361 哺乳類型爬虫類 ささかうんざ 哺乳類型爬虫類に向かう前に、い りするような用語法に直面する。爬虫類とか哺乳 類といった用語は、「クレード ( 分岐群 ) 」あるい は「グレード ( 分類階級 ) 」と呼ぶことができる ( 両者は互いに相容れないものではない ) 。分岐群 とは、一つの祖先とそのすべての子孫からなる一 群の動物のことである。「鳥類」は正しい分岐群 を構成している。従来理解されてきた意味での 「爬虫類」は正しい分岐群を構成していないな ぜなら、鳥類を排除しているからである。その結 果、生物学者は爬虫類を「側系統的」であると呼 ぶ。一部の爬虫類 ( たとえばワニ類 ) は、他の爬 虫類 ( カメ類 ) より爬虫類でないもの ( 鳥類 ) に 近い親戚である。爬虫類のすべてが何か共通のも のをもっているかぎりにおいて、彼らは一つの クレード 分岐群ではなく一つの分類階級のメンバーなので ある。グレードとは、前進的と認められるような 一つの進化的趨勢のなかで類似の段階に到達した 一群の動物のことである。 しかし、もう一つ、米国の動物学者たちによっ すうせい を = カンブリア紀 0 = オルドビス紀 S = シルル紀 D = テポン紀 C = 石炭紀 白亜紀末 P = ベルム紀 T = 三畳紀 」 = ジュラ紀 K = 白亜紀 E = パレオジン N = ネオジン ベルム紀末 0 7 オルドヒス紀末 テポン紀後期 ( 0 0 一 0 っ ) 4 海生生物の属の絶滅率 ( % ) 三畳紀後期 0 2 0 0 0 0 200 300 地質学的時間 ( 単位 : 1 OO 万年前 ) 顕世代を通じての海生生物の属数で見た絶滅率 Sepkoski [ 260 ] より改変。 100 400 500
365 哺乳類型爬虫類 プロハイノグナトウス トリテイロドン メガゾストロドン リカエノブス ゴルゴノブス類 トリテレドント類 ティアデモドン トリナクソドン プロキノスクス テイメトロドン 工ダフォサウルス ティキノドン類 テロケファルス類 犬歯類 キノグナトウス キンゴリア アンテオサウルス ティノケファルス類 獣弓類 ビアルモスクス ハプトドウス カセア 盤竜類 アルケオティリス オフィアコドン 哺乳類型爬虫類の系統発生的関係 Tom Kemp より改変 [ 151 ] 。
更はこか なものではないし、かならずしも用語法の神棚に奉っておくべきものでもない す樹はだ、 えの樹のし もし振り子を反対の極まで戻して、厳密に分岐論的な用語法を採用するならば、爬虫類という言 たにのたれ い款実功付 葉は、そこに鳥類が含まれると考える場合にのみ救われる。これは、マデイソン兄弟によって創設 イを上頁 された、権威ある「生命の樹」プロジェクトが採用した路線である。彼らに追随することについて サ抱以熱 ブ辛年責 工ご億免 は、そして「哺乳類型爬虫類」を「爬虫類型哺乳類」に置き換えるという非常に異なった戦法につ 原ウカ 3 い いても、述べなければならないことが、たくさんある。しかし爬虫類という言葉はその伝統的な意しのうにし 情ことのら 。るは 0 。 味において、あまりにも深く根づいてしまっているので、今からそれを変えるのは混乱を招くので しはる中すす ら 築長う はて構成 はないかと恐れる。そしてまた、厳密な分岐論的純粋主義がばかばかしい結果をもたらす場合もあ すれだでと のゆさまま りうる。ここに一つの背理法がある。コンセスター川は哺乳類の側に直接の子孫と、トカゲ / 恐 こ猷新いこら 4 竜 / ワニの側に直接の子係をもつ。この両者は、お互いにほとんど同じでなければならない。実際 には、互いのあいだで交雑できるときがあったにちがいないしかし、厳密な分岐論者ならば、そ せきけい のうちの一方を蜥形類、もう一方を哺乳類と呼ぶことに固執するだろう。幸いなことに、実践的に そのような極端な結論に到達することはめったにないが、このような仮説的な事例は、分岐論的な 追究が、おのれの分を越えそうになったときにもち出すのにふさわしいものである。 私たちは、哺乳類が恐竜の後継者であるという考えにあまりにも慣れすぎているために、恐竜が 台頭する以前に哺乳類型爬虫類が栄えていたのは驚くべきことに思えるかもしれない。彼らは、後 に恐竜が占め、それよりさらに後に哺乳類自身が占めることになるのと同じ範囲の生態的地位を占 類めていたのだ。実際には彼らは、そうした生態的地位を一度だけではなく、大規模な絶滅に隔てら 虫 れながら、数度にわたって次々と占めていったのである。生きた巡礼者とのランデヴーがもたらし 囀てくれる里程標がないなかで、私は、コンセスター ( 私たちを単孔類に結びつけるもので、トガ 6
