18 裁判 7 大口 /. んな風にやったらいいかわからんかったが、とにかくやろうと決めたんです」 それから数週間、ビーナは毎日のように電話をかけてきて、マウリツイオ・グッチの所在に関する 情報を流した、とチカーラはいった。「マウリツイオ・グッチがおれの毎日のトップニ = ースになりま した」。当時のことを思い出そうと目をぐるりと回しながらいった。 自分に殺人ができるかどうか自信がなかったチカーラは、チン。ヒラの麻薬密売人という男を殺し屋 として雇うと決めた。つぎのチカーラの証言でサメックは疑わしげに彼を見つめ、ノチェリーノは驚 愕したのだが、殺し屋はベネデット・チェラウロ・ーー檻の中で眉をひそめながら聞いていたーーーでは ない、本当の殺人者は別の人間で、まだ逃走中なので恐ろしくて名前をここでは挙げられない、と彼 はいった。誰もそれを信じなかったが、それ以上どうすることもできなかった。イタリアでは自分の 弁護のために証一一 = 〕台に立った被告人は、全面的に真実を話すことも、真実しか話さないと強制される こともなかったからだ。 三月二十六日日曜日の夜、。ヒーナはマウリツイオがニーヨークの出張から戻ってきたと知り、チ カーラに電話で秘密の合い言葉を伝えた。「小包が着いたわ」 翌朝チカーラは殺し屋を拾って、一緒に。 ( レストロ通りまで車で行き、マウリツイオを待った。 「四十五分ほど待ったところで彼がヴ = ネチア大通りから通りを渡って舗道を歩いてくるのが見えま した」。チカーラはそのときちらりと時計を見たら、朝八時四十分たった。 「殺し屋がおれに聞いたんです。あいっかい ? 」 チカーラは。ヒーナからマウリツイオだといって渡された写真の人物が元気よく舗道を歩いてくるの を認めた。 ◎ 355 ・
運転したオラツイオ・チカーラの告白があまりに衝撃的だったせいだ。教育を受けていないチカーラ がシチリア訛りでとっとっと語った話ーー復讐に執念を燃やすパトリツィアと貧しい彼の物語ーーは、 弁護側が立てていた戦略を一気に色褪せたものに変えてしまった。 青い帽子の看守がチカーラを檻から出して、四十歳ぐらいの女性弁護士のとなりに立たせた。豊か に響く声、黒髪、美貌、そして身体の線を出すスーツで法廷を魅了するやり手の弁護士と、自分も家 族もギャンブルと殺人罪とでめちやめちゃにした男の組み合わせは奇妙だった。 チカーラは歯のない口をあけてあえぐような口調で、サヴィオーニがやってきて、夫を殺したがっ ている女がいるといった日について語った。「最初、興味はなかったんだが、翌日また聞かれたから、 しいよ、でも金がかかるそといったんです。いくらだ ? と聞いたから、五億リラ ( 三十一万ドル ) といってやりました」。チカーラの舌はしだいにほぐれてきて、注目を浴びていることに喜びをおぼえ だした。「そしたらまたやってきて、それでいいといったんでさ。最初に半分、終わってから半分とい いました」 金貸しに返済を迫られていたチカーラは、黄色い封筒に入った一億五千万リラ ( 九万三千ドル ) を ビーナとサヴィオーニから前金として一九九四年秋に受け取ったとき喜んだが、殺人計画を進めよう とはしなかった。。ヒーナとサヴィオーニにせかされると、時間稼ぎのために、雇おうと思った殺し屋 が逮捕されたし、そのために盗んだ車も消えてしまったといった。 「それなら金を返せといわれたとき、もう頼んだ人たちに渡してしまって手元にはないといいました」。 チカーラが身動きするたびに、やせこけた身体に着た大きすぎるジャケットがゆれた。 パトリツィアは法廷の最後列のべンチに座って感情をあらわさすに聞いていたが、突然気分が悪く ◎ 352 ◎
