2 3 シュレーディンガー 方程式 波動の従う運動方程式が波動方程式である . 波動関数の従う運動方程式がシ ュレーディンガー方程式である . 本章では量子力学の基本方程式であるシュ レーディンガー方程式を紹介し , その性質を簡単に調べてみることにする . 2 ー 1 弦を伝わる横波の波動方程式 波動関数 r, t) の運動方程式であるシュレーディンガー方程式を学ぶ前 に , 弦を伝わる横波の波動方程式を理論的に導き , その解を求めよう . ェ軸に沿って張カ S で張ってある線密度 p の弦を平面内で振動させ る ( 図 2 ー 1 ) . この弦の 2 点工とェ十」ェの間の長さ」ェ , 質量 p 」ェの微小部 分に対する運動方程式を導こう . 弦の変位が小さいときには弦の各点の振動 方向は軸に平行なので , 時刻での点の弦の変位は〆ェ , / ) と表わされ 工 工 ェ = 0 工 . r 十」ェ 図 2 ー 1 弦の変位
43 1 次元問題 1 ーー束縛状態 波動関数は , / ) はクは座標を含まないので , ö2 を 2 = ö ? 2 = 0 である . 3 ー 1 1 次元問題のシュレーティンガー方程式 の場合に電子のエネルギーのとりうる値はとびとびの特定の値だけである . ーに窪みがあり , 電子がその付近に局在している場合 ( 束縛状態 ) を学ぶ . + ェ方向に一様に進む波は 1 次元問題の例である . 本章では , 位置エネルギ 合がある . このような場合を 1 次元問題という *. 波動関数 ( 2.44 ) の表わす という形のときには , 波動関数も , 2 座標に依存せずは , t) という形の場 位置エネルギー ( ポテンシャル・エネルギー ) が座標に依存せずレ ( ェ ) したがって , 時間に依存するシュレーディンガー方程式 ( 2.68 ) は がö2 は , t) 2 襯 D ェ 2 は , t) ( 3. 1 ) - iEt/ たプ に対する方程式 ( 3. 1 ) となる . 定常状態の波動関数は , t) = ″はル は , ″ ( ェ ) に対する時間に依存しないシュレーディンガー方程式 * 2 種類の半導体の薄膜を積み重ねて作った積層構造の中では , 半導体の中の 原子による周期的変化を無視すると , 位置エネルギーは近似的にレ ( ェ ) となるは は薄膜の面に垂直な方向である ) .
中心ポテンシャルの 中の蚫子一一一球座標での 3 次元問題 この章では , 水素原子の中の電子のように , 球対称なポテンシャル ( 中心ポ テンシャル ) の中を運動する粒子の束縛状態を , 球座標でのシュレーディン ガー方程式を解いて求める . 束縛状態は主量子数 , 軌道量子数 , 磁気量子数 によって分類されることも学ぶ . 5 ー 1 球座標でのシュレーディンガー方程式 古典力学では , 中心力の作用をうけて運動する粒子のカの中心に関する角運 動量は保存する . 中心力の位置エネルギーはカの中心 ( 原点 ) と粒子の距離 だけの関数レ ( わで , 中心ポテンシャル ( central potential) という . 量子力学では , 中心ポテンシャルの場合には直交座標ェ , , えよりも球座 標乙を使う方が数式的に簡単であり , 物理的な意味が明瞭になる . 図 = tan = tan- 5 ー 1 から読みとれるように , 直交座標と球座標の関係は 工 ク rsin OC()S % Sin 日 Sin だ COS 日 2 十 42 十メ 2 2 2 ( 5. 1 ) である . ( 5. 1 ) 式から導かれる