364 リネズミに似た姿をしていた ) とコンセスター川 ( 私たちを鳥類および恐竜に結びつけるもので、 トカゲに似た姿をしていた ) とのあいだのギャップに橋を架ける、三つの影の里程標を認めること にする。私の同僚のトム・ケンプは、哺乳類型爬虫類についての代表的な権威の一人であり、彼が 描いた哺乳類型爬虫類の一部と彼らの関係についての図を、次ページに転載してある。 あなたの一億五〇〇〇万代前の祖父母は、トリナクソドンに少しばかり似ていたのかもしれない これは三畳紀中期に生きていたもので、その化石は、その当時ゴンドワナ大陸のなかに含まれてい たアフリカと南極から発見されている。この大祖父母が、トリナクソドンそのもの、あるいはどれ か他のたまたま発見された特定の化石であったということをあまり期待しないほうがよい。トリナ クソドンは、他のどの化石とも同じように、私たちの祖先そのものではなく、祖先の親戚だったと 考えるべきである。それは犬歯類と呼ばれる一群の哺乳類型爬虫類に属していた。犬歯類はきわめ て哺乳類によく似ていて、彼らを哺乳類と呼びたい誘惑に駆られる。しかし、彼らをどう呼ぶかと いうことなど、誰が気にするというのだ。彼らはほとんど完璧な中間型である。進化が実際に起こ ったことを考えると、犬歯類のような中間型がもしいなかったら、そのほうが奇妙だろう。 犬歯類は、獣弓類と呼ばれた初期の哺乳類型爬虫類の一群から適応放散した、いくつかのグルー プのうちの一つである。あなたの一億六〇〇〇万代前の祖父母はおそらく、ベルム紀に生きていた 獣弓類の一種であったが、それを示すために特定の化石を選びだすのはむずかしい。三畳紀に恐竜 が出現する以前には、獣弓類が陸上における生業のほとんどを一手に引き受けていたし、三畳紀に 人ってさえ、彼らは恐竜を手こずらせた。この仲間には、体長三メートルの草食動物や、彼らを餌 食にする大型のおそらくは凶暴な肉食動物など、巨大な動物がいくつか含まれていた。そのうちの サーベルタイガー 一つがゴルゴノブスで ( 繝ページの図を参照 ) 、その恐ろしげな犬歯は、剣歯虎や、後の年代の剣 なりわい
34 〇 (therians) と呼ばれるが、北方のポレオスフェニダンの子係である。後に南半球、およびゴンドワ ナの分裂に結びつけられるこれらの獣類の動物たち ( たとえばアフリカのアフリカ獣類、南アメリカ およびオーストラリアの有袋類 ) は、北半球で発祥してずっと後に南に移動してゴンドワナ大陸に人 ったオーストラロスフェニダンであった。 ハリモグラ類は乾燥地にすみ、アリとシロアリを食べている さて単孔類そのものに話を移そう。 カモノハシ。。 よまとんどを水中で暮らし、泥のなかの小さな無脊椎動物を食べている。その「くちばし」 は本当にカモのくちばしとよく似ている。ハリモグラ類のくちばしは、もっと円筒状である。ついで ノリモグラ類とカモノハシ類の共通の祖先は、化 ながら、いささか驚くべきことに分子的な証拠は、、 石カモノハシであるオブドウロドンよりも最近まで生きていたことを示唆している。オブドウロドン は、カモに似たくちばしの内部に歯をもっている点を除けば、基本的には現生のカモノハシと同じよ うな姿で同じような暮らしをしていた。このことは、水から出たハリモグラ類がこの二〇〇〇万年の うちに変化し、指のあいだの水かきを失い、カモに似たくちばしを細くして、シロアリを探るための 管にし、防御的なトゲを発達させたことを意味する。 単孔類が爬虫類および鳥類と似ている一つの点が、彼らの名前の由来となっている。単孔類 (Monotremes) はギリシャ語で単一の穴を意味する。爬虫類や鳥類と同じく、肛門、輸尿管、およ そうはいせつこう び生殖管が、単一の共通の開口部、すなわち総排泄腔に開いている。そして他の哺乳類のように顕微 鏡でしか見えない小さな卵ではなく、胎児が孵化するまでの栄養分を含み、強靱な皮状の殻に包まれ た二センチメートルの卵が産み落とされ、胎児は爬虫類や鳥類と同じように、その「くちばし」の先 端についた卵歯を使って、殻から最終的に孵化するのである。 単孔類は他にも、肩の近くにある鎖骨間骨のような典型的な爬虫類的特徴をもっている。これは爬
