って名付けられている ) 。 ヒトの an 一 r ミ一 a 遺伝子の 2Z< 塩基配列は、ヒトの他の遺伝子とよりもショウジョウバエの ey 遺伝 子にずっと似ている。それらの遺伝子は共通の祖先から受け継いだのに相違なく、当然ながら、その 祖先はコンセスターである。ここでふたたび、その遺伝子を ey と呼ぼう。スイスのヴァルター ゲーリングらは、まったく魅力的な実験を行った。彼らは、マウスの ey 遺伝子に相当するものをシ ョウジョウバエの胚に導人し、驚くべき結果を得た。ショウジョウバエの脚となる運命にある部分に 導人されたとき、その成虫の脚に余分な「転位」眼を生やしたのである。ついでながら、それはショ ウジョウバエの眼だった。つまりマウスの眼ではなく、複眼だったのである。このハエがその眼を通 して、ものを見ることができるという証拠がいささかでもあると思ってはいないのだが、れつきとし た複眼としてのまちがいようのない特徴をもっていた。 ey 遺伝子が与えた指示は、「ここに眼を生や せ、ふだんお前が生やすのと同じ種類の眼を」というものであると思われる。この遺伝子がマウスと ハエでよく似ているだけでなく、両者に眼の発生を誘導するという事実は、それがコンセスターに あったことを示すきわめて有力な証拠である。そしてまた、たとえ光があるかないかを識別する程度 でしかなかったにせよ、コンセスターがものを見ることができたことを示すかなり有力な証拠でも ある。ひょっとすれば、もっと多くの遺伝子が調べられれば、同じ議論が、眼以外の他の部分につい ても一般化することができるかもしれない。実際、ある意味で、このことはすでになされている。そ れは、〈ショウジョウバエの物語〉で扱うことにしよう。 すでに論じた理由によって、体の先端に位置する脳は、体の他の部分と神経で連絡し合わなければ ぜんちゅう ならない。蠕虫型の動物では、それを主ケープル、全身に沿って走る中心神経幹を介して行うのが 「フ理にかなっており、おそらくは体軸に沿って神経幹から一定間隔で出る枝によって局所的な制御と、 ー 26 旧ロ動物
196 て、ショウジョウバエのように短い生活環をもっ種は、たとえばゾウのように世代と世代のあいだに 長い時間がかかる種に比べて、一〇〇万年あたりで見れば、ずっと速い速度で突然変異を取り込んで いくことになるだろう。けれども、実際には、分子生物学者が順次に起こった変化の速度を、たまた ま時計を合わせるのに好適な化石の記録が残っている系統で調べてみると、そこに見いだされた事実 はそうではないのである。世代数ではなく年数を測れる分子時計が実際に存在しているように思われ るのである。これはすばらしいことだったが、しかしどう説明すればよいのだろうか 一つの説明は、ゾウにおける生殖的な世代交代がショウジョウバエに比べてたとえ遅いとしても、 繁殖から次の繁殖までのあらゆる年月を通じて、ゾウの遺伝子は、宇宙線やその他のショウジョウバ 工の遺伝子に突然変異を引き起こすことができる出来事の襲撃を同じだけこうむっているというもの である。たしかに、ショウジョウバエの遺伝子は二週間に一度、新しいハエのなかに跳んで人ること ができるが、宇宙線がなぜそのことを気にかけなければならないのか。つまり、一〇年間にわたって 一頭のゾウのなかに居続ける遺伝子は、同じ期間内に二五〇匹のハエを渡り歩いた遺伝子と同じ数だ けの宇宙線を浴びているのである。この理論にはいくばくかの真実があるのかもしれないが、しかし、 おそらく十分な説明ではないだろう。大部分の突然変異が、新しい世代がつくられるときに生じると いうのは本当の事実であり、分子時計が世代数ではなく年数を告げることができる明らかな能力をも っことについての、別の説明が必要であるように思われる 木村の共同研究者である太田朋子が、「ほぼ中立説」によって、独創的な貢献をしたのはここにお いてである。すでに述べたように、木村は、その全面的中立説から、中立遺伝子の固定速度が、突然 よ、代数学におけるエレガントな 変異率と同じであるという計算を行った。この驚くほど単純な結論ー 「消去法」に依拠している。そして消去される量は、集団の大きさである。集団の大きさは数式のな
