えー、先週は聴講の人があまりに多いんでね、ホンマに履修してる人が集中できないと困 るかな思て、教務課の方に「ちょっと減らしましよか」ちゅうな話もしたくらいなんですけ ども。履修してはる人は、いつものように手え挙げてください。あっ、彼女 ! 後ろのほう に立ってんと、前へ来なさい。そんな後ろにおったら、あんた、単位落としてまうよ ( 笑 ) 、早よう前へ : : : わあツ、一番前、来やはったわ。 ( 笑 ) 私の講義も五回目でございましてね、きようはまた取材の方がちょっといらっしゃいます けども、もうみなさんもだいぶ慣れたんちゃうかいなと、こない思いますのでね、ほとんど 気にしないでまいりましよう。 ( 笑 ) そいでは、出席をとっておきます。月曜日の朝早う、せつかく来たんやから、出席とって えなという意見もありますんでね。 ( 笑 ) 一番前に来た彼女、お名前は ? 学生コカワです。
212 違う字イで「俄ーとも書きます。それから、にんべんの「仁輪加」て書いてみたり、もっと ひどいのは「二〇加」ちゅうね、こんなんもありますけど、みんな当て字ですね。 えー、江戸時代の享保のころに、この「にわか」いうのが大阪で生まれましてね。せやか ら、昔から大阪いうのは言葉遊びが大好きやったんですね。 これ、何で「にわか」ちゅうのかていうと、四つほど説があります。まず一一羽屋嘉惣治さ カぐら んいう人の名前からきたていうのが一つ。それからお神楽ですね、おたふくの面をかぶつ て、「庭神楽じゃ、庭神楽じゃ ! 」いうた、その庭神楽から「にわかになったという説で わちがいや す。もう一つは、京都の島原というところに「輪違屋」ていう料理屋さんがあってね、ここ で豊島屋利八いう大金持ちがものすごお大尽遊びをしやはった。これ、今でもあって、お座 敷遊びさしてくれるんですけども、ここの家紋がね、こう輪ア違うてズレた格好になってお る。そこから「輪違屋さんていうんですけども、この二つの輪アから「にわか」というふ うになったと。で、四つめとしては、急にインスピレーションがひらめくと、「にわかに田 5 いついた」とかいうでしよ。そこから来たていう説もあります。 そいで、軽ロつほいもの、冗談ほいもの、いわばしゃれというものを「にわか」と称し て、江戸時代はさかんにやっておったんですね。そのプロの人たちを「にわか師」と呼んだ りしたわけですけども、これが喜劇のルーツというふうにもいわれております。 明治四十二年に出た『演芸画報』という本には「俄とは落語が立って踊るなり」とありま すけども、いろいろ動きがついて、一人でやるときもあれば、二人、三人というふうに人数
1 う 0 「盗人、金出せとピストルをつきつけた」「尼はん、びつくりしたやろな」「なかなか。引 陀池の尼はんぐらいになると胆が座ってはる。何もいわんと、胸元開いて乳を出したな」 「ほなら、喜んで吸いにいったかー ( 笑 ) 「すかさずここを撃てというたんや。私の夫・山本大尉は過ぎし日露の戦いで、ここを射抜 かれて亡くなりました。どうせ死ぬなら、同じに死にたい。これを聞くなり、盗人、三尺下 がって土下座したな。さては奥さんでござりますか。私は大尉の部下で、あの方は命の恩人 でございます。知らぬこととはいえ、奥さんのところに忍び込むなど何たる所業、ピストル で自分を撃とうとするさかい、尼はんが、これ何をしますねん。あんたも根っからの悪人で はなさそうな、だれぞにそそのかされて来たんやろ。え、だれが行けというたんやちゅうた ら、盗人いうたがな。阿弥陀が行けといいました」 ( 笑 ) 「あんた、それ、何でんねん。一所懸命聞いてましたんで」「おまえ、新聞も読まんさかい こないしてだまされるのや」「けど、わたいら、この町内のことやったら、なんでも 知ってまんのやで工、「ほだら、ゆんべ、西の辻の米屋に盗人が入ったの知ってるかア」 「え、入りましたんー「入ったんや。長い抜き身をぶら下げてやな、おっさんに突きつけたん や」「そら、びつくりしたやろな」「びつくりせえへんぞ。おっさん、若い時分に柔道の修行 をして、やわらの心得がある。ところが、これがいかん、生兵法は大怪我のもとちゅうやっ ちゃ。盗人が切り込んできたのを体をかわし、肩に担いでどーんと投げつけ、馬乗りになっ た。刀は向こうに飛んでるさかい、おっさん、安心して縄を探してたんやな。けど、この盗