3 2 2 シュレーディンガー方程式 であるように思われる . しかし , ( 2.41 ) 式は不適当である . この場合には電 子のエネルギー E は運動エネルギーなので , 電子の運動量力との間に E = が / 2 襯という関係がある . 波動関数 ( 2.41 ) は カ という関係は満たす . ところが , ( 2.41 ) 式から導かれる 2 襯 カ Et E. ノ 4 Sin ( 2. 42 ) ( 2.43 ) は E に比例するがには比例しない . したがって , 関係 E = が / 2 襯を満た す正弦波 ( 2.41 ) が解になるような波動方程式が作れないので , ( 2.41 ) 式は不 適当なのである . 電子の波動関数が複素数 ( 複素関数 ) だとすると , + ェ方向に進む電子の波動関数として この困難は解消する . は , t) = A{cos[(px—Et)/h] + isin[(px—Et)/h]) ー iEt / を考える . スは複素数の定数である . 波動関数 ( 2.44 ) は / カゆ工 / た ( 2. 45 ) ( 2. 44 ) ( 2. 46 ) 2 襯öェ 2 という関係を満たす . 2 襯 市 2 ゆ工 / 方 ーー E た したがって , 力の作用を受けずに十ェ方向に進む電子ビームの波動方程 式として , ( 2. 47 ) 2 襯öェ 2 が考えられる . 関係 E = が / 2 襯を満たす複素正弦波の波動関数 ( 2.44 ) が ( 2.47 ) 式の解だからである . ( 2.47 ) 式を 1 次元の自由粒子のシュレーディン ガー方程式という . 工ー厩を選んだ [ 注意 ] 波動関数として e ーれ 2 工ー E の 0 オよく この 2
40 となる . 2 シュレ ーディンガー方程式 ( 2.81 ) 2 つの波動関数 ( ら t) と愿 r , t) がいずれもシュレーディンガー方程式 ( 2.68 ) の解であれば , CI, を任意の複素定数とすると , cW'l(), t) + t) も方程式 ( 2.68 ) の解である . また , ″ 1 ( r ) と″ 2 ( r ) が方程式 ( 2.80 ) の解で —iEnt/h l'(), t) = ス鼠 r ル レーディンガー方程式 ( 2.68 ) の一般解は を解いて , 固有値 EI , E2 , ・・・と固有関数″ 1 ( r ) , ″ 2 ( r ) , ・・・を求めると , シュ ( 〃 = 1 , 2 , 3 , 精な r ) = Enun(r) ハミルトン演算子〃の固有値方程式 式に代入すれば確かめられる . あれば , ″ 1 ( r ) 十 ( r ) も方程式 ( 2.80 ) の解である . 解であることは方程 ( 2.82 ) ( 2. 83 ) ( 9 -- 4 節参照 ). この場合には変数分離形の解 ( 2.74 ) は存在しない . 時間とともに変化する外力をうけている電子に対する〃は時間 / を含む [ 参考 ] 〃の固有値の物理的意味量子力学に慣れたあとで量子力学の 子の質量である . ガー方程式 ( 2.68 ) あるいは ( 2.80 ) である . この場合の質量襯は陽子や中性 非相対論的な陽子や中性子の波動関数の従う波動方程式もシュレーディン 数の場合の確率密度 W'(), 02 は時間とともに変動する . 式のように〃のいくっかの固有値に属する固有関数を重ね合わせた波動関 ( 2. 83 ) 化しない . そこで , 行の固有関数の表わす状態を定常状態という * 期的に変化するだけで , W'(), 2 = ツ , , ( 州 2 なので , 確率密度は時間的に変 の場合には , 波動関数は位相が周 波動関数が行の固有関数 ( r ル とになる . 数である . 〃の固有値と固有関数が求められると , 問題は完全に解けた と表わされる ( このことは 6 ー 3 節でくわしく説明する ). 。は任意の複素定