] 44 いことに ) 染色体上に同じ順序で並んでいるところに至るまで、同じことをやっているのが明らかに なっている。ここから先は哺乳類の物語に転じよう。それは、哺乳類の世界のショウジョウバエとも 一一一口える実験室のマウスで最も徹底的に研究されてきたのである。 ボディ・プラン 哺乳類も、昆虫と同じように、体節型の体制、あるいは少なくとも、背骨とそれに付随する構造 プラン に影響を与えるモジュール式の繰り返しの設計をもっている。各椎骨が一つの体節に対応すると考え ることができるが、それは首から尾に向かって周期的に繰り返される単なる骨ではない。そこにある 血管、神経、筋肉塊、軟骨性の椎間板はすべて、モジュール式の繰り返しパターンに従っているので プラン ある。ショウジョウバエと同じように、このモジュールは、同じ一般的な設計に従ってはいるが、細 部においては異なっている。そして、昆虫が頭部、胸部、腹部に分かれているように、椎骨も頸椎 ( 首 ) 、胸椎 ( 肋骨をもつ上部の背骨 ) 、腰椎 ( 肋骨をもたない下部の背骨 ) 、および尾椎 ( 尾 ) にグル ープ分けされる。ショウジョウバエの場合と同じように、細胞は、骨細胞であろうと、筋肉細胞であ ろうと、軟骨細胞であろうと、あるいは他の何かの細胞であろうとかかわりなく、自分がどの体節に いるかを知る必要がある。そして、ショウジョウバエの場合と同じように、ホックス遺伝子のおかげ で知っている ( これらのホックス遺伝子は、ショウジョウバエの特定のホックス遺伝子との対応が認 められる ) 。しかし、驚くにあたらないのだが、コンセスターからの時間の膨大な長さを考えると、 両者は同じというにはほど遠い。またしてもショウジョウバエと同じように、ホックス遺伝子は染色 体上に正しい順序で並んでいる。脊椎動物のモジュール性は、昆虫のモジュール性とは非常に異なっ ており、ランデヴーにおける共通の祖先が体節動物であったと考えるべき理由は存在しない かかわらず、ホックス遺伝子の証拠は、どんなに少なくとも、昆虫の体制と脊椎動物の体制に何らか の奥深い類似性があり、それがコンセスターにもあったことを示唆している。そして実際に、体節
] 45 ランテヴー 26 旧ロ動物 をもたない動物を含めて、他の体制にも存在するのである。 マウスでは、ただ単に、一本の染色体上に一列のホックス遺伝子があるのではなく、異なった四つ のシリーズが存在する。第六番染色体上にあるシリーズ、第一一番染色体上にあるシリーズ、第 一五番染色体上にあるシリーズ、第二番染色体上にあるシリーズがある。それらは互いに類似し ており、重複によって進化の過程で生じたことを示している。田としと 5 と山はそれぞれ対応してい スロット る。いくつかの欠失もあり、四つのシリーズのそれぞれから、特定の区画が失われている。たとえば、 としは互いに対応するが、シリーズもシリーズも、「スロット」 7 にあたるものをもっていな 一つのホックス遺伝子の四つのヴァージョンのうちの二つ、三つ、あるいは四つが、一つの体節 に影響をおよぼすとき、その効果は複合されたものである。ショウジョウバエの場合と同じように、 マウスのすべてのホックス遺伝子は、その影響下にある最初の ( 最も前方にある ) 体節に最も強い効 果をおよぼし、それより後方にある下流側の体節になるにつれてその発現が弱くなる勾配をつくりだ す。 おもしろくなるのは、これからだ。細かな例外はあるが、ショウジョウバエの八つのホックス遺伝 子のそれぞれは、他の七つの遺伝子とよりも、対応する番号のマウスの遺伝子とよく似ている。そし て両者は、それぞれの染色体上に同じ順序で並んでいる。ショウジョウバエの八つの遺伝子のそれぞ れについて、マウスの一三個のシリーズのなかに、少なくとも一つ対応物がある。ショウジョウバエ とマウスのあいだの詳細な遺伝子対遺伝子の一致は、共通の遺産 ( すべての旧ロ動物とすべての新ロ 動物の大祖先であるコンセスターから受け継いだ ) であることを意味する以外ありえない。 このこ とは、圧倒的多数の動物が、現在のショウジョウバエや現在の脊椎動物に見られるのと同じ直線的な 順序で並んだホックス遺伝子をもっ祖先から由来したことを意味する。考えてもみよ ! コンセスタ
