弁護士 - みる会図書館


検索対象: ザ・ハウス・オブ・グッチ
85件見つかりました。

1. ザ・ハウス・オブ・グッチ

一九九八年六月二日午前九時半少し前、裁判長席右手のドアが突然開き、しゃれたブルーのべレー 帽をかぶった五人の女性看守に付き添われた。ハトリツィアが、ミラノ裁判所のすし詰めの法廷に入っ トリツィア てきた。カメラマンとテレビのクレ ノーがいっせいにフラッシュをたき、ライトをあて、 は車のヘッドライトに怯えて立ちすくむ鹿のような目をした。前列に座っていた、白いフリルの胸当 てがっき縁飾りがついた黒いローブを着た弁護士たちが、立ち上がって彼女を出迎えた。 マウリツイオ・グッチ殺人の裁判はすでに七週目を迎えていたが、。 とんよりと曇ったその火曜日の 朝は、はじめて。 ハトリツィアが法廷に登場する日として注目を集めた。サンヴィットーレの監房で予 審を受ける権利もあると知って、彼女はそちらのほうがいし 、と主張した。彼女は出廷前に刑事事件専 門の著名な弁護士たちと打ち合わせをした。辣腕の弁護士、ガエターノ・ペコレッラはのちに裁判の 終了前、イタリアの国会議員に選出されることになる。もう一人の年がら年中日焼けしているジャン ニ・デドーラは産業界やマスコミの大物や前首相のシルヴィオ・ベルルスコ ーニなど、著名人の弁護 で有名だ。二人の弁護士たちは、いすれは証一言台に自分を弁護するため立たなくてはならないのだか ら、早く法廷の雰囲気に慣れる意味でこの日出廷することを勧めた。 8 1 判 TR こト ◎ 34 イ◎

2. ザ・ハウス・オブ・グッチ

でアルドたちには、。ハオロに続いて株を手渡すか少数派として会社に残るか、どちらかしか選択肢が なくなった。パオロはアルドたちと組んでマウリツイオと争っていたにもかかわらず、結局父たちへ の恨みのほうが深かったために最後に裏切ることになってしまったーーー裏切ったのは父たちも同じだ と彼は思っていたのだが。 マウリツイオはモルガン・スタンレーとインヴェストコープのおかげでグッチの株の過半数を握っ た。グッチ・アメリカをめぐるアルドとの争いに終止符を打っときがきた。アルドと息子たちは一九 八七年七月にデ・ソーレの経営に対して訴訟を起こし、会社の清算を求めていた。 「きみはサラブレッドの競走馬を手に入れて、荷車を引く駄馬に変えてしまったんだ」とアルドはデ・ ソーレに非難の手紙を書いた。 だがマウリツイオが役員会の支配権を握ったいま、会社が行き詰まっているから解散しろと請求す ることはできない。。、 / オロはグッチ・アメリカをめぐる訴訟から手を引いていた。 「実に劇的な尋問でしたね」とマウリツイオの代理人をつとめた弁護士のアラン・タトルはいった。 ニューヨーク最高裁判所のミリアム・アルトマン裁判長の前で、タトルと弁護団が会社の所有者に変 更があったことを告げると、アルドの弁護士が抗議のために飛び上がり、訴訟を棄却する前に時間と 情報をくれと裁判長に迫った。アルトマン裁判長はそれまでグッチの訴訟を長期間にわたって何件も 扱ってきており、アルド側の請求をあっさりと退けた。「私はグッチをめぐる件については隅から隅ま ふところ ハ ナ で知っています。訴訟にかかった費用の三分の一一が弁護士の懐に入っていることもよく承知していま ヾ〃 す。何が起きたかはもう充分に明解ではありませんか」。そういって木槌を振り下ろした。「あなたが たは裏切られたんですよ」 ◎ - / 53 ◎

