260 ランデヴー 9 は、過去に七〇〇〇万年さかのぼったところで起こるが、そこはまだ恐竜の時代で、 哺乳類の多様化がしかるべく花開くより前の時代である。実際には、植物の開花のものが始まった ばかりだった。顕花植物 ( 被子植物 ) は多様化をとげてはいたが、そ 。巨大な恐竜によって根 こそぎにされたり、火事に襲われたりして、攪乱された生息環境にしか見られなかった。しかし今や、 森林の樹冠を形成する高木から下層の草や、ま、も含む範囲に徐々に進化してきていた。私たちの一 〇〇〇万代ほど前の祖父母にあたちはずのンセスターは、リスに似た二つの動物群と私たちの共 通祖先である。そのうちの一つはリスに似ておりもう一つはムササビに似ている。彼らは、一八種 の「樹上性トガリネズミ」すなわちッパイ類と、二種の「飛ぶキツネザル」すなわちヒョケザル類で、 すべて東南アジア産である。 ッパイ類は、すべて互いに非常によく似ており、ツバイ科としてまとめられている。大部分の種は リスに似て、樹上で暮らしており、一部の種は長いふさふさとした流線形の尾をもっところまでリス に似ている。けれども、この類似は表面的なものでしかない 。リスは齧歯類であるが、ツバイが齧歯 類でないのは確かである。彼らが何ものであるかが、そう、次の物語で語られることの一部なのだ。 彼らは「樹上性トガリネズミ」という英語の呼び方がほのめかすようにトガリネズミなのだろうか ランデヴー 9 ヒョケザルとッパイ けんか
320 さな動物ベスト五のうちの一つだよ」という同じジョークを引き出したが、繰り返すた びにだんだん調子がよくなってくるように思えた。 ハネジネズミは英語では e 一 ephan ( shrew ( ゾウのようなトガリネズミ ) というが これは長いゾウのような鼻をもっことに由来する。ヨーロッパのトガリネズミよりも大 きく、長い脚でより速く走ることができ、ちょっと小型のアンテロープを思わせる。一 五種のうち小型のものはジャンプする。かってハネジネズミ類はもっと数が多く多様で あり、現在生き残っている食虫性のもののほかに植物食性のものも何種かいたハネジ ネズミ類は、後で捕食者から逃げるときに自分が使う通路をつくるために、時間と注意 を注ぎ込むという用心深い習性をもっている。 その可愛らしい小さなゾウの鼻にもかかわらず、ハネジネズミがゾウととりわけ近縁 だなどとは誰の胸にも思い浮かんだことはない。彼らはつねに、ユーラシアのトガリネ ズミのアフリカ版にすぎないとみなされてきた。けれども、最近の分子的証拠は、ハネうう味と排しながよ汰欺 よそ意つをはとうい淘を るにをも性しこ舞な然人 ジネズミが、トガリネズミよりもゾウにより近い親戚であるという情報によって私たち 際ん ( 能はいるれ自、る て実構い可物よ振忘。をあ を驚かせた。そして一部の学者は、トガリネズミとの関連を遠ざけるために、むしろセつは心なの動てにをいで もでなはそっうとなしら ンギという別の名前で呼ぶほうを好んでいる。ついでながら、ハネジネズミの「ゾウのを味的でら覗とよこらがか カ意図きがしにのるなまる のる意べなな来かあはのく 鼻」は、ゾウとの類縁関係を示すものではなく、単なる偶然の一致であることはほぼ確見あ、るとき将で的っ 予、しすこでの 、がか解のは分てコななと 実である。小さな動物ベスト五から大きな動物に話を転じて、次は、ゾウそのものの番 とるしともと自っプし的ご くえ。るつこが知よ意図み ーしーし 書こる る何をの注意ど う聞あて、す、か こにでしも除はの功うはく 現在では、ゾウはインドゾウ属 ( こきぎ s ) とアフリカゾウ属 ( ト。さ d ミミ ) のたった 二属だけに減ってしまったが、かっては、マストドンやマンモスを含むさまざまな種類 小さい動物ベスト 5 のうちの 1 つ ケーブハネジネズミ ( E / わ an 回 us ル a 「面
258 性が見られる。 ビックハン・モテルの最も極端な形では、哺乳類のたった一種だけが、暁新世のノアのようなも のとして、 / の大激変を生き残ったと見る。大激変の直後から、このノアの子孫は増殖を続 け、多様化していった。ヒッグバン・モテルでは、ランテヴー地点のほとんどは、ちょうとこの / }—境界のすぐそはに一かたまりとなって出現するーーノアの子孫たちが急速に枝分かれして 多様化するのを眺めながらさかのほることになる。 2 遅発爆発モテルは、 / 境界以降に哺乳類の多様性の爆発的な増大があったことを認める。し かし、爆発的に増えた哺乳類は、たった一人のノアの子孫ではなく、哺乳類の巡礼団とのランテ ヴー地点の大部分は、 / k- 境界より前の年代にある。恐竜が突然に舞台から姿を消したとき、 生き残った多数のトガリネズミに似た小さな系統がその跡を継いた。