150 ホックスという名前はすべてのホメオポックス遺伝子に対して用いられるわけではなく、動物の体軸 に沿った位置を決定するもので、ほとんどすべての動物で相同であることが判明した直線的な遺伝子 の配列に対してのみ、用いられる。 ホメオポックス遺伝子のホックス・ファミリーは最初に発見されたものだが、現在ではこれに関連 ーが知られている。たとえば、ナメクジウオで最初に明確に定義されたパラホッ した多数のファミリ クス遺伝子と呼ばれるファミリーが存在するが、これもまた、 ( これまでのところ ) 有櫛動物とカイ メン類を除くすべての動物に見られる。パラホックス遺伝子はホックス遺伝子に対応し、同じ順序で 並んでいるという意味で、ホックス遺伝子の「親戚」であると思われる。これらの遺伝子はまちがい なく、ホックス遺伝子と同じ祖先の遺伝子セットから重複によって生じたものである。その他のホメ オポックス遺伝子はホックスおよびパラホックスとはもっと類縁が遠く離れているが、それぞれ独自 のファミリーを形成している 。パックス (pax) ファミリーはすべての動物に見いだされる。このフ アミリーのなかでとくに注目すべきなのは Pax6 で、これはショウジョウバエで ey と呼ばれている遺 伝子に対応する。 pax6 が細胞に眼をつくるように教えることにかかわっていることはすでに述べた 同じ遺伝子が、ショウジョウバエとマウスという異なった動物で、できあがったものはこの二種の動 物で根本的に異なっているにもかかわらず、眼をつくらせるのである。 Pax6 は細胞にどのようにし て眼をつくるかを教えるわけではない。それはただ、ここが眼をつくるべき場所だということを教え るだけなのである。 これにかなりよく似た例は、ティンマン (tinman) と呼ばれる小さな遺伝子ファミリーである ティンマン遺伝子もまた、ショウジョウバエとマウスの両方に存在する。ショウジョウバエでは、テ インマン遺伝子は細胞に心臓をつくるように教えるもので、正常なら、びったり正しい場所にショウ ゅうしつ
かに人ってくるが、最後は線より上および下に行ってしまうので、数学的スモークの一息で都合よく 消え去ってしまい、固定速度が、突然変異率に等しいものとして現れてくる。しかし、これは当該の 遺伝子が本当に完全な中立であるならばの話である。太田は木村の代数を改訂したが、突然変異が完 全に中立ではなく、ほぼ中立であればよいことにした。これは事態をまったく変えてしまった。集団 の大きさは、もはや消去されないのである。 そのわけは、ずっと以前から数理遺伝学者によって計算されてきたように、大きな集団では、わず かに有害な遺伝子は、浮動によって固定されるチャンスをもつ前に自然淘汰によって消滅させられや すいからである。小さな集団では、わずかに有害な遺伝子が幸運によって、自然淘汰が「気づく」前 に固定にまで至る可能性が高くなる。極端な例として、何らかの天変地異によって、一つの集団のほ とんどすべてが一掃され、わずか六個体のみが残されたと仮定しよう。偶然によって六個体すべてが わずかに有害な遺伝子をたまたまもっていたとしてもそれほど驚くほどのことではないだろう。この 場合、固定が起こる。つまり集団の一〇〇 % が同じ対立遺伝子をもっことになる。これは極端な例だ が、しかし数学は、同じ効果がもっと一般的に起こることを示している。小さな集団は、大きな集団 では消滅させられてしまうような遺伝子が、浮動によって固定されるのに有利にはたらくのである。 それゆえ、太田が指摘したように、集団の大きさは、もはやこの代数から消去されないのである。 逆に、それは分子時計の理論がもう少しうまくやっていけるのに、ちょうどよい位置に収まっている 物 ロ のである。さてここで、ショウジョウバエとゾウに話を戻そう。ゾウのように長い生活環をもつ大型 動物は、小さな集団をもっ傾向がある。ショウジョウバエのような小さな動物は大きな集団をもっ傾 ~ 向がある。これは単なる漠然とした効果などではなく、かなり法則的な効果で、想像するのがむずか ン しくはないい くつかの理由で、この効果はもちこたえることができる。そのため、ショウジョウバエ 9