2 ー 5 シュレーディンガー方程式 ″ ( 川 r ) と記した . 3 7 ハミルトニアンが″ ( 川 r ) の電子の波動方程式は ( 2.47 ) 式を一般化すれ ば求められる . すなわち , ハミルトニアン〃 ( 川 r) の中の運動量〃を ( 2.53 ) 式で定義した運動量演算子で置き換えて , ハミルトン演算子〃 , 2 〃 2 2 2 十レ ( ェ , ク , 2 ル = / カ 辺を置き換えればよい . すなわち を定義し , これを波動関数は , , 4 t) に作用させた行で , となる . 2 襯 ーー▽ 2 + レは , ク , 2 ル = という記号も使うことにする . ▽ 2 を使うと ( 2.68 ) 式は 2 2 ▽ 2 これからは式を簡単にするためにラブラシアン▽ 2 が電子の波動関数は , ク , ぇ , t) の従う波動方程式である . 2 襯 2 2 ( 2. 47 ) 式の左 ( 2. 67 ) ( 2. 70 ) ( 2. 69 ) ( 2. 68 ) 方程式 ( 2.68 ) は 1926 年にシュレーディンガー (). Schrödinger) が発見し た方程式なので , シュレーディンガー方程式 (Schrödinger equation) とい う . シュレーディンガー方程式は非相対論的な電子の従う基本的な運動方程 式である . 非相対論的とは , 光速 c に比べて速さが遅い ( 《 c ) という意 味であり , E = が / 2 襯 + レ ( ェ , 4 , のが成り立っ場合である . [ 参考 ] 位置演算子厳密には , ハミルトン演算子の中の位置座標 r = は , 〃 , 2 ) を位置演算子戸 = は , , ゑ ) で置き換えて″ ( 戸 , とする必要 がある . 位置演算子とは , 「位置座標の任意の関数 / は , 4 , 2 ) に対して
2 シュレーディンガ 42 行列力学と波動力学 一方程式 0 。アを 量子力学は 1925 年に当時 23 歳のハイゼンベルク (). Heisenberg) によ って建設された . 彼は , 位置座標ェや運動量力が演算子テ , 力であり , 交換関係テカーカテ = に従うことを除けば , 自然は古典力学の方程式 によって記述されることを発見した . 交換則に従わない演算子は行列を 使って表現されたので , 彼の定式化した量子力学は行列力学とよばれた ( 演算子の交換関係と行列表現については第 6 章参照 ). 一方 , シュレーディンガ—(). Schrödinger) は , ド・プロイ ( L. de Br 。 glie ) の物質波の考えを発展させて , 1926 年の初頭から 4 篇の連作 論文「固有値問題としての量子化」を発表し , シュレーディンガー方程 式を導いた . 彼の定式化は波動関数と波動方程式に基づいているの で , 波動力学とよばれた . どちらの定式化も水素原子のエネルギー準位を説明した . このように 量子力学の 2 つの異なる数学的形式が独立に発見されたが , まもなく 2 つの理論が同等なものであることがシュレーディンガーによって示され また , 量子力学の基本的要請の 1 つである「波動関数の絶対値の 2 乗第尸は粒子をそこに発見する確率に比例する」という統計的解釈は 1926 年にポルン ( M. Born ) によって与えられた . 量子力学の誕生直後に , 日本の若い大学生や大学院生たちが , つぎっ ぎに発表される原論文から量子力学をどのように学び , かれらがどのよ うに悩んだかは , 朝永振一郎著作集第 11 巻『量子力学と私』 ( みすず書 房 ) に詳しい .
