1 ー 3 光の 2 重性 3 原子の不安定性の困難困難はそれだけではない . 電磁気学によれば , 水 素原子の中で荷電粒子である電子が回転数レの回転運動を行なうと , 振動 数レの電磁波が放射される . 水素原子は電磁波を放射するとエネルギーを 失うのでエネルギーが減少し , 電子の軌道半径は小さくなり , 最後には電子 と陽子は 1 点になる . つまり , 力学と電磁気学などから構成されている古典 物理学 ( 古典論 ) では , 大きさのある水素原子がなぜ安定に存在できるのかを 説明できない . 古典論を電子や光に適用できないことは , 電子や光が波動の性質と粒子の 性質の 2 重性を示すことからも明らかである . 1 ー 3 光の 2 重性 ニュートンカ学に従う粒子とは , 決まった質量をもつ小物体である . 2 つの 通り道があれば , 1 つの粒子はどちらか一方だけを通る . 粒子の運動は各時 刻での粒子の位置 ( 軌跡 ) によって記述される . これに対して , 波は媒質の中 での振動の伝搬であり , 広い領域に拡がって起こる現象である . 2 つの通り 道があれば , 波は両方を通り , あとで合流するときに干渉効果を起こす . 波 を記述するには , 各時刻での媒質のすべての点の振幅と位相を指定する必要 がある . 古典物理学では波動性と粒子性とは両立しない . 電灯の光をコンパクト・ディスクの面で反射させると虹色に見える . この 現象は , 光が波であり , いろいろな所で反射された光の波が干渉して強め合 う角度が光の波長によって違うためだとして説明される . すなわち , 光は波 動性を示す . しかし , 波長の短い可視光や紫外線を金属にあてると電子が飛び出す光電 効果 , 物質によって散乱された X 線の中にはその波長が入射 X 線の波長よ り長い方に変わったものが含まれているコンプトン散乱などの現象では , 以 下に示すように , 光 ( 一般に電磁波 ) は粒子的な性質を示すことが知られてい る . すなわち , 振動数レ , 波長スの光線は , エネルギー E と運動量が
238 11 光の放射 式を使うと , ' の行列要素 iwt i(EB—EA)t/hI-I(i = = ー亜第 ) の こで次の式を使った . 仏 ( ら t) = uA(r)e ー iEA ~ i(EB—EA)t/h が得られる . 県ら t) = uB(r)e ー正 / カ 2 の Eo ん 3 ( 11. 22 ) ( 11.23 ) ( 11.22 ) 式は , ある ( ん , s) の光子が多く存在しているほど , は , s) をもっ 光子が放射される確率が大きいことを示す . 近傍に ( ん , s ) の光子が存在し ないん , s ) = 0 の場合の光子は , s ) の放射を自発放射 , 近傍には , s ) の光 子が存在する〃は , s ) と 1 の場合の光子 ( ん , s ) の放射を誘導放射という . 次 節では自発放射を考える . 1 1 -3 原子の自発放射 ( 11.18 ) 式の〃 ' を > 0 での時間的に一定な摂動と考えて , 原子が自発放射 して状態 A から状態 B に遷移する場合に 9 ー 4 節の摂動論を適用するには , ( 9.85 ) 式で E ー 0 ) をカの十 EB—EA で , 〃島を〃は , s ) = 0 とした ( 11.22 ) 式ので , 01 ) ( t) を Cfl)( t) で置きかえればよい . すなわち , ( 9.85 ) 式は 次のようになる . ℃円 ( 2 2 冠 ー掛%⑦の + EB—EA) 偏りの状態が s で , 力のとカ ( の十の ) の間のエネルギーをもち , 立体角 dQ の中に放射される光子の状態の数を佐。⑦の ) と記すと , 第 4 章の演習問 題 7 との = c を利用すると , ん 3 2 必んノ 0 ん 3 の 2 イ 0 p ⑦の ) = ( 2 就ノ⑦の ) ( 2 3 カ c3 であることがわかる . ( 11.24 ) , ( 11.25 ) 式と ( 9.86 ) 式から , 6 (s) エネルギーがカの = EA ー EB の光子を立体角 0 の中へ自発放射して , 偏りべクトルが ( 11.24 ) ( 11. 25 )