1 4 / ランデヴー 26 旧ロ動物 これらすべての動物がコンセスターに由来するものであることがわかっており、コンセスターが、 その子孫であるショウジョウバエやマウスと同じようにホックス遺伝子をもっていたと考えるべき正 当な理由があることからすれば、これは十分に予測できたことである ヒドラ ( 彼らはランデヴーまで私たちに合流することにはならない ) のような刺胞動物は放射相 称形をしているーー彼らは前後軸も背腹軸ももっていない。彼らはロ / 反ロ軸 ( ロとロの反対側を結 ぶ軸 ) をもっている。体の長軸に対応するものは、もしあったとしても、はっきりとしたものではな いので、彼らのホックス遺伝子が何をしていると予想すればよいのだろう。もし、ロ / 反ロ軸を決め るのに使っていれば、話はうまいのだが、これまでのところ、そうであるかどうかは明確ではない。 いずれにせよ、大部分の刺胞動物は、ショウジョウバエの八つ、ナメクジウオの一四に対して、二つ のホックス遺伝子しかもっていない この二つの遺伝子のうちの一つがショウジョウバエの前方複合 体に、もう一つが後方複合体に似ていることについては意見の一致を見ることができる。彼らと私た ちが共有するコンセスターも、おそらく同じものをもっていたであろう。二つのうちの一つが進化 の過程で何度か複製されてアンテナベディア複合体を生じ、もう一つが同じ動物の系統内で重複して バイソラックス複合体を生じたのである。これはまさしく、ゲノムのなかで遺伝子を増やしていくや り方である ( 〈ャツメウナギの物語〉を参照 ) 。しかし、この二つの遺伝子が剌胞動物の体制づくりに おいて何かをしているとすれば、それが何かを知るためには、その前にもっと研究が必要である。 棘皮動物は刺胞動物と同じように、放射相称であるが、それは二次的なものである。私たち脊椎 動物と共有するコンセスターは、ミミズ類と同じように、左右相称である。棘皮動物は、さまざま な数のホックス遺伝子をもっている ( ゥニの場合には一〇 ) 。これらの遺伝子は何をしているのだろ うか。ヒトデの体の内部には、祖先の前後軸の名残が潜んでいるのだろうか。あるいはホックス遺伝 きよくひ
1 OO 眼についてはどうだろう。最初の左右相称動物は眼をもっていただろうか。コンセスターの現生のうっち るとと度 の子係がすべて眼をもっているというだけでは十分ではない。それでは不十分なのだ。なぜなら、さ登」 こ筋のう まざまな種類の眼は非常に多様だからである。あまりにも多様なので、「眼」は、動物界のさまざま衄道こも のの、で * 5 皀りし後 ム月通た最 な場所で四〇回以上独立に進化したと推計されている。このことと、コンセスターが眼をもってい 可 b じの 不 4 論書 たという発言と、どのようにして折り合いをつけるのだろう。 と本 一つの助言として、まず、四〇回独立に進化したと主張されているものが、光感受性そのものでは著。 は , でてる 私い章い戻 脊椎動物のカメラ眼と甲殻類の複眼は、彼らの なく、像を形成する眼であることを言わせてほしい。一 眼 ( 根本的に異なった原理によっている ) を独立に進化させた。しかし、これらの眼はどちらも、共 通の祖先 ( コンセスター ) の一つの器官に由来するものであり、それはおそらく何らかの眼であっ その証拠は遺伝的なもので、説得力のあるものだ。ショウジョウバエには eyeless ( 眼なし ) と呼 ばれる遺伝子がある。遺伝学者は、突然変異が生じたときに現れる誤りによって、遺伝子に名前をつ けるというひねくれた習性をもっている。 eyeless 遺伝子は、正常なときには眼をつくることによっ てその名前を否定している。それが突然変異を起こし、その正常な効果をもたらすことができなくな ると、ショウジョウバエには眼ができず、そこからこの名がつけられた。これはばかばかしいほど混 乱を招く慣習である。それを避けるために、以後は eye 一 e , , 遺伝子という言い方をせず、代わりに、 ey というわかりやすい略号を使うことにする。 ey 遺伝子は通常は眼をつくり、それだからこそ、こ れが正常にはたらかないとショウジョウバエの眼がなくなるのである。さてここから、話はおもしろ くなり始める。哺乳類にも pax6 と呼ばれるこれと非常によく似た遺伝子があり、マウスでは sma 一一 eye 、ヒトでは an 一ユ d 一 a ( 無虹彩 ) とも呼ばれている ( またしても、突然変異型の否定的な効果によ
