醴酒 ( 芽米酒 ) を ーア手つくった。その醸造工程は図 5 ー 2 に示したとおり 造 醸である。ここでは、芽米はでん粉を糖分にかえるア 酒 ミラーゼ剤として使用する。でん粉原料としては、 糖℃て。米、もち米、市販米粉、うるち米を用いた。 住、米は、生でん粉、すなわち、、でん粉をもっ 芽生米を蒸してーでん粉にし、無水アルコールに入 れて急速脱水により乾燥させたものである。 図 実験ではまず、これら四種類のでん粉質原料をそ れそれ圧力釜で煮たのち、芽米粉を加えて糖化し、 パンづくりに使用する酵母を使って、一五℃の温度 におき、アルコール発酵させた。
酒であり、その片鱗については第 2 ・ 3 章に述べた。 次に、ビールのように発芽した穀物種子、たとえば、麦芽などのアミラーゼによりでん 粉を糖化し、酵母がその糖を発酵させて酒にする穀芽酒が第二グループに入る。古代エジ プトでは、もつばら麦芽でつくるビールが主要な飲料であったことが知られており、第三 王朝 ( 紀元前二六〇〇年 ) 頃の遺跡からは、ビールの醸造過程を描いた壁画や、ビールを 起 そ死者に供えたという記録が見出されている。また、古代東南アジアには、芽米アミラーゼ による醴 ( 甘酒 ) づくりがあることは第 5 章に述べたとおりである。 の最後に、第三グループに属するものとして、日本の清酒のように、カビのアミラーゼに 各 よりでん粉を糖化し、生成した糖を酵母で発酵させてつくった酒、すなわちカビ酒がある。 界 世 世界的に見ると、高温多湿でカビの生育に適した環境にある東南アジアに、 このカビ酒が 章 羶圧倒的に多い なお、中尾佐助氏は「麹酒の系譜」 ( 一九八八 ) の中で、世界のカビ酒について概観し ている。
その結果を図 5 ー 3 に示したが、この図から明らかなように、芽米アミラーゼでも発酵 が適当に進行することがわかる。また、実験によって得られたそれそれの米酒の特徴を表 ル・山・に 5 ー 1 に示した。いずれの米酒も九・五—一〇・六 ーセント ( 一〇〇ミ おけるエタノールの割合 ) のエタノール ( エチルアルコール ) が生成されているが、味覚、 臭覚、視覚による官能試験 ( 別名きき酒ともいう。 6 章を参照 ) を行なったところ、一五℃ の温度で発酵させたものの方が三〇℃で発酵のものより、香りも高く、より淡黄色な色調 餅となり、すぐれていた。 次に、うるち米をでん粉質 ( 基質 ) として、その濃度を三〇グラムから六〇グラムまで 章 四段階にかえて、芽米を加えて発酵させた。温度はいずれも三〇℃である。最初の二日間 第 は、発生する炭酸ガス量はほとんど同じであったが、最終的には、でん粉質の濃度に応じ て発生炭酸ガス量は異なった。それそれの発酵経過とできた米酒の特徴は図 5 ー 4 および 表 5 ー 2 のとおりである。この結果からわかるように、でん粉質原料の濃度を上げても、 生成されたエタノールの濃度はそれほどかわらない。ただ、でん粉質濃度が高いと、発酵 液中に糖分が多く残り、酒としてはうるち米四〇グラムのものが最良であった。 これらの実験から、必要量の酵母を確保することさえできれば、稲米を用いた蘖 ( 芽
東南アジアにおけるカビ酒 東南アジアにおけるでん粉質原料からのカビ酒づくりについては、吉田集而氏の膨大な 調査報告書『東方アジアの酒の起源』がある。それによると、でん粉の糖化剤としては、 ほとんどの地域で、米粉を水で練った生シトギを用いた米餅麹 ( 米の入手が困難な地域で は雑穀類、特にシコクビ = の粉末 ) が用いられていて、おそらく、これは中国江南地方の米 餅麹づくりが、古い時代に東南アジアに中国人とともに入ってきたものと考えられる。た だ、米餅麹といっても、この地域でつくられているのは、地方ごとに特有の草、根、樹皮 などを粉末にしたものや、植物の搾汁などを米粉に添加していて、製造された米餅麹、つ まり草麹である。それら草麹の中のおもな微生物はリゾープス属やムコール属のカビ類、 サッカロミコプシス属の疑似酵母、アルコール発酵性酵母 ( サッカロミセス・セレビジェ ) であり、さらにペディオコッカス属、ストレプトコッカス属の乳酸菌が分離されているこ とからして、でん粉糖化にはカビ類や疑似酵母が主役を演じ、アルコール生成は酵母に よって行なわれ、そして乳酸菌がアロマ形成に役立っていることが明らかにされている。
まず、第一の群は、酵母により直接エタノールに変換される発酵性の糖、たとえば、グ ルコース、フラクト ース、ショ糖などを含む果実などを発酵させてつくる醸造酒であり、 ブドウ酒、リンゴ酒などがこれに当たる。めずらしいものとして、中央アジアにある、馬 乳や山羊乳などからっくられる乳酒が知られている。特に、ブドウ酒は古代ギリシアや ローマでは、神々に捧げる神聖な酒として尊ばれていた酒であり、人類がつくり出した酒 のなかでも古い起源をもつものである。 第二の群は、イモ類や穀類などのでん粉質を原料としてつくられる醸造酒であり、この 場合には、まずアミラーゼの力をかりて、でん粉質を発酵性の糖にかえることが必要であ る。そのため、この第二の群はアミラーゼ源の種類によって次のような三つのグループに 分けられる。 ます、第一のグループとして、現在では南アメリカを除く地域ではあまり用いられてい ない方法であるが、人の唾液に含まれるアミラーゼによってでん粉を糖化し、生成した糖 を酵母で発酵させた酒、すなわち、ロ噛み酒がある。 南アメリカでは、現在でも、トウモロコシやキャッサ。ハいもを使って、ロ噛み酒がつく られている。また、中国の江南地方、台湾、日本では、ロ噛み酒は古代によく使用された イ 4