240 11 光の放射 の場合にのみ起こることがわかる . ( 11.33 ) 式を選択則という . 状態 A の原子が光を放射して状態 B に単位時間あたりに遷移する全確率 は , ツ・ e ( 鬥 2 の角度平均が ( 1 / 3 ) ツドなので , 4 の 3 4 0 カ c 3 c2 となる ( 2 つの偏りがあることに注意 ). 2 1 4 の 3 137 3C2 ( 11. 34 ) 単位時間あたりの全遷移確率の逆数が励起状態の平均寿命「である . た とえば , 水素原子の場合に , 2p 状態は電気 2 重極放射を行なって ls 状態に 遷移するが , である . 「 ( 2p → ls ) = 1.6X10 9 1 1 ー 4 レーザー ( 11. 35 ) レーザー (laser) はきわめて細く , 強力で , 位相のそろった単色光のビーム を作り出す装置である . これに対して , ふつうの光源では個々の原子が独立 に光を自発放射するので , 光は全方向に放射され , また異なる原子の放射す る光の位相はそろっていない . レーサー (light amplification by stimulated emission of radiation ; 誘導 放射による光の増幅の略語 ) は , あるは , s ) の光子の数〃は , s ) が多くなる と , そのは , s ) の光子の放射確率は〃 ( ん , s ) に比例して増加するという誘導 放射を利用するので , 進行方向と位相のそろった強力な光のビームを発生さ せる . 熱平衡状態では原子はボルツマン分布に従うので , エネルギー E の原子 に比例する . そこで , 熱平衡状態ではほとんどの原子は基底状 ー E / T ッ 数は e 態にあり , 励起状態からの誘導放射よりも基底状態による光の誘導吸収の方 が圧倒的に多く起こる . そこでレーザーでは基底状態よりも特定の励起状態 にある原子数の方が多いという逆転分布を人工的に生じさせている . たとえば , ルビー・レーザーでは , 図 11 一 1 のように , ルビー結晶中の基
11 ー 3 原子の自発放射 状態 A から状態 B へ原子が単位時間に遷移する確率は 239 肥 dO 2 ん 3 の 2 0 e2 カ 2 ・加な ( r ) ( 2 就カ c3 カ 2 襯 0 のん —ik•r (s) 3 ( 11.26 ) であることがわかる . 電気 2 重極放射高い励起状態の重い原子は X 線も放射するが , 波長ス が原子の半径 ratom に比べてはるかに長い可視光の放射の場合には , ( 11. 26 ) 式は簡単になる . 以ん = ス / 2 》 ratom なので , ( 11.26 ) 式の積分の中で e ー ' ・のテイラー展開 1 ー・ r ー の第 2 項以下は無視できる . このとき放射公式 ( 11. 26 ) は となる . e の 肥 dO 3 8 〃ん EO カ C 交換関係 丿ア第 ( わ。 ( わ静 6 〃 te と ( 6. 16 ) 式および EA ー EB = 力のを利用すると , ( 11. 29 ) 式は 3 ツ・ 6 ( ? 2 ノ 0 肥 dO 8 応 2E0 カ c 召の と簡単になる . ここで rBA は rBA ( 11. 27 ) ( 11.32 ) ( 11.31) ( 11. 30 ) ( 11. 28 ) ( 11. 29 ) である . rBA 半 0 の場合の光の放射は , 原子の電気双極子モーメント—er に よる原子の遷移に伴うものなので , 電気 2 重極放射 ( EI 放射 ) とよばれる . ( 11.32 ) 式を見ると , 角運動量から 1 と広ー胤パリテイから ( ー 1 ) な十十 1 = 1 という条件がでるので , IA, んが 電気 2 重極放射は始状態と終状態の軌道量子数 = 1 あるいは ( 11. 33 )