回して、いくら金をもらったのか、その金はどうした、どこまで私が準備したのかと聞きました」 「彼女に一億五千万リラもらって、殺し屋を見つけたけれどそいつが逮捕されたので、もっと金と時 間が必要だといいました。それを聞いた彼女は、あなたにもっとお金を渡したら、必ずやりとげてく れる ? もう時間がない。あの人はクルーズに出かけるところで、いったん出ていったら何カ月も帰 ってこない、といいました」 チカーラは息を吐き出し、水を頼んだ。「ここからやっと肝心な話になります」。そういって確かめ るように法廷を見渡した。 「どうそ、どうそ続けてください」。ノチェリーノは椅子に気持ちよさそうによりかかりながら、手で うながした。 「彼女はいいました。金が問題じゃない、ちゃんとやりとけることが重要なのだ、とね」。チカーラは 続けた。「だから聞いたんです。もしおれがこれをやったら、おれの立場はどうなるんだろうね ? そ したら彼女が、チカーラ、よく聞いて、もしあんたがやったとわかってつかまっても、私の名前を出 さないでおいてくれたら、監房は金びかになるわね。だから私はいったんですよ。私には五人子ども がいて、その子たちの人生をめちやめちゃにしてしまうんだ。通りに放り出されるようなことになっ たらおれはどうしたらいいフ そしたら彼女が、あんたにも、子どもたちにも、孫たちにも充分なこ とをするから、といったんですよ チカーラは目を上けて、裁判長と検事と自分の弁護士に、つぎにいうのは恐ろしいことだと断った。 「やっとチャンスがめぐってきたと思ったんですよ。これで家族と子どもたちにちゃんとした暮らし をさせてやれる。そのときから、おれはやろうと決めたんでさ」。手を大きく広げていった。「いつど
り、レッジャーニと殺し屋との間の金と情報の受け渡し役をつとめた。。ヒーナは昔からの友人だった サヴィオーニのところに行き、彼はミラノ北部のアルコーレで。ヒザ屋を経営していた五十六歳のオラ ツイオ・チカーラに話を持ちかけた。チカーラがギャンブルで多額の借金を背負い、自分も家庭も破 減させて金が必要だとサヴィオーニは知っていた。チカーラは殺し屋を見つけ、逃走用の車を運転し たーーー息子の緑色のルノー・ クリオだ。業務用に使っていた車が盗まれるか、警察に持っていかれた チカーラのレストランの かでなくなってしまったからだという。殺し屋の名前はベネデットといし ーのべレッタ・リヴォルヴァーを手 裏手に住んでいる元機械工だった。ベネデットは七・六五カリ。ハ に入れ、裏側にフェルトを張った金属の筒を取り付けて消音装置を作り、銃弾をスイスで買って殺人 のあと銃は壊した。 殺人後数カ月が過ぎ、。ハトリツィアはヴェネチア大通りに移ってマウリツイオが遺した数百万ドル の資産で贅沢な生活を謳歌していた。マウリツイオの遺産相続人である二人の娘たちの母親として、 彼女は遺産を使う役得を手に入れた。 同時に共犯者たちはしだいに不満をつのらせていった、とカルバネーゼはいう。危険を全部引き受 けて、分け前はすずめの涙ほどで、主犯の奥さまは贅沢な暮らしを満喫している。そこでもっと金を 寄越せと圧力をかけだした。 ノ / 、イーゼが話している間、彼の頭に一 ニンニは女王の玽を指で弄びながらじっと聞いていた。カレ。、、 つの計画が浮かんだ。 ニンニはぜいぜいとあえいでいる男 「マイクロホンをホテル・アドリーに仕掛けてもらえるかな ? 」。 に頼んだ。 ◎ 336 ◎