くり空気を送ると、雑菌に汚染されることなく液中に繁殖し、アミラーゼやグルコアミ ラーゼを強力に分泌して、でん粉をグルコースなどの糖分にかえ、しかも、それらの糖分 をアルコールにすることもできる。しかし、そのような性質をもっ麹菌はほとんど知られ ていない。それで、これらのカビとアルコール発酵性酵母で酒母をつくり、雑菌が入らな いようにしたタンクの中に糊化でん粉の液体もろみを加えてアルコール発酵を行なうと、 乳酸菌などの侵入による汚染がないので、理論的には九〇。 ( ーセント以上のアルコールが 得られる。 石油化学工業で合成的に安価に工業用アル「ールが生産される以前は、でん粉質原料か らのアルコール生産にはアミロ法が多用されていた。 このアミロ法によるアルコール製造が行なわれていた頃でも、グルコアミラーゼ活性の 弓いくものす力ビは、ほとんど東南アジアや中国の餅麹から分離されていたという。この ことからも、日本には糖化力の強いくものす力ビ類が存在していなかったのは明らかなよ うで、このことが、米餅麹によるカビ酒づくりが根づかなかった原因と思われる。 同様のことが朝鮮でも見られ、古代には中国にならって、梨花酒のような銘酒が米餅麹 でつくられていたが、米餅麹に適した菌株が少なく、遂に梨花酒が見られなくなったもの ー 40
C02(g) 1 0 うるち米 30 ℃ もち米 市販米粉 ー米 うるち米 1 5 ℃ 発酵時間 ( 日 ) 図 5 -- 3 各種のでん粉質原料と芽米を用いてのアルコール発酵の経過 表 5 ー 1 芽米による各種米酒の特徴 でん粉質原料 住米 もち米 市販米粉 うるち米 うるち米 発酵温度 ( ℃ ) 最終 pH 酸度 (ml) 工チルアルコール本 イソプタノール (ppm) 251 n - プロバノール 工チルアセテート 253 10. 5 273 209 263 231 233 402 10. 6 430 302 212
ルコアミラーゼ ( でん粉をグルコースにするアミラーゼ ) 活性の強いアスペルギルス・ニ ガー e ミ e ことリゾープス属のカビの一種 ( R ミ 2 sp. ) 、それにでん粉を 液化するーアミラーゼ活性の強いペシロミセス属のカビの一種 ( ミ es sp. ) が 得られている。この菌の同定には私も手伝ったのたが、酵母源として特殊な木の枝を使っ 源 ていて、その小枝からの酵母の分離には成功していない。 起 の そ 。 ( ルク教授たちは餅麹 (Beiju) から赤。 ( ンカビ ( ~ ミ 0 。ミも . ) を分離し、 このカビが芳香成分を生成することを見出している。 カ の南米のインディオは南方モンゴロイド系に属すと考えられていることからも、彼らイン 各 界 ディオによるロ噛み酒が広く分布しているこの地域において、唯一見出されたこのカビ酒 世 づくりが、どのような起源をもち、どのような変遷を経てきたのか、その調査はたいへん 章 興味深い課題である。 第
まがり まがりもち 成形し、油や湯で加熱したものを環、または環餅といし 、もう一つ、生シトギの団子を 、それそれ男女の性器 扁平にし、二つにたたんでから油や湯で加熱したものをプトといし を意味し、人類の繁栄を祈願して奉納するといわれている。おそらく、生シトギ、焼きシ トギ、煮シトギ、マガリ、プトの順に近代化されたものと思われる。 一方、神酒は神の創造物と考えられている。先に述べたように、日本民族の第一層は南 方モンゴロイドの非漢民族である越や呉の江南人で、太古の神酒は彼らが愛好したしとぎ でつくったロ噛み酒であったにちがいない。 ロ噛み酒とは、人間がでん粉原料ーーたとえば米粉ーーーを噛んで、自分自身の唾液アミ ラーゼを利用してでん粉を糖分にかえ、生成された糖分を空気中から入ってきた酵母によ りエチルアルコールにかえて酒にしたもので、わが国では八世紀に著わされた『大隅国風 土記』に記載されたロ噛み酒が初見である。 ロ噛み酒は東南アジア、南北アメリカなど環太平洋地域に広く分布し、わが国へは漁労 文化をもった南方モンゴロイドの中国江南地方の非漢民族である越人により、稲作などと ともにロ噛み酒の技法がもたらされたものと思われる。
響を受けているためか、一般に穀芽酒が多い。ところが、安渓貴子氏によりカビ酒が見出 されている。 安渓氏の報告によると、アフリカ大陸のほ・ほ中央に位置するザイール共和国のサバンナ に住むソンゴーラの人々は、キャッサバをでん粉質原料として、糖化剤には稲籾を粗く砕 き、それにカビを生やしたものを主とし、補助的な糖化剤として、トウモロコシを発芽さ そせ、カビを生やしたものを使用する。そして、発酵もろみを蒸留して飲用にするという。 急第々ほ の籾 ) ラた供 ゴ、け氏 ン寸子 ソ貴 丿 ) フく性 アづ女 央酒す 中のぐ