28 起承転結のコツ ういらいらしましたなあ。さて、どこ行ってたんやろねえ。 ( 笑 ) モモコのお母はんも、そんなんたいそうな靴やったから、やつばり脱ぐのがめんどくさ かったわけやね。ほで、だれもおらへんさかいと思うて、二階からそ 1 っと同じような格好 して、がつがつごっごっ、ごんごんと。 ( 笑 ) この種の「さげは、落語の中にもよう出てまいります。例えば『高津の富』なんて話が ありましてね、大阪のある宿屋さんに、大金持ちのふりした男が「泊めてくれーていう。ほ な、その宿屋の主人が副業として、富くじを、いまでいう宝くじをやってんのやね。そいで 「だんさん、富くじを買うとくなはれ」、「ほな、それ買いまひょ」ちゅなことになる。で、 そのときに、男が「当たったら、半分のお金はあなたにあげましよう」てなことをいう。ほ んまは富くじ買うただけで、すっからかんなんやけど、大金持ちのふりしてますから、それ くらい見栄張らなしゃあなし 、。ほで、次の日、男が富くじの発表を見に行くと、これがなん と当たったんですねえ。もう本人は「当たった、当たった」いうて喜んでね。 一方、宿屋の主人も「当たったら半分あげますーていわれてるもんやから、そんなもん当 たるわけないと思いながら見に行くんですね。そしたら、これが当たってますがな。ほで、 ふわーっ喜んで帰ってきて、「おい、だんさん、どこ行った ? ー「だんさん、何や二階で寝た はります」「寝てるどこやあらへんがな。えらいこっちゃ、当たってんのや。ええつ、今か さかな ら酒、肴、みんな用意してな。ほんで、おふろの湯ウ、ばーっと抜いてもうて、そこんと こへ酒ぶわーっ入れて、酒ぶろに入ってもらえ」いうてね。そんで、とんとんとんと二階上
160 う敬語が使えない。「おいやーん、弟子にしてけーや。弟子にしてけーや」て、こうなんで す。 それ聞いた、うちの師匠が「ちゃ 1 え ! [ て、大のようにあしらいましたんですが ( 笑 ) はなしか 彼は、昔、大日本印刷いうとこへ勤めておりましたけども、それがいまや噺家になっとる んでございます。 ほで、文福クンと初めて会うた難波花月が、ついこの間、レジャービルに変わりますウい うことで閉館いたしましたけどもね。その建物がつぶされるときに、備品を自由に持って 帰ってよろしいいうことになっとったんです。そいでね、うちの会社に『マンスリーよしも と』いう小冊子を出してる「わてら、あちゃこな探検隊」いうええかげんなグループがあり まして、その人らアが、つぶれる前の難波花月へ行って見ると、もうすごかったらしいよ。 中へ入ってみると、そこに白蟻がいつばいおったちゅうんです。みなさん知ってのよう に、白蟻ちゅうのは、その建物を食いつぶしてですね、倒してしまうわけですね。というこ とは、そんな工事をわざわざしなくても、白蟻を撒いておけば、ビルは勝手に壊れるように なっとるんですねえ ( 笑 ) 。ほで、さすがに「吉本」やね、よーく見ると、その白蟻の一 匹、一匹のお腹のとこに「吉本、てせーんぶ名前が書いてあった。 ( 笑 ) これ全部ウソ ! ( 笑 ) えー、そんなんで、きようは文福クンが関西大学に来るそうでございますから、一遍、見