233 光の放射 量子論は光子 ( 光の量子 ) の発見がきっかけになって誕生した . 電磁波と荷電 粒子の相互作用を扱う量子論は量子電磁気学とよばれる . この章では原子に よる光の放射に焦点を絞って簡単に述べる . 1 1 ー 1 光子の生成演算子と消減演算子 光はマクスウェル方程式の解の電磁波として空間を伝わる . しかし , 光電効 果 , 黒体放射 , 光の線スペクトルなどの研究から , ( 1 ) 原子や分子による振 動数レの電磁波の放射・吸収は , エネルギールをもつ光子の放射・吸収と いう形でおこること , ( 2 ) 真空中の電磁波のもっことができるエネルギーの 値は , 光子のエネルギーの和 E = 力のは ) 〃 ( ん , s ) ( 11. 1 ) た s = 1 , 2 であることなどがわかった . んは光の波数ベクトルは = 2 兀な ) , のは ) = 2 ル = をは光の角振動数である ( c は真空中の光速 ). 横波である電磁波には 2 つの独立な偏りの方向 ( 電場の振動方向 ) があるが , s = 1 , 2 はその 2 方向を 電磁場の中の電子に対するハミルトン演算子 ( 5.98 ) 表わす添字である . ( 11. 2 )
第 1 1 章演習問題 241 底状態 EI のクロム・イオンに緑色や青色の強い光のビームをあてて E3 準 位に励起させる ( クロム・イオンは結晶中にあるので , E3 準位は幅広い励起 エネルギー・バンドである ). 励起クロム・イオンは結晶格子の振動にエネ ルギーを与えて , 準安定な第 1 励起状態 E2 へ遷移する . E2 準位の寿命は 3 X10 ー 3s と比較的に長いので , 強い励起を行なうと , EI 準位より E2 準位に あるイオン数の方が多いという逆転分布が実現する . 緑色光 , 青 色光の吸収 ( ポンピング ) 第 11 章 誘導放射 赤色 ( レーザー ) 光 図 1 1 ー 1 ルビー結晶中のクロム・ う誘導放射で生じる . ーの作用は E2 → EI の遷移に伴 イオンのエネルギー準位 . レーザ 1. フェルミ粒子の生成演算子と消滅演算子房は反交換関係 房房 , 十わ房 わ訪だ十わだ房 = 0 , 屏房 , 十 , 2. 原子の磁気相互作用ハミルトン演算子 粒子状態房る引真空〉は存在しないことを示せ . ー真空〉を定義すると , 〃 , = 1 の 1 粒子状態真空 > は存在するが , 〃 , = 2 の 2 に従う . すべての状態に対して房真空〉 = 0 という条件を満たす状態として 2 川 e eh 気放射よりもはるかに弱いことを示せ . による光の放射を磁気放射という . 可視光の場合 , 磁気放射は ( 11. 18 ) による電
70 4 1 次元問題 2 - ーー反射と透過 部が反射され , 残りの部分が透過するという現象は決して検出されない . 十ェ軸に沿って原点に向って左向きに入射波 e ー工が進むとき , 図 4 ー 2 のポテンシャルのェ = 0 の階段での反射率 R , 透過率 T を計算すると 4 んが は + が ) 2 ( 4. 19 ) となり , 原点に向って右向きに入射する場合と同じ結果が得られる . [ 注意 ] 電子の確率密度はツ ( ェ ) 尸なので , 上でい工 + 召 e ー ' 2 の干渉 項ス * 召 e 一蹴工十ス召 * e2 を考えずに , ー尸と一 B 尸のみを考えることに疑 問を感じる読者がいると思う . 実際の実験での入射波と反射波は ( 波長に比 べればはるかに長いが ) 長さが有限な波束なので , 境界点で反射が起こって いる時以外には入射波と反射波の干渉は起こらず , 干渉項は無視できる . (b) E< 協の場合 . 古典力学では , 電子は E < レ ( ェ ) の領域には侵入で きないが , 量子力学では少しは侵入できる . 協ー E = がん 2 / 2 襯 ( ん > のとお くと , 方程式 ( 4. 12b ) は ( 0 の ( 4. 20 ) となる . となる . となる . この方程式の , ェ→では ) → 0 という条件を満たす解は ( 0 エ ) である . 境界のェ = 0 で ( 4. 13 ) , ( 4.21 ) に境界条件を課すと , なが連続 : ス十 B = C / が連続 : 旒い一 B ) = ーん C ( 4.22 ) 式を解くと 召々ー / ん C ん十 / ん ' ん十 / ん 2 々 ( 4. 21 ) ( 4. 22b ) ( 4. 22a ) ( 4. 23 ) 古典力学では侵入不可能な 0 < ェの領域にも電子は少しは侵入でき るが , ェ→でツ ( ェ ) 2 = ℃を一 2 れ→ 0 なので急激に減少する . 当然のこと ながら反射率 R = 田い尸 = 1 となる . ただし , 反射の際に反射波と入射波の 位相にずれが生じる . 協 > E の > 0 の領域で実際にツは ) ド半 0 であるこ とは , 次節で学ぶトンネル効果の検証で確かめられる .