一番目の「トガリネズミ」 は食肉類に進化し、ニ番目は霊長類に、といったふうに。 こうした異なる「トガリネズミ」は、 おそらく互いに非常によく似ていたではあろうが、それぞれのはるかな祖先を過去に向けてたと ることができ、最終的には恐竜の時代に合流することになる。こうした祖先たちは、恐竜の時代 を抜けて未来の / 境界での爆発に至る長い導火線を、平行しながら進んでいったのだ。その 後、彼らすべては、恐竜が消滅したときに、多かれ少なかれ一斉に、爆発的な多様化をとけた。 その結果、現代の哺乳類のコンセスターは / k- 境界よりもすっと前の年代のものとなるが、た た、外観や生活様式のうえで互いに異なり始めるのは、恐竜が死滅した後だったというたけのこ となのである。 3 無爆発モテルは、 / b—境界が、哺乳類の多様性の進化におけるいかなる種類の際だった不連続
296 とウシやプタとの類縁よりも近いのである。 それらのことをすべて総合して、以下のような前向きの年代記を描くことができる。分子的な証拠 は、最後の恐竜が死んだ時期とびったり相前後して、六五〇〇万年前に、ラクダ ( およびリヤマ ) が 他の偶蹄類から分離したことを示している。ついでながら、この共通祖先がラクダに似た姿をしてい たなどと想像してはならない。 は、すべての哺乳類はカ少なかれトガリネズミに似て いた。ラクダを将来に生むことになるトガリネズミ」が、将来に他のすべての偶蹄類を生むことに はんすう なる「トガリネズミ」から分離したのである。プタと残りの偶蹄類 ( ほとんどは反芻類 ) との分離が 六〇〇〇万年前に起きた。反芻類とカバの分離はおよそ五五〇〇万年前に起き、それからさほど時間 がたたないうち、た - ぶ・ん・五叫 00 万年前頃・一 に、クジラの系統がカバの系統から分離し、そこから時間 が進んで、五〇〇〇万年前には、半水生のパキケトウスのよ一な原始的なクジラが」化していた。ハ クジラ類とヒゲクジラ類が分かれるのはもっと遅く、最古のヒゲクヾ一 イが発見されるのは、 およそ三四〇〇万年前であった。 私のような伝統的な動物学者が、カバとクジラの結びつきの発見にびつくり仰天したと言った時、 その表現はいささか大げさだったのかもしれない。しかし、数年前に初めてこの話を読んだとき、私 が心底、当惑した理由について説明させてほしい。 それは単に、その説が学生時代に教わった説と異 なっているということだけではなかった。そんなことに私はちっとも心を悩ますことはなかっただろ うし、実際には、むしろ勇気を与えてくれるものであると思ったはずだ。私を悩ませたのは、そして 今でもまだ少し引っかかっているのは、それが動物の分類群に関するあらゆる一般化の根拠を突き崩 すように思えたことである。一人の分子分類学者の一生はあまりにも短く、あらゆる種の、あらゆる 他の種との一対一の比較をすることは不可能である。その代わりにできることは、たとえば二種ない
コンセスター 13 これは、トガリネズミに似た夜行性動物で、低い木の枝に登って昆虫を捕まえている。 典型的な有胎盤類の特徴を備えている。主要な植物の分類群として最後に進化した被子植物が背景にある。
一一ハイラックスあるいはイワダヌキ類 ( ハイラックス目工 y 「 acoidea ) ( 。マナティーとジュゴン ( 厩牛目 s 一「 e コ一 a ) ( ハネジネズミ類 ( ハネジネズミ目 Mac 「 osce = dea ) 」 ~ ( ゾウ類 ( 長鼻目 p 「 obosc 一 dea ) ッチプタ ( 管歯目 Tubulidentata) ~ 一 , , テンレックとキンモグラ類 ( アフリカトガリネズミ目と「 0S0 ュ cida ) アフリカ獣類が合流 合流ずみのもの 10 20 40 70 90 100 CZ = 新生代 MZ = 中生代 N = ネオジン E = パレオジン K = 白亜紀 105 単位 : 100 万年前
ウマ、バク、サイ類 ( 奇蹄目 PerissodactyIa) 「トガリネズミ、モグラ、ハリネズミ類など ( 食虫目 lnsectivo 「 a) 「エコーロケーションをする小型コウモリ類 ( 小翼手亜目 Mic 「 och 一「 0 e 「 a ) ローラシア獣が合流 ネコ、イヌ、クマ、イタチ、ハイエナ、アサラシ、セイウチ類など ( 食肉目 Ca ゴ vo 「 a ) 一 センサンコウ類 ( 有鱗目 Pho = do 笆 合流すみのもの オオコウモリ類 ( 大翼手亜目 Megachi 「 opte 「 a) ラクタ、プタ、シカ、ヒッジ、カバ、クジラ類など ( 鯨偶蹄目 Ceta 「 tiodactyla) CZ MZ CZ = 新生代 MZ = 中生代 N = ネオジン E = パレオジン K = 白亜紀 85 単位 : 100 万年前