3. ザ・ハウス・オブ・グッチ

運転したオラツイオ・チカーラの告白があまりに衝撃的だったせいだ。教育を受けていないチカーラ がシチリア訛りでとっとっと語った話ーー復讐に執念を燃やすパトリツィアと貧しい彼の物語ーーは、 弁護側が立てていた戦略を一気に色褪せたものに変えてしまった。 青い帽子の看守がチカーラを檻から出して、四十歳ぐらいの女性弁護士のとなりに立たせた。豊か に響く声、黒髪、美貌、そして身体の線を出すスーツで法廷を魅了するやり手の弁護士と、自分も家 族もギャンブルと殺人罪とでめちやめちゃにした男の組み合わせは奇妙だった。 チカーラは歯のない口をあけてあえぐような口調で、サヴィオーニがやってきて、夫を殺したがっ ている女がいるといった日について語った。「最初、興味はなかったんだが、翌日また聞かれたから、 しいよ、でも金がかかるそといったんです。いくらだ ? と聞いたから、五億リラ ( 三十一万ドル ) といってやりました」。チカーラの舌はしだいにほぐれてきて、注目を浴びていることに喜びをおぼえ だした。「そしたらまたやってきて、それでいいといったんでさ。最初に半分、終わってから半分とい いました」 金貸しに返済を迫られていたチカーラは、黄色い封筒に入った一億五千万リラ ( 九万三千ドル ) を ビーナとサヴィオーニから前金として一九九四年秋に受け取ったとき喜んだが、殺人計画を進めよう とはしなかった。。ヒーナとサヴィオーニにせかされると、時間稼ぎのために、雇おうと思った殺し屋 が逮捕されたし、そのために盗んだ車も消えてしまったといった。 「それなら金を返せといわれたとき、もう頼んだ人たちに渡してしまって手元にはないといいました」。 チカーラが身動きするたびに、やせこけた身体に着た大きすぎるジャケットがゆれた。 パトリツィアは法廷の最後列のべンチに座って感情をあらわさすに聞いていたが、突然気分が悪く ◎ 352 ◎

4. ザ・ハウス・オブ・グッチ

18 裁判 7 大 /. ハトリツィアは黒地に。ヒンストライプのスーツに、黒のビニールフードがっき、裏側に銀色の素材 を張ったイヴ・サンローランのジャケットを着て最初に陳述した。弁護士が用意した文書を読み上げ るのをやめ、自分の言葉で話すことを選んだ。 「私は愚かとしかいし 、ようがないほど無邪気でした。意思に反して事件に巻き込まれたのであって、 共犯者であることは絶対的に否認します」。そしてアルド・グッチの金言を引用した。「狼がどんなに 愛想がよくても、鶏の群れに入れてはならない。遅かれ早かれ腹をすかすから」。シルヴァーナは弁護 士が用意した文書を読み上げない娘の勝手な振る舞いに舌打ちした。 ロベルト・グッチはフィレンツェで、ジョルジョ・グッチはローマで、それそれニュースで。ハトリ ツィアの陳述を知り、ハ 又親の名前をそんな利己的な内容で引用したことに二人とも憤った。 その午後遅く、霧が立ち込めて霧雨がしとしと降りだした。ジャーナリスト、カメラマンとテレビ の中継車が裁判所の中庭に続々と詰めかけた。法廷内がざわめいている中、 ハトリツィアと四人の共 犯とされている被告人たちが青いべレー帽の看守に連れられて入廷した。弁護士にはさまれ、目を大 きく見開き青ざめた顔の。ノ 、トリツィアがべンチに座った。ンヤーナリストとカメラマンが少しでもい い場所から彼女の表情を見ようと争う中、ノチリーノは自分の片腕として三年間この事件を担当し てきた若い警官のトリアッティの腕に軽く手を載せた。頭をそっと近づけると耳元でささやいた。 「たとえどんな判決が下っても、取り乱すんじゃないそ。平然としていなさい」。ノチェリーノはトリ アッティが感情に走りがちで、三年間にわたってグッチ殺人事件に奔走したことがよくわかっていた。 だが喜びにしろ失望にしろ、みつともない反応はしてもらいたくない。 法廷中の視線が集中する中、サメックの書記が法廷と裁判長室を忙しく往復していた。シルヴァー いきどお ・ 367 ・