「そうだ、あいつだ、といいました」 「そのとき殺し屋は車から出て、所番地を確かめるふりをしながら門のところまで行きました。おれ は車を移動させました , ーーそしてそのときあのことが起こったのです」。静まり返った法廷をチカーラ は見渡した。「おれは何も見ませんでしたし、聞きませんでした。車を移動させていましたからね。そ したら殺し屋が戻って車に飛び乗り、おれが運転して週末に下見しておいたとおりの道でアルコーレ まで逃げました。殺し屋がどうも門番も殺してしまったようだといいました。おれは彼を降ろして、 九時に自分の家に帰りました」 、トリツィアがマ 数週間後証一一 = ロ台に立ったビーナは、ナポリ特有の語尾をひきするしゃべり方で、 ウリツイオの殺害をどのように頼んだかをあざけるような口調で話した。 「私たちはまるで姉妹みたいで、あの人は私になんでも話したんですよ」。その日は大きな。ハラの柄の セーターを着たビーナはいった。「ほんとは自分の手でやりたかったのだけれど、勇気がなかったのね。 骨の髄まで北部の人間だから、私たち南部の人間なら誰でもカモッラ ( 訳注〕十九世紀にナポリで生ま れた秘密犯罪結社 ) とかかわりがあると思い込んでるの」。目をぐるりと回しながら。ヒーナはいっこ。 ミラノでビーナがほかに知っている人間といえば、夫の友人だったサヴィオーニくらいしかいない。 計画を立てるのを手伝ったビーナだが、その後パトリツィアがどれくらい執拗にその計画を実行する ようにと圧力をかけたかを説明した。 「なんの進展もなく日々が過ぎていくのは、彼女にとって耐えがたいことだったんです。毎日私を責 めたてたので、私はサヴィオーニをせかし、彼はチカーラを責めました。私はもう耐えられなかった」 。ヒーナはマウリツイオが殺されたあとノイローゼになり、ひどく落ち込んで神経質になり精神的に ・ 356 ◎
18 裁判 7 大信 /. なったようで、白い看護帽をかぶった看護婦があわてて小さな革鞄と注射の器具を持ってかたわらに 駆けつけ、注射しようかと聞いた。。、 , トリツィアは脳外科手術後、発作をおさえるための薬を処方さ れていた。弁護士たちは裁判の間看護婦を。、 ノトリツィアに付き添わせるよう手配し、白い制服の存在 、トリツィアに同青を引くことを期待していた。 トリツィアは 強い女という役割を演じている。ハトリツィアは注射を拒否した。「いえ、いやよ」。 前かがみになってティッシを顔のところに持ってきた。「水をお願いします」 チカーラは。ハトリツィア本人と会ったときのことをくわしく話し、それによって殺人計画がにわか に現実味を帯びたとした。一九九四年の終わりまで。 ( トリツィアはビーナとだけ交渉しており、。ヒー ナがサヴィオーニと自分に情報と金を取り次いだ。たが一九九五年のはじめ、少しも話が進展しない ことにいらだち、だまされているのではないかと不安になったパトリツィアは、。ヒーナ抜きで、自分 の手で計画を進めようとした。 「ある午後のことです。たしか一月の終わりごろか二月のはじめだったはすです。寒かったですから ね。おれは家にいて、玄関のベルが鳴って出たらサヴィオーニでした。それで彼と一緒に階下に下り たら、彼が小さな声で『彼女が車にいる』といいました」 「それであなたは彼女がそこで何をしているのかと聞きましたか ? 」。ノチ = リーノは法廷左側の自分 の席に座ったままで聞いた。 しいえ、おれは何もいわなかったです。サヴィオー = の車の後部座席に座ったら、前の座席にいた サングラスをかけた女性カノ 。、。、トリツィア・レッジャーニだと自己紹介したんです」。チカーラはそのと きまでに彼女が前夫を殺したいと思っている人だと知っていた、と検事に話した。「彼女はあたりを見 ◎ 353 ◎
