・本資料について これまで、私ども「版元ひとり」では、堀栄三陸軍少佐が中心となって作成した『敵軍戦 法早わかり』の復刻をきっかけとして、帝国陸軍の「上陸防御」に関する資料を復刻してま いりました。 『敵軍戦法早わかり』は、 3 分冊で発行され、のちに合本となりました。続く『島嶼守備 部隊戦闘教令 ( 案 ) の説明』は、『島の守りかた』という別題をつけ、まず「抄本」を復刻。 つづいて、完全版を制作いたしました。また、完全版制作にあたり、『島嶼守備部隊—』 のあとに出された指示である『島嶼守備要領』も収録。帝国陸軍の島嶼守備についての考え 方がわかる資料としてご愛読いただいております。 『島嶼守備要領』につづいては、本書にも名前が出てきております、本来昭和十九年十月 発行の『上陸防御教令 ( 案 ) 』があり、さらには『橋頭陣地ノ攻撃』 ( は昭和二十年五月発 行、本書より一ヶ月あとです ) 等もあるのですが、今回は本土決戦をテーマとして、それに 最もふさわしいと思われる資料『国土決戦教令』を復刻いたしました。 一部には「沖縄戦の悲惨さ」を説明する資料としても使われているらしいのですが、実の ところ、沖縄戦が始まったのは本書発行より前であり、本書の存在が影響したとは考えにく いのです。あくまで「本土決戦用に作られた資料」という前提で、お読みいただければ幸い です。なお、次。ヘージ以降は、以前刊行いたしました同人誌から、本土決戦にまつわる内容 を再録しましたので、あわせてお読みくださいませ。
■敵軍上陸を迎え撃っ気分ー吹上浜 & 硫黄島ーー ここ 253 年、趣味で戦史研究のようなことをしている。研究というと大げさだが、日本国内の軍事史 跡を訪ね歩いたり、友人たちの活動に乗っかる形で、旧軍関係者への聞き取りなどを行っている。 3 年ほ ど前だと思うが、鹿児島の吹上浜を観に行った。本書に掲載しているような写真を撮りにいったのだが、 現場を見て思った。「こんなに広い海岸、どうやって守るのだろう」と。実際、水際に配置できる兵力は 微々たるものだったはすで、海を埋め尽くさんばかりの上陸用舟艇の群れが襲いかかってきたら : : : もち ろん、事前の砲爆撃もハンパなものではない。自分がその場にいてもとても生き残れなかっただろう。 もうひとつ、対上陸作戦関連では、先日仕事で訪れることがかなった「硫黄島」での体験が忘れられな 本稿執筆時点では、まだその「仕事」の成果は影も形もなく、それについて詳しく述べることは事情 が許さないのだが、 とにかく初めての硫黄島訪問は驚きの連続だった。まさに聞くとみるとは大違い 「百聞は一見にしかず」という一一一口葉をこれほどまでに強く納得できたのは初めてだった。 硫黄島では様々な場所を見て回ることができ、あらゆることが印象的ではあったのだが、なかでも「絶 海の孤島感」はすごかった。周囲に島がない、というだけなら他の島でもそうだろうが、感覚的に「周り に誰もいない」「援軍など来るはずもない」と思えてしまう「孤島感」はかなりのものだった。 そして、擂鉢山から南側の海岸を見て思ったのが「この海を埋め尽くす敵艦を見て、発砲を我慢できる か ? 」ということ。よく、硫黄島の戦いについて語られるとき、島の南に陣取った海軍の砲が、敵を引き つけきれず発砲してしまい、損害こそ与えたものの、位置を暴露してしまいあっという間に破壊された、 という話が出る。私も「海軍のこらえ性なし」と思ったクチだが、現場をみて気づいた。敵の砲爆撃厳し く、いつ自分の陣地もやられてしまうか、と思っているとき、絶好の位置に敵が現れたら : : : ここで一矢 報いようという気にならないと言えるだろうか。まして、司令部間の通信も社絶しがちな状況で : んなことを思いながら「やはり現場を見なくてはなにもわからないものだな」と感じた次第である。