32 / ランテヴー 13 アフリカ獣類 ひれ クジラやイルカと同じように、海牛類の前肢は鰭になっており、後肢はまったくない。海牛という のは海のウシという意味だが、ウシとは何の関係もなく、反芻もしない。彼らの植物性の食餌内容は、 とてつもなく長い腸とエネルギー出費の抑制を必要とする。肉食性のイルカ類の高速水中遊泳は、植 物食のジュゴンの怠惰な漂流と劇的な対照をなしている。いわば、誘導ミサイルと気球の違いである。 アフリカ獣類には、小型のものもいる。キンモグラ類とテンレック類は互いに類縁があるように思 われ、現代の大部分の専門家は彼らをアフリカ獣類に含めている。キンモグラ類は南アフリカに生息 し、そこでユーラシアのモグラ類がしているのと同じ役目を果たし、砂のなかをまるで水中であるか のように泳いでいって、その仕事を鮮やかにこなしている。テンレック類はほとんどがマダガスカル に生息している。西アフリカには、本当はテンレック類なのだが、半水生で、英語で 0 ( ( er shrew 、 すなわち「カワウソトガリネズミ」と呼ばれるボタモガーレ類が数種いる。〈アイアイの物語〉で見 たように、マダガスカルのテンレック類には、トガリネ、スミに似た種、 ハリネズミに似た種、そして、 アフリカのボタモガーレ類とはおそらく独立に水中に戻った水生の種が含まれている。 はんすう
259 白亜紀の大激変 性を記すものでもないとする。哺乳類は枝分かれに枝分かれを重ねていったたけのことで、この 過程は、 / }—境界の前も後もほとんと同しような形で進行した。遅発爆発モテルの場合と同し ように、現代の哺乳類のコンセスターは / b—境界よりも年代的に先行する。しかし、このモテ ルでは、恐竜が消滅したときには、彼らはすでに相当な多様化をとけていたことになる。 この三つのモデルのうちで、証拠は、発爆発モデルに軍配をあ。ているように思われる。証拠と いうのは、とくには分子的な証拠であるがイ たいに増えつつある。哺乳類の主要な 科への分岐の大部分は、はるか恐竜の時代の初期までさかのぼる。しかし、恐竜と共存していた哺 乳類のほとんどは、互いにかなりよく似ており、恐竜の絶滅によって自由に哺乳類の時代へと爆発 できるようになるまでは、その状態でとどまっていた。こうした主要な系統のうちで少数のものは、 初期の時代以来ほとんど変化しておらず、その結果、彼らは、共通の祖先が極端に古い時代のもの であるにもかかわらず、お互いによく似ている。たとえば、ユーラシアのトガリネズミ類とテンレ ック類は、互いに非常によく似ている。おそらく彼らが異なる出発点から収斂進化によってそう なったからではなく、彼らが原初的な時代からほとんど変化しなかったからであろう。彼らの共通 の祖先であるコンセスターは、およそ一億五〇〇万年前に生きていたと考えられているが、これ は、 / E-- 境界からさらに、現在と / 境界のあいだの時間的間隔とほとんど同じくらい前。 さかのぼる年代である。 しゅうれん
266 おなたと。部る したときには、新しい証拠に照らして、私のランデヴー地点、およびその系統発生のいくつか ( しか てき者こいのす し大論」しび致 し、比較的わずかだと、私は望みたい ) がまちがっていることが判明するのではないかと思ってい 告る匕 警あ進なてのがく る。 がし > 数お 進化的な基準と結びついていない初期の分類体系は、嗜好や判断に議論の余地があるという点で、よ ) 大け さまざまな異論がありうるかもしれない。分類学者は、博物館の標本を展示するという便宜的な理由し をを合致ガリ留 のために、ツバイはトガリネズミと、ヒョケザルはムササビ類と一緒にまとめるべきだと主張するか用章昧一ナ、ツ 引文意のこテ子や たのう見るく伝 さ もしれない。そのような判断には、絶対的に正しい答えは存在しない。本書で採用した分岐分類学は 誤、とも用は 違っている。正しい系統樹が存在するが、まだ今のところそれがどういうものであるか、わかってい ・カ」尾ー・にに う 者ちきいこ際う、 ないというだけなのだ。まだ人間の判断の余地は残されているが、それは、最終的に異論の余地がな論たべっ衂実よし 造者すにたがたる い真理であると判明するものについての判断なのである。何が真実であるかについて私たちがまだ確創論棄とる樹しあ 、造放ごす統明で で創も何張系説樹 信がもてない理由は、まだ、十分に細かいところ、とくに分子的な詳細まで検討できていないという 。論は主ので統 こく理ちをこ分系 ことだけなのである。本当を言えば、真理は発見されることを待って、そこにぶら下がっているので ワ」 ある。同じことを、嗜好や博物館の便宜に基づく判断に関しては言うことができない