XI 1 . 序 目 物理をいかに学ぶか ー 1 まえがき ⅱ刪 なぜ量子力学を学ばねばならないか 1 1 1 1 1 ー 2 古典論の困難 ー 3 光の 2 重性 3 1 ー 4 電子の 2 重性 8 ー 5 不確定性原理リ ー 6 原子の定常状態と線スペクトル 第 1 章演習問題 19 2 シュレーディンガー方程式 3 1 次元問題 1 ーー束縛状態 第 2 章演習問題 41 2 巧シュレーディンガー方程式 2 ー 4 電子の 2 重性と波動方程式 2 ー 3 複素数 29 2 ー 2 弦の固有振動 26 2-1 弦を伝わる横波の波動方程式 23 36 ー 1 1 次元問題のシュレーディンガー方程式 43 3 ー 2 無限に深い井戸型ポテンシャル 44 ー 3 井戸型ポテンシャル ( E < 協の場合 ) 47 -4 調和振動子” 3 3 3
・ 0 多粒子系 第 2 章では , 古典力学における 1 個の粒子に対するエネルギーの式 E = カ 2 / 2 襯十レ ( r) に現われる〃と r を演算子万と戸で置きかえてシュレーデ インガー方程式を導いた . 第 5 章では , この方程式を原子の中に電子が 1 個 だけ存在する水素原子に適用して実験結果をよく再現することを見出した . この方程式は電子が 2 個以上存在する場合にも適用できるのだろうか . 本章 では多粒子系の量子力学とその独立粒子近似を学ぶ . 8 ー 1 多粒子系のシュレーディンガー方程式と波動関数 電磁波は電磁場の振動の伝播である . 古典電磁気学には位置 r と時刻 / の 関数である 2 つのべクトル場お ( r , t) と B ( ら t) が現われる . 前章までの量 子力学では , 位置 r と時刻 / の関数である波動関数 r , t) が現われた . 時 刻ーに位置 r の近傍に電子を発見する確率密度が願 r , 2 である . 電子が 2 個以上存在する場合にもシュレーディンガー方程式 ( 2.70 ) が適用できて , ただ規格化条件 ( 2.73 ) の右辺を 1 ではなく , 電子の個数にすればよいのだろ うか . たとえば , ヘリウム原子の中には電子が 2 個含まれているが , この場合の シュレーディンガー方程式は ( 5.52 ) 式のクーロン・ポテンシャル ー e2 / 4 砿を一 2e2 / 4 に置きかえたものなのだろうか . しかし , それ
2 ー 5 シュレーディンガ となる . となる . ・・ T(t)17u = 第 2 式の両辺を / = ″ T で割ると , 一方程式 dT 1 ℃ ) T(t) = 定数 = E 39 ( 2. 75 ) ( 2. 76 ) ( 2.76 ) 式の第 3 辺に「 = 定数」と書いたのは , ( 2.76 ) 式の第 1 辺は れを変化させても ( 2.76 ) 式の第 1 辺 = 第 2 辺は変化せず , したがって定数 変数 / を含まず , 第 2 辺は変数ェ , クを含まないので , 変数ェ , 4 , 4 / のど だからである . この定数を E とおいた ( 2. 76 ) 式の第 2 辺と第 4 辺から dT(t) T(t) という微分方程式が得られる . この方程式の一般解は T(t) = 員の漑 / ん ( 員は任意の複素数 ) である . ( 2.78 ) 式を ( 2.74 ) 式に代入すると , 波動関数は - iEt / ( 2. 79 ) ( 2. 77 ) ( 2. 78 ) となる . 波動関数 ( 2.79 ) を波動関数 ( 2.44 ) と比較すると , 波動関数 ( 2.79 ) が 表わしている状態の電子のエネルギーは E であることが類推される (E が ( 2.76 ) 式の第 1 辺と第 4 辺からは偏微分方程式 実数であることは 6-3 節で証明する ). ▽切十レ ( r ) 4 =Eu 2 襯 ( 2. 80 ) が得られる . この方程式は , 波動関数″は , 4 , のはハミルトン演算子行の 固有関数であり , 電子のエネルギー E はハミルトン演算子行の固有値であ ることを示す . ( 2.80 ) 式を時間に依存しない (time-independent) シュレーディンガー方程 式といい , ( 2.68 ) 式を時間に依存する (time-dependent) シュレーディンガ 一方程式という . 規格化条件 ( 2.73 ) は , 波動関数 ( 2.79 ) に対しては