実は、辻立ちでの演説の内容をほとんどの通行人は聞いていません。それでも、「一生 懸命にがんばっているーという強い印象を与えることはできます。 選挙運動は「政策ーを訴えるよりも、「共感」を与えたほうが得策だということです。 辻立ちをすることによって「実直に政策を訴えてがんばっている」という共感を得ている わけです。誰も聞いていなくても、辻立ちに効果があるのはこのような理由からです。 これは、一般のビジネスパ 1 ソンの人にも参考になるのではないかと思います。 仕事は「政策や成果」Ⅱ中身も当然重要ですが、「共感」を与えなくては支持をされな いし、認めてはもらえないということです。 議員秘書になりたての頃、他の事務所の先輩に「秘書は、ひと月に何件程度の冠婚葬祭 に出席しているか知っているか ? 」と聞かれたことがあります。 私は「週末の土日に 4 件。 1 か月は 4 週間ですから件くらい。多くて件くらいです か ? ーと答えました。 そうしたら、その先輩は語気を強めて「ハア 5 ? おまえ、何、言ってんの。 10 0 か ら 200 件だよ」と言ったのです。そして、カバンの中から白いネクタイ、黒いネクタイ、 数珠、ロザリオ、白手袋、のし袋、薄墨の筆ペン、ハサミなどを次々とまるで手品師のご
1 誠意という名のパフォーマンス 相手にいかに共感を与えるかが、 勝負の決め手 政治家にとって「誠意がある」と見られることはとても大切です。 仮に、ある政治家が減税を公約していたにもかかわらず、当選後に撤回したとしましょ 実は、これは法律的には違法とはなりません。減税が選挙公約であったとしても、選挙 公約というのは「その実現のためにがんばります」と、自らの方針を演説しているに過ぎ ないからです。 とはいえ、本来、公約や政権政策は実現可能の是非をさまざまな側面から考慮しながら、 責任を持って発言されなければいけません。実現不可能な公約や政策、もともとやる気な どない公約や政策は発言されるべきではありません。
金庫番のみならず、議員の懐刀、右腕と呼ばれる秘書は公設秘書ではなく、私設秘書が多 いのです。 公設秘書は、いわゆる政策秘書として活躍することが多くなります。国家公務員として ・人脈・パワーを生かして議員の政治活動を政策面から支える役割です。 の知識 議員秘書は、議員をサポートすることを通じて、舞台裏から国を支えるやりがいのある 仕事ですが、職としての安定性は保証されていません。以前は各事務所とのコネクション や秘書会といった互助会的機能がありましたが、最近の頻繁な政権交代や、新党の台頭な どにより安定性はますます低くなりつつあります。また政治の世界が特殊であると思われ るのか、転職の際に「つぶしが利かない」と言われています。 今後は、プロ意識の高い、専門職としての秘書が求められていくことでしよう。
第 3 章「なるほど ! 」と思わす唸るキーバーソンを味方につける技術 普段は使わないような難しい単語が並んでいますから、その部分に引っ張られて全体が 難しく感じてしまうのです。 議員秘書は日々の活動のなかで、多くの有権者と接する機会があります。議員が不在の 場合には、有権者が国政の行方や、議員の方向性などについて説明を求めてくるような場 合が少なくありません。 議員秘書は黒子の存在ですから自らの意思で政策を述べることはしませんが、「先生の 方向性はどうなんですか」「今後の法案の行方はどうなるのですか」と聞かれれば、答え ないわけにはいきません。 さすがに、有権者に対して「慚愧に堪えません」「虚心坦懐に取り組みます」「粛々と進 めますーというお役所言葉は使いませんが、それでも確約をするような話は絶対にしませ ん。 「代議士はいつも、国益のため国民のために命がけで働くと言っています」「党で発表し ている政策と一致ですから。まったく方向性はプレていません」など、自分の意思を持っ ことなく、言葉の使い方に気をつけながら発言をするのです。 これらのことを会社に置き換えてみましよう。 ざんき
たとえば、後援会対応は第一秘書の担当、政策立案の対応は政策秘書の担当、役所関係 や党関係は役所出身の秘書が対応するなどテリトリー が決まっています。 ですから、意外と風通しが悪いものです。小さい議員会館事務所ですが、お互いが何を やっているか干渉しないのです。 チームではなく、個人の仕事が多いので当然かもしれません。 仕事がハ ードですから、一般 0 会社 0 ように慰労会や歓 = 迎会みたなも 0 は滅多にあ りませんが、先生に言葉をかけられるとうれしいものです 「ありがとう」って便利な言葉だと常々思いますが、いつでも誰でも使える言葉にもかか わらず、案外と使わない人が多いものです。 人は誰かに感謝されることによってやりがいを感じ、よりよいパフォ 1 マンスが発揮で きるものです。感謝の言葉があるからこそ、達成感や満足感を味わうことができるのでし よう。だから「ありがとう」と伝えることによって、相手のやる気を引き出して、活力を 向上させることが可能になります。 一方で政治家が「ありがとう」と積極的にロにするようになったのには、選挙制度が変 わったことが挙げられるかもしれません。 106