254 11 光の放射 のうち , 電子による電磁波の放射・吸収に関与する部分は , 点 r にある電 子の運動に伴う電流要素ーゆ / 襯 e を因子として含む ( e / 2 襯 e ) [ か A(r) + ( r) ・司である *. このことから , 光の放射・吸収を扱うことのできる量 子論では , べクトル・ポテンシャル ( r) は , 電子の位置 r で , 光子を生 成・消滅させる演算子ス ( r) であることが要求される . 生成演算子と消滅演算子は , 調和振動子について学んだ 6 ー 6 節に 出てきた . 交換関係 ( 6.54 ) , ( 11. 3 ) に従うとによって調和振動子のハミルトン演算子は と表わされ , 〃 = 力のす十 その固有値と規格化された固有関数は En ( 〃 = 0 , 1 , 2 , 力の〃十 1 ( ) 切 0 ( ェ ) 1 , 2 , ・ と表わされた . 〃 = 0 の基底状態の波動関数″ 0 は ) は 0 は ) = 0 ( 11. 4 ) ( 11. 5 ) ( 11.6 ) ( 11. 7 ) によって決まった . ( 11.5 ) , ( 11. 6 ) 式は = 〃十 1 + 1 という性質をも つ演算子がエネルギーカのをもつ振動の量子の生成演算子であることを 示す . 朝 = V ー 1 なので , はエネルギーカのをもつ振動の量子の消滅 演算子である . ( 11. 1 ) 式と ( 11. 5 ) 式を比較すると , 電磁波を媒介する電磁場は波数んと 偏り s の組は , s ) のそれぞれに対応する調和振動子の集合であることが示 唆される . そこで , これらの調和振動の量子 ( 光子 ) の生成演算子 ( ん , s ) と消滅演算子ん , s) を次の交換関係 ( e2 / 2 川 ) い ( 州 2 も点 r にある荷電粒子による光の放射・吸収の高次の過程 に寄与する .
青 一ごロ 序 青緑 赤 - イ 0 つ 0 つぐっ 水素原子の線スペクトルの一部 図ト 9 光の波長は ( 1. 17 ) 式で襯 = 2 とおいた場合になっており , バルマー系列とよばれる . 光すると多くの線に分かれる ( 図 1-9 参照 ). これを線スペクトルという . 高 温で水素原子の放射する光の振動数レは , 条件 襯 = 1 , 2 , 3 , ・ 〃 = 襯十 1 , 襯十 2 , ・ = 3.29X1015 ( 1. 18 ) を満たすとびとびの値だけである . もちろん , この事実も古典物理学では理 解できない . 水素原子以外の原子や分子も高温の場合には光を放射するが , 放射される 光の振動数レの値はやはりとびとびの特定の値だけで , それらの間には , リツツの結合原理 (Ritz combination principle) とよばれる , レ = みーレ襯 ( レ 1 , レ 2 , レ 3 , ・・・は定数 ) ( 1. 19 ) という形の関係がある . ただし , 水素原子の場合には = 一 / が朝 = 1 , 2 , ・・・ ) という簡単な形であるが , ほかの原子や分子の場合にはの形は複雑 である . さて , E = んレ〃 , E 襯 = んレ襯とおいて , ( 1. 19 ) 式を カレ = E ー E 襯 ( 襯 , 〃は〃 > 襯の自然数 ) ( 1. 20 ) と変形してみよう . 原子や分子から放射される振動数レの光の光子のエネ ルギーの大きさはルなので , エネルギー保存則を考慮すると , ( 1.20 ) 式 は , 原子や分子はある決まったとびとびの値のエネルギー ( EI , E2 , E3 , ・・・ ) し かもてないことを示唆する . このとびとびのエネルギーの状態を原子や分子 の定常状態 (stationarystate) という . 定常状態のエネルギーの値をエネル LLILI 999 9 籌 極限 ( 1. 17 )
9 ー 5 変分法 のん この結果を使うと , 系の基底状態のェ 2 2p ( 屬 0 ) ーカの ) 209 ( 9. 93 ) である . これもフェルミの黄金律とよばれる . 電磁波の吸収や放射に応用されている . ( 9. 93 ) 式は原子や分子による [ 参考 ] 電子の粒子像でのエネルギー E と波動像での振動数レ , 角振動 数のとの関係 E = ル = 力の [ ( 1.13 ) 式 ] は , 摂動が外部からの角振動数のの 電磁波による場合の ( 9.91 ) 式によって確立されることを示そう . この場合 , エネルギーカのの光子の吸収・放出を伴う始状態ノと終状態んの間での遷移 におけるエネルギー保存則からカの = ー E が導かれる . 一方 , ( 9.91 ) 式の導き方を調べると , 始状態と終状態の角振動数の々とのの間にはの ーのという関係があることがわかる . したがって , 2 つの式から一 E(/) ー E リ = 川ーのⅡ = 川レ、 , - が導かれる . 9 ー 5 変分法 あるハミルトン演算子〃のエネルギー固有値を知らなくても , で表わされる状態でのエネルギーの期待値く〃 > を計算できる . 行の規格化された固有関数系レ ,. } は正規直交完全系を作るので , { } で 波動関数を と展開すると , エネルギー期待値 ( 9.94 ) は E れ℃引 2 c 引 2 波動関数 ( 9.96 ) ( 9. 95 ) ( 9. 94 ) と表わされる ( はの固有値 ) . ネルギー固有値 EI に対する不等式