5. ザ・ハウス・オブ・グッチ

、トリツィア・マルティネッリ・レッジャーニは前夫によってプライドが深く傷つけられた上流階 級の女性です。前夫の死によってのみ、その傷はいやされたのです ! そして死後、やっとこれで心 の平安が得られた彼女は、日記に『天国』と書きました。この言葉が彼女の精神状態を一小しています」。 最後に彼は五人の被告全員に終身刑を求刑した。イタリアの法律では最高に重い量刑である。パトリ ツィアはただちにハンガーストライキを宣一言した。 娘のアレッサンドラとアレグラは弁護側の最終弁論のときにはじめて法廷にやってきた。二人の娘 たちはシルヴァーナとともにうしろの座席に肩を寄せ合って座り、 ハトリツィアは弁護士たちにはさ まれて前のほうに座っていた。 ハリトンがこだました。 。ハトリツィアの弁護士のデドーラが話し始めると、法廷の高い天井にそク 彼女は自分の手でその願望 「前夫の死を見たいというパトリツィアの願望を盗んだ泥棒がいました。 / を達成してしまったのです。その泥棒がいま法廷にいます。。ヒーナ・アウリエンマです ! 」 デドーラが最終弁論を行った日の休憩時間に、。、 ノトリツィアは後部座席に行って娘たちを抱きしめ キスした。母親が夜明けに逮捕されてから母娘は数えるほどしか会っていない。娘たちを抱きしめて いる彼女を法廷にまぎれこんだパパ ラッチが取り囲み、盛んにフラッシ = をたいた。娘たちはパトリ にんじん ツィアの頬をそっとなで、ハンガーストライキにもかかわらず人参を一袋渡した。三人は声をひそめ て話し、私的な会話のはしばしが聞こえてこないかと耳をそばだてている周囲に無関心を装った。 十一月三日、裁判の最終日はミラノの冬にはよくある曇ってどんよりとした天気になった。サメッ クは九時半にすばやく審理を開始し、その日の午後に評決がいい渡されると宣一言した。記者たちは法 廷を飛び出して会社にその知らせを伝えに走った。サメックは被告の一人ひとりに陳述を許可した。 ・ 366 ◎

6. ザ・ハウス・オブ・グッチ

9 パートナー交替 0 〃 .41N ℃ / 石た 4RTN ん / い アルドとの最後の会合はジュネーブの弁護士事務所で行われた。インヴェストコープの人間たちは 長くかかったこの取引きがやっと終わることが信じられなかった。不安で落ち着かない彼らは、最悪 のシナリオも考慮に入れていた。アルドの銀行口座に金を振り込んだのに、彼と弁護士が株券をつか んで逃げてしまったらどうするつ・ インヴェストコープの社員たちは会議室のテーブルの片側にずらりと並んで座り、アルドと弁護士 たちがもう一方の側に座った。全員が銀行から手続きが終了したと報せる電話がかかってくるのを待 っていた。 「奇妙な光景でした。交渉はすべて終わり、署名もすべてすませ、もう話すことは何もなくなった私 たちは黙って座って電話が鳴るのを待っていたんです」。スワンソンは当時を思い出していった。 ついに電話が鳴って、全員が飛び上がった。スワンソンが受話器を取った。「電話を切って、大丈夫 です、お金は無事振り込まれましたというと、アルドが前に身体を乗り出して株券を取りながら椅子 から立ち上がろうとしたところで、われわれの弁護士が株券に突進しました。それほど心配でたまら なかったんですよ」 アルドはびつくりして株券を手にしたまま目を丸くした。立ち上がってポール・デイミトルクのと ころに行くと、芝居がかった堂々としたしぐさで渡した。 「グッチ家の人たちは役者そろいでした。あせってみつともないところを見せたりしないんです」。ス ワンソンはいう。シャン。ハンが抜かれて緊張がほぐれ、アルドが築き上げたものを引き継ぐ、とディ ミトルクが短いス。ヒーチをした。そしてアルドも涙を流しながら声を詰まらせてスビーチをした。「悲旡 しい光景でした」とスワンソンはいっこ。