18 裁判 7 沢 /. る人たちは裁判の間檻の中に入れられる。今回は実行犯で起訴されているベネデット・チェラウロと 逃走用の車の運転手だったとされているオラツイオ・チカーラが鉄格子に手をかけて、集まってきた ジャーナリスト、弁護士や傍聴人たちをじろじろ見ていた。チェラウロは四十六歳でボタンダウンの シャッとジャケットというこざっぱりとした格好をしており、黒髪は最近散髪したところでていねい に櫛が入れられ、えらそうに眉根を寄せ落ち着かない目つきで人々を見ていた。自分は無実だと彼は 主張していた ノチェリーノはサヴィオーニの自白も含めて、有罪に持ち込めるだけの充分な状況 証拠があると自信を持っていたが、殺人事件で彼が果たした役割を示す直接的な証拠は何もなかった。 禿げた五十九歳のチカーラは彼の隣に背を丸めて立っており、大きすぎるジャケットはまるでハンガ ーにかけられたみたいに肩からぶらさがっていた。破産した。ヒザ屋は二年間の刑務所暮らしで十二キ ロやせ、髪の大半を失った。 赤毛に染めた頭髪に虎の柄の綿セーターを着て、自分よりも数列前のべンチに座っているビーナの ほうを、 ハトリツィアは断固として見ようとしなかった。ときどき。ヒーナは、でっぷり太っていてい つも笑顔の弁護士、パオロ・トライーニとひそひそ話をしていた。トライーニは強調したいことがあ るとき、あざやかな青の読書眼鏡を振り回して話す癖があり、やがてそれはミラノ法廷の法律家たち の間で流行となった。イヴァーノ・サヴィオーニはむくんだ顔に整髪料でてかてかに光らせた頭で、 黒いスーツに。ヒンクのシャツを着て男性看守たちに囲まれながら。ハトリツィアの右手背後にあるべン チに黙ってだらしなく座っていた。 ブザーが鳴って裁判長のレナート・ルドヴィチ・サメックと裁判官たちが入ってくるとざわめきは 静まった。二人の裁判官の後ろには六人の陪審員と二人の補充員がしたがったが、 , 彼らは仕事着の片 ・ 3 イ 9 ◎
と殺し屋らしいベネデット・チェラウロの会話も、サヴィオーニとビーナが逃走車の運転手だったら しいチカーラについて話している内容も録音した。あと必要なのは「奥さん」の会話だけで、それさ えあれば切り札が揃うことになる。だが「奥さん」は賢く、ひっきりなしに電話しているのに危険な ことは何一つ口にしなかった。ニンニは待った。捜査に突破口を開くときには、感情に走って事を運 んではいけないと充分に承知していたからだ。 「いい考えがあったら、最良の道は最後までそれを成し遂げることです」。のちにニンニはいった。「お 膳立てはすべて整えました。『カルロス』、盗聴、車の中にマイクの仕掛け、かかわった人間は全員わ かっていて、役割も判明しました。とにかくしゃべらせさえすればいいんです」 「ポス ! ちょっとこれを聞いてください」。その朝パトリツィアが弁護士の一人と話した会話をニン ニは聞いた。 「この家庭には黒い雲が立ち込めています」。弁護士の口調は暗く不吉だったが、それはパトリツィア が地元の宝飾品店で買い物しまくってふくらんだ借金の件だとわかった。ノチェリーノとの緊急の幹 部会議が開かれ、捜査を一気に進めるのに充分な証拠が揃ったという結論に達した。逮捕は翌日早朝 と決められた。 「彼女がわれわれの動きを勘付いていると思ったのです」。ニンニはのちにいった。「宝飾品を買い漁 っているのはイタリアから逃げ出すためで、国外に出ると見つけ出すことがむずかしくなるのではな いかと恐れました」 一九九七年一月三十一日朝、サヴィオーニをサンセポルクロ広場の犯罪警察署まで連行してきたと き、ニンニは彼を自分のオフィスに連れてくるようにと命じた。ニンニの机の前の椅子にどさっと座 ・ 3 イ 2 ・