358 単孔類が私たちに合流し、哺乳類のすべての仲間が今や、これまでのどの二つの里程標間よりも 長く最大のギャップ、一億三〇〇〇万年のはるかな年月の彼方であるランデヴー地点に向かって せきけい 歩き出し、その地で、私たちの巡礼団よりもさらに大きな、蜥形類、すなわち爬虫類と鳥類の大集 団に出会うことになる。これはほとんど、陸上で水を通さない殻に包まれた大型の卵を産むすべて の脊椎動物を意味する。私が「ほとんど」と言ったのは、その理由の一つは、すでに私たちに合流 している単孔類が同じ種類の卵を産むからである。その他の点では完全に海生のウミガメ類でさえ、 プレシオサウルス ) 。すれど、も、 産卵するために砂浜に這い登ってくる。首長竜類も同じことをしていたのかもしれなし。 イクチオサウルス 魚竜類は、後に彼らの真似をしたイルカのように、泳ぐことにあまりにも特殊化していたために、 部見 おそらく海岸に上がることはまったくできなかったであろう。彼らはそれぞれ独立に、生きた胎児 のが 類産 を産む方法を発見したのであるーーその作業の最中に化石化した母親から、そのことがわかる。 ゲ出 力の わが巡礼団は、里程標が一つもない一億三〇〇〇万年間を通り抜けていくと言ったけれども、も た胎い ちろん「里程標がない」というのは、本書の約束事のうえでしか正しくない。私たちは、現生動物 滅もれ の巡礼団とランデヴーする地点だけを里程標として認めているのである。この期間を通じて、「哺絶でさ 乳類型爬虫類」の豊かな化石からわかっているように、私たちの祖先の系統は実り豊かな進化的な 哺乳類型爬虫類
369 哺乳類型爬虫類 犬歯類という三つの主要な波として扱ってきた。哺乳類そのものは第四の波であるが、私たちのよ く知っている領域の生態系に彼らが進化的に進出するのは、一億五〇〇〇万年先まで引き延ばされ た。まず恐竜が試みて成功し、彼らの成功は、哺乳類型爬虫類の三次にわたる波を合わせたものの 二倍も長く続いたのである。過去に向かってさかのぼる私たちの行進では、三つの「影の巡礼者」 のグループの最古のものが私たちを、どちらかと言えばトカゲに似た盤竜類の「ノア」に連れて行 ってくれる。彼らは私たちの一億六五〇〇万代前の祖父母であり、およそ三億年前の三畳紀に生き ていた。私たちはほとんどランデヴー地点川近くまで人り込んできたのである
362 て好まれる「ハープ (herp) 」という非公式なグレード名がある。 ーベトロジー (Herpetology) というのは、爬虫類 ( 鳥類を除く ) と両生類の研究のことである。 ープとはハーベトロジストが 研究する動物というだけの意味の珍しい種類の単語で、動物の定義のしかたとしてはかなりまずい ものである。他の名前で唯一近いものは、聖書に出てくる「這うもの」である。 もう一つのグレード名の例は魚類である。「魚類」には、サメ類、絶滅したさまざまな化石動物、 硬骨魚類 ( マスやスズキなど ) およびシーラカンス類が含まれる。しかしマスは、サメ類に対する よりは、人間に対してのほうが近い親戚である ( そしてシーラカンスのほうがマスよりも人間にも っと近い親戚である ) 。したがって「魚類」は、人類 ( およびすべての哺乳類、鳥類、および両生 類 ) を排除しているがゆえに分岐群ではない。魚類は、魚のように見える動物を総称するグレード なのである。グレードの用語法を厳密に規定することは多かれ少なかれ不可能である。魚竜とイル 力は魚類のように見える。そして食べればきっと魚のような味がすることだろうが、彼らはけっし て魚類という「グレード」のメンバーに数えられない。なぜなら、彼らは魚類でなかった祖先から 魚らしいものに逆戻りしたからである。 もしあなたが、 共通の出発点から複数の系列が平行的に一つの方向に向かって前進的に行進して いくのが進化だと強く信じているのなら、グレードによる命名法は、あなたにとってはうまくいく。 たとえば、あなたが、 類縁のある多数の系統が、それぞれ独立に両生類状態から爬虫類状態を経て、 哺乳類状態へと平行に進化していくと考えているのならば、哺乳類グレードに至る途中で爬虫類グ レードを通過するという言い方ができるだろう。この並列行進に似たようなことが実際に起こって いたのかもしれない。それは、尊敬する脊椎動物古生物学者ハロルド・ピュージーから、私自身が 教え込まれた考えである。私はこの考えが大好きだが、一般的に自明な事柄として受け人れるよう