万年前には、現在あるのと同し、三ハの門が存在した。 続けて彼は、六〇〇万年間に圧縮された、極端に迅速な漸進的進化について語っているのではない ことを自ら明らかにする。それなら、二つ目の仮説を極端な形にしたものということになり、これな らかろうじて受け人れることができる。彼はまた、私のように、最初に二つの門 ( そうなるべく運命 づけられていた ) に分岐したあたりでは、両者はそれほど異なってはいなかったと ( 二つの種に分か れるという段階を順次通過していって、やがて属になる等々といったことを経て、最終的に彼らの分 離は門レベルの違いだと認識されるに値する ) 言っているのでもなかった。そうではなく、あらゆる 徴候からして、 ーカーは、五億三八〇〇万年前の時点で、三八の門を、一晩のうちにマクロ突然変 異の合図とともに、飛びだして現れた完全にできあがったものとみなしているのである。 三ハの動物門が進化してこの世に現れた。したがって、わすか三ハ回だけの画期的な遺伝的出来事が起 こったたけで、結果として三ハ種類の異なる内部編成がもたらされたのである。 画期的な遺伝的出来事というのは、まるつきり問題外なわけではない。〈ショウジョウバエの物語〉 で出会った、さまざまなホックス・ファミリーの調節遺伝子は、たしかに劇的な形で突然変異するこ 物 ロ とができる。しかし画期的なものとそうでないものとが存在する。触角の生えるべき場所に二本の脚 をもっショウジョウバエは、もしうまくいけば画期的かもしれない。その場合でさえ、それが生き残 ~ れるかどうかについては大きな疑間符がつく。これについては、強力な一般的理由があり、簡単に説 ン 明することにしょ , っ
的異常のリストを集成し、それで進化をどのように解明できるかを考察し た。彼が挙げていたのは、蹄が二つに割れたウマ、頭の中央に一本だけ角 をもつアンテロープ、手を一つ多くもつ人間、そしてもっと後のほうでは、 片側に五本の脚をもっ甲虫などである。べイトソンはこの本のなかで、あ る注目すべきタイプの変異に対して「ホメオーシス (homeosis) 」という 言葉をつくった。 Homo 一 0 はギリシア語で「同じ」を意味し、ホメオティ ック突然変異 ( 現在ではこう呼ばれているが、べイトソンがこれを書いた 時代には、「突然変異」という言葉はまだっくられていなかった ) とは、 体の一部がどこか違った場所に現れるような突然変異を意味する。 べイトソン自身が挙げている例に、触角が生えるべき場所に脚が生えているハバチが含まれていた この注目すべき異常のことを聞いたとたん、あなたは、、 ヘイトソンとともに、ここに動物かいかにし て正常な個体発生をとげるのかについての重要な手がかりがあるのではないかと思うかもしれない あなたもべイトソンも正しく、それがこの物語の主題である。この特定のホメオーシス ( 触角の場所 に脚が生える ) は、後にショウジョウバエで見つかり、アンテナベディアと名づけられた。ショウジ ョウバエ ( その属名 D ききは「露好き」という意味 ) は、ずいぶん前から遺伝学者のお気に人り の動物である。発生学と遺伝学を混同してはならないが、最近ではショウジョウバエは、遺伝学だけ 物 でなく発生学においても主役を引き受けるようになっており、そしてこれは、発生学の物語なのであ る 胚の個体発生は遺伝子によって制御されているが、それが起こるためには、理論的には二通りの非 「フ常に異なったやり方がある。〈ハッカネズミの物語〉で、それを青写真とレシピという形で紹介した。 ひづめ べイトソンが描いたホメオティッ ク突然変異をもつ甲虫の図 1894 年に発表された。