「それじゃ好きにしたらいいけれど、看守がたちまち没収してしまいますよ。留置場ではあんなもの をつけるのは許されない」。 ニンニはそういうと踵を返して部屋を出ていった。 「それは私がもらっておいたほうがいいね」。シルヴァーナは舌打ちしたい気分で娘に重いゴールドの イヤリングやゴールドとダイアモンドの大ぶりのブレスレットを外させ、ミンクのコートを脱がせて、 自分のコートを着せた。それからグッチのハンドバッグの中身を点検した。 「いったいなんでこんなものを入れてきたの ? 」。口紅やメークアップ道具一式とクリームを取り出し ながら、不機嫌に聞いた。 「こんなものは必要なくなるのよ」。シルヴァーナがいうと、 ハトリツィアは震えだした。ガッロ警部 が書類から顔を上げて彼のグリーンのスポーティーなウインドブレーカーを貸し、彼女は喜んでそれ に袖を通した。 「気の毒に思いましたよ」。ガッロはのちに認めた。パ トリツィアは留置場に入れられたあと彼にジャ ケットを返した。「彼女は落ちるところまで落ちてしまったんです。やれることを全部やって、ついに 終点まで来てしまったんですよ」 同じ日の朝、イタリア中でほかの四人がグッチ殺害容疑で逮捕された。パ トリツィアの長年の友人 である。ヒーナ・アウリエンマはナポリ近くで私服警官の一団に逮捕され、その日の午後にミラノに護 送された。 ミラノのホテルでポーターをしていたイヴァーノ・サヴィオーニと機械工のベネデット・ チェラウロもサンセポルクロ広場の警察本部まで連れてこられた。破産したレストラン経営者だった オラツイオ・チカーラはすでに殺人事件とは関係のない麻薬犯罪でミラノ郊外にあるモンツアの刑務 所で服役中であり、翌日逮捕状が発行された。衝撃的なニ = ースがその日の全新聞の一面を飾った。 ◎ 328 ◎
獄に落ちろと伝えた。そして弁護士を通してノチェリーノと話をしたいといってきた。 「私はいい加減歳をとっているし、すっとここにいなくちゃなんないのよ ! 二十億リラも ( 百五十 万ドル ) もらって拘置所でどうやって使えっていうの ? 」。三月に五十二歳になる。ヒーナは息巻いた。 。ヒーナと。ハトリツィアはミラノの西の外れにあるサンヴィットーレ拘置所の女性用監房に収容され ていた。サヴィオーニとチェラウロも同じ拘置所で、チカーラはミラノ郊外のモンツア拘置所に収監 されている。サンヴィットーレ拘置所には二千人近い人間が収監されていた。 てんかん パトリツィアの弁護士たちは、脳腫瘍の手術後定期的に癲癇の発作を起こすという理由で、医学的、 心理的治療のために在宅逮捕の形をとって家に帰してやってほしいと訴えたが、その申し出は通らず、 ハトリツィアはサンヴィットーレで、一度は征服したもののいまは失ってしまった絢爛豪華な世界か ら遠くへだたったところに来てしまったことを痛感していた。 最初のころ、 ハトリツィアはほかの囚人たちと何かといざこざを起こした。「みんな私が特別扱いさ れて甘やかされている、人生で欲しいものは全部手に入れた、だから報いを受けて当然だと考えてい たのよ」と彼女はいった。中庭での運動時間にほかの女性たちは彼女を嘲笑し、つばを吐きかけ、 レーポールを頭にぶつけてきたので、休み時間には一人で別の小さな庭にいたいと許可を申し出た。 サンヴィットーレの所長は理解のある男で、収監者が多すぎる状態でも所内の士気を高めるという理 由でそれを許可した。だが母親からの差し入れのミ ートローフや好物を入れておくために、自分の監 房に冷蔵庫を置きたいという申し出は却下した。。ハ トリツィアはため息をついて味気ない拘置所の食 事を食べることにし、禁煙の十二番監房で夜遅くまでテレビを見て過ごした。 四階にある彼女の監房は三十六平米足らずしかなかった。二段べッドと二台のシングルべッド、テ ・ 3 イ 6 ・