錐体を獲得し直したのである。哺乳類は違うが、魚類や爬虫類のような他の脊椎動物の大部分は、三 種類の錐体 ( 三色系 ) ないし四種類の錐体 ( 四色系 ) による色覚をもっており、鳥類とカメ類はもっ と洗練された色覚をもっている。私たちはここで、新世界ザルにおいて特別な状況に出会うことにな り、そしてすぐに、ホ工ザルにおいて、さらに特別な状況に出会うことになる。 興味深いことに、オーストラリアの有袋類は、大部分の哺乳類と違って、三色系のすぐれた色覚を もっという証拠がある。そのことをフクロミッスイとスミントプシスで見つけた ( ワラビーでも見つ かっている ) キャサリン・アレセらは、オーストラリアの ( アメリカのものは違う ) 有袋類が、他の 哺乳類は失ったのに、爬虫類の祖先の視覚色素を保持しているのではないかと示唆した。乳類 は、たとえ色覚が は、おそらく脊椎動物のなかで最も貧軒・な色覚し・れしっていない。大部 あっても、色覚障害の人と嘘し程度いしのでしかない。特筆すべき例外は壷長類一られ彼らが他 して偶然ではない。 のどのグループの哺乳類よりも派手な色を性的なディスプレイに使うのは、 ムたちの近縁者たちを調べることによって、おそらくそれを一度も失うことがなか 哺乳類のよ、 と違って、私たち霊長類が、三色系の色覚を爬虫類の祖先からそのま ったオーストラリアの ではなく、別々に二度 ) 、の・だど言うことができる 見した ( そ ま受け継いだのではなく 、二度目新世ホ工ザルぎた・のだが、ただし、新世界ザル全 一度目。日世界ザル 体にそうだったわけではない。ホ工ザルの色覚は類人猿の色覚と似ているが、それが独立した起源を サ 界 もっということで異なっている。 世 新 三色系が新世界ザルと旧世界ザルで独立して進化しなければならないほど、すぐれた色覚はなぜ重 要なのだろう。人気の高い説は、果実を食べることに対する適応ではないかというものである。緑が テ支配する森の世界で、果実はその色彩によって際だっ。このことは、おそらく偶然ではないだろう。
359 哺乳類型爬虫類 枝分かれを繰り返していたのではあるが、こうした枝分かれのどれ一つとして、「ランデヴー」と はみなされない。なぜなら、そのうちのどれ一つとして生き残っていないことが判明しているから である。したがって、現在から巡礼に出発すべき代表者が誰もいない ヒト科で同じような間題に 直面したとき、特定の化石に「影の巡礼者」という名誉的な地位を与えた。私たちは自分の祖先を 求める、一億代前の祖父母がどんな姿をしていたのかということを本当に知りたがっている巡礼者 なのだから、哺乳類型爬虫類を無視して、一足飛びにコンセスター川のところへ行くことはできな コンセスター川は後で見るようにトカゲに似ていた。トガリネズミに似ていたコンセスター からのギャップは、何も橋を架けないままにしておくには大きすぎる。哺乳類型爬虫類を、私たち の行進に合流してきた、生きた巡礼者でもあるかのごとく、「影の巡礼者」として考察しなければ ならないのだ。ただし、彼らは実際に物語を語ることはないだろう。しかし最初に、ここにかかわ る時間の尺度についての背景的な情報がいくらか必要だろう。何と言ってもそれは非常に長かった のだから。 ランデヴーの里程標がない中間期間は、ジュラ紀の半分、三畳紀の全部、ベルム紀の全部、およ び石炭紀の一〇〇〇万年間にわたる。巡礼団がジュラ紀を出発して、三畳紀のより暑く、乾燥した 世界 ( 地球の歴史のなかでも最も暑い時期の一つで、すべての陸塊は一つに合体して超大陸パンゲ アをつくっていた ) にさかのぼっていくとき、すべての生物種の四分の三が絶滅した三畳紀の大量 絶滅を通り過ぎる。しかし、これは次の移行、三畳紀からベルム紀へさかのぼる移行とは比べよう もないものである。ベルム紀ー三畳紀の境界では、途方もないことに、すべての三葉虫類やその他 いくつかの主要な動物群を含めて全生物種の九〇 % が子孫を残すことなく絶滅したのである。公正 のために言えば、三葉虫類はすでに長期にわたる衰退傾向にあった。しかし、ベルム紀末の大量絶