7. ザ・ハウス・オブ・グッチ

20 工ヒ。ローグ 第ア〃 .0 ( 諸下 一九九九年五月に同じ裁判所がグッチとの提携は合法であり、グッチには自社を防衛する権 利があったと認めた判決をくつがえす調査命令である。はこの判決もオランダ高等裁判所に 訴えて、二〇〇〇年六月に判決は無効となった。九月に高裁は商事法廷に、結論を出す前に公式に調 査を行うよう指示した。グッチは調査には協力すると発表したが、二〇〇一年三月末、判決を不服と して控訴し、もならった。 この裁判に圧力をかけようと *-äの弁護士は、トム・フォードとドメニコ・デ・ソーレにスト ックオプションを認める秘密の取り決めがグッチのとの提携を支える条件になっている、と非 難した。グッチはそんな取り決めなどない、の取引とストックオプションの間には「なんの関 係もなく」、商事法廷がとの提携を承認したはるかあとの一九九九年六月にストックオプション を授与されたのだと反論した。はグッチの法律顧問であるアラン・タトルからひそかに持ち 出された極秘書類を手に入れ ( グッチは書類が盗まれたと非難した ) 、タトルのメモによればたしかに オプションを授与する協定が取り交わされていると指摘した。二〇〇一年五月半ば、グッチは調査命 令に引き続き協力しており、一方で社の弁護団は予定表や書類をくまなく調べて控訴の準備を進めて いた。調査の結果は九月まで出ないだろうと考えられていた。グッチの弁護団と代弁者はマスコミ記 者団に調査について聞かれると、自信を持っていると落ち着いて語り、デ・ソーレは a«o--æとの提携 はくつがえらないと確信していると宣一言していた。だがの裁判に訴える攻撃は彼をいらだた せていた。 「もう何をかいわんやだね ! 」。デ・ソーレは五月に開かれた有名なレガッタに顔を出したとき、記者 団にいった。「ベルナール・アルノーは病的な嘘つきだ。これは書いていいそ」。デ・ソーレはいっこ。 ・イ 23 ・

8. ザ・ハウス・オブ・グッチ

マのコルテ・ディ・カッサッ 二〇〇一年二月十九日、アムステルダム商事裁判所だけでなく、ロー トリツィア・レツンヤ イオーネ ( イタリア最高裁判所 ) でもグッチにまつわる裁判が開かれた。。ハ ニと四人の共犯者の控訴を受け、マウリツイオ・グッチ殺人事件を三時間にわたって協議した。その 直前、裁判所は。 ( トリツィアから出された、健康を理由に刑務所からの釈放を求めた嘆願を却下して いた。グッチの殺人事件は検察のカルロ・ノチ = リーノとパトリツィアの弁護士双方から控訴されて いた。母と娘たちからの支援を受けて、 ハトリツィアはサメック裁判長が一九九八年十一月に下した 有罪判決をくつがえそうと控訴を続けた。二〇〇〇年三月に最初の控訴審に敗訴して激怒したパトリ ツィアは、それまでの弁護士を解任し、あらたにローマの弁護士を雇って最高裁に控訴した。自分の 精神状態が有罪判決にふさわしくないという理由のもとに、有罪を撤回できることに希望をかけてい た。ノチェリーノが高裁に控訴したのは、実行犯のチ = ラウロが終身刑で、計画を立てた首謀者のパ トリツィアが二十九年の懲役というサメック裁判長の判決に納得がいかなかったからである。高裁は 双方の控訴を棄却し、有罪をあらためて確定した。 裁判所の判決によって、 ハトリツィアの、もしかすると有罪判決がくつがえるかもしれないという 希望が打ち砕かれたにもかかわらす、あらたに雇われたローマの弁護士たちはあらゆる証言を検討し て、こんな筋書きはありえないだろうという観点から、最初の評決は事実に反しているという根拠で この件を根底からくつがえしてみせると宣一言した。 その間も監房内での。 ハトリツィアの状態は悪化の一途をたどった。同房者と喧嘩が絶えず、殴られ て虐待されていると訴えたーーー暴力への抗議は、釈放を求める嘆願の裏付けとなった。ほかの囚人に 対し、およそ二千ドルを支払えと正式に訴えを起こしたこともあった。パ トリツィアはその囚人が、 ・ 42 イ・