第 3 章「なるほど ! 」と思わず唸るキーバーソンを味方につける技術 なぜならば、有権者はその公約や政策の実現に期待をして一票を投じるからです。 このような撤回は法的に罰する規則はありませんが、有権者にとっては裏切りと同じ行 為です。 ところが政治家は当選しなければ意味がありませんから、どうしても当選しやすい餌を 撒いてしまいます。餌を撒くのに費用はかからないからです。ただ、そのような場合、公 約違反のそしりは免れません。 ですから、そうなってしまったときに有権者に理解してもらうためには、日頃からリカ 丿ーできるようなパフォ 1 マンスが必要になります。その一つが辻立ちです。 みなさんは、辻立ちをご存じでしようか。辻立ちとは街頭演説のことです。 政治家の辻立ちには、ある大きな目的があります。 一般的には自らの政策を訴える方法だと言われていますが、多くの政治家は選挙前にし か辻立ちを行ないませんので、日頃から辻立ちをすれば、有権者に顔を覚えてもらうこと ができます。顔を覚えてもらえれば、親近感を持ってもらえるかもしれませんし、投票の 際に思い出してくれるかもしれません。 知名度が上がり、選挙に有利になることは間違いありません。
第 1 章議員秘書こそ、「人たらし」のプロフェッショナルである 地元入りした際の宿泊費も自腹の場合が少なくありません。 残業も多く、しかも自腹を切らなければいけない議員秘書という仕事。 とにかく、ラクなものではありません。 国会議員を支える秘書は、その議員がどんなビジョンを描き、実現に向け活動している かを代弁する大事な広報担当の役割も兼ねています。質問づくりや法律の素案づくりなど は秘書が担っていることが多いようです。 これは議員本人の関心事はポストや次の選挙であるため、政策づくりを真剣に行なって いる議員は少なく、政策づくりが後手に回ってしまうことがあるからです。 それだけ秘書が携わる仕事の重要性は高まっているのです。 日常的に秘書たちには選挙区内の担当地域が割り振られていて、担当地域の票の取りま とめや、団体からの推薦状の取り方、その方法については一任されています。一任、つま り、担当地域の全責任を負っているということです。 重要なミッションは議員の当選ですが、いまは支持率の伸びや各地域での得票数などが 詳細にわかるため、仕事の成果についても精査される場合があります。
「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、「自分が責任を負う」という強い意志 が必要なのです。 2012 年月の衆議院議員選挙で与党だった民主党が大敗しました。 8 人の現職閣僚 が落選する歴史的な大敗でした。 2009 年 8 月の衆議院議員選挙で民主党が大勝して、社民党、国民新党と連立する形 で政権が発足しました。脱官僚・政治主導を掲げ、事業仕分けを行ない、高等学校の授業 料無償化、農業者戸別所得補償制度など、生活に関わる部分の政策も実施されましたが、 政策の成果が現れなかったため、支持率が急落し、前回の選挙での大敗を引き起こすこと になりました。 その直後、民主党内では、野田佳彦総理や党の責任だと批判する発言が目立ちました。 これらの発言の多くは責任を転嫁するものでした。 そのようななか、岡田克也副総理が「選挙は、最終的には自分の責任。執行部や他人の 責任にするところから改めないと、この党は再生できない」と発言しました。 私もそのとおりだと思います。選挙惨敗の責任を即座に取った野田総理や岡田副総理の 発言は正論であって、解散時期を理由に落選議員が責任転嫁するような態度を取ることは
第 1 章議員秘書こそ、「人たらし」のプロフェッショナルである 務所もなかには存在しますが、議員も人間ですからすべてにおいて完璧というわけではあ りません。議員自身もそのことをよく理解していますから、事務所の秘書たちの支えを求 めるわけです。 議員秘書は、議員の日々の仕事が円滑にいくよう環境整備を行ないます。いつでも少し 先を見据えながら、どのようなことをすれば議員が仕事をしやすくなるか、また、いかに 有権者や国民に評価されるのかという視点を持っことが重要になります。 たとえば政策秘書であれば、議員への政策提言が主な仕事です。その結果、法案が成立 したり、主要なメディアで報道されたりすることも少なくありません。そのようなときに は強いやりがいを感じることができます。まさに政治のダイナミズムを実感する瞬間です。 金庫番秘書であれば、選挙に関わる錬金術が求められます。十分お金に余力がある状態 で選挙に臨むのと、カッカツで臨むのとでは心情的にも違うし、実際にできることも変わ ってきます。事務所や後援会の士気を大きく左右することもあります。 また、選挙期間にかかわらす、議員は有権者の前で話してナンボ、というところがあり ます。ですから選挙区に戻ったときには、多くの講演会や式典に出席します。それらの講 演会や式典で人手が足りなければ、企画・運営の手伝いをするのも議員秘書の役割です。 夏の盆踊り大会は、始まるのは夜、涼しくなってからですが、会場を設営するのは日中。
3 「ありがとう」をログセにする 相手のやる気を引き出して、 活力を向上させる魔法の言葉 仕事をしていて感謝をされるとうれしいものです。 立場の上の人に感謝されれば、即モチベーションが上がります。 ねぎら 私が秘書をしているときに、いちばんうれしかったのは先生の労いの言葉でした。「い つもありがとう」「がんばっているな」。このひと言で、すべてが報いられた気持ちになっ たものです。 私は永田町の議員会館勤務でしたが、議員会館は地元事務所とは異なって役所や党関係 者との折衝、政策立案の対応、後援会の対応、陳情の対応等、情報発信から情報処理など 業務範囲は多岐に及びます。 その多岐に及ぶ業務を数名の秘書で分業制によって対応しています。 105