16 ろ眼光紙背で世の中を読む るほうや。ほなら、今度は世界地図かけていうたら困りはるやろ。 ( 笑 ) この地図見ると、近畿にわりと重点を置いてかいたはるね。つまり彼の潜在意識の 中に兵庫、大阪、京都いうのが非常に大きな位置を占めているわけですね。自分の住んでる とこを過大評価してしまうというのがよく出てると思うんですけども、その点、九州なんか ええかげんやね。佐賀県がほとんどあらんようになってる。長崎なんかぜんぜんあらへん ( 笑 ) 。東北もものすご小さい、サントリーの社長みたいに、また怒られるよ。 ( 笑 ) まあ、これぐらいね、人の頭の中の地理感覚というのはええかげんなもんなんよ。けど、 間宮林蔵ゃないのやから、しゃないね。 ( 笑 ) ほで、私は福井県の小松へ行かないかんわけですね。前の日は、東京で晩遅うまで仕事し とってやね、もう面倒くさいなあ、どないして行こうかなあて思うたんです。ほんなら、こ こに小松空港いうのがあって、なんと飛行機が出とんのやねえ。 ( 笑 ) いやいや、私、東京ー小松間はもう飛行機なんか飛んでないと勝手に思い込んでましたん 、立派な空港があって、行ってみたらびつくりしたでえ。 小松空港 です。ところがどっこい やから、プロペラでぶーんと、 1 1 いうのがあってね、あれで行くと思うてたら、あん た、ジャンボ機が飛ぶんですよ、びつくりしましたねえ。 さあ、ジャンボで着きました。着いたら、迎えの人がちゃんと来てはるわけですよ、イベ ントですからね。ほしたら、後ろのほうからね、えらい派手な男が来よるんよ。カーツと ね工、肩いからせてやね。そんなおまえ売れてへんのに、何しとんねん、もうかなわんやっ
194 こういうの聞くと、皆さんは、そうか、あこ行ったら三カ月も休めんのか。ほな、学生気 分のままおられるやん、それやったら入ってみようかなて、こない思うわなあ。企業にとり いい人たちを採りた まして、人材というのは今後の展開を決めていく大変な資産ですから、 そういう含みももちろんあるわけなんですね。 ほで、企業に休みが多なったというのは、 いい人材を採りたいていう理由もそうなんです けども、もっと大きな要因としては「日本人はよー働く」いうて、世界から怒られとるから なんやね。けど、働いて怒られる時代が来るなんて思わなんだわね。働いて、何がいかんね ん。一所懸命働いて、小さなことからこっこっと。 ( 笑 ) あの西川きよしさんの「大きなことはできませんが、小さなことからこっこっとていう い方ね、あれがまさに戦後日本の高度成長を支えたようなコメントなんですね。大きなこ とはできません、小さなこともできません、私は何にもできませんて、こういうパロデイも ありましたが。 ( 笑 ) 戦後、経済がわーっとこういくときにはですね、「小さなことからこっこっと。ていうの がものすごう大事なことやったんです。せやから、そういう時代を生きてきた人たちいうの まじな は、あのコメント聞いて「うん、そやそゃ。頑張れなっーと、自分で呪いにかかって思わず 投票してしもた。 ( 笑 ) ところが、時代によって価値観とか賢さいうのはどんどん変わってまいりまして、今では あんまり働くのはよくない、そんなのアカンわていうふうにいわれておるわけなんですね。
1 上方落語のルーツは辻咄 おっさん、やわらの心得がある。盗人を肩に担いでどーんと」「おっさんなら、五年前から 中風で寝てんねん」 ( 笑 ) 「そや : : : む、息子がおるやろ」「おるがな」「その息子やがな」「息子はまだ八つやで」 ( 笑 ) 「若いもんやったら、ヨシちゃんちゅうのがおるがな」「そ、そのヨシちゃんや。盗人を だーんと投げた : ・・ : 」 ( 以下、とんとんと予定のストーリ ーを語り終え「こんな話聞いたか ? 、とやったまではよかったが、相手 はも、つびつくり仰天ーーー ) 「おい、かかあ、何しとんねん。すぐヨネマサに行け。盗人に、ヨシちゃん殺されたていう あわ ゃないか。