躊躇するの弊に陥らざることに留意するを要す 第二十七築城は最高指揮官の鞏固 ( きようこ ) なる意志に基づく適切なる戦闘指 揮と守備軍隊の敢闘とにより初めてその価値を発揮す 第二十八軍隊は作戦上の要求に基づき、自己の築設したる築城を離れて他方面に おいて戦闘しあるいは他に再び築城を実施せざるべからざることあり。斯くの如き 場合に於いては、指揮官以下心機一転新任務に向かい邁進するの覚悟を必要とす 第四章決勝会戦 第一節要則 第二十九決戦攻勢に任ずる兵団は、猛烈果敢なる攻勢を遂行し、一挙に敵上陸軍 を撃滅すべし特に高級指揮官は終始強烈不撓の意志を堅持するを要す 沿岸防御に任じある兵団といえども、機を見て独力攻勢を断行するに躊躇すべか らず 第三十対上陸作戦成立の要件は、沿岸防御に任ずる兵団の長期にわたる靱強なる 戦闘と、攻勢兵団の神速なる機動及び果敢猛烈なる攻撃とにあり
この間軍隊は基礎の訓練より逐次総合訓練に入り、兵団の実兵演習を以て訓練の 完成を期す 特に新たに編成せらるる部隊に在りては、その素質を精査し之に適応する訓練に 遺憾なからしむ 第二十四教育の期は作戦上の要求、編成着手順序、初年兵入隊の時期、築城との 関係等を彼比考慮して之を定む 教育の過程を定むるにあたりては速成教育の要領により、まず対米戦闘喫緊の課 目に限定し、且っ分、特業の内容はさらに之を専業的に分課して速やかに古年次兵 に伍して戦闘任務に服行る如くす 爾後時間の余裕を得るに従い、 戦場諸般の任務に就き得る如く教育するものとす 第三節築城 第二十五築城実施に関しては大陸指第二九一四号国土築城実施要項に依るものと す 第二十六築城は機宜に適する我が戦力の発揚を本旨とす。故に之が利用は戦闘法 に即応せしむ 又ややもすれば既設築城に戦力を膠着せしめて攻撃精神を消磨し、戦機の捕捉を
一、戦略的交通路 ( 鉄道、道路 ) の整備、兵要地誌、起床の調査 一「渡河点 ( 橋梁を含む ) の復旧準備及び隘路の副交通施設 三、交通要点及び輪転材料の防空、対爆施設、秘匿、艤装 四、交通統制組織の確立と之が機能の充実 五、戦場地帯の交通路の整備 六、軍官民通信の有機的な統合による戦略、戦術的通信組織の確立 第八章兵站 第六十六兵站は国土戦場の利点を最高度に活用し、特に作戦発起に伴い移動を要 する軍需品を最低限ならしむることに着意するを要す 第六十七作戦資材の整備は万物戦力化を本旨とし、各兵団は自ら所要の作戦資材 を現地自活し物的戦力を強化せざるべからず 第六十八作戦資材を敵の砲爆撃、雨露、湿潤等に対し防護し以て無為に消耗せざ ることは各級指揮官の重要なる責務にして、之が対策の実施は作戦行動なりと心得 第六十九兵站部隊は状況に応じ直接戦闘に参与し国土防衛の栄を担任すべきもの
第五戦場は悠久の皇土なり。此処に父祖伝承して倶に生を享け民族永劫の生命 と共に存すべき地なり 万策を尽くして国民皆兵の実を発揮し且つ一切を活用戦力化し以て皇土総決戦に 参与せしむべし 第六平常的生活環境と、之に伴う消極的諸条件及び国土国民に対する感情の諸 作用とは、ややもすれば決戦気迫を消磨し、断乎たる統帥の実行を躊躇せしむるの おそれあり。故に指揮官は自らに鞭 ( むちう ) ちて勇断宜しきを制し克く軍隊をし て百事戦闘を基準とする野戦軍の本領を発揮せしむるを要す 第七国土決戦に於ける作戦、戦闘及び訓練は典令を活用するのほか、本教令に 準拠し且っ戦闘要領に関してはさらに「上陸防御教令 ( 案 ) 、橋頭陣地の攻撃」等 を参考とするものとす 第二章将兵の覚悟及び戦闘守則 第八国土決戦に参ずる全将兵の覚悟は各々身を以て大君の御楯となりて来寇す る敵を殲滅し万死もとより帰するが如く七生報国の念願を深くして無窮なる皇国の 礎石たり得るを悦ぶべし
■二・一一六事件と祖父 祖父の話ついでに、かの有名な「二・一一六事件」と祖父の関わりについてもご紹介したい。 1936 年、昭和Ⅱ年。もうかなり昔の話。この年の 2 月日、本陸軍の若手将校らが起こしたクーデ ター未遂事件が「二・一一六事件」だ。未遂とは言っても、高橋是清蔵相をはじめとする数人の犠牲者を出 し、その後の日本の行く末に多大な影響を残した事件だ。もちろん、本書を手に取っていただいた多くの セシムルヲ要ス ※底本は柚原資料 ( 柚原文庫 ) 「昭和一一十年夏於南九州第四十軍作戦経過概要」とし、漢字は旧字体に 変換しなおしている。 