米麹 - みる会図書館


検索対象: 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜
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1. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

と考えられる。 さて、ここまで見てきたように、わが国では、中国におけるしとぎ、餅麹による醴、カ ビ酒製造法をうまく習熟した朝鮮 ( 高句麗、百済 ) からの渡来人により、紀元二—四世紀 頃、酒づくり法を習ったのであろう。しかし、その日本人がなぜ、餅麹による酒づくりを 導入したのにもかかわらす習熟せず、米バラ麹による酒づくりに入ったのであろうか。 その原因を追求するために、第 5 章では、芽米を用いて実際に酒をつくり、芽米によっ 麹て酒づくりが可能であることを示し、かっ芽米による醴酒づくりからカビ汚染芽米、つい る にでカビ汚染蒸米、すなわち、米。 ( ラ麹を用いた酒づくりへと変化していった可能性を示し 餅た。 章 米餅麹による酒づくりを行なった。また、前述のイ ここでは、米餅麹を実際につくり、 第 ンドネシアのくものす力ビと黄麹菌での醸造結果の比較からわかるように、米餅麹の場合 には、くものす力ビを使えば、品質のよいカビ酒ができることがわかる。しかしながら、 わが国には米餅麹づくりに適した微生物が少ない。そのため、良質の米餅麹づくりがむず かしく、むしろ、米バラ麹づくりに適した麹菌が日本には多い。このような理由から、米 ハラ麹によるカビ酒が日本に定着したのであろう。 141

2. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

これら東南アジアの餅麹の原料と種麹、およびできたカビ酒の名称を表 7 ー 1 に示した。 先年、タイのアルコール工場で、米餅麹 ( ルバン ) を種麹にしたもち米を用いての麹づ くりを見学した。広い床式の麹室には、エタノールをはじめ高級アルコールによるエステ ルのフルーティーな芳香が充満し、麹床には、しっとり濡れた感じのもち米のバラ麹がで きていた。種麹は確かに米粉をかためた餅麹であったが、生成された麹はバラ麹であった。 起 そこの麹は水を加えることなく、発酵タンクに堆積 され、この固形の堆積物は麹の酵素で液化される。 のそしてできた液化もろみを酒母として、サトウキ 各 ビの廃糖蜜を加えてアルコール発酵を行ない、蒸 界 世 留して「メコン」という蒸留酒がつくられていた 章 ( 写真はタイの草麹である ) 。 第 このように、東南アジアでは米粉や雑穀粉、す なわち「しとぎ」を基幹とする酒づくりが行なわ れている。 一方、芽米酒については、先年、タイの学会で L000 pang-Lao 0 「 Loog Dang-Sato タイの草麹 Loog pang

3. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

蘖 ( げつ ) による醴づく 醴酒 ( こざけ ) , 〃 穀芽を用いた醴ー 穀芽酒去 169 麹を使用する神酒づくり 麹酒 89 , 9 。卩 46 麹菌。 麹 89 , 90 卩れ , 46 毛カビア 2 , リ 9 蘖 ( げつ ) , - “ 9 卩 46 の一 64 り 8 索 ー 20 ー 122 引 9 卩 しとぎからのロ噛み酒 24 , , 76- 〃 , 9 49 しとぎからの麹づくりリ 9 しとぎからの米餅麹 24 , , 69 , しとぎからのバラ麹によるカビ酒づく りリ 4 ーリ 6 しとぎからの神酒づくり刀ー 88 しとぎからの餅麹によるカビ酒づくり 古代朝鮮の酒づくり 92 古代の神酒づ。 小麦の起源 99 小麦麹 48 小麦餅麹ア。 , 巧。卩 米麹による酒づくり 22 , 米 / くラ麹 ( 米散麹 ) , 49 ー 94 32 , 48 米ラ麹による酒づくり一四 , 米ラ麹による甘酒巧ー 米もち麹 ( 米餅麹 ) 12 去 48 , 巧 2 , 巧 8 米餅麹の酒。 - ) , 混成酒丿 【サ行】 研 , 戸フ 2 , 82 , リ 4 ーリ 6 卩 68 粢酒 , 107 しとぎの調製法 6 しとぎの分布ー 88 酒母ーれ 酒葯 48 小麹 ( しようきよく ) 紹興酒 8 醸造酒 43 ー 上棟式の撒餅 8 / 縄文人と弥生人の二重構造 縄文人の南方起源説 2 / 蒸留酒 43 白麹菌の米ノくラ麹 神饌づ 6 , 刀 , 巧 9 水稲尹 , 32 卩 水陸未分化の熱帯ジャポニカ 2 2 / 29 ザイモモナス・サッカロフィラ サッカロミコプシス属 72 , 巧 3 - ナッカロミセス・セレビジェ巧 須須許理ち , ァ ストレプトコッカス属 巧 6 スラ ソテッ味噌の麹づくり 大豆の起源ヮ 大麹 ( だいきよく ) 【夕行】 109 しと 49 , , 巧 9 しとぎづ 6 , 66 ー 88 卩 24 しとぎからの甘酒づくり しとぎからのカビ酒づく り 129 ーリ 6 ,

4. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

由で日本に入ってきたものであろう。 一方、約二四〇〇年前、会稽 ( 現在の浙江省紹興市 ) に都をおいていた越国の宮廷には 漢民族にならったカビ酒があり、道士徐福が秦の始皇帝の命で、不老長寿の薬を求め、 三〇〇〇人の配下とともに来日したとすゑいわゆる徐福伝説が事実であれば、餅麹を用 いたカビ酒が彼らによって日本に導入された可能性が考えられ、これは、江南から米麹利 用の酒づくりが入ってきたとする加藤百一博士の説にとって、有力な証拠となるだろう。 さて、南下してきた漢民族により麦餅麹を用いた酒づくり技術が江南地方に導入された が、江南地方は稲作地帯であるため、主原料にはキビのかわりにもち米が、麹には小麦麹 のほか、米粉をかためた米餅麹、ときにはそれに植物の粉末、あるいは搾汁を加えた草麹 ( 別名、酒葯 ) を用いた。この餅麹は、直径が二—三センチの銭型であることから「小 麹ーともいわれ、東南アジアのカビ酒づくりに広く利用されている。この起源は、おそら く、中国の米餅麹を用いた酒づくりが東南アジアに伝播したものであろう。 江南地方産の有名な紹興酒はもち米を主原料に、昔とは少しちがって、現在は酒母用麹 には、稲田の畦に野生するヤナギタデの茎を乾燥した粉と米粉、または玄米粉でつくった 酒葯 ( 米餅麹 ) を使用し、もろみの仕込みには蒸小麦に黄麹菌を生やしたバラ麹を用いて 48

5. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

仕込んでいる。 この方式が日本における蒸米のバラ麹の源ではないかという考えが、加藤百一博士をは じめ多くの日本の研究者の見解である。 また、福建省を中心に、もち米を主原料にして、麹には紅麹菌による米バラ麹、さらに アミロ法でつくった米酒を酒母にしてつくる紅酒がある。 の そ また、江南地方には紅麹菌の繁殖を手助けするためか、蒸米にまず黒麹菌を繁殖させ、 その上から紅麹菌を繁殖させた烏衣紅曲を麹にした紅酒がある。 の伝統的な麦麹は小麦の全粒ないし粗割砕粒を稲わらのっとにくるんで製麹するので、草 包麦麹と呼ばれている。 世 古代、江南地方には非漢民族によるロ噛み酒づくりがあったが、漢民族の江南地方への 章 南下とともに、彼らがもたらしたカビ酒によって、ロ噛み酒はしだいに淘汰された。すな 第 わち、米粉 ( しとぎ ) を口噛みしてつくる酒から、米粉 ( しとぎ ) にカビを生やしてつく る酒にかわってきたことになる。 アンチュー 149

6. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

の間に、麹菌による汚染が起こり、それが一度起きると、蘖づくりの室の中には麹菌の胞 子が充満し、次回の蘖づくりでは、麹菌の汚染がさらにひどくなる。そして、蘖づくりが 麹菌汚染芽米づくり、ついには、麹菌汚染蒸米、すなわち、米バラ麹づくりへと変遷した ものではないかと推理される。 こうした麹菌汚染蒸米への改変の発想は坂口謹一郎先生が述べている「各民族の酒の製 法は、その主食の加工法と一致し、粒食 ( 蒸米食 ) の日本はバラ麹 ( 麹菌汚染蒸米 ) の酒 餅をもち」という言葉を想起させる。すなわち、渡来人 ( たとえば、活日、須須許理、兄曽曽 保利、弟曽曽保利ら ) により教えられた蘖 ( 芽米 ) を糖化剤 ( アミラーゼ剤 ) に使って、蒸 章 米を糖化してつくる醴 ( 一夜酒 ) は、紀元四世紀から一〇世紀の間に米。ハラ麹で蒸米を糖 第 化してつくる醴、さらに、日本酒へと変遷していったものと考えられる。 ひのくま たとえば、和歌山県にある日前神宮の古文書の中に、麹合わせの行事というものがある。 ここには「臭木灰・小麦毛也支・米で麹をつくるーとあって、おそらく、麹菌で汚染され た小麦もやし ( 小麦の発芽したもの ) が種麹の役をして、米バラ麹ができたものであろう。 籾から蘖 ( 芽米 ) をつくるためには、籾に充分に水を吸わせ、湿度の高い環境 ( 中国で は、植物の葉で、籾をおおうとある ) において、発芽させることが必要だが、同時に保温も

7. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

すなわち、紀元前三世紀頃までの醴酒 ( 一夜酒 ) は縄文人、弥生人によるロ噛み酒で あ 0 て、紀元三、四世紀、百済などからの渡来人の来日が盛んな時代にな 0 てから、醴酒 ( 一夜酒 ) は蘖 ( 芽米 ) を糖化剤にしたものにかわっていったと思われる。 ところが、紀元八五九年ないし八七七年頃に書かれた、日本の酒づくりの古典ともいえ る『令集解』の「造酒司ーの項には、 正一人。掌醸酒。醴。謂醴甜酒。 : ・古記云。醴甘酒。多麹少米作。一宿熟也。 とあって、この場合の麹は明らかに米バラ麹である。なぜなら、すでに述べたように、 の麹が餅麹なら、その中に繁殖している酵母やカビがアル「ール発酵するので、麹の量が 多くなればなるほど、甘みの少ない、アル「ール濃度の高い、辛い酒になるはずである。 ところが、ここには「麹が多いと甘くなる」とあるので、この麹は中国系や朝鮮系の米餅 麹ではなく、米バラ麹である。 それゆえ、紀元三、四世紀頃、朝鮮からの渡来人によって、蘖による醴や餅麹によるカ ビ酒 ( 麹酒 ) の技術が導入されたと仮定すると、紀元九世紀までの間に、蘖の意味が芽米 から米バラ麹へかわった可能性が考えられる。 ただし、和同六年 ( 紀元七一三年 ) に編集された『播磨国風土記』の中に、神代にさか

8. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

東南アジアにおけるカビ酒 東南アジアにおけるでん粉質原料からのカビ酒づくりについては、吉田集而氏の膨大な 調査報告書『東方アジアの酒の起源』がある。それによると、でん粉の糖化剤としては、 ほとんどの地域で、米粉を水で練った生シトギを用いた米餅麹 ( 米の入手が困難な地域で は雑穀類、特にシコクビ = の粉末 ) が用いられていて、おそらく、これは中国江南地方の米 餅麹づくりが、古い時代に東南アジアに中国人とともに入ってきたものと考えられる。た だ、米餅麹といっても、この地域でつくられているのは、地方ごとに特有の草、根、樹皮 などを粉末にしたものや、植物の搾汁などを米粉に添加していて、製造された米餅麹、つ まり草麹である。それら草麹の中のおもな微生物はリゾープス属やムコール属のカビ類、 サッカロミコプシス属の疑似酵母、アルコール発酵性酵母 ( サッカロミセス・セレビジェ ) であり、さらにペディオコッカス属、ストレプトコッカス属の乳酸菌が分離されているこ とからして、でん粉糖化にはカビ類や疑似酵母が主役を演じ、アルコール生成は酵母に よって行なわれ、そして乳酸菌がアロマ形成に役立っていることが明らかにされている。

9. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

白米粉水道水糖化剤圧搾糖化剤圧搾 パン酵母 パン酵母 3g 100m1 50g 米酒 冷却 煮沸 100 ℃ 15 分 アルコール発酵 30 ℃ 糖化 50 ℃ 2 時間 C02(g) グルコアミフーゼ 芽米 麹菌汚染芽米 米麹 ( 蒸米 ) 1 5 米麹 ( 生米 ) 5 0 2 5 4 3 1 0 8 7 6 発酵時間 ( 日 ) 図 5 ー 9 芽米と米パラ麹を用いてのうるち米のアルコール発酵の経過 116

10. 日本酒の起源 : カビ・麹・酒の系譜

表から明らかなように、エタノールの生成量はグリコアミラーゼ製剤を用いた場合がい ちばん多かったが、きき酒の結果は、Ⅱの籾に黄麹菌を接種してつくったカビ汚染の芽米 粉を糖化剤にした場合がもっとも酒らしい酒質を示し、それにつぐのが—の芽米粉であり、 蒸米に黄麹菌を接種してつくった米。 ( ラ麹を使用した酒が、三者のうちでは若干、苦みが あり、味、香りともに劣っていたのは意外であった。これは、少容量実験の影響が大きく 響いたためではなかろうか。しかし、糖化剤としては、芽米よりは米バラ麹の方が大量生 産に適しているのは明らかで、そのことも芽米から米バラ麹への変遷をうながす一因と なったものと思われる。 以上のように、中国には四〇〇〇—三〇〇〇年前の商の時代から蘖 ( 穀芽 ) を使用した 醴と、餅麹を使用した麹酒があって、漢や呉による朝鮮半島への侵入、植民地政策により、 これらの酒づくりが朝鮮に入り、高句麗、新羅、百済では、中国に勝るとも劣らぬ酒、醴 がつくられるようになったのであろう。ついで、崇神天皇ー応神天皇の御代、朝鮮から、 活日らの渡来人により蘖による醴、餅麹による穀酒づくりが日本に渡来したものと私は推 理している。 ロ 8