わし、田舎に電報打ってくるさかい」「ちょっちょっと ・ : ・ : 可でこない荒ててん ねん」「慌てるもくそもあるかい、 ヨシちゃんいうのは、うちのかかあの弟やがな」「ウ、 ウ、ウソや」「ウソやて、おまえ、何や」「こんな話聞いたかあ、聞かんちゅうたら、聞 ( 利 ) かんはずや糠に釘やて笑おうと思うてな」「糠に釘やて、しようもないことし 、いに来や がって。え、人の生き死につてもんはな、ウソや冗談でいうてええか悪いかわからんのか 、。どうせ、おのれ一人の智恵ゃあるまいがな。だれが行けちゅうたんや」「へえ、それな ら阿弥陀が ( 何けと、 しいました」 ( 拍手 ) や はい、どうもご苦労さんでございました。今、演っていただいたのは、『阿弥陀池』ちゅ うお話でしたが、 これはわりとよくでけた話ですね。
今、皆さんが見たとおり、マスコミさんは、あないして撮影するのやで ( 急に大阪弁 ) 。そ れで、私のほうも注文どおり「えっ , とかいうて、ニコッと笑うてるでしよう。 あれ、ムツちゅうような顔してたら、その写真をファイルしておいて、私の離婚騒動なん かのときに使われる。 ( 笑 ) きようは履修届をお出しになってる人のほかに「文珍来とるし、とりあえず行ったろか いう人もいるようですけれども ( 笑 ) 、せつかくですから出欠とりましようね。 僕は顔と名前を覚えていきたいと思うとりますんで。 青木健吾さん ! あれ、立ってるがな、気の毒にねえ。 ( 笑 ) 安藤千鶴子さん。安藤さんに初日から休みよったなあ。 ( 笑 ) 岩川直美さん。ああ、きれいな子やねえ。 ( 笑 ) ( 以下、順に出欠をとりながら、ア行からカ行へ移ったあたりでーー ) はい、どうもありがとう。以降の出席は来週とります。 ( 笑 ) こんなもん、名前を呼んどるだけで講義が終わってしまう、まことにもったいない。 そ、ついうことをやってる場合ではないと思うので、きようはこれぐらいでやめときます。 それから、私の講義には弟子がこないしてくつついて来ますんでね。どこのだれやらわか らんのにうろうろされて「何や、こいつらてことになるから、紹介しときます。こっち の子が桂珍念いいます ( 拍手 ) 、あとこっちはまだ名前はついておりませんが時枝君です。 ( 拍手 )
176 みんなで「向こう座ろう、座ろう」いうてですね、移ったんです。みんなて、さっきいうた 千代の富士 : : : ゃないわ ( 笑 ) 、阪巨クンとかダイハナとかね、彼らとこう足伸ばして「こ れはええなあ、和むなあ」いうて座っておったんだ。 お座敷列車いうたら、横でカラオケのおっちゃんが ) ア 5 ア 5 アーいうのを歌うてるさか い、うっとうしいなて思いますが、そんなおっちゃんもおらんしね。「こりやくつろぐわ、 最高やでえ」ってなことをいうとったら、そこんとこへ女の人がしゆっと通りましてね。 「かわいなあ、「やつばりお座敷のほうが呼びやすいなあ」、だれか芸者を呼ぶんと勘違いし とる。 ( 笑 ) ほで、「あ、文珍さんー「どっから来たあーってなことをちょこっと話してるうちに、これ がワコールの女子社員のみなさんの一人やていうのがわかりましてん。せやから、「こっち で話しよ」いうたら、はあ、えらいもんやねえ、向こうサンも考えておるわ。最初に一番か わいいコが来はってね、ほなら「ビールでも飲みいな」ていうやろ。けど、次のコからだん だん落ちていくのやでエ。 ( 笑 ) 最後に課長さんいうのがお見えになったときは、もう目の前がくらくらいたしましてです ねえ ( 笑 ) 。いや、人を表向きだけでは評価できへんよ。できへんけれどもやね、けれど 、もオー・ ( と、 いきなり絶叫調 ) 、そう思うてしまうやないですか。それが人間らしさていうもん です、ね。 ( 笑 ) ほでね、みんなでわーわー、わーわーいうてたでしよう。そこんとこへ車掌さんが検札に なご