しかかたろう。 終戦直前の「ないないづくし」がわかることはもちろんなのだが、個人的にはいくつか面白い発見があっ た。「終戦なら終戦でいいから、ちゃんと命令・指示してくれ」とか「機密書類を全部焼却しろといわれ て従ったが、何も有利になることもなく、ただ混乱 ( 困乱という言葉に表れているような ) しただけだっ た」「地下で生活できる態勢を整えるべきだ」 ( 核シェルター的なものか ? ) などなど、玉砕の島からと どいた訣別電報ほどではないにしろ、かなり重い言葉が並んでいるとは感じないだろうか。 本書で紹介した内容は、考察や分析を深めつつ、いずれさらに詳しくまとめたいと考えている。
第五十三敵陣前の火力障壁を突破し、その外殻を破砕するは必ずしも難からず。 我が攻撃の進展を阻碍するものは熾烈なる砲爆のほか、陣内縦深にわたる敵の近戦 火力と機甲反撃とにあり。兵団は諸兵種特に歩戦砲工の緊密なる協同と縦長戦力と により絶えず攻撃威力を培養発揮しつつ一意突進を継続し、敵の抵抗組織の全縦深 を撃摧するを要す 第五章持久方面の作戦 第五十四持久方面の作戦指導は状況により千変万化すべきも、要は決戦攻勢を成 立せしむる唯一終局の目的としてその行動を律せざるべからず 第五十五敵の進攻を受けたる持久正面の軍司令官は、攻勢により之を撃滅すべき や、持久抵抗により時間の余裕を得るを主とすべきやを定むべしといえども、持久 任務達成の最良の方策は攻勢にあるを想い、果敢溌剌の気勢を失わざるを要す 第五十六持久正面に於いて攻勢的に作戦を指導する場合に於いては特に慎重周到 なる戦術的考按を以てし、敵の火力の陥穽に陥り戦力を消耗して全般の目的達成に 背馳 ( はいち・行き違う、反対になること ) するが如きことなきを要す 第五十七主決戦方面に徹底せる戦力を集中する為、持久正面の軍隊は極めて優勢
第四十四軍管区 ( 師管区 ) 部隊は当該管区を通過する決戦部隊の宿営、給養を担 任し、あるいは交通路、通信網の整備、確保に努め、以てこれら部隊の機動を神速 ならしむるを要す 第四十五高級指揮官は交通路の統制、整理に関し万般の施策を講じて機動の整斉 円滑を期するを要す 軍隊は交通軍紀を厳守し交通整理部隊の指示に絶対に従うべし 第四十六機動の細部、特に戦場機動に関しては「橋頭陣地の攻撃」による 第四節攻撃戦闘 第四十七決戦攻勢の要は、激烈凄惨なる戦況、極度の消耗を覚悟し将帥以下毅然 として敢闘不屈の意志を以てあくまで攻撃を続行し敵を圧倒撃滅するにあり 第四十八決戦は、通常海岸の狭隘なる地域に於ける橋頭陣地に対する攻撃にして 時間的、地域的に策略を施すの余地少なく、激烈凄惨なる局地戦闘に終始するを常 態とす。従って諸兵戦力の統合発揮に関しては、高級指揮官以下最大の努力を払う を要す 第四十九橋頭陣地に対する攻撃は、単なる一点突破を以てしては目的を達成しが たきを以て、攻撃に用うべき兵力に稽え数個の突破点を選定するを可とす。而して
第三十一高級指揮官は敵の上陸企図に関する判断に基づき戦備の度を定め、作戦 及び戦闘準備に関する準拠を示すと共に随時の奇襲に対応するを要す 第三十一一戦備転移、機動及び戦闘開始等は本作戦の特性に鑑み特に俊敏神速なる べし。之が為簡単明瞭なる伝達法 ( 例えば略号発令の型式 ) を準備し置くを要す 第二節沿岸防御戦闘 第三十三沿岸防御に任ずる兵団は優勢なる敵上陸軍及び空挺部隊の進寇に対し長 期克くその陣地に之を拘束し、為し得る限り甚大なる損害を与え、以て主力の攻勢 を容易にしらしめ、あるいは支作戦本面の持久を担任す 戦闘の遂行にあたりては、戦機を捕捉し勉めて攻勢的に任務を達成するを要す 第三十四防御戦闘は各種の手段を尽くして積極主動的に実施し、敵の物的戦力を 封じ、その弱点に乗ずるを要す 之が為火力及び逆襲に依るのほか、挺身奇襲、誘致、伏撃、逆上陸等溌剌果敢な る戦闘を遂行するを要す 第三十五集中する兵団の戦場到着に伴し ' 、、沿岸防御に任じある兵団は攻勢のため の支拶 ( しとう ) を確保し攻勢準備を援護す。攻勢開始にあたりては、攻勢兵団 に連繋し攻撃を敢行す