9. ザ・ハウス・オブ・グッチ

12 二つの男リれ わ〃 , ' 0 火 C ん の仕事にあたらせることにした。グレイザーは一つ条件をつけて同意した。パー トナーの二者が会社 の経営方法と、それそれの株主の利益を守るための約束事を定めることだ。インヴェストコー。フがグ ッチに投資してからのマウリツイオの行動を見てきた結果、グレイザーは投資銀行としてグッチの事 業運営に口を出すべきだと確信を強めた。 マウリツイオ・グッチとインヴェストコープが法的に裏付けられた組織としてグッチを経営してい く約束事を具体的に取り決めていく過程で、両者の間は緊張した。「信用していないわけではありませ んが、意見が合わなくなったときのために、自分たちの投資を守る道を見つけておかねばなりません。 ールはいう。「法的な争いは彼にとって悪夢でした。マウリツィ それが争いの始まりでした」。キルダ オはそれまでもすっと訴訟を起こされてばかりでした。やっと心から信頼がおける相手を見つけたと 思ったら、突然インヴェストコープが自分からむしりとろうとする側に回り、それまでの心地よい関 係をぶちこわして悪夢を再現したんですー レ 両者の弁護士の間での話し合いは対立の一途をたどり、マウリツイオはついに休戦してキルダー と一対一で話し合いたいと申し入れた。彼はロンドンに出かけ、数々の障害があることに動揺しつつ も、暖炉の前でくつろぎながら話し合った。 ールはあたたかな目で問いかけた。 「マウリツイオ、何が問題なのか話してくれないか」。キルダ ル、厳しすぎることをいわれるんだよ」。頭を振りながら彼は答えた。 「われわれは別に厳しくあたっているつもりはないよ」。キルダールは保証した。「無慈悲なことをい うと思うようなら変えようじゃないか。きみを攻撃したり陥れようとしてはいない。われわれの弁護 士もだ。ただ仕事をしているだけなんだよ」。マウリツイオは安心して帰っていったが、それもつぎの ◎ 205 ◎

10. ザ・ハウス・オブ・グッチ

13 借金の山 」 4 れル ',VT : イ / 、 0 ん〃ん〃 7 : S ったり来たり歩き回った。 いよいよ多数決で決定する時間になり、デ・ソーレは契約締結反対のほうに挙手した。怒りと衝撃 で蒼白になり唇を強く引き結んだマウリツイオは、デ・ソーレを正面から見据えた。デ・ソーレもに らみ返し、掌を上にして両手を挙げると、ばっと開いた。 「マウリツイオ、私は自分がやらねばならないことをしているんだ」。デ・ソーレはそっけなくいった。 「会社のために挙手している。これが私の義務だ。ライセンスを手離すわけにはいかない。そんなこと をしたら会社に入ってくる金がなくなる : : : 」 デ・ソーレは会社のために正しいことをやったと思っていた。マウリツイオは背後から斬りつけら れたと思った。 マウリツイオのオフィスから出るやいなや、グレイザーはデ・ソーレを脇に引っ張っていった。「そ れでどうやってグッチ・アメリカを訴訟から守るつもりだ ? 」 デ・ソーレは疑わしげな目で彼を見た。「役員会の承認なしにこの件で会社のために弁護士を雇うこ とはできませんよ」。デ・ソーレには、マウリツイオと彼の弁護士たちが子会社のために弁護士を雇う ことを承認するはずがないと百も承知していたーー自分たちが子会社に対して起こした訴えなのだか ら。グレイザーはデ・ソーレをまっすぐに見た。「何をいってんだ。きみにはできるよ ! 」。相手が驚 く様子を見てからグレイザーは何週間もかけて会社の経営規定をじっくりと検討した結果、緊急事態 にあたってグッチ・アメリカの O O であるきみには、役員会の承認を得ることなく会社の利益のた めに行動する権利があるという条項があることを指摘した。。 テ・ソーレは瞬時に彼